2019年MTVビデオ・ミュージック賞(とりわけミッシー・エリオットの偉大さについて)

2019年8月26日(日)に開催された米MTVのVideo Music Awardsより,ハイライトをいくつかピックアップして,以下に掲載しておきます。5年後これを見返して,懐かしい感情を抱けますように。

Taylor Swift
まずは,テイラー・スウィフトです。2曲めに披露するバラード曲を演奏して,ここまで声援が挙がる人は,現ポップス界では他にいらっしゃらないですね。誰もがヒップホップやEDM系の曲を制作している中,ある意味,時代とは逆方向に進むともいえるテイラー・スウィフトのこの曲「Lover」は,人間がもつ心の普遍的な琴線に触れる名曲だと云えるでしょう。

Missy Elliott
やってきました。ミッシー・エリオットです。今夜最高のステージはミッシーが奪い去ったといえるでしょう。2曲めの「The Rain (Supa Dupa Fly)」は1997年リリースの曲ですけれど,一片足りとも古びていない!また,MTV VMAs終了後の数日間(いや,今も?)ツイッターやインスタグラムで騒がれ続けたこの人(↓)(=Alyson Stoner)は,ミッシーが2002年にシングル曲「Work It」をリリースした際,ミュージックビデオで踊っていたあの女の子です。当時この子はわずか9歳。17年ぶりに,ミッシー・エリオットと同曲で共演を果たしたというのは,なんとも感慨深いことです。
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なお,「Get Ur Freak On」「Pass That Dutch」等,名曲が続きます。

Queen Latifah
クイーン・ラティファのお出ましは以下映像の4:34からです。先出のミッシー・エリオットに続き,クイーン・ラティファの今年のMTV VMAsへの登場は今年特に顕著な女性ラッパー世代を象徴しているように思われます。

Lizzo
現代ぽっちゃり女子代表。あらゆるサイズ,人種,カラー,エスニシティ,セクシュアリティの代弁者として,なかなかおもしろいポジションにいる人だと思います。

Megan Thee Stallion
まずは,年齢に驚き。メガンは1995年生まれなので,まだ24歳。24歳でこのラップ力は凄まじいですね。ようやくMTVにまで出られるようになった。とても嬉しいですが,今までのアングラ力の勢いを失わないようにいってほしいというのが,ファンである我々の思いです。けっしてポップ界に流されないように!!

Missy Elliott’s Acceptance Speech of “Michael Jackson Music Video Vanguard Award”
最後にミッシー・エリオットが女性初「マイケル・ジャクソン・ビデオ・ヴァンガード賞」を受賞した際のスピーチで締めくくります。20年以上もミッシーは「ヒップホップダンス界」の大御所としてその才能及び貢献を音楽界のために尽くしてきました。それがようやくここで大いなる賞の贈呈とともに一つの実を結んだといえます。ミッシー・エリオットが本スピーチの中で,感謝している人リストに連なる人物を聞くだけで,どれだけミッシーは謙虚な人であるかということが伺い知ることができます。最後にミッシーが感謝する人(たち)を挙げたところで,ステージも湧き上がります。それではじっくり聴いてみてください。

今日も,当サイトに来てくれてありがとうございます。
ミッシー・エリオットが90年代後半に,MTVで踊っていた映像を見ていた頃を思い出します。世代はだんだんと変わっていっているといいますが,ミッシー・エリオットのような偉大なる人をリアル・タイムで当時TVで観られていたことは幸せですし,どれだけ世代が変わったとしても,こんなありがたいことはない,と思っております。

(文責:Jun Nishihara)

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永久保存版:米・女子ラッパーを網羅②:写真&代表作 (ニッキー・ミナージュ(2004)以前)

前回はニッキー・ミナージュ登場以前からすでに活躍していた女子ラッパーについて包括的にご紹介いたしました。つまり2004年以前にすでにヒップホップ最前線で活躍していた女子ラッパーたちです。

本日はその彼女たちの写真にあわせてもっとも最初に聴くべき代表作品とともにご紹介していきます。

1. Roxanne Shante (1984)(ロクサン・シャンティ)
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代表作:『Bad Sister』
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2. Salt-N-Pepa (1986)(ソルト・アン・ペッパー)
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代表作:『Very Necessary』
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3. MY Lyte (1988)(MCライト)
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(↑真ん中がMC Lyteです。)

代表作:『Act Like You Know』
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4. Queen Latifah (1989)(クイーン・ラティファ)
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(左=Mary J. Blige, 右=Queen Latifah)

代表作:『Black Reign』
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5. Mary J. Blige (1989)(メアリー・J.ブライジ)
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代表作:『What’s the 411』
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6. Missy Elliott (1989)(ミッシー・エリオット)
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代表作:『Under Construction』(下記ジャケ写真)もしくは『Miss E… So Addictive』
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7. Monie Love (1990)(モニー・ラヴ)
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代表作:『Down to Earth』
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8. Da Brat (1992)(ダ・ブラット)
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代表作:『Funkdefied』
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9. Rah Digga (1993)(ラー・ディガ)
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(左=Lil’ Kim,右=Rah Digga)

代表作:『Dirty Harriet』
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10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)(ローリン・ヒル)
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代表作:『The Miseducation of Lauryn Hill』
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11. Lil’ Kim (1994)(リル・キム)
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(左=Lil’ Kim, 右=Eve)

代表作:『Hard Core』
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12. Erykah Badu (1994)(エリカ・バドゥ)
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代表作:『Baduism』
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13. Amil (1994) (アミル)
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(左から,Memphis Bleek, Amil, Jay-Z, Beanie Sigel)

代表作:『All Money Is Legal』
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14. Charli Baltimore (1995)(チャーリ・バルティモア)
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(左=Charli Baltimore, 右=Ashanti)

代表作:『Cold As Ice』
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15. Foxy Brown (1995)(フォクシー・ブラウン)
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(左=Nicki Minaj, 右=Foxy Brown)

代表作:『Broken Silence』(楽曲3,4はアツ過ぎ!“B.K. the Home of Biggie and Jay!”)
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16. Ms. Jade (1995)(ミズ・ジェイド)
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代表作:『Girl Interrupted』(楽曲3はティンバランド制作ビートに似合いすぎ,楽曲10はジェイとの共演作(ヒップホップのクラシック!)。)
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17. Bahamadia (1996)(バハマディア)
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代表作:『Kollage』(↓アルバムジャケの裏面)
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18. Shawnna (1996)(ショーナ)
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(Shawnna, Ludacrisとのツーショット)

代表作:『Block Music』
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19. Eve (1996)(イヴ)
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代表作:『Scorpion』(楽曲9はDa BratおよびTrinaとの女子ラッパー3名の共演作。)
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20. Trina (1998)(トリーナ)
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(同郷マイアミ出身=Rick Rossとのツーショット)

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(元カレ=Lil Wayneと)

代表作:『Who’s Bad』(トリーナのラップ範疇の広さを物語るのは,楽曲16のようなエロい曲から,楽曲4のようなフリースタイルまで,あらゆる内容についてスピットできることです。)
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新曲:「F*** Boy」

21. Vita (1998)(ヴィータ)
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(左から,Vita, Ja Rule, Ashanti)

代表作:『Pre-Cumm』
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22. Remy Ma (2000)(レミー・マ)
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(ダンナのPapooseと)

代表作:『there’s something about remy』
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(文責:Jun Nishihara)

永久保存版:米・女子ラッパーを網羅① (ニッキー・ミナージュ(2004)以前)

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(写真は2018年2月15日,ハーレムのネイルサロン(Junie Bee Nails)のオープニングセレモニーで。左はTeyana Taylor,右はMissy Elliott。)

本年2019年,ヒップホップ界で何が最大の出来事だったかといいますと,ヒップホップ史上最高の度合いで女子ラッパーたちが活躍したという事実でしょう。今年は物凄い勢いで女子ラッパー陣が活躍いたしました。

現代ヒップホップには欠かせないシティ・ガールズ(City Girls)やカーディB(Cardi B)といったラッパーたちもさることながら,今年は「女子ラッパーの年(Year of the Female Rappers)」と呼んでいいほど,あらゆるエリアからの女性ラッパーがメインストリームへの登場を果たしてきました。

シティ・ガールズに関しては,昨年ドレイクが楽曲「In My Feelings」をリリースしたことにより,一躍有名となりました。これまではフロリダ州の一部でしか名を馳せていなかったこの女子ラッパーユニットは,ドレイクのこの曲のおかげで世界的名声を勝ち得たともいえます。

カーディBに関しては,もはやヒップホップ界のみならず,ポップス界で勝負していけるほどの才覚やセンスの持ち主となり,3年前(2016年)の時点ですでに,当時ポップス界のブルーノ・マーズと肩を並べるほどの存在となりました。

さて,こうした現代ヒップホップ界における「女子ラッパー」の存在にスポットライトを注いだ火付け役といえば,おおもとを辿れば,ニッキー・ミナージュが始まりといえます。2007年にアングラでリリースされたミックステープ『Playtime Is Over』収録のフリースタイル曲「Warning」でニッキーはヒップホップのアングラ界で一躍有名となりました。これだけフリースタイルをカマせる女子ラッパーはめずらしいぞ,と。ニッキーが世に出てきたからというもの,数多の女子ラッパーが登場しました。Azealia Banks, Rapsody, Young M.A, Iggy Azalea, Angel Haze, Dreezy, DeJ Loaf, Doja Cat, Snow Tha Product, Saweetie, Lizzo, Teyana Taylor等々です。

逆に,ニッキーが世に出る「までの」女子ラッパーというのももちろんおります。
以下は女子ラッパーの礎を築いた,それこそ最重要人物たちです。
このリストは心に刻んでおくべきでしょう。この人たちがいなければニッキー・ミナージュの存在はなかったといえます。そしてニッキーの存在がいなければ,今のシティ・ガールズやカーディBもいなかったでしょう。しかしながら,ニッキーの存在が凄いのは,黄金時代の女子ラッパーたちと現代の女子ラッパーたちの「あいだ」の存在として,ちゃんと橋渡しをしているところです。ニッキーが出るまでは今の世代の女子ラッパーは半分以上現れていなかったと過言してもよいところでしょう。

『歴代女子ラッパー』:ヒップホップ黄金時代の礎を築き上げた偉大なる女子ラッパーたち
(上からデビュー順に並べていきます。( )内はデビューの年です。)
1. Roxanne Shante (1984)
2. Salt-N-Pepa (1986)
3. MC Lyte (1988)
4. Queen Latifah (1989)
5. Mary J. Blige (1989)
6. Missy Elliott (1989)
7. Monie Love (1990)
8. Da Brat (1992)
9. Rah Digga (1993)
10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)
11. Lil’ Kim (1994)
12. Erykah Badu (1994)
13. Amil (1994)
14. Charli Baltimore (1995)
15. Foxy Brown (1995)
16. Ms. Jade (1995)
17. Bahamadia (1996)
18. Shawnna (1996)
19. Eve (1996)
20. Trina (1998)
21. Vita (1998)
22. Remy Ma (2000)

ここまでがひととおり,ニッキー・ミナージュがヒップホップのアングラ界で名を挙げるまでに登場した,ヒップホップ黄金時代を築き上げた最も重要な女子ラッパーたちです。(つまり,ニッキー以前のラッパーたち。)

非常にたいせつなリストですので,もういちど復習しておきます。

1. Roxanne Shante (1984)←※昨年,映画『Roxanne Roxanne』を観ました。初期のヒップホップにとってあまりにも重要な人物ですので,彼女へのリスペクトを表し,その半生を描いた映画です。映画の後半には子供の頃のNas(ナズ)も出てきます。この映画を観ると,あのナズでさえも,彼女(Roxanne Shante)の生き様に関わっていたことがわかります。Roxanne Shanteは1969年のクイーンズ生まれ。母子家庭で姉妹とともに育ちました。9歳の頃にラップを始めて,14歳の頃にラッパー名をロリータからロクサン(英語読み)へと変更。周りの女子は誰一人としてラップなんてしていなかった時代に,ラップを始めた。その度胸だけでも称賛されるべきです。その生き様はまことに苦闘の日々でした。その苦闘をラップ曲へと昇華することに成功し,初期ヒップホップを次に紹介するSalt-N-Pepaへと繋げた最重要人物です。

2. Salt-N-Pepa (1986)←※塩(ソルト)はシェリル・ジェイムス,胡椒(ペッパ)はサンドラ・デイトンです。二人はクイーンズの短大(Queensboro Community College)で看護学を学ぶ学生時代に出会い,ラップユニットを結成しました。シェリルはブルックリン出身。サンドラはクイーンズ出身。もともとはスーパーネーチャー(Super Nature)というユニット名で,3人目がいました。専属DJのDJ Spinderella(スピン+シンデレラ=スピンデレラ)です。Salt-N-PepaはRoxanne Shanteと並んで,ヒップホップの創設時代に必ず名前が挙がる人物です。

3. MC Lyte (1988)←※自身の名前に“MC”という呼称を付ける数少ないMCの一人です。しかも女性で。しかもですね,女子ラッパーで“MC”という呼称を入れているのは,MCライトだけです。男子ラッパーでは,MC Ren, MC Eigt, MC Shan, MC Jin, MC Hammer等いますが,女性ではMC Lyteのみ。女子ラッパーというより,女子リリシストと呼べるほど凛々しいラップをする彼女。MC Lyteの曲で「Poor George」というのがあります。ジージー(Young Jeezy)が楽曲「Shake Life」でサンプリングしておりました。名曲ですので,「Poor George」(1991)を聴いてみてください。しかしそれにも,さらに元ネタがありまして,それがTotoの「Georgy Porgy」(1978)でした。

4. Queen Latifah (1989)←※知っていますか?クイーン・ラティファとニッキー・ミナージュが映画『Barbershop: The Next Cut(邦題:バーバーショップ3 リニューアル!)』で共演していることを。女性ヒップホッパーというジャンルを象った一人の女性(=ラティファ)が,今の世代のバービー・ドールたちを産み出した若き女子ラッパー(=ニッキー)とともに「世代を超えて」共演している映画があるということを。ニッキーは今,アップル・ミュージック(Apple Music)専用ラジオ局で,Queen Radioというラジオ局を持っておりますが,おおもとの“Queen”はこの人=Queen Latifaでした。ラティファとニッキーがこうして多面的に繋がっていることにより,ラティファの音楽がいつの時代も生き続けるように祈るばかりです。

5. Mary J. Blige (1989)←※ヒップホップ界ではいろいろな人が「クイーン」の名を好き勝手に使っておりますが,この人こそが正真正銘「元祖クイーン」です。メアリーは次に出るミッシーとともに,黒人女性にとって非常に重要なアイコンでしょう。メアリーの名盤『What’s the 411』は,女子ラップではなく,女子とか男子とかカンケーなく,ヒップホップ音楽(そしてR&B音楽)における最も重要なアルバムです。日本国民全員が一家に一枚持っておくべき最重要アルバムです。今晩の夕ご飯の時には,TVは消して,DVDも消して,Netflixも消して,『What’s the 411』をかけてみてください。ハマります。一度ハマれば,二度と戻れない。一度ブラックにハマれば,二度と戻れない(“Once you go black, you can never go back.”)。入り口は『What’s the 411』です。全てはここで始まります。そんなアルバムを作ったメアリーは次のミッシーとともに歴史的人物として歴史(少なくとも黒人女性の歴史)の教科書に載るべき人物でしょう。日本の小学校の歴史の授業で,「メアリーがいたから〇〇」や「ミッシーがいたから〇〇」の〇〇には,この二人により救われた人々の名前が入ります。メアリーの何がすごいかって,彼女の苦しみと涙に満ちた歌詞に共感する女子が当時も,今も,ほんとうに多くいらっしゃるということです。時代は変われど,メアリーの歌詞と歌に共感する人は絶えないですね。それだけ女子にとって普遍的な音楽を創り続けているメアリーは偉大な人物です。

6. Missy Elliott (1989)←※いやぁ,ミッシーに関しては,現代黒人女子ラッパーのみならず,黒人女性のアイデンティティを作り上げたという点において,特筆すべき,非常に重要な歴史的人物です。「黒人女性史」というジャンルがあるならば,必ずメンションされるべき人です。この前,どこかのTV番組で,若い黒人女性シンガーがこう言っているのを見かけました。「こんなデブの私でもひとりのブラックシンガーとして認められるようになったのは,ミッシーのおかげです。当時ミッシーが,MTVで流れるミュージックビデオでダンスしているのを観て,私も家で曲にあわせて真似して歌った。ミッシーが成し遂げたことは,黒人女性にとって革命的なことだった。」ヒップホップや音楽という範疇を超えて,ミッシーが成し遂げたことは,黒人女性にとっていかにたいせつであったかを,別の機会に書ければと思っております。

7. Monie Love (1990)←※UK出身です。英国はロンドン生まれ。名前の読み方は「マニー・ラヴ」ではなく「モゥニー・ラヴ」。彼女の「Monie in the Middle」を聴いてみて下さい。「彼女は誰だ!」「モゥ,モゥ,モゥニー・インダ・ミド」「ダ,ダ,ダ,ミド!」って言ってます。

8. Da Brat (1992)←※ヒップホップ界最も重要なプロデューサーの一人であるジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)率いるソー・ソー・デフ(So So Def)所属の女子ラッパー。高い声に,早いラップが売り。ノリは良く,ツカミは完璧。パッパッパとしたテンポのいいラップが好きな人なら,すぐに好きになれます。彼女のアルバム『Funkdafied』はオススメ。ジャーメイン・デュプリは数えきれないほどの名曲を残しておりますが,Lil’ Kim, Left Eye Lopes, Missy Elliott, Da Brat & Angie Martinezとのコラボレーション曲「Not Tonight」の中でもいちばんハードなラップをカマしているのはDa Bratでした。

9. Rah Digga (1993)←※バスタ・ライムス率いるフリップモード・スクワッド軍団のファースト・レディ!女子なのにタフ.タフ,タフ。タフな女子ラップを聞きたければ,とにかく彼女のアルバムを聞くべし。彼女が尊敬するラッパーは,KRS-One,Rakim,Kool G Rapと,ヒップホップ界でもハードなラップをするベテラン勢を挙げております。メジャーデビューは,当時Q-ティップに才能を見出さられ,バスタ・ライムスを紹介されたことに始まります。

10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)←※下記12.のエリカ・バドゥもそうですが,ローリン・ヒルについても日本の女子ヒップホッパーの間で特に人気がありますね。彼女のグラミー賞受賞のアルバム『Miseducation of Lauryn Hill』はあまりにも有名です。それまでは,女子ラッパーが「Album of the Year(最優秀アルバム)」を受賞したことはありませんでした。歴史上初めて最優秀アルバム(ヒップホップ部門でもなく,ラップ部門でもなく,女性アーティスト部門でもなく,全てを包括した中で,男女関係なく,ジャンル関係なく,最も優秀なアルバム)は,ヒップホップ,しかも女性のヒップホップとしては,初めての快挙でした。そういった意味では,ヒップホップ史のみならず,音楽史で非常に重要なアルバムでしょう。

11. Lil’ Kim (1994)←※冒頭でニッキー・ミナージュは現代女子ラッパーのおおもとを築き上げた人物だと云いました。ニッキーがそうであれば,リル・キムが成し遂げたのは,ニッキーが成し遂げたものとの性格(性質)は似ているかもしれません。また,90年代のヒップホップで最も有名な女子ラッパーとも呼べるかもしれません。名付けて女子OG。女子のオリジナル・ギャングスタ。ブルックリン出身で,ビギーの愛人。レコードでもビギーとのセックスをそのまま曲に流し,下品なラップ曲を厭わずに,世に出しました。ヒップホップに恥など無関係,と言わんばかりに。このおかげで,あらゆる女性が自由を勝ち取ったことでしょう。女子のエロを解放してくれたラッパー,それがリル・キムでした。

12. Erykah Badu (1994)←※この人が成した功績に関しては,ここだけでは語りきれないでしょう。エリカ・バドゥは日本のヒップホッパー女子にも非常なる人気を誇っております。わたくしがここで語るのはおこがましいことですが,ひとつ彼女について言えるとすれば,エリカ・バドゥほどヒップホップに創造性を与えたアーティストは男女ともにいない,ということでしょう。彼女ほどヒップホップの可能性をさぐった人はいませんでしたし,その可能性をどこまでも挑戦し続けた。実践的な面でも,スピリチュアルな面でも。そしてヒップホップそのものと肉体面での関係を持ち,純粋にそれを愛した。肉体のエロさという極致とスピリチュアルな愛というもののもう片方の極みを昇華させたアーティストは男のアーティストを探してみてもめずらしいでしょう。エリカほど理解不能な歌手は今の時代はあらわれにくくなっていますねえ。

13. Amil (1994)←※アミルの特徴的な声は忘れられません。今はどこにいるのかわかりません。でも彼女の声だけはこの耳にこばりついています。ケガが治りかけた瘡蓋のように。ジェイZの「Can I Get A…」を聴いてみてください。あと,1998年に日本でデフ・ジャム関係のアルバム(国内盤)を入手すると,「次回Def Jamレーベルからリリース予定の新盤!」ということでライナーノーツにおまけでチラシが入っていました。その中で,アミルのアルバム『All Money Is Legal』が近々リリース予定!として記載がありました。そしてそれがリリースされたのは2000年8月29日。リードシングル「I Got That」では当時まだデスチャに所属していたビヨンセをフィーチャリング。デフ・ジャムのみならず,Roc-A-Fellaレーベルの辿った歴史として,重要な女子ラッパーです。

14. Charli Baltimore (1995)←※チャーリー・ボルティモアはビギーの愛人でした。ビギー(=The Notorious B.I.G.)は1995年,ライヴ後のアフター・パーティでチャーリーと出会い,関係を持ち始めました。ビギーとジェイZとパフ・ダディが当時スーパーグループ=The Commissionを結成しようと計画していたのを目の当たりにしていた女子ラッパーこそが彼女チャーリーでした。チャーリーに聞けば聞くほど,当時のビギーの秘話が出てくる出てくる。ビギーと関係を持っていた女子ラッパーとして,おさえておくべき重要人物でしょう。

15. Foxy Brown (1995)←※フォクシーは当時,Nas達とThe Firmというスーパーヒップホップユニットを結成しておりました。その彼女が,ジェイZの楽曲「Ain’t No Nigga」にフィーチャリングされ,一躍有名に。デビュー作の『Ill Na Na』ではその特徴的な声で,ヒップホップ界に「新しい旋風」を巻き起こしました。リル・キムとは違った趣向で切り口,角度でヒップホップに登場しました。当時は,「リル・キム派」か「フォクシー・ブラウン派」か,もしくは第三の波「ミッシー派」か,その三大帝王の指に入るほどメジャーなフィメール・ラッパーでした。

16. Ms. Jade (1995)←※個人的にはとても好きな女子ラッパーです。彼女を知ったのは2001年でした。当時ニューヨークのストリートで売られていたミックステープにMs. JadeとJAY-Zのコラボ曲が収録されていて(「Count It Off」という曲です),あれがヒップホップこてこてのクラブ(当時NYCで有名であったClub Speed(ヒップホップ伝説の男DJ Mister Ceeもここでスピン!))で流され,「おぉ,これミックステープで聴いた曲や!」とテンション上がったのは記憶にあります。Ms. Jadeのフィリーをレペゼンする,ドスの聴いた声で低音ベースがガンガン聴いたティンバランド・ビーツは超マッチ。「Count It Off」はあらゆる意味で名曲ですので,聴いてみてください。

17. Bahamadia (1996)←※デビュー作アルバム『Kollage』のカバー表紙はきっと見たことがあるでしょう。あまりにも有名なアルバム。女子ラッパー名盤。バハマディアのこのアルバムは必ず聴いておくべき。

18. Shawnna (1996)←※アトランタ出身リュダクリスのDisturbing Tha Peaceレーベル所属。ショーナ自身はシカゴ出身。リュダクリスのメインストリーム・デビュー・シングル曲である喘ぎも入るエロエロの曲「What’s Your Fantasy」でコラボレーション。

19. Eve (1996)←※もはや女優としての才能に恵まれた多才なラッパー。当時はスウィズ・ビーツ率いるラフ・ライダーズのファースト・レディー的存在。

20. Trina (1998)←※女子ラッパー,特にサウス出身の女子ラッパー,にとっても最も重要な女子MC。サウス女子のそれこそ礎を築き上げた張本人

21. Vita (1998) ←※当時ジャ・ルールと同胞マーダーINC.に所属していた女子ラッパー。ジャの「Put It On Me」のPVがMTVで流れ,そこでジャの相方としてラップしていた細身の彼女。

22. Remy Ma (2000)←※Ne-Yo(ニーヨ)とのコラボレーション「Feels So Good」はあまりにも有名な楽曲。当時ミックステープを売りまくっていた「アルファベットラッパー」ことPapoose(パプース)と結婚。パプースはオフィシャル・アルバムを出す出す出す,と言っていて,ずっと待ち続けていたが,いまだに出していない。(蛇足ですが「アルファベットラッパー」といっても馬鹿にすることなかれ。アルファベットを「A」から「Z」まで順番に韻を踏んでいくんです。当時ニューヨークのHOT97で聴いたときは,「スゲエッ!こんなん初めて聴いたわ!」と度肝を抜かれました。後に同胞ブルックリン出身のファボラスも「C→G」までアルファベットラップをやって,それもなかなかよかったです。)

さて,次回は各女子ラッパーの写真と代表作を掲載します。

(文責:Jun Nishihara)

Nasアルバム『The Lost Tapes』(2002年)より,対訳「Purple」(全ヴァース対訳)

本日はNasの2002年リリース『The Lost Tapes』より名曲「Purple」の全ヴァース対訳を以下に掲載いたします。

[Intro]
Light it, uhh
Light it up, uhh

(イントロ)
火をつけろ,uhh
火をつけろ,uhh

[Verse 1]
The whole city is mine, prettiest Don
I don’t like the way P. Diddy did Shyne with different lawyers
Why it’s mentioned in my rhymes? Fuck it
It’s just an intro, hate it or love it, like it, bump it or dump it
Write it, across the stomach spell “God son”
Life is like a jungle, black, it’s like the habitat of Tarzan
Matter of fact, it’s harder than most can imagine
Most of my niggas packed in correctional facilities
Half of them passed on, MAC strong, couple of shots
Made the ghost leave a body, now they hauntin’ the block
Where they used to stand at, somebody’s takin’ they place
A younger man perhaps, hand slaps, can’t understand that
Same walk, same talk, I wonder can that be possible?
A thug dies, another step inside his shoes
And they will hurt you, layin’ low with a bottle
I’m blowin’ circles, my state of mind purple

(ヴァース1)
この街はどこまでも俺の街,イケメンの首領(ドン)
P.ディディが弁護士を数人雇い,シャイン*(註)相手に勝訴したのはイカセねえ
どうしてそんな内容のラップするかって? 理由なんてねえ
それがイントロ,好けど嫌えど,聴けど捨てれど
俺は“書いた”,肚に文字,「神の息子(ゴッド・サン)」と
人生はジャングル,真っ暗で,まるでターザンの住処
実際のとこ,ここは,おまえらが想像する以上にハードなトコ
俺の仲間のほとんどが,ムショにとっつかまえられている
その半分があの世にいっちまい,マック銃にやられ,2,3発喰らった
その霊は肉体を離脱し,いま,ゲットーをさまよい歩く
かつてハッスルしていた場所で,今となっては,別の野郎がそこにいるが
若手の野郎が,大金の取引を交わす,それが現実,俺は理解に苦しむ
似た歩き方,似た話し方,俺は思う,んなことあっていいのか?
サグは死に,ヤツの代わりに別のヤツがそこを継ぐ
そしてまた傷つけられる,ボトルを片手に身をひそめる
ケムリをふかして,円を吐く,俺の気分は「パープル」

[Break]
Light it, light it, uhh
Yeah… light it up
Light it up, uhh

(ブレイク)
火をつけろ,火をつけろ,uhh
Yeah… 火をつけろ
火をつけろ,uhh

[Verse 2]
Y’all just wanna deal with drama
Talk about niggas who got things, y’all ready to kill his mama
Everything you into is underworld related
You sell your man out, not even your girl is sacred
You don’t trust a soul, hold up, you moldin’ soldiers
To pull guns quick and always look behind the shoulder
Think of how many dudes died tryna be down with you
Everybody’s under six feet of ground but you
Still standin’, still roamin’ through the streets, that’s real
You a survivor, knowin’ all the beef is ill
You got a bunch of thugs with you even now that’s ready
Trustin’ your judgment, quick to put it down, they deadly
The hood love you, but behind your back they pray for the day
A bullet hit your heart and ambulances take you away
That ain’t love, it’s hate, think of all the mothers at wakes
Whose sons you killed and you ain’t got a cut on your face?
Unmarked police cars roam the streets hard, the heat is God
Somebody tell these shorties reach for the stars
Instead they tell ’em how to reach through the bars holdin’ a mirror
Lookin’ down a tear in jail, makin’ weapons to kill ya
Weed smoke, three tokes, nigga, pour more Henny
He sighs with eyes that seen a war too many
Cold-blooded murderers, universal
Hood to hood, blowin’ smoke, state of mind is purple

(ヴァース2)
あんたらはドラマのように騒ぎ立ててばっか
金持ちの連中に嫉妬して,おふくろを人質にして
かかわっている世界は,どこに行ってもウラの社会
仲間の魂を売るやつもいれば,ガールフレンドでさえ狙ってくるやつもいる
誰一人でさえ信用できない,そうだろ,無邪気なヤツを戦士に育てあげ
条件反射で拳銃を握るまでにしては,常に後ろを振り向かせて不安を駆り立てる
おまえらに尽くそうとして死んでいったヤツはごまんといる
そんなヤツらはすでに地中に埋葬され,生き残っているのはおまえだけという有様
未だ立ち続け,ストリートをさまよう,リアルだろ
そんなおまえは生き残り(サヴァイヴァー),どんなビーフもイカシてる
おまえの跡をつけるサグ連中,いつだって飛びつく準備はできている
決断すればすぐ,いさかいなくキメる,致命的
ゲットーに愛されているというが,陰でヤツらはおまえが銃弾に倒れる日を
望み続けて祈ってる,救急車のサイレンを聞きたがってる
それは愛なんかじゃねえ,ヘイトってもんだ,通夜に参列する母親がどれだけ多いか
おまえが仕留めたその息子,にもかかわらず,おまえはかすれ傷ひとつとない
覆面パトカーがストリートをさまよう真夜中,熱気はプンプン
誰か女子に言ってやってくれ,「星空に手を伸ばすんだ」って
現実は異なり,最近の女子は刑務所の鉄ポールの間から腕を伸ばし手鏡を持ち上げる
豚箱にぶち込まれ,涙がしみる,そしてまた新たに武器が生産される
ハッパを焚いて,3発吸い込み,ヘネシーそそぐ
数え切れないほど目の当たりにしてきた戦(いく)さを思い出す瞳にため息をつく
冷血の殺人鬼,世界中どこにでもいる
ゲットーからゲットーへ,ハッパを一服吐き出して,俺の気分は「パープル」さ

[Break]
Light it up, light it up, light it up, uhh
Light it up… light it up, light it up, uhh
Uhh… uhh, uhh, light it, light it, uhh

(ブレイク)
火をつけろ,火をつけろ,火をつけろ,uhh
火をつけろ,火をつけろ,火をつけろ,uhh
Uhh… uhh, uhh, 火をつけろ,火をつけろ

[Verse 3]
These hot-headed youngsters always get into trouble
Reactin’ before thinkin’, they easily irritated
And murder’s premeditated, it’s a fact that we sinkin’
When we should be climbin’, in a nutshell, it’s just jail
Drug sales, liquor and diamonds, niggas rewindin’
Instead of movin’ forward to blow up, so what’s the science?
People shoutin’, police pushin’ the crowd
And on the ground’s a young soldier with meat hangin’ out him
Am I hallucinatin’ off the hazin’?
Or did I just see a nigga shoot another nigga’s face in?
It’s a ugly nation, cops circle the block with mug shots
Photograph pictures of suspect faces
It’s usually two or three niggas who innocent
But if they lock the wrong ones up, then someone’ll snitch
A divide-and-fall strategy, they aren’t fair
I dig in my bag of weed that’s covered with orange hair
This Color Purple’ll make Whoopi give me the pussy
And Celie, Oprah and Danny Glover gots to feel me
This is how I escape the madness
Too much of anything’ll hurt you, so my state of mind’s all purple

(ヴァース3)
最近の若者は短気で浅はか,トラブルに巻き込まれてばっか
考える前に反応し,いともたやすくキレやすい
計画的殺人犯行,事実,落ちぶれていっちまってる
向上しなきゃいけねえ時に,結果,ムショ行き
麻薬販売,酒の密輸にダイアモンド,黒人は退化しちまうばかり
進化して,一発当てなきゃいけねえ時に,その心は,どんな理論だ
大衆は叫び,サツは群衆を押し分けて
地面に横たわるのは,若い黒人青年,片手に拳銃を握ったまま
俺はハッパの吸いすぎで,幻覚を見ちまってるのか
それとも黒人が別の黒人の顔面狙って一発撃ったってのは事実なのか
醜い国家,犯人の顔写真がはびこるエリア
容疑者のツラに向けシャッターを押す
中には2,3人,無実な連中もいる
しかし密告されるヤツらは,ほとんど無罪なヤツらばっか
「内輪揉めで,共倒れ」,それがサツの狙い
ハッパが大量に入ったバッグに手を突っ込み
『カラーパープル』映画のように,女が俺の胸に飛び込んでくる
セリー役のオプラがダニー・グローヴァーにそうしたように
そうやって俺は狂気から逃れてんのさ
なんでもやり過ぎは体に悪い,だから俺の気分は「パープル」さ

*註釈
シャイン(Shyne):90年代後半から2000年前半にかけて活躍したラッパー。一時はそのドスの効いた声で,ザ・ノトーリアスBIG(AKAビギー)の生まれ変わりとも称された。最大のヒット曲は,ヒップホップ史上,極めて危険で,最も“ビギーを彷彿とさせる”と呼ばれた名曲“Bad Boyz”。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

Nasアルバム『The Lost Tapes』(2002年)より,対訳「Purple」(ヴァース2)

前回に引き続き,Nasアルバム『The Lost Tapes』(2002年)収録の楽曲「Purple」より,ヴァース2の対訳をお届けいたします。

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Nasが初めて雑誌“Mass Appeal”のカバーを飾ったのは上記写真の2002年でした。その11年後の2013年,Nasは同雑誌の株主となり,オーナー側の立場となりました。“Mass Appeal”雑誌は1996年にポップ・カルチャーやヒップホップ文化(特にグラフィティ等)を紹介する雑誌として創設されました。そして2014年には雑誌のみならず,Mass Appeal社はレコードレーベルとしても幅を広げていきました。以下のビデオは今年2019年に開催された,Mass Appealレコードレーベルの5周年記念パーティです。

なお,Nasが立ちあげた事業としては他にも“Sweet Chick”というレストランがあります。まさに米国時間7月19日(金)に『The Lost Tapes 2』のリリースイベントとして,米TIDAL社提供で生放送インタヴューが開催された場所も,ブルックリンはBedford Ave.に位置する“Sweet Chick”です。ロケーションの詳細はコチラをどうぞ。

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さて,前置きが長くなってしまいましたが,以下,2002年にリリースされたおおもとの『The Lost Tapes』収録楽曲「Purple」よりヴァース2対訳を掲載いたします。

[Verse 2]
Y’all just wanna deal with drama
Talk about niggas who got things, y’all ready to kill his mama
Everything you into is underworld related
You sell your man out, not even your girl is sacred
You don’t trust a soul, hold up, you moldin’ soldiers
To pull guns quick and always look behind the shoulder
Think of how many dudes died tryna be down with you
Everybody’s under six feet of ground but you
Still standin’, still roamin’ through the streets, that’s real
You a survivor, knowin’ all the beef is ill
You got a bunch of thugs with you even now that’s ready
Trustin’ your judgment, quick to put it down, they deadly
The hood love you, but behind your back they pray for the day
A bullet hit your heart and ambulances take you away
That ain’t love, it’s hate, think of all the mothers at wakes
Whose sons you killed and you ain’t got a cut on your face?
Unmarked police cars roam the streets hard, the heat is God
Somebody tell these shorties reach for the stars
Instead they tell ’em how to reach through the bars holdin’ a mirror
Lookin’ down a tear in jail, makin’ weapons to kill ya
Weed smoke, three tokes, nigga, pour more Henny
He sighs with eyes that seen a war too many
Cold-blooded murderers, universal
Hood to hood, blowin’ smoke, state of mind is purple

(ヴァース2)
あんたらはドラマのように騒ぎ立ててばっか
金持ちの連中に嫉妬して,おふくろを人質にして
かかわっている世界は,どこに行ってもウラの社会
仲間の魂を売るやつもいれば,ガールフレンドでさえ狙ってくるやつもいる
誰一人でさえ信用できない,そうだろ,無邪気なヤツを戦士に育てあげ
条件反射で拳銃を握るまでにしては,常に後ろを振り向かせて不安を駆り立てる
おまえらに尽くそうとして死んでいったヤツはごまんといる
そんなヤツらはすでに地中に埋葬され,生き残っているのはおまえだけという有様
未だ立ち続け,ストリートをさまよう,リアルだろ
そんなおまえは生き残り(サヴァイヴァー),どんなビーフもイカシてる
おまえの跡をつけるサグ連中,いつだって飛びつく準備はできている
決断すればすぐ,いさかいなくキメる,致命的
ゲットーに愛されているというが,陰でヤツらはおまえが銃弾に倒れる日を
望み続けて祈ってる,救急車のサイレンを聞きたがってる
それは愛なんかじゃねえ,ヘイトってもんだ,通夜に参列する母親がどれだけ多いか
おまえが仕留めたその息子,にもかかわらず,おまえはかすれ傷ひとつとない
覆面パトカーがストリートをさまよう真夜中,熱気はプンプン
誰か女子に言ってやってくれ,「星空に手を伸ばすんだ」って
現実は異なり,最近の女子は刑務所の鉄ポールの間から腕を伸ばし手鏡を持ち上げる
豚箱にぶち込まれ,涙がしみる,そしてまた新たに武器が生産される
ハッパを焚いて,3発吸い込み,ヘネシーそそぐ
数え切れないほど目の当たりにしてきた戦(いく)さを思い出す瞳にため息をつく
冷血の殺人鬼,世界中どこにでもいる
ゲットーからゲットーへ,ハッパを一服吐き出して,俺の気分は「パープル」さ

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

Nasアルバム『The Lost Tapes』(2002年)より,対訳「Purple」(ヴァース1)

2002年にNYの街角でNasの『The Lost Tapes』というアルバム(当時はミックステープと呼ばれていた)を5ドルで購入し,ポータブルCDプレイヤーで聴き込んだ頃,まさかじぶんがこの曲を将来翻訳することになるとはこれっぽっちも思っていなかった。そして,そのアルバムを聴いていた当時は,日本語に訳すというマインドはまったく持たず,ありのままにNasがラップするのを聴いていた。「訳す」ということを考えず。

たとえば最近では,ラップを聴いていると,「ふむ,この部分は日本語に訳すとすればこう訳すだろう」ということを考えながら聴いている時もある。しかしそんなことは当時まったく考えずに聴いていた。

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(上記写真は,2002年のMTV Music Awards(MTVミュージックアワード賞)のリハーサルにて。左からNas,Ashanti,Ja Rule。当時2002年,彼ら3人は,ヒット曲「The Pledge」という曲をリリースしていました。当時,アーヴ・ゴッティ率いるザ・マーダー・インクというレーベルが勢いつけてきており,アシャンティやジャ・ルールなどがヒット曲をリリースしていました。この楽曲「The Pledge」は2パックの楽曲「So Many Tears」をサンプリングしており,曲の終わりにかけて,2パック本人のセリフも登場します。)

さて,そのNasの偉大なるウラのアルバム『The Lost Tapes』(2002年)から,楽曲「Purple」の対訳を掲載いたします。

Nas(ナズ) – “Purple” (Verse 1) 対訳

[Verse 1]
The whole city is mine, prettiest Don
I don’t like the way P. Diddy did Shyne with different lawyers
Why it’s mentioned in my rhymes? Fuck it
It’s just an intro, hate it or love it, like it, bump it or dump it
Write it, across the stomach spell “God son”
Life is like a jungle, black, it’s like the habitat of Tarzan
Matter of fact, it’s harder than most can imagine
Most of my niggas packed in correctional facilities
Half of them passed on, MAC strong, couple of shots
Made the ghost leave a body, now they hauntin’ the block
Where they used to stand at, somebody’s takin’ they place
A younger man perhaps, hand slaps, can’t understand that
Same walk, same talk, I wonder can that be possible?
A thug dies, another step inside his shoes
And they will hurt you, layin’ low with a bottle
I’m blowin’ circles, my state of mind purple

(ヴァース1)
この街はどこまでも俺の街,イケメンの首領(ドン)
P.ディディが弁護士を数人雇い,シャイン*(註)相手に勝訴したのはイカセねえ
どうしてそんな内容のラップするかって? 理由なんてねえ
それがイントロ,好けど嫌えど,聴けど捨てれど
俺は“書いた”,肚に文字,「神の息子(ゴッド・サン)」と
人生はジャングル,真っ暗で,まるでターザンの住処
実際のとこ,ここは,おまえらが想像する以上にハードなトコ
俺の仲間のほとんどが,ムショにとっつかまえられている
その半分があの世にいっちまい,マック銃にやられ,2,3発喰らった
その霊は肉体を離脱し,いま,ゲットーをさまよい歩く
かつてハッスルしていた場所で,今となっては,別の野郎がそこにいるが
若手の野郎が,大金の取引を交わす,それが現実,俺は理解に苦しむ
似た歩き方,似た話し方,俺は思う,んなことあっていいのか?
サグは死に,ヤツの代わりに別のヤツがそこを継ぐ
そしてまた傷つけられる,ボトルを片手に身をひそめる
ケムリをふかして,円を吐く,俺の気分は「パープル」

*註釈
シャイン(Shyne):90年代後半から2000年前半にかけて活躍したラッパー。一時はそのドスの効いた声で,ザ・ノトーリアスBIG(AKAビギー)の生まれ変わりとも称された。最大のヒット曲は,ヒップホップ史上,極めて危険で,最も“ビギーを彷彿とさせる”と呼ばれた名曲“Bad Boyz”を下記掲載しておきます。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

おまけ:
Shyne – “Bad Boyz”

Nasは現代ヒップホップの原点である。

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昨日(米国時間では本日),Nas(ナズ)が『The Lost Tapes 2』をリリースしました。

時をさかのぼり,2002年のニューヨーク。
マンハッタンの街角(ストリート)で売られていた『The Lost Tapes』のミックステープを5ドルで購入し,SONYのポータブルCDプレイヤーで以下の曲をかける。

このNasのフローとビートの流れを聴くと,いまだに当時を思い出す。

曲の冒頭で,イントロが終わるのを待たずに,ラップを開始するNasのスタイル。そしてビートに飲み込まれず,むしろ,ビートをラップ側に寄せていくというNasのフロー。

ラッパーの中には「ビートに飲み込まれたようなラップをする」ものがいる。
しかしNasのスタイルはまったくそれとは異なり,「Nasのタイミングでビートに乗っかり,Nasのタイミングでビートから降りる」という,素人のビートメーカーとしてはいつNasがラップを始めるかも,ラップを止めるかも予想がつかない。まったくの即興めいたラップをやってのけている。

もう1曲,オリジナルの『The Lost Tapes』から,この曲を掲載しておきます。

ヒップホップ界で最も偉大なるオモテのアルバムがNasの『Illmatic(イルマティック)』(1994年)であるならば,Nasのこの『The Lost Tapes』(2002年)は,最も偉大なるウラのアルバム(もしくはミックステープ)と呼ぶことができる。

そして2019年7月19日,あれから17年の時を経て,『The Lost Tapes 2』がリリースされた。

17年の時を経ているのにもかかわらず,Nasのフローがまったく衰えていないことは特筆に値することである。

そしてこんなことは言いたくないが,「これこそがNYのフロー」という懐かしい気持ちをも思い起こさせてくれるし,おまけに「これこそが現代が忘れかけているラップだ」という今の若き世代のラッパーどもの背筋を伸ばしてくれるような,いわゆる「王道のラップ」がこのアルバムに収録されている。

最近のへなちょこなラップで満足していてはいけない。

今こそ昨日リリースされたばかりのNas『The Lost Tapes 2』を聴いて,「王道のラップ」を思い出すべきだ。

ラップが来た道を思い出せないのであれば,あんたらのやってるそれは「ヒップホップ」じゃない。

(文責:Jun Nishihara)

ビヨンセ楽曲対訳「スピリット(『ライオン・キング』のテーマより)」

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(上記写真は今年全米公開予定の映画実写版『ライオン・キング』の公開に先立ち,7月9日にL.A.で開催されたワールド・プレミア祭にて。)

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(映画『ライオン・キング』のサウンドトラック,ビヨンセ「スピリット」のシングル曲ジャケットです。)

米国時間7月17日には,ビヨンセのシングル曲「SPIRIT」のミュージックビデオも発表されました。7月19日にはビヨンセが全般プロデュースを手掛けた最新アルバム『The Lion King: The Gift』もリリース予定です。

Beyonce – “Spirit”
ビヨンセ対訳「スピリット(映画『ライオン・キング』より)」

Uishi kwa muda mrefu mfalme

(Uishi kwa uishi kwa)

Uishi kwa muda mrefu mfalme
(
Uishi kwa, uishi kwa)

王よ,永遠なれ
(王よ,永遠なれ)
王よ,永遠なれ
(王よ,永遠なれ)

[Verse 1]

Yeah, yeah, and the wind is talkin’

Yeah, yeah, for the very first time

With a melody that pulls you towards it

Paintin’ pictures of paradise

(ヴァース1)
そして,風は私たちに語りかける
それは初めてのこと
メロディに乗せて,わたしたちの心をとらえる
まるで楽園の絵画を描いているように

[Pre-Chorus]

Sayin’ rise up

To the light in the sky, yeah

Watch the light lift your heart up

Burn your flame through the night, woah

(プレ・コーラス)
さあ,立ち上がれ
光とともに,大空へ
光とともに,羽ばたいて
夜空にあなたの炎を輝かせて,ウォゥ

[Chorus]

Spirit, watch the heavens open (Open)

Yeah

Spirit, can you hear it callin’? (Callin’)

Yeah

(コーラス)
精霊よ,さあ,天空を見上げて(見上げて)
そう
精霊が,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう

[Verse 2]

Yeah, yeah, and the water’s crashin’

Trying to keep your head up high

While you’re trembling, that’s when the magic happens

And the stars gather by, by your side

(ヴァース2)
そう,大海の波は打つ
顔を上げて,もう,うつむかないで
おびえている時は,奇跡が起こる時
夜空の星群が,あなたの味方になる

[Pre-Chorus]

Sayin’ rise up

To the light in the sky, yeah

Let the light lift your heart up

Burn your flame through the night, yeah

(プレ・コーラス)
さあ,立ち上がれ
光とともに,大空へ
光とともに,羽ばたいて
夜空にあなたの炎を輝かせて,ウォゥ



[Chorus]
Spirit, watch the heavens open (Open)
Yeah
Spirit, can you hear it callin’? (Callin’)
Yeah

(コーラス)
精霊よ,さあ,天空を見上げて(見上げて)
そう
精霊が,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう

[Post-Chorus]
Your destiny is comin’ close
Stand up and fi-i-ight

(ポスト・コーラス)
もうすぐ運命の時
立ち上がれ,力を出しきって

[Bridge]
So go into that far off land
And be one with the Great I Am, I Am
A boy becomes a man, woah

(ブリッジ)
はるか遠くの大地へたどり着き
天の主とともに一つとなる
少年が一人前の男となる瞬間,ウォゥ

[Chorus]
Spirit, watch the heavens open (Open)
Yeah
Spirit, can you hear it callin’? (Callin’)
Yeah
Spirit, yeah, watch the heavens open, open
Yeah
Spirit, spirit, can you hear it callin’? (Callin’)
Yeah

(コーラス)
精霊よ,さあ,天空を見上げて(見上げて)
そう
精霊が,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう
精霊よ,さあ,天空を見上げて,見上げて
そう
精霊,精霊が,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう

[Post-Chorus]
Your destiny is comin’ close
Stand up and fi-i-i-ight

(ポスト・コーラス)
もうすぐ運命の時
立ち上がれ,力を出しきって

[Outro]
So go into a far off land
And be one with the Great I Am

(アウトロ)
はるか遠くの大地にたどり着き
天の主とともに一つとなる

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

エミネムのラップ術に学ぶ(その②:教材はロジックの楽曲「Homicide」)

前回は,エミネムのラップ術について,1.アクセントの場所を入れ替えるワザを取り上げました。
本日はその②として,以下のとおり説明していきます。

2.次から次へと連打のように繰り出す韻踏み

まずは以下のヴァースをご覧下さい。

Big bills like a platypus
A caterpillar’s comin’ to get the cannabis
I’m lookin’ for the smoke but you motherfuckers are scatterin’
Batterin’ everything and I’ve had it with the inadequate
Man, I can see my dick is standin’ stiff as a mannequin
And I’m bringin’ the bandana back, and the fuckin’ headband again
A handkerchief and I’m thinkin’ of bringin’ the fuckin’ fingerless gloves back
And not giving a singular fuck, like fuck rap

上記の赤文字で反転している箇所の特に下線を引いているシラブルは韻を踏んでおり,これをまるでエミネムは連打するかのように,次から次へをスピットしています。

この部分を音声で聴いてみましょう。
以下のタイムライン,2:49〜3:02の部分です。

ものの13秒で以上のヴァースをスピットするのも驚くべきことではありますが,それ以上に注目すべきは「韻踏みを1秒に1回以上繰り出しているということ」です。13秒のうちに14回韻を踏んでいますので,その計算になります。

3.息の長さ

これは言うまでもないことですが,上記のヴァースにしても,ひと息でラップをやり遂げています。最後の「fuck rap」という箇所で息継ぎをして,その後の「I sound like a fuckin’ millionaire」のくだりへと進んでいます。

息継ぎはリセットです。たとえ,へとへとになっていたとしても,エミネムはこんなことないでしょうが,ぐだぐだのラップになっていたとしても,息継ぎの箇所で一旦持ち直して,心機一転,新たな心持ちで,その後に進めていけるようになります。

息継ぎをどこでするかという大切さはあります。ラップは息継ぎの場所で決まります。むかしから思っていたのは,ジェイZ(Jay-Z)は息継ぎがとてもうまい人だな〜と思って聴いておりました。しかも息をしているということが判らないように,「息の音」をひそめている。ラッパーによっては,「スーッ」とはっきりと息継ぎをしていることが聞こえる人もいますが,ジェイZはむかしから聞こえなかった。自分でもラップしてみると必ず,「スーッ」とやってしまうのですが,慣れてくると,「息の音」をひそめて息継ぎをすることができるようになってきます。意識をするかしないか,という要素もあります。「スーッ」と聞こえるように息継ぎするのが悪いというわけでもないです。ラップは芸術ですから,どちらが正解ということはないですが,おそらく息の音を聞かせると,敵に心の内を読まれてしまうキケンがあるので,下積み時代をハスラーとして過ごしたジェイZは,人に心の内を読まれないようにするため,自然に息の音を消すことを身につけていったのかもしれません。それが彼のラップに顕在していた,と言えるかもしれません。

(文責:Jun Nishihara)

エミネムのラップ術に学ぶ(その①:教材はロジックの楽曲「Homicide」)

5月10日(金),ロジック(Logic)はニューアルバム『Confessions of a Dangerous Mind(=アブナい脳ミソから湧き出る告白)』をリリースした。

(翻訳のポイントとして,人がPC画面をパッと見て映るこのタイトルの「長さ」を考慮したとき,
“Confessions of a Dangerous Mind”

「狂気の告白」
とサラッと訳してしまうと,イメージが思い浮かばない。
とは言え,はたまた
「キケンな頭を持った男が打ち明ける告白」
と説明的に(英語原文では所有格の名詞構造なのに,日本語ではS+V+O構造で)訳すとイメージはできるが,原文の構造をくずしてしまう。

原文の構文をくずさずに,だいたい同じ「長さ」を尊重して
「アブない脳ミソから湧き出る告白」
と訳せば,ぱっと見,原文の語彙レベル(confessionsとかdangerousとかなかなかスペルが長い語を使用しているスタイル)を保ちつつ,人がパッと一目で視界に入れた際に,同じ長さだと感じられる訳になる。
ここでの翻訳のポイントは,“of”という前置詞を“from”と読み替えて「〜の」ではなく「〜から」と訳すところがミソである。)

さて,このアルバムの楽曲「Homicide」ではエミネム(Eminem)をフィーチャリング・ラッパーとして迎えて,スピード感ある高速ラップを披露している。この曲でロジックとエミネムを聴き比べてみると,全体的なスピードは双方とも優劣ない勝負を見せているが,やはりエミネムの凄まじさは,ロジックとは比較にならないほど,優れているといえるでしょう。

どういうところがエミネムが優れているか,といいますと,以下3点のとおりでしょう。

1.アクセントの場所を入れ替えるワザ
2.次から次へと連打のように繰り出す韻踏み
3.息の長さ

説明していきましょう。

1.アクセントの場所を入れ替えるワザ

どんな英語の単語にも,シラブル(Syllable=音節)があります。たとえば,“bandana”という単語には,シラブルが3つあります。“ban/da/na”のように3音節に分かれます。「バン」「ダ」「ナ」です。簡単に言いますと,母音1つ(文字上の母音ではなく,音の上での母音。たとえば,beautifulという単語には,文字上の母音は5つありますが,音の上での母音は,「ビュー」「ティ」「フォ」と3つのみです)において,シラブルが1つと考えれば,簡単でしょう。

さて,そのシラブル1つに,アクセントが1つ決まっています。英語は日本語とは違い,上下のアクセント(イントネーション=抑揚)のある(つまり音楽のような)言語ですから,強弱あったり,上下あったり,高低あったり,音的な要素がいろいろ入っております。そして,“bandana”のアクセントは,“ban→DA⤴︎na→”となります。

そこで,もうちょっと話をややこしくして,こんどは別の単語とつなげてみましょう。

“I’m bringing the bandana back.”という一文があったとしましょう。
普通にこの一文を音読するとき,どこにアクセントがあるでしょうか。(つまり,この一文でもっとも強く発音するシラブル(音節)はどこでしょうか。)

答えは,“da”のシラブルです。
(「アイン・ブリンギン・ザ・バンダ⤴︎ーナ・バック」と「ダー」の箇所(シラブル)にもっとも強いアクセントが表れます。ちなみにもっとも弱く発音する所は「ザ」です。聞こえても小さい「ナ」くらいにしか聞こえません。)

これは普通にネイティヴのアメリカ人がこの一文を音読した場合です。

これをエミネムがラップすると,こうなります。
(タイムラインは2:56〜2:57の箇所です。一瞬で過ぎますので,注意して聴いて下さい。)

エミネムは通常のネイティヴが発音するアクセントとは違い,こういう風にラップします。

「ア⤵︎イン・ブリンギン→ナ→バンダ↑ナ→バック」

つまり,もっとも強く発音するアクセントを冒頭の「ア」に置き換えて,その他はフラットに流しています。しいていえば「ダ」にちょっぴりほんの強みを出すだけです。しかし1秒も経たないうちに,一瞬で通り過ぎていきますので,気合を込めて聴く必要があります。

しかし,これはエミネムのワザであり,他の箇所にも,アクセントの場所を入れ替えるというのがちらほら見られます。

例えば,次のような箇所でしょう。
アクセントの場所(エミネム特有のアクセントを入れ替える箇所)を大文字で書いておきますので,目で追いながら,エミネムのラップを聴いてみてください。

BEAST mode, motherfuckers ’bout to get hit
with so many foul lines, you’ll think I’m a FREE throw
figured it was about time for people to EAT crow
you about to get out-rhymed, how could I be DEthroned?
I stay on my toes like the REpo, a beHEmoth in SHEEP’s clothes
from the EAST Coast to the west, I’m the ETHOS and I’m THE goat
who the best, I don’t gotta say a fuckin’ THING, though
’cause emCEEs know

赤文字で反転した箇所と下線を引いた箇所が,エミネムがアクセントを置いている場所です。ネイティヴがこの文章を音読する際とは,異なる箇所にアクセントを置いてラップをしております。たとえば「dethrone(王座を奪う)」という単語のアクセントは「o」にありますが,エミネムは冒頭の「e」にアクセントを置き換えています。また「eat crow(カラスを食べている)」と話すとき,情報としては「何を食べているのか?」「カラス(crow)」が大事なのであって,普通であれば「crow」にアクセントを置きます。エミネムのように「イー(ea)」という音節を強調したいがために,普通の会話や普通の音読で「eat」にアクセントを置くネイティヴはいないでしょう。(「カラスをどうしているのか?」「食べて(eat)いる」という変わった会話をすることがない限り。ちなみに,「eat crow」はイディオムで「屈辱を味わう」や「大恥をかく」という意味です。)しかし,エミネムはこうしてアクセントの箇所を自由自在に入れ替えて,まるで楽器のようにラップを演奏しているのです。

さて,「2.次から次へと連打のように繰り出す韻踏み」と「3.息の長さ」については,来週土曜日,ご説明いたします。

(文責:Jun Nishihara)