第65回グラミー賞2023年を振り返って。Hip-Hop生誕50周年記念tributeと、「GOD DID」のライヴパフォーマンス。

ありがたいことにNYに住んでいることから、リアルタイムにグラミー賞を(今年はCBSで)観ることができたのですが、奇しくも2023年はHip-Hop生誕50周年記念の年であるということで、グラミー賞授賞式中にHip-Hop50周年を称えるパフォーマンスが約12分間行われました。新旧のHip-Hopアーティストが1つのステージに集まって、50年前の古いHip-Hop曲から、去年出た新しい曲まで、じかにアーティストがパフォーマンスを披露したという豪華な映像を観ることができました。

そのなかでLL Cool Jが「multi-generational」という言葉を使っていましたが、かつてはHip-Hopは若者だけが聴く音楽だ、と言われていたのが、今やどの世代でも聴くようになった。1973年にHip-Hopが生まれた当時、20代とか30代だった世代は、いまはもう70歳とか80歳のおじいちゃん、おばあちゃんになっている。その世代がHip-Hopの先駆けであり、同時にまさに現代の20代や30代も同じ音楽を聴いているという珍しい現象が起きている。それが現代のHip-Hopであるということを、彼ら/彼女らのパフォーマンスを観て思ったことでした。

そのHip-Hop生誕50周年記念を称える映像がこちらです。

そしてお待たせしました。
もうこのサイトで幾度となく取り上げている楽曲「GOD DID」。DJ Khaledを中心に、Rick Ross, Lil Wayne, John Legend, Fridayy、そしてJAY-Z、というメンツで今年のグラミー賞授賞式のトリを飾りました。

JAY-Zの4分間ぶっ続けのラップ。4分間というと、結構長いですよ。4分間のスピーチを一語一句覚えてreciteするのは、非常に難しい。にもかかわらず、4分間ぶっ続けのラップをジェイ・Zはこのパフォーマンスで見せてくれました。

最後にジェイ・Zが叫ぶ「Khaled, take us home!」ここが気に入りました(笑)。

(文責:Jun Nishihara took y’all home!)

2月5日(日)はグラミー賞です!

2023年2月5日(日)はグラミー賞が開催されます。今年のグラミー賞はカリフォルニア州ロサンゼルスのCrypto.comアリーナから生中継。米国ではCBSネットワークにて放映されます。2023年はHip-Hop生誕50周年記念の年ということであり、今般のグラミー賞においてもそのHip-Hopの功績が称えられる機会が設けられるということです。

注目のパフォーマーは、我らがDJ Khaled、Rick Ross、Lil Wayne、そしてJAY-Z。楽曲は「GOD DID」です。

2023年グラミー賞開催まで、あと1日です。

(文責:Jun Nishihara)

第1位:DJ Khaledが「天の主」に対して感謝を述べた讃歌「GOD DID」(2022年Hip-Hop名曲名盤ベスト20!)

ついに2022年の第1位を発表する時がやってきました。

2022年の第1位に輝いたのは,DJキャレド(DJ Khaled)率いる錚々たる顔ぶれが集まって作り上げた楽曲「GOD DID」です。

楽曲「GOD DID」では,リック・ロス(Rick Ross),リル・ウェイン(Lil Wayne),ジョン・レジェンド(John Legend),フライデー(Fridayy)そしてジェイ・Z(JAY-Z)がフィーチャリングされています。

これは,ひと言で言うと,神への感謝を歌にしたものです。しかし,ご案内のとおりジェイ・Z(JAY-Z)はキリスト教徒ではありません。宗教は明かしていません。また,DJキャレドにしてもキリスト教徒ではなく,自分で公開しているとおり,DJキャレドはイスラム教徒です。つまり,神(GOD)と言いつつも,彼らが「GOD」というものは神のみならず,それは「天」であり,「アッラー」であり,「シヴァ神」であり,「天御中主神(アメノミナカヌシノカミ)」であるのです。我々人間を遠く高いところから見守ってくれているものに対する讃歌です。

まずはそれを理解していただいて,次に進みます。

DJキャレドが曲中で言う「they」とは「人間」のことです。それに対比させて「GOD」を持ってきています。そしてその後キャレドはこう言います。「GOD DID」であると。ここで過去形(DID)を使っています。現在形(DO, DOES)や未来形(WILL DO)ではありません。過去形,つまり,すでにGODがしてくれたことに対して感謝しているということです。何かをしてくださいというお願いをするのではなく,すでに与えられた(過去形)こと,すでにしてもらった(過去形)ことに対して,ありがとう,と言っているのです。

ここまでの大成功者であるこの4人が集結して,全員で,なんらかの高きエネルギー体に対して,感謝を述べているという構図です。

それから,もう一つ重要なのは,曲の冒頭でDJキャレド(DJ Khaled)が言う言葉です。DJキャレドはラップはしません。その代わり,重要な言葉を言います。歌うわけでもなく,ラップするわけでもないですが,ビートを制作し,曲をプロデュースさせ,そしてたまに曲でたいせつなことを「言い」ます。

こう言います。

While you hatin’ and being jealous
You could be over here embracing that love
More love, more blessings, more life

訳:
人を嫌ったり,他人に嫉妬している暇があるのなら
こっちへ来て,愛を受け入れようではないか
もっと愛して,もっと恵みを与えられ,もっと生きる

DJキャレドが誰かとビーフをやっているといったことを聞いたことがない。DJキャレドが誰かのことを陰で悪く言っていることを(これだけSNSが発達している時代に)ひと言も聞いたことがない。DJキャレドから出てくる言葉は愛しかない。

こんなラッパーというかラッパー関係者は今までいなかった。
あのディディでさえ,ウェッサイ(西側)と対決していた。
しかし,DJキャレドは人と対決するということさえしたことがなかった。
これはもう,ヒップホップ界で唯一,そんなことができるのはDJキャレド(DJ Khaled)しかいない。これまでヒップホップのエッセンスなどと呼ばれてきた「ラップ対決」が最も相応しくない人物がこのDJキャレドなのだ。

さて,この曲に3人の人物をDJキャレドは起用した。2010年以降,ヒップホップ界を牛耳った巨漢のマフィア・ラッパー=リック・ロス(Rick Ross)。彼はDJキャレドと同じくマイアミ出身。映画『スカーフェイス』のロケ地ともなったマイアミは本物のマフィアが麻薬を取引するということが起こることが多い場所である。リック・ロスが無名から有名にのしあがったその隣には,常にDJキャレドの存在があった。

もう一人は,ニューオーリンズ出身のリル・ウェイン(Lil Wayne)。90年代後半から深南部(Deep South)出身のラッパーとしてヒップホップ界に君臨。アルバム『The Carter III』は,リリース後1週間で,はい,1週間で,100万枚以上の売り上げを出すという,ヒップホップ史上最も売れたアルバムを出した張本人。しかも大ベテラン。1995年からラッパーとして活動をしており,もう27年経っている。1982年生まれなので,13歳からプロフェッショナルにラップをしていた計算になる。そのリル・ウェインが今さらではなく,今であるからこそ,神がしてくれた(過去形)ことに対して感謝を述べた讃歌(GOD DID)をこうして捧げた。

3人目はジェイ・Z(JAY-Z)。
ジェイ・Zはこう言います。

Sometimes I feel like Farrakhan talkin’ to Mike Wallace
I think y’all should keep quiet

訳:
時に思う,俺はマイク・ウォレスと議論するルイス・ファラカーンかと
あんたらに言われる筋合いは無い

「I think y’all should keep quiet(おまえら,黙っとけ)」というのは,1996年,米CBSネットワーク局の報道番組「60 Minutes」において,ルイス・ファラカーンがマイク・ウォレスに言い放ったフレーズです。

ジェイ・Zのヴァースは3分05秒から始まり,6分48秒で終わります。この3分43秒の間,ぶっ続けでジェイ・Zはラップをするわけですが,その間に言ったこと全てがルイス・ファラカーン(Louis Farrakhan)であるようだ,というのです。

ルイス・ファラカーンは上記インタヴューで,マイク・ウォレスに対して言います。ナイジェリア政府の批判をする前に,自国(アメリカ)の政府がどれだけ腐敗(corrupt)しているか分かっているか。ナイジェリアは(インタヴュー当時1996年)建国してわずか35年しか経っていない国であるのに対し,アメリカは独立して220年経っているにもかかわらず,いまだにこんなにも汚職のある国である,と。人のこと言う前に,自分を省みてみよ,と。

つまり,3分43秒でジェイ・Zがラップしていることというのは,ルイス・ファラカーンのインタヴューから26年経った今,2022年,アメリカを知る上で最も重要なことである薬(ドラッグ)の世界とそれを取り巻く法律(the laws)についてなのである。

ジェイ・Z(JAY-Z)という人間は,経済的な豊かさを手に入れることに成功した後は,法律を揺さぶる(つまり政府を動かす)ことにまで影響力を持ち始めたのである。ミーク・ミル(Meek Mill)を刑務所から出してやったことについてもそう。大麻(cannibis)をNY州で合法にしたというのもそう。ひと昔前までは非合法であったことを,政府を巻き込んで,政府の決断に対して影響力を持つということを,公にやる,という,世界最大のヘッジファンド,ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオが著書『Principles(邦題:人生と仕事の原則)』で述べていた第一の原則である「徹底的に隠し立てをしない」をまさにやってのけているという,成功するための大原則をジェイ・Zは我々にラップをとおして教えてくれているというなんと贅沢なことであろうか!

そしてこういった歌詞のラップを聴く際に,我々に求められている態度は,「徹底的にオープンになる」ということである。ちなみにこの「徹底的にオープンになろう」というのは,前著『Principles』の3番目の大原則でもある。

ジェイ・Zはこう言います。

Odds wasn’t great, we’d even be alive
Gotta be crazy to y’all niggas, we surprised
Shit is too much how we grew up
Shit don’t even feel real to us

訳:
俺らが生き残る確率は,極めて低かった
どうしたことかと,おまえらもビビってる,俺らこそ驚いた
どんだけ苦労して,大きくなってきたか
あの頃のこと考えると,いまの人生が本物(リアル)だとは到底思えない

しかし・・・

HOV DID.
(ホヴァは生き残った。)

そしてそれを聴く私の態度として,この4人に生かしてもらっていることに,感謝。KHALED DID.

取り敢えず,2022年のベスト20はここで終了いたします。
ここまで読んでくださって,ありがとうございました。
いえ,たとえ読んでくださっていなくても,このページに来ていただいて,ありがとうございました。

ヒップホップの歴史は,この曲がそうであったように,常に新たに絶え間なく刻み続けられています。

2022年,あらゆる素晴らしい音楽が誕生しました。このページで紹介できるのはほんのわずかな数ですが,それでもこのページに来てくださっていて,感謝しています。

どうもありがとうございます。

2023年も,どうぞ,よろしくお願いいたします。

(文責:Jun Nishihara)

久しぶりにJAY-Zの楽曲「4:44」を復習。

ジェイ-Z(JAY-Z)の13枚目のアルバム『4:44』がリリースされたのは2017年6月30日でしたが、久しぶりにタイトルトラック「4:44」を聴いてみます。

サンプリング曲として起用したのがHannah Williams and The Affirmationsの楽曲「Late Nights & Heartbreak」です。こちらです。

こんなにソウルフルで包容力のある歌声をしていますが、彼女は2016年に同曲をリリースしたばかりのUK生まれのシンガーなのです。

2017年11月にロンドンで開催されたSoFarライヴセッションの模様も掲載しておきます。

そのサンプリング曲をふんだんに使ったオルタナティブ・バージョンがありますので、こちらに掲載しておきます。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

DJ Khaledのニューアルバム『GOD DID』リリース!

出ました!DJキャレド(DJ Khale)のニューアルバム=ゴッド・ディッド(GOD DID)。

合言葉は「They aint believe in us… GOD DID!」(誰も俺らを信じてくれなかったが・・・神は信じてくれた」

フィーチャリングアーティストは極めて豪華。JAY-Z, DRAKE, KANYE WEST, EMINEM, DR. DREなどなどです。

サンプルとして,3曲,挙げておきます。

DJ Khaled feat. Drake – “No Secret”

そして,ミュージックビデオでもないのに(オーディオ音源のみにもかかわらず)これを書いている現時点,YouTube上のトレンディング(音楽部門)で第2位の「GOD DID」です。

DJ Khaled feat. Rick Ross, Lil Wayne, JAY-Z, John Legend & Fridayy – “GOD DID”

そして3曲目,ラトー(Latto),シティ・ガールズ(City Girls)をfeat.した,こちら。

DJ Khaled feat. Latto & City Girls – “Bills Paid”

(文責:Jun Nishihara)

(通常このタイミングではUPしないですが、ジェイが出たので、こちらも出します。)PUSHA T 及び JAY-Z 及び Pharrell Williams による楽曲「Neck & Wrist」リリースされました。

PUSHA T
JAY-Z
Pharrell Williams

この3人がタッグを組んで、昨晩(米国東部時間夜中の0時に)「Neck & Wrist」をリリースしましたので、こちら掲載しておきます(するしかないでしょう)。

まぁ、これをwoofer付けた車体で、ベース音を爆音にしてかけたら、えらいことになるのはわかります。誰か試してみてください。

(文責:Jun Nishihara)

【永久保存版】アリシア・キーズの公式YouTube上にて、ジェイ・Zの名曲をピアノで演奏した際のステージパフォーマンス(18分間)映像を公開。

標題のとおりですが、こんな貴重なライヴ映像を公式YouTube上に掲載してくださるとは。アリシア・キーズ(Alicia Keys)及びアリシアの関係者に感謝!ジェイ・Zがデビューした1996年からジェイ・Zの音楽を(アリシアと同じく)聴いてきた私としては、感慨深いものがあります。

18分じゃ足りないですね。
Jayの音楽に関しては、18時間ぶっ続けで聴いても、全く飽きないのは、どうしてなのでしょう。これは10代の頃からそうで、1日中寝ずにHOVを聴いていた頃の記憶が甦ります。

いま縁があってNYに滞在しておりますが、アリシアが冒頭で演奏する楽曲「Dead Presidents」(アルバム『Reasonable Doubt』収録)については、20年以上前に私がNYに住んでいた頃にヘッドフォンで流しながら、NYの地下鉄なりMetroバスに乗っていた頃に聴いていた曲で、その時代の生活や、生きていた環境、におい、気持ち、太陽、家の近くにあったSpanish Restaurant、友達と外出した時のこと、お金がなくて困っていた頃のことなどなどが、もう鮮明に浮かんできます。

あと、上記映像の中で、ジェイ・Zとザ・ネプチューンズ(The Neptunes)の曲「I Just Wanna Love U (Give It 2 Me)」に移行する瞬間!!!ジェイはよくインタビューで話していたことがありましたけど、「その移行(segue = transition)最高だね」と。まさにこれが「その移行」ですね。

実は、これ、今、午前3時に書いています。寝ることもせずに、Jay-Zの音楽ばかりを聴いていた時代を思い出します。音楽のサブスクリプションが無い時代ですからね、CDに穴が開くくらい同じCDを聴きまくらないと、他に聴くものが無かった時代ですから、というのは言い過ぎかもしれませんが、少なくとも、手を伸ばせば、簡単に他のアーティストの音楽が手に入った時代では無かったですから。

(文責:Jun Nishihara)

第5位:映画『Judas and the Black Messiah』から,ジェイ・Zのヴァース「What It Feels Like」より(2021年最高のHIP-HOPモーメントBEST 10)

ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)が生前にレコーディングしていたヴァースを起用して,ジェイ・Z(JAY-Z)が本年リリースされた映画『Judas and the Black Messiah(邦題:ユダ&ブラック・メシア(裏切りの代償))』のインスパイアード・アルバム収録の楽曲に,ヴァースを提供しました。

2021年イチの“featured verse”として,ジェイ・Zのこのヴァースを第5位に認定いたします。

[Verse 2: JAY-Z]
Scorpion bricks, way before Aubrey’s double disc
.40 on my lap, clap, sound like 40 did the mix
Filtered bass, sift coke like a Michelin star chef
Chef kiss to my wrist, I go dummy with my left
IRS on my dick try to audit all my checks, too late
You know they hate when you become more than they expect
You let them crackers storm your Capitol, put they feet up on your desk
And yet you talkin’ tough to me, I lost all my little respect
I’m sellin’ weed in the open, bringin’ folks home from the feds
I know that payback’s gon’ be mean, I’m savin’ all my little bread
Pray for me, y’all, one day I’ma have to pay for these thoughts
Real niggas is extinct, it ain’t safe for me, my dawg
They killin’ niggas in they own hoods, that make sense to you at all?
You burnt your bridge to the other side, you know you can’t swim across
Y’all know niggas can’t swim, they fried Mike after he died
Y’all know niggas can’t win, you never land, all jokes aside
I arrived on the day Fred Hampton got mur—, hol’ up
Assassinated, just to clarify further
What y’all gave birth is the chairman mixed with Jeff Fort
Big stepper on that jet with my legs crossed (Uh, uh)
Black stones on my neck, y’all can’t kill Christ (Uh)
Black Messiah is what I feel like (Woo)
Shit ain’t gonna stop ’cause y’all spilled blood
We gon’ turn up even more since y’all kill cuz’

(対訳)
蠍(さそり)の煉瓦,ドレイクのダブルディスクよりも遥か前
腰に.40銃,まるで40制作のミックスの如く
フィルターを通したベース音,コカインを捌く腕はミシュラン・シェフ
手首にシェフのキス,サウスポーの腕が鳴る
稼いだカネを検査しようとする監査院,俺にはついてこれねぇ
想定以上のことを成し遂げると,必ず嫉妬するヤツがいる
白人群衆が国会議事堂を襲撃しても,あんたは机に足を乗っけてのけぞったまま
それでも偉そうな口きいてる,あんたにはリスペクトを失っちまった
公然とハッパを売り捌く,ムショから仲間を連れて帰る
半端ない稼ぎ,いざという時のため貯蓄もある
祈っていてくれ,こういうことを考えてばかりいると,いつかは仇となるだろう
リアルな連中は絶滅しかけてる,安心できねぇ世の中になっちまってる
生まれ育ったフッドで,仲間内で殺し合いをしてる,それ,おかしいだろう
向こう岸へ渡る橋を燃やしてる,泳げもしないのに
わかってるだろ,水泳できないって,あの世にいった後もマイケルは咎められ
「勝てもしないのに」,ネヴァーランドで,笑えもしない
俺が生まれた日は,フレッド・ハンプトンが殺され・・・否!
暗殺された日だ,正確を期したかった
そして生まれたのはジェフ・フォート(ギャングリーダー)の性分を兼ね備える優等生
足を組んで飛び乗るプライベートジェット(Uh, uh)
黒人の血がついた「黒いダイア」を首に飾る,他方,おまえらにイエスは殺せないだろう
俺の気分は「黒いメシア」
これからも終わらねぇんだろ,黒い血が流れる世の中
だからもっと騒いでやるよ,どうせおまえらに殺されんだから,’cuz

註釈:
・蠍(さそり)の煉瓦:ギャングによって,ロゴは異なるが,有名なのは蠍のロゴを煉瓦の形をしたコカインで売り捌いていたころから,コカインの塊を意味する。
・40とはドレイクの親友でもあるカナダ出身のビート・プロデューサー。ミックスを「ヒップホップ」と「コカイン捌き」の二重の意味に掛けている。
・最後の’cuzとはニプシー・ハッスルの“ブルー”の色でもわかるが,crips仲間を呼び合う際の語句であり,ニプシーへの追悼の意味を込めているといえる。

註釈では省いた箇所が他にもありますが,ジェイ・Zが得意とする「ダブル・アンタンドレ(double-entendre=二重の韻を踏んだ二重の意味の掛け)」が散りばめられているヴァースでした。

音源はこちらで視聴可能です。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る(15):ドレイク ⇄ ジェイ・Z

2001年9月11日にリリースされたジェイ・Z(JAY-Z)の『The Blueprint』を当時,CDで買い,その翌年(2002年)に予定されていたNYで始まる学生生活に向けて,準備をしていた。その準備期間中,2001年〜2002年にかけて,『The Blueprint』ばかりを聴いていた。お金は無く,現代のようにストリーミングサービス(Apple MusicやSpotify等)があるわけではないため,聴ける音楽の種類と量は限られていた。その限られた中でも,『The Blueprint』をPanasonicのポータブルCDプレイヤーで聴きながら,タワレコ(Tower Records)やHMV等に通っては,リリースされたニューアルバムだけに限らず,以前にリリース済みの古いアルバムについても試聴をしまくり,店頭のラックを見て勉強しつつ,TSUTAYAで安くレンタルしたりして,どういった音楽が世に出ているのかを勉強するといった日々を過ごしていた。幸い,インターネットが世に出て初期の頃であり,ありがたいことに私もインターネットが使えたため(AOLの有線で,接続する際にピーピュルルーと鳴るアレである),YouTubeなど存在しない当時ではあったものの,非常に画質の悪いもののミュージックビデオ等を確認することは可能であった。かろうじて,音は聞こえたし,当時TVの衛星放送等でミュージックビデオ等が放映されていたため,食い入るようにして観ていた。

「ミュージックビデオ」という存在は当時はめずらしかった。今でこそ,YouTube等で誰でも観られるようになり,めずらしくもなんともなくなったが,当時は,毎週MTVでその週のミュージックビデオランキングをしていたほど,ある種の「特別感」があり,我々はそれをワクワクしながら観ていた。

JAY-Zの「Song Cry」のミュージックビデオを初めて観た時は感動した。理由は,この曲の音源はそのポータブルCDプレイヤーの中のCDが擦り切れる程,聴きまくっていたのに,ミュージックビデオだけは長い間,観られなかった(観られる環境がなかった)からだ。インターネットでもこの曲のミュージックビデオは,どうしても見つけられなかった。なので,あそこまで音源だけは繰り返し聴いていて,ミュージックビデオを初めて観たのは,もっと後になってからであった。

現代の音楽を聴く世代をうらやましく思う反面,かわいそうに思えるのはこれが理由である。私が当時経験した,楽曲だけは聴いていて,ミュージックビデオがどうしても観られない,そしてそれを何がなんでも観たいと日々強まる想い,というこの気持ちを,現代の子たちは経験できなくなってしまっているのではないかと思う。今は,見ようと思えば,YouTubeやGoogleで検索すればすぐに観られる時代である。日々,強まる想いは,すぐにその瞬間に「解消」「解決」されてしまう。そのスピード感であるがゆえに,当時感じたような,ゆっくり湧き上がる,徐々に強くなる想いのような青春は感じられなくなってしまっているのではないかと推測する。

「涙が出ないので,曲に泣いてもらうしかないんだ」という切なさをラップしたこの曲を,「音源」だけを聴いて,どういった意味をJAY-Zはこの曲にもたせているんだろうと,少なくとも1,2年はそれについて考え続けた。その楽曲を聴きながら。だから必然的に何度も何度も繰り返し聴き込んだ。知りたかったから。JAY-Zがどういう思いをこの曲にもたせたのか,ということを。インターネットは当時あったが,そんなことを解説しているブログ(ブログという言葉すら存在しない時代)もなかったし,「Song Cry」を私ほど聴き込んでいる日本人は日本中探してもどこにもいないだろう,と思っていたからだ。その答えを知るために,誰に頼ることもできない。日本人に頼ることなどできない。自分で答えを探すしかなかった。だから,他の日本人の誰よりも,聴き込んだ,という自信だけはあった。しかし,ミュージックビデオだけは見つからなかった。

その答えを見つけたいという思いと,ミュージックビデオを観たいという日々強まる想いと,楽曲の切なさに胸打たれる思いと,そんなあらゆる思いが複雑に交わり合って,ついにミュージックビデオを初めて自分の目で見ることができた瞬間は,涙が流れた。

JAY-Zは曲に泣いてもらうしかない,とラップしていたが,私自身の目から涙が流れた。

そのようなあらゆる思いが入ったこの曲を,19年後の2020年3月にドレイク(DRAKE)がサンプリングネタとして起用し,「When To Say When」という楽曲として世に出した。そしてまた,それを聴いたあと,NYに戻っていた。

Drake – “When To Say When”

JAY-Z – “Song Cry”

P.S. 上記本文内で,「Song Cry」を私ほど聴き込んだ日本人は他にいないと書きましたが,故・二木崇先生だけは私よりも聴いていた(いや,正確に言えば,私ほど聴き込まなくても,ちゃんとこの名曲のことをご理解されていた)のではないか,と後に有難いご縁もあり,そういう想いを強めた次第でした。二木先生,私はあなたの書くヒップホップ的な文章にずっと憧れておりました。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る(12):ドレイク ⇄ JAY-Z ⇄ ボビー・グレン

どうも,西原潤です。

1年半以上前ですが,2018年9月にこういう見出しを1件UPしました。

ジェイZのヒップホップ界歴史に残る名盤『The Blueprint』に収録されている「Song Cry」の元ネタを探ったものでした。

この曲が世にリリースされて,かれこれ18年以上が過ぎておりますが,その18年以上が経過した今,ヒップホップ界でベテランの域に入り始めているドレイクが,この名曲を引っ提げお手本にして,「When To Say When」という曲を今年2月にリリースしました。そして,2020年5月1日にリリースした公式ミックステープに同曲「When To Say When」を収録しました。

私の尊敬するHip-Hop JournalistにElliott Wilsonという方がいます。Elliott(YN)は80年代から米ヒップホップ雑誌(『ego trip』『The Source』『XXL』『RESPECT.』)の編集者(後に編集長)として名を上げてきた人物です。最近はTIDALで放送されている動画付きのラッパー・インタヴュー集「Rap Radar Podcast」を立ち上げております。すでに現時点で,90話まで進んでおりますので,約90名のラッパーをインタヴューしてきた計算になります。このインタヴュー集は,TIDALを月額購買していれば,視聴可能です。

昨年2019年12月25日に公開されたElliott Wilson & B.Dotとドレイク(Drake)のインタヴューは,ドレイクのトロントの自宅で行われました。インタヴューが“あの”ドレイクの自宅で行われた,というのは,どれだけElliottがヒップホップ界でリスペクトされているか,ということを物語っています。このインタヴューはTIDALを月額払って観てみる価値はありますので,お金に少し余裕のある方は,月額スタートしてみると良いですよ。

さて,そのドレイクが「When To Say When」を今年2月にリリースした際に,ミュージックビデオも同日公開されました。そのミュージックビデオは,ドレイクがジェイZの生まれ育ったブルックリンのMarcy Projectsに赴き,そこで撮影しているという感動的なものです。なぜ感動的か,というのは幾つか理由はあるのですが,1つは,タイミングです。2001年8月に亡くなったAaliyahをドレイク自身,当時好きで聴いていました。当時2001年にドレイクはラッパーとしてまだ世に出ていませんでしたが,同じ世代の人間として私も,Aaliyahを当時ヘヴィロテで聴いておりました。当時ヘヴィーローテーションで流していた大好きなアルバムの歌手が亡くなった,と。それを知ったのは,当時インターネットなんて僕はやってなかったですから,誰かアメリカに住んでいた友達から聞いたんだと思います。新聞でも見たのかな?もうアメリカと黒人音楽にどっぷり浸かっていた2001年でしたので,当時の様々な思い出が,「Song Cry」を聴くと甦ってくるのです。そういう最中のことでしたから,Aaliyahが亡くなった翌月にリリースされた『The Blueprint』収録楽曲の最も感動的である曲をサンプリング(という言葉が安っぽく聞こえてしまうので使いたくない)否,サンプリングではなく「お手本として起用させていただいた」曲をドレイクがリリースしたというのは,そして同日にリリースされたミュージックビデオを拝見した時には,あの当時を思い出して,いろいろな感情が溢れ出してきたため,涙が出てしまったのでした。

ここにその「When To Say When」と「Song Cry」と,そしてBobby Glennの「Sounds Like A Love Song」を掲載しておきます。

Drake – “When To Say When”

JAY-Z – “Song Cry”
(ミュージックビデオの冒頭で2002年という文字が出てきますが,この曲を収録したアルバムが出たのは2001年です。当時はミュージックビデオ(当時の言葉でPV)は時間をかけて製作されていましたから,曲が世に出て1年,2年後にPVが発表されても不自然ではなかったのです。最近のように,リードシングル曲ならまだしも,それ以外の曲がリリースされて,同日中にミュージックビデオも世に出るなんていうのは極めて稀なことだったのです。)

Bobby Glenn – “Sounds Like A Love Song”

(文責&キュレーション:Jun Nishihara)