6月16日(土)にビヨンセとジェイZ夫婦(名付けてThe Carters)のコラボレーション・アルバム『Everything Is Love』がTidal上でリリースされてから,カニエ・プロダクションによる一連の7トラック・アルバムは落ち着きを見せはじめた。
しかし,ザ・カーターズが『Everything Is Love』をリリースしたのは,Nasが『Nasir』をリリースしたまさに翌日。そこで注目は一気にNasからザ・カーターズへとシフトしていったわけであるが,あえてここで,Nasにスポットライトを当ててみたいと思う。
アルバム『Nasir』からすでに名曲と揶揄されている楽曲⑤『everything』(feat. The-Dream)より,Nas自身のヴァースである以下を引用してみたい。
“When the media slings mud, we use it to build huts /
Irrefutable facts, merciful, beautiful black”
「マスコミが泥を投げてくれば,その泥で仮小屋を作り上げてきた/
まぎれもない事実,なさけ深く,美しい“ブラック”」(訳:J.N.)
このようにNasは,今までカニエ・ウェストがリリースしてきたプッシャTやカニエ自身のようにドレイクに対してサブ・ディスを投げかけたりすることなく,黒人としての強さを表現している。Nasのライムにはこのような「強さ」を常に感じる。Nasがデビューしたのは1994年のことであるが,あれから24年経た今も,アンダードッグとしての「強さ」を感じる。他方でジェイZのラップ内容は時期を経て,変わってきた。ハスラー時代からコーナーオフィス時代を経て,リッチ時代,そして今やルーブル美術館でMVを撮影するほどのアート時代。しかし,それとは対をなしてNasのライムには24年前に聴いた「強さ」をいまだに感じることができる。
ザ・カーターズの『Everything Is Love』も素晴らしいが,Nasの『NASIR』も同じくらい聴いていくこととしたい。