第29位:Lil Uzi Vertのアルバム『Eternal Atake』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第29位はリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)のアルバム『Eternal Atake』です。

収録楽曲「P2」を聴いていただくと感じていただけると思いますが,これはもうまさに現代の世代を象徴しているエモ・ラップ(emo rap)もしくはエモ・トラップ(emo trap)というジャンルの先頭に立ち,新世代の若者達をリードしていく存在であるべく邁進しているラッパーであることが伺えます。リル・ウージー・ヴァートは見かけによらず,けっこう頑張り屋なのです。

今年はフューチャー(Future)とのコラボレーション・アルバム(シングル曲でなくてアルバム!)『Pluto x Baby Pluto』もリリースしました。

同年に現代のニュー・ラップ世代に重要な意味を持つアルバムを2枚もリリースする,というのが彼の勤勉さを表しております。

『Eternal Atake』から収録楽曲「Lo Mein」をどうぞ。

(文責:Jun Nishihara)

第30位:DaBabyのアルバム『BLAME IT ON BABY』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

いよいよ今年もこの時期になりました。
2020年を振り返ってのトップ30を発表していきます。

まずは第30位は,今年もイケイケであったこの人!ダベイビー(DaBaby)の登場です。アルバム『BLAME IT ON BABY』をリリースし,コロナ禍にも負けることなく2020年もノリノリでやってきたダベイビーです。

アルバムジャケはある意味2020年を象徴する「マスク」をしながらのダベイビー。時代を表しています。

このアルバム,収録楽曲の中でも特筆すべきトラックとしてアシャンティ(Ashanti)やミーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)をfeat.した「Nasty」を掲載いたします。

そして2020年6月28日に開催されたBET AWARDS 2020では,本年歴史的に重要な運動となった“Black Lives Matter”のシーンを取り入れたパフォーマンスをダベイビーが見せてくれました。下記に掲載しておきます。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る(14):ドレイク⇄ローリン・ヒル

ドレイクのシングル曲「Nice For What」がリリースされてから,もう2年半が経ちました。時間が経つのは早いですね。

その「Nice For What」はローリン・ヒル(Lauryn Hill)の名曲「Ex-Factor」を元ネタにした楽曲でした。

本日も両曲を聴き比べてみてください。

Drake – “Nice For What”

Lauryn Hill – “Ex-Factor”

そしてこの「Ex-Factor」が収録されているアルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』(1998年リリース)は,HIP-HOP界だけでなく音楽界全体において歴史上重要なアルバムと称されており,1999年のグラミー賞では10部門でノミネートされ,5部門でグラミー賞を獲得し,歴史上ヒップホップというジャンル関係なく,「女性」として初の快挙(5部門も獲得というのは女性のアーティストでそれまで存在しなかった)を成し遂げた歴史的に重要なアルバムでもありました。

やがて同アルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』は米国内で800万枚のセールスを記録し,全世界で1,200万枚の売り上げを記録。

本年(2020年)9月,米ローリングストーン誌において「500 Greatest Albums of All Time」(歴史最高のアルバム500選)の最新バージョンが発表され,本アルバム『The Miseducation of Lauryn Hill」が第10位に選ばれたこともここに追記しておきます。

(文責及びキュレーティング:Jun Nishihara)

「どんどん流していけ」というテーマのHIP-HOP曲。

ヤング・ジージー(Young Jeezy)改めジージー(Jeezy)が2008年にリリースした曲に「Circulate」という楽曲があります。

これは極めてリズム感に優れている曲です。まさに「Circulate」(循環させよ)というくらいですから,ラップ及びビートそのものが,動脈ならぬ血脈がどんどんドクドク流れてゆくテンポの良さを出しています。

当時この楽曲が収録されているJeezyのアルバム『Recession』を対訳させていただきましたが,その対訳作業の間にこの曲「Circulate」を流すと,カラダが乗ってくるものですから,翻訳作業もそれに伴いノってくる。流れるように対訳がどんどん進んでいく。そういう体験をしていたのを憶えております。

ラップ曲というのは翻訳作業をしている間に流していると,邪魔になる曲と,逆にむしろ翻訳作業を助けてくれる曲,という2種類に分かれるように思います。

この「Circulate」という楽曲は,まさに後者。翻訳脳を上手くノッけて,作業をどんどん前へ進めるのを手伝ってくれます。

リリックの意味を拾おうとさせない。リリックが邪魔にならない。ビートと一体となっている。心身一如ならぬビートリリック一如。歌詞鼓動一如。かなりの名曲だと思いますが,全く広く知られてはいない。

これをバックで流して仕事やタスクをこなすお供にどうぞ。

Jeezyはこうラップします。

Let it, let it, let it, let it, let it, let it circualte
(どんどん,どんどん,どんどん,どんどん,どんどん,どんどん,回していけ)

回す,もしくは流す,それはカネか,ことばか,詞か,それともビートか。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

ビギーとは相対的に,ヒトの感情に訴えかけたパック。

前回は「living lavishly(派手に生き),living luxuriously(華美に生き)」たビギーに原点回帰をしましたが,今回はそのビギーとは相対的に,ヒトの感情に訴えかけた2パック(Tupac)を想起したいと思います。

90年代から現代2020年代まで,時は経ち,ほんとうにいろいろな物事が変わってきましたが,そんな中でも,太古の昔からそんなに変わっていないんじゃないか,ということのひとつが,ヒトの感情であると,いろんな偉大な方々がいろんな場所でおっしゃられています。

2Pacは1995年2月に「Dear Mama(親愛なるおふくろへ)」というタイトルの楽曲を発表しました。本日はこの曲を聴いて,90年代のHIP-HOPへ回帰したいと思います。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

90年代後半に生まれた偉大なるHIP-HOPは今にも生きている。

ザ・ノトーリアス・BIG(The Notorious B.I.G.)つまり“ビギー”がまさに世に知らしめた「living lavishly(派手に生きる), living luxuriously(華美に生きる)」の精神を,どれだけ現代のHip-Hopヘッズ達が受け継いでいるか。

それは90年代に生まれたひとつの表現方法であった。

本日はそのワンシーンを垣間見ることによって,現代が引き継ぐ当時を思い出すことにしたい。(これも原点回帰の一つとして。)

(キュレーティング:Jun Nishihara)

バスタ・ライムスの新盤ニューアルバム『Extinction Level Event 2: The Wrath of God』の破壊力について。

破壊力を影響力と同等の意味と捉えると,バスタ・ライムス(Busta Rhymes)が2020年10月30日(ハロウィーンの前夜)にリリースしたニューアルバム『E.L.E.2 (Extinction Level Event 2: The Wrath of God』は,現時点では計り知れない破壊力を持つアルバムであることはマチガイ無いです。

T.I.がバスタ・ライムスからの決戦を断ったワケには,本アルバムを聴いていただくとお分かりいただけるかもしれないですが,恐れもあったのではなかろうか,とも思えてきます。その恐れというのは,T.I.側がバスタに対して抱いている恐れです。

もともとT.I.はバスタのことを「世代が違いすぎる」といって断りました。つまり自分(T.I.)はバスタのHip-Hopを聴く世代よりも,若い世代を相手にする音楽を作っている,ということを言っているのでしょう。だから,ヴァーサス(Verzuz)バトルで決戦をするのは相応しく無い,と。

結局T.I.は同時代に出てきたサウスのとんでもなくビッグなハスラー=ジージー(Jeezy)とやることになったのですが(見てみたい!),それはそれで楽しみとして置いておいて,しかし,ですよ,しかし,今回のバスタ・ライムスのニューアルバムをお聴きになると,T.I.が恐れていたまさにバスタの「破壊力(destructive force)」が余すところなく良い塩梅に表現されています。まー,いっぺん,聴いてみとくんなせー。

たとえば楽曲5の「Outta My Mind」をどうぞ。脳みそぶっ飛びますので,ご注意を。これは1989年にR&B界に彗星の如く現れたR&Bトリオ=Bell Biv Devoe(ベル・ビヴ・デヴォー)のかの有名な「ポイズン(Poison)」のビートを下敷きにしてネタ回しをしている楽曲です。

Busta Rhymes feat. Bell Biv Devoe – “Outta My Mind”

このビートの大元となった楽曲は以下のとおりです。80年代から90年代に流行ったBell Biv Devoeの「Poison」です。

もういっきょく,いっときまひょか。

同アルバムから楽曲20,Busta Rhymes feat. Mary J. Bligeの「You Will Never Find Another Me」です。ソー・ソウルフル!

(キュレーティング:Jun Nishihara)

カニエ・ウェストの新曲「Nah Nah Nah」にDaBaby及び2 Chainzが乗っかって,リミックス誕生!

カニエ・ウェストが2020年10月に発表した新曲「Nah Nah Nah」に,いまをときめくラッパー=DaBaby(ダベイビー)と2チェインズ(2 Chainz)が乗っかりました。

カニエ・ウェストが先月本曲「Nah Nah Nah」を出した時点で,この曲のことを「なんて馬鹿馬鹿しい曲だ」なんて一刀両断したあなた,気づけばDababyがリミックスに乗っかり,2 Chainzがヴァースを乗っ取り,いよいよ段々と,楽曲は洗練され始め,いよいよHip-Hop界に影響力を増し始めてきました。

こんな独特な曲は米国のラジオに馴染まないから,ラジオでオンエア(On Air)される頻度も少ないでしょう,なんてリリース当時は思われていた曲が,あながちそうでもないのではないか,という風に展開が逆転してきました。「馬鹿馬鹿しい」と思わせといて,後半で覆す,というのは最近のカニエにとってよく見られる動静です。そういった意味でこの曲は,今後どのような展開を遂げていくのかワクワクします。

それではその問題のリミックス(REMIX)ヴァージョンです。

Kanye West feat. DaBaby & 2 Chainz – “Nah Nah Nah (Remix)”

(キュレーティング:Jun Nishihara)