本日(7月1日)付,ニューヨークタイムズ紙WEEKEND MUSIC欄に,大きく一面(いや,2頁にわたる2面!)を飾ったのはカニエ・ウェスト。1頁目には「Into the wild with Kanye(カニエと共に大自然へ)」と題して,2頁目には「Three Days in the wild with Kanye(カニエと大自然で過ごしたワイルドな3日間)」と題して,2頁をフルに使って掲載された。
記事にはカニエが写っている写真が5つ,掲載されている。
ワイオミング州の山奥で開催された,アルバム『ye』のリスニングパーティーの模様。ウェスト夫人=キム・カーダシアンや娘のノースとともに写った写真。ライブ模様。トランプ大統領とのツーショット等だ。
さて,この長文記事を2頁にわたって書いたのはJon Caramanicaというニューヨークタイムズ紙専属の音楽評論家ジャーナリストであるが,なかなかうまい具合に記事をまとめている。
記事の内容は,まず,今年4月中頃に始まったカニエがアップした一連のツイートに始まり,カニエのアルバム『ye』がリリースされるまでのドラマをイチから説明してくれている。「事の始まり」としてのカニエの入院の原因等,私生活も説明している。自殺を考えたいきさつや,人の目を気にし過ぎていた日々,自由を感じられず,束縛されていた日々など,カニエの精神状態について,なかなかうまくまとめている。
さて,写真にもあるワイオミング州ジャクソン・ホールの山奥で開かれたリスニング・パーティーである。
これだけのヒップホップアーティストが一度にワイオミング州の山奥に集合したのは,前代未聞ではなかろうか。カニエ,プッシャT,キッド・カディはもとより,コンセクエンス,スウィズ・ビーツ,070シェイク,2チェインズ(ペットの犬まで!),タイ・ダラー・サイン,DJグレッグ・ストリート,デザイナー,サイハイ・ザ・プリンス,エイサップ・ナスト,リル・ヤッティー・・・so on and so forth。
みんなでキャンプファイアーを囲んでのリスニング・パーティーになったという。(↓こんな感じ)
(カラーではこんな感じ↓)
本記事にはカニエとのインタヴュー内容も掲載されている。
トランプ大統領支持について,こう答えている。
質問:But if he says something like he doesn’t want to let Muslims into the country, do you like the way that sounds?
(もしトランプ大統領が「イスラム教徒はこれ以上,アメリカへ入国させない」なんていうことを言えば,それを支持しますか?)
カニエ:No, I don’t agree with all of his policies.
(いや,ヤツの政策全てを支持するワケじゃない。)
そして,「奴隷は選択だ」発言について,こう答えている。
質問:To clarify, do you believe that slavery in this country was a choice?
(確認ですが,この国にあった奴隷制度は,ほんとうに選択できたものだと思いますか?)
カニエ:Well, I never said that.
(いや,そういうことを言ったんじゃない。)
カニエ:I said the idea of sitting in something for 400 years sounds – sounds – like a choice to me, I never said it’s a choice. I never said slavery itself – like being shackles in chains – was a choice.
(言ったのは,400年の時を経ても,奴隷制度がまだ続いていたっていうのを考えた時,それは人々が「あえて」廃止しようとしなかったから,って思えたんだ。奴隷そのもの,例えば両足を鎖に繋がれたりしていたことが選択だ,とは一度も言っていない。)
そして,この記事から学べる一番大事なことはこれなんじゃないかと思う。
カニエは言う。
We need to be able to be in situations where you can be irresponsible. That’s one of the great privileges of an artist. An artist should be irresponsible in a way – a 3-year-old.
(時に,自分が無責任になれる状況に身を置かなきゃいけない。それがアーティストとしての素晴らしき特権である。本来アーティストは無責任でなければいけない,ある意味,3歳児だと思って。)
記事の最後に,記者はこう締めくくる。
“Getting comfortable with the dissonance, that’s the thing.”
(不調和音を安心して受け入れられるようになること,それがカニエを理解することの第一歩である。)
カニエはこう言う。
“My existence is selvage denim at this point, it’s a vintage Hermes bag. All the stains just make it better.”
(俺の存在は今やセルビッジ・デニムだよ。エルメスバッグのヴィンテージ品さ。シミと汚れがさらに良い味を醸し出す。 ー カニエ・ウェスト)
補足:ちょうど昨年の今頃(2017年6月30日)であったが,ジェイZが『4:44』をリリースした際,ボーナストラックとして後日,アルバムに収録された楽曲「MaNyfaCedGod」で,ジェイZはこうラップした。
Broken is better than new / That’s Kintsukuroi.
傷が入った品は,新品よりも価値がある/それを金繕いと言う。
金繕い(金継ぎ)とは,割れや欠け,ヒビなどの陶磁器の破損部分を漆によって接着し,金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法をいう。まさに「新品」とは異なった趣(おもむき)をその芸術作品に感じることができる。(つまり,新品の作品と,ヒビ割れを修復したあとの作品とを較べたとき,ヒビ割れ後の作品のほうが,深い味を感じられる,ということだ。)
これをカニエに繋げるとすれば,新品のカニエと,精神的な傷跡によってできた「割れ」や「ヒビ」などを経てきたカニエ(まさに今のカニエ)とでは,後者のほうが,深い味を鑑賞することができる,といった具合だ。
ジェイZが言う「kintsukuroi」を,カニエは「vintage Hermes bag」と表現した。この今となっては「疎遠のブラザー同士」は,ほんとうに似たようなことを考える“兄弟”である。
(文責:Jun Nishihara)