元ネタの曲を知る⑧:ジュース・ワールド⇆ナズ

元ネタの曲が二重にさかのぼって発見できる場合があります。

それは例えば,いま旬のジュース・ワールド(Juice WRLD)の楽曲「Lucid Dreams」で発見することができます。この曲は,ヒップホップの最高峰ラッパー=NASの「The Message」を元ネタとしております。

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ここで少しジュース・ワールドに触れておきますと,彼は現在19歳のまだ青少年です。なんと1998年生まれ。エミネムが公式デビューしたての頃です。エミネムの公式アルバムデビュー作や,セカンドLPがリリースされた頃,ジュース・ワールドはまだ1歳児の赤ん坊だったんです。

ジュース・ワールドは4歳の頃にピアノを習い始め,その後,ギターとドラムへと移行していきました。ラッパーを目指し,本格的にラップの曲をネット(SoundCloudサイト)へとアップし始めたのは,高校2年生の頃でした。

彼のラッパー名である「ジュース」は,2パックの映画『Juice』にちなんでいると言います。シカゴ生まれである彼は,同胞のカニエ・ウェストやチーフ・キーフ,はたまたヒューストン出身のトラヴィス・スコットを影響されたアーティストに挙げています。

さて,現在ビールボードチャート4位(リリース時は2位)の楽曲「Lucid Dreams(邦題:明晰夢(めいせきむ=夢見ていることを意識しながらみている夢))」を聴いてみましょう。

歌詞の内容はともかくも,冒頭のビートを聞くと,NASの「The Message」を想起せずにはいられません。ジュース・ワールドのこの曲はemo rap(エモ・ラップ(=情のこもったラップ))と呼べるでしょうが,NASの「The Message」が描いている夢は,そんなエモ(感情的)になっている暇なんてない連中への応援歌でした。ストリートの生きザマをありのまま描き,いつかそこから抜け出せる,そして成り上がれることを夢見た野郎たちに向けた曲でした。

最近は,黒人もある程度は平和に暮らせるようになった反面,こういった「精神的」な病いが蔓延するようになりました。肉体的に大変な時代には,こういった精神面での苦労はそこまでなかったのかもしれません,否,精神面での苦労があったのかもしれませんが,それ以上に,肉体面での苦労(食っていけるか,くたばるか)の実際面でのストラグルがある中,精神的に弱ってる暇は無かったのかもしれません。

そんな中,生まれたのが,NASの名曲「The Message」です。ストリートから,糞社会へ向けたメッセージです。

そして,冒頭で書いた「時に二重にさかのぼって発見できる場合」についてですが,このNASの「The Message」(1997年リリース)にも元ネタがあります。

それが1993年にリリースされた,スティング(Sting)の「Shape Of My Heart」です。

リュック・ベンソンの映画『レオン』の主題歌です。
このように,けっこうな大作がこうして世代を超えたヒップホップに影響を与えているという場合もあります。

(文責:Jun Nishihara)

6 thoughts on “元ネタの曲を知る⑧:ジュース・ワールド⇆ナズ

  1. […] これを最初聴いたときはぶっ飛びました。こんなフリースタイルをやるやつが今の時代(もう2019年も終わりですよ),まだいたのかと。最近は,エモラップ(emo rap)とか,はたまたマンブルラップ(mumble rap)とかが流行っている時代に,こんなソリッド(確固とした)ラップをするMCがいたのかと。ヒップホップもまだまだ捨てたもんじゃない。 […]

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