個人的に高校生の頃初めて聴いて度肝を抜かれたDMXというラッパーがいました。初めて聴いたアルバムは『…And Then There Was X』でした。まず囁き声で「Ruff Rydersss」と聞こえ始め,その後,本物の猛犬が鳴いているのか,DMXの鳴き声なのか判別し難いほど,あらゆる犬の鳴き声が聞こえてくるという冒頭で開始するアルバムです。そして,吃(ども)り声のお経がはじまったのかと思わせるようなDMXのラップ及びフロー。こんなアルバムは聴いたことがないと,当時Limp Bizkitにのめり込んでいた私は思ったわけです。その頃から,地元の高校の近くにあったTower Recordsに通っては,お金があんまり無かったので,CDの視聴コーナーでDMXとジェイ・Zがどちらが強いか(当時,私はどっちが“強いか
”という打撃力でラッパーたちを比較していました)と聴き分けながら,遊んでいました。その頃から,ラップを「聴き分ける」というスキルを身につけたんだと思います。当時から英語は得意・好きでしたから,英語のラップもなんとなく解りました。当時はインターネットなんて無い時代でしたから,リリックは歌詞カード(をWAYというレンタル屋さんで借りては家に唯一あったFAX機で大量にコピーして,歌い込んで覚え込んでいました)が頼りでした。
ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)が生前にレコーディングしていたヴァースを起用して,ジェイ・Z(JAY-Z)が本年リリースされた映画『Judas and the Black Messiah(邦題:ユダ&ブラック・メシア(裏切りの代償))』のインスパイアード・アルバム収録の楽曲に,ヴァースを提供しました。
[Verse 2: JAY-Z]
Scorpion bricks, way before Aubrey’s double disc
.40 on my lap, clap, sound like 40 did the mix
Filtered bass, sift coke like a Michelin star chef
Chef kiss to my wrist, I go dummy with my left
IRS on my dick try to audit all my checks, too late
You know they hate when you become more than they expect
You let them crackers storm your Capitol, put they feet up on your desk
And yet you talkin’ tough to me, I lost all my little respect
I’m sellin’ weed in the open, bringin’ folks home from the feds
I know that payback’s gon’ be mean, I’m savin’ all my little bread
Pray for me, y’all, one day I’ma have to pay for these thoughts
Real niggas is extinct, it ain’t safe for me, my dawg
They killin’ niggas in they own hoods, that make sense to you at all?
You burnt your bridge to the other side, you know you can’t swim across
Y’all know niggas can’t swim, they fried Mike after he died
Y’all know niggas can’t win, you never land, all jokes aside
I arrived on the day Fred Hampton got mur—, hol’ up
Assassinated, just to clarify further
What y’all gave birth is the chairman mixed with Jeff Fort
Big stepper on that jet with my legs crossed (Uh, uh)
Black stones on my neck, y’all can’t kill Christ (Uh)
Black Messiah is what I feel like (Woo)
Shit ain’t gonna stop ’cause y’all spilled blood
We gon’ turn up even more since y’all kill cuz’
その6.と,こうして5つを並べつつも,やはり最も優秀な曲が冒頭の楽曲「95.South」でしょう。ノースカロライナ出身であるにもかかわらず,「NYラップ」をここでやってのけている。ビート然り,フロー然り。しかしながら,同曲の末尾では,リル・ジョン(Lil Jon)の掛け声「If you scared to throw it up, get the fuck out the club!」が流れ出す。つまり,冒頭ではNYハーレムのキャムロン(Cam’ron)で始まり,末尾では深南部(サウス)のリル・ジョン(Lil Jon)で終わる。しかも曲名が「95.South」つまり南部へ繋がるインターステート(州間道路)であるInterstate 95であるということ。つまりこの曲は「NYからサウスへ“下りていく”曲」であること。親鸞の言っていた「山を下り,俗へ帰る」非僧非俗の思想がここで音楽に昇華されているということ。J. Coleは南部であるノースカロライナ生まれであり,学生時代にNYに引っ越しをする。長い間,一人暮らしをしていたのがNYであるということ。つまり,この曲は本人にとって「帰省」の曲でもあるということ。
2021年も素晴らしいHIP-HOPアルバムが世にリリースされましたが,中でも際立って秀逸だったのがタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)のアルバム『CALL ME IF YOU GET LOST』です。これは2021年に出た素晴らしき名盤として,今後も聴き続けられることとなるでしょう。
そこへですよ,そこへ,4曲目「WUSYANAME」をぶち込んできました。アルバムの冒頭でDJ DRAMAが「Welcome to the disco!」とシャウトするように,90年代のR&Bのメロディーを使い,カリフォルニアのビーチで,サンセットを見ながら聴きたい曲ナンバー1として君臨してもおかしくない曲をここへ入れ込んできました。
その4曲目「WUSYANAME」をここで掲載しておきます。
2021年最高のHIP-HOPモーメント「第10位」はTyler, the Creatorのアルバム『CALL ME IF YOU GET LOST』です。