第30位〜第1位まで総まとめ:2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30

昨年2020年に最も活躍したHip-Hopアーティスト及びHip-Hopの名曲と名場面をおさらいしておきます。昨年11月末から12月,そして2021年3月にかけて,この企画を開催いたしました。

第30位〜第1位までをおさらいしておきます。
件名をクリックするとそれぞれのページに飛ぶことができます。

第30位:DaBabyのアルバム『BLAME IT ON BABY』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第29位:Lil Uzi Vertのアルバム『Eternal Atake』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第28位:A Boogie wit da Hoodieのアルバム『Artist 2.0』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第27位:Jadakissのアルバム『Ignatius』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第26位:Rick Ross vs. 2 Chainz(ヴァーサス・バトル)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第25位:Thundercatの2020年アルバム『It Is What It Is』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第24位:2020年大活躍若手ラッパー5名大放出。ロディー・リッチ,リル・ベイビー,リル・ダーク,NLE・チョッパー,そしてYoungBoy Never Broke Again。(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第23位:サウス出身の新人ワル女ラッパー=Mulatto(ムラート)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第22位:黒人女性シンガーの“comeback story”:2020年R&B界へ復帰したJazmine Sullivan (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第21位:歌モノ・リリカル,どちらも揃ったミックステープ『No Ceilings 3』をリリースしたリル・ウェイン (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第20位:ジャングルプッシーのニューアルバム『JP4』 (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第19位:まさに1年中Poppin(大ウケ)し続けたジャック・ハーロウの「What’s Poppin」 (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第18位:バスタ・ライムスの新盤ニューアルバム『Extinction Level Event 2: The Wrath of God』の破壊力について (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第17位:ジャンルを超越したマック・ミラーの遺作アルバム『Circles』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第16位:この時代にこのフローで勝負するコンウェイ・ザ・マシーンのアルバム『From King To A GOD』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第15位:現代の米HIP-HOP界に革命を引き起こし始めていた中で亡くなったポップ・スモーク(Pop Smoke)の名作『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第14位:CHIKAというの名のラッパーによる本年リリースされた『Industry Games』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第13位:道に迷った時に聴くべきNasのアルバム『King’s Disease』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第12位:Big Seanのアルバム『Detroit 2』より2020年イチのフリースタイル曲「Friday Night Cypher」(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第11位:ブラック・ムスリムとして多彩なる宗教心を反映させた特異なアルバム『A Written Testimony』をリリースしたJay Electronica (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第10位:隔離(Quarantine)期間中でのカニエ・ウェスト率いる“Sunday Service Choir” (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第9位:2020年米XXL誌フレッシュマン・サイファー(ラップ・フリースタイル)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第8位:コロナ禍であるため,自宅から配信されたNPR主催“Tiny Desk (Home) Concert” (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第7位:今となってはHip-Hop及びR&Bアーティスト対決の鉄板の「場」となった“Verzuz Battle” (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第6位:Run the Jewelsが2020年にリリースしたアルバム『RTJ4』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第5位:NETFLIXラップ・バトル番組『リズム+フロー』で優勝したD・スモーク (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第4位:コロナ禍からBLM運動まで (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第3位:米BETテレビ局で放送された番組『ラフ・ライダーズ・クロニクル』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第2位:Freddie Gibbs + Alchemistのコラボ作『Alfredo』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第1位に行く前に,2020年リリースされた特別な楽曲について。

第1位:2020年冒頭から終盤まで,いやいや,いまだに終わらないMegan Thee Stallionの活躍ぶり! (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第1位のおまけ:メーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)の魅力,続く。

(文責及びキュレーティング:Jun Nishihara)

第1位のおまけ:メーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)の魅力,続く。

Megan Thee Stallion(メーガン・ジー・スタリオン)の活躍ぶりは2021年になっても止まりません。新年早々,2021年1月15日にはアリアナ・グランデ(Ariana Grande)の楽曲「34+35」に,ドジャ・キャット(Doja Cat)及びメーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)を迎えて,リミックスがリリースされました。

Ariana Grande feat. Doja Cat & Megan Thee Stallion

ちなみに,2020年2月(コロナ禍前)に米Rolling Stone社で撮影された,これも女子3人の「The First Time」ショウです。ここでの3人は,Megan Thee Stallion(メーガン),SZA(シザ)とNormani(ノーマニ)です。

この3人を見ていると,それぞれに違ったキャラが上手く映し出されています。SZAのリラックスした感じはまさにダンサーっぽい(これこそがSZAっぽい)です。でもSZAは1990年生まれで,メーガンは1995年生まれなので,SZAが一番年上なんですけれどね。なぜかメーガンが一番の姉キャラのように見えますが。Normaniは1996年生まれで,一番の妹キャラです。

米VOGUE雑誌で撮影された「24 Hours with Megan Thee Stallion」も掲載しておきます。

まぁこれを見ていても,一番の姐御(あねご)キャラっていうのが分かります。

最後にメーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)が最も大事にしている相棒(4oe(読み方はフォゥ))を抱いた画を掲載して終わります。

(文責:Jun Nishihara)

第1位:2020年冒頭から終盤まで,いやいや,いまだに終わらないMegan Thee Stallionの活躍ぶり! (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年の第1位は,Megan Thee Stallion(メーガン・ジー・スタリオン)です。

実は,昨年2019年も第1位をMegan Thee Stallionに選びました。すでに彼女は2019年にかなり活躍し始めておりましたが,その時点でメーガンのことを知っている人々はまだまだヒップホップ界のみ。それが2020年になり,全米各地で老若男女,お茶の間に知られる名前となりました。

全米に知られることになる火付け役となったキッカケはビヨンセ(Beyonce)とのコラボレーション楽曲「Savage (Remix)」でした。

これで,全米各地のまさに老若男女が,TikTokやインスタ,ツイッター等のSNS上でそれぞれにダンスをした動画をアップしました。

2020年前半のちょっとした社会現象ともなりました。

その後,2020年6月28日開催の米BETのアワード・ショウで,Megan Thee Stallionがマスクをするバックダンサー達とともにパフォーマンスを披露しました。

これはメーガン自身がまわりのダンサー達のことをちゃんと気遣っていたパフォーマンスであったと,ファンや批評家達からも評価が高かったものでした。

その後,メーガンはあらゆる雑誌の表紙(カバー)を飾ることになります。

まずは米TIME誌の「The 100 Most Influential People」で,大坂なおみ選手らとともにその一人として取り上げられ,表紙を飾りました。続いて2020年5月号の米ファッション雑誌であるマリ・クレール(Marie Claire)の表紙を飾り,そして2020年12月/2021年1月号の米GQ雑誌で「今年最高のラッパー(Rapper of the Year)」としてカバーを飾りました。その他にも米ローリング・ストーン(The Rolling Stone)誌の表紙,米国で最も洗練された芸能雑誌であるVarietyの表紙,イギリス(英国)の音楽雑誌であるNMEの表紙,そして米FADER誌の表紙。その他にも,まだまだあります。下記に掲載しておきます。

1. 米TIME誌

2. 米GQ誌

3. 米Marie Claire誌

4. 米The Rolling Stone誌

5. 米VARIETY誌

6. 英NME誌

7. 米FADER誌

8. The New York Times Magazine

9. i-D(米ファッション・スタイル雑誌)

10. 米Harper’s Bazaar誌(2021年2月/3月号)

11. 米PAPER誌

2020年,最も多くの雑誌表紙を飾ったヒップホップ・アーティストとしての活躍ぶりがこれだけでも明らかです。

しかしながら,メーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)の2020年の活躍ぶりは,これだけではありませんでした。

米ビルボード・チャートで複数週に亘って第1位に君臨し続けたCardi Bとのコラボレーション曲「WAP (=Wet Ass Pussy)」での活躍もありました。

2020年3月にアルバム『Suga』をリリースし,同年11月にアルバム『Good News』をリリース。1年に2枚もニューアルバムをリリースするという,ヒップホップ・アーティストとしては非常にめずらしい快挙を成し遂げました。

その間に,グラミー賞では「Best New Artist(今年最高の新人アーティスト)」としてノミネートされ,ビヨンセとの「Savage (Remix)」で「Record of the Year(今年最高の楽曲)」としてノミネートされました。

2020年の「People’s Choice Awards(人々が選ぶアワード・ショウ)」では,ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)と同じ8つの部門でノミネートされ,同年の「American Music Awards」では,ロディー・リッチやザ・ウィークエンドに続いてノミネート数が最も多いラップ・アーティストとしてノミネートされました。

コロナ禍における活躍したアーティストとして,メーガン(Megan Thee Stallion)は,「Bread of Life」という非営利団体に,シングル曲「Savage」の売り上げを寄付することに回し,10月のSaturday Night Liveでは全米で広がっている人種差別に関しての歌詞を新しく楽曲「Savage」に充て,披露しました。

2020年11月には,メーガンは全国黒人女性のicon(代表的存在)として米新聞ニューヨーク・タイムズ紙(The New York Times)に論説(コチラ)を発表しました。

昨年2019年に最も活躍した女性,否,女性とか男性とかカンケーなくのヒップホップ・アーティストとして,この場で発表しましたが,2020年はメーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)にとって,さらなる飛躍の年でありました。現に,上記,これだけ(これ以上に)活躍したのでありました。

さて,最後に,2年前にL.A. Leakersのラジオ局で発表されたメーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)によるフリースタイルを掲載いたします。

2020年も第30位から第1位までお付き合いいただきまして,ありがとうございました。ちなみに,メーガンが11月にリリースした『Good News』の冒頭楽曲は,ビギー(The Notorious B.I.G.)の「Who Shot Ya?」をサンプリングしております。

もうひとつ,「ちなみに」関連で,同アルバムより楽曲2「Circles」のおおもとのネタはJazmine Sullivanの名曲「Holding You Down (Goin’ In Circles)」です。

(文責:Jun Nishihara)

第1位に行く前に,2020年リリースされた特別な楽曲について。

「生きることよりも,さらにもっと魂の奥底から自分を衝き動かしてくれるもの,自分をドライブしてくれるものがある」というのを数年前に友人から聞いた。

これは僕にとって衝撃的な言葉だった。なぜなら「生きる」ことが人間が最も大事にすべきことであると思っていたからだ。人間にとっての根源には「生きる」ということがあると思っていた。しかしその友人は「生きることよりも,さらにもっと魂の奥底から湧き上がってくるもの」があるのだと言った。

それは「凄い」と思うことや「素晴らしい」と感じることよりも,さらに速く(そんなことを思う前に)自分に取り憑き,時にそれは涙として表現されるものである,と。

芸術的に「凄い」とか,言葉でそれが「なぜ素晴らしいか」と人に向けて説明しようとする時間でいうとほんの一瞬の「前に」,(何かを表現しようとする一瞬の「前に」先に),魂の奥底から湧き上がってくる。何かを思う・感じる前に,湧き上がってくる。

ここでいうと,第2位まではその思う・感じるという「後」の話であった。
しかしながら,この第1位は,その「前」にあるもの(生きることよりもさらにもっと「根源」を為すもの)の話である。

それが,ドレイク(Drake)が2020年3月1日(ミュージックビデオはその一瞬前,2020年2月29日(閏年!))にリリースした「When To Say When」であった。

Drake – “When To Say When / Chicago Freestyle”

この楽曲がリリースされた5ヶ月後,(コロナ禍の中),僕はNYに着いた。
この楽曲がなければNYに来ていなかったと思った。

つまりその友人の言ったように,自分が意識する「以前」に,それにドライブされた,ということであるのかもしれない。

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しかしながらですよ,2020年,最も活躍したヒップホップ・アーティストは他にもいました。楽曲に限らず,全般的に活躍したアーティストとして,次回,第1位で取り上げます。

(文責:Jun Nishihara)

第2位:Freddie Gibbs + Alchemistのコラボ作『Alfredo』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年は偉大なるアルバムが数々リリースされましたが,その中でもフレディ・ギブス(Freddie Gibbs)及びアルケミスト(Alchemist)がタッグを組んで作り上げた作品『Alfredo』は現代HIP-HOPにおいて,極めて重要な意味を持つアルバムとして挙げられることとなりました。2020年5月にリリースされてから,あらゆるレビューサイトで非常に高い評価を得ておりますし,また,本年グラミー賞でもラップ・アルバム最高の栄光と呼ばれる「Best Rap Album」部門にノミネートされました(これを書いている時点では,賞を取ったかどうかはまだ発表されておりません。)。

アルバムカバーは以下のとおりです。

このアルバムの特徴は,フレディのハングリーでダークなラップ・スタイルと,アルケミストのソウルフルでソフトなビートです。この「暗さ」と「柔らかさ」という比較の対象にもならないような二つの要素が掛け合わさって,一枚の作品(これこそが「作品」)となっております。ようやく「ミックステープ」ではないクオリティのアルバム(作品と呼べるもの)をラッパーが世に送り出してくれました。

フレディのラップ(特にフリースタイル)の迫力と凄まじさについては2019年にこちらのページで紹介しました。右腕に抱えている子どもはまだ小さいのにパパの迫力あるフリースタイルを聴いていてもビクともしないですね。慣れてるんでしょう。こんなことを家でずっとやっているんでしょう。

このラップやり出したら止まらんスタイルは,前にも書きましたが,どうしても私はTupac(トゥパック)を思い出してしまいます。これはただもんじゃ無いってことを感じさせます。

まぁそんなフレディがですよ,ソウルフルなサンプリングを器用に扱うことで有名なアルケミスト(Alchemist)とタッグを組んで,全曲ビートをそのAlchemistに任せてアルバムにしたっていう贅沢な作品を作ったのです。

アルケミストが制作した2004年のこのビートは,16年経った今も強烈に記憶に脳裏に焼き付いて,それだけインパクトあるビートを彼は作ってきたのだと,気付かされました。(優れたプロデューサーは,それぞれ自分の“signature sound”(独特の音)というものを持っており,アルケミストに関しては,その中でもこの分野に関しては秀でています。)

さて,今作アルバム『Alfredo』から2曲,以下のとおり掲載しておきます。

1曲目はDavid T. Walkerの「On Love」をサンプリングした楽曲「Something to Rap About」です。

2曲目はRick Rossをfeat.した楽曲「Scottie Beam」です。

最後に2020年8月にリリースされた次の曲(アルバム『Alfredo』には収録されておりません)も掲載しておきます。

(文責:Jun Nishihara)

第3位:米BETテレビ局で放送された番組『ラフ・ライダーズ・クロニクル』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

これは2020年7月頃から米国ブラック・エンターテインメント・TV(BET)で放送された番組です。公式HPについてはこちらからどうぞ。

これは当時(90年代〜2000年代前半にかけて),米国イチのHIP-HOPストリートレーベルであったラフ・ライダーズ(Ruff Ryders)に関する歴史(chronicles)を紐解いた番組です。

同時期にジェイ・Z(JAY-Z)はデイム・ダッシュ(Dame Dash)やカリーム・ビッグズ・バーク(Kareem “Biggs” Burk)と組んでロッカフェラ・レコーズ(Roc-A-Fella Records)を立ち上げていた頃で,西側では既にスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)やドクター・ドレー(Dr. Dre)らがデス・ロウ・レコーズ(Death Row Records)で活躍していた頃でした。

つまり,これらのレーベルは「ヒップホップの黄金期」と呼ばれる時代を生きたヒップホップ・アーティストたちの「居場所」を作ってくれたレーベルだったのです。その中でも「極めてストリート」と呼ばれたラフ・ライダーズ(Ruff Ryders)についてその初期の頃,つまり黎明期(創立される少し前)からさかのぼって,その歴史を紐解いております。

Ruff Rydersの歴史を紐解くことにより,ヒップホップの歴史そのもののかなりダークで“なつかしい”部分がうまい具合にえぐり出されています。

もちろんインターネット・ラッパーなんて皆無の時代です。
最近は若手ラッパーが登場しては,いつの間にかどこかへ消えていく「インスタント・ラーメン」のような消費のされ方をしている時代ですが(ネットさえ使えれば,誰にでもチャンスは回ってくるという良い面と,消費のされ方があまりにも儚すぎるという悲しい面の両方を合わせ持ちますね)とは,一味違った「濃さ」(当時はそんなのを“ゴテゴテのヒップホップ”と呼んでいたりしました)を味わうことができる番組です。

ハナシの始まりは,今でこそアリシア・キーズ歌姫と結婚したことで有名になったスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)ですが,当時はずっと裏方の人間だったこのスウィズ・ビーツという男の伯父と伯母の話からスタートします。

伯父は,ワー・ディーン(Waah Dean)とディー・ディーン(Dee Dean),そして伯母はシヴォン・ディーン(Chivon Dean)です。この3人がラフ・ライダーズの黎明期のキーを握る人物。たま〜に,スウィズがTVに登場する際に,その側に一緒に映っていたりします。あの物静かそうなキャラです。

それから,ラフ・ライダーズ・レーベルのファースト・レディーであるイヴ(EVE)は今でこそ米・女優としてあらゆる映画やドラマで活躍中ですが,大元は,ここラフ・ライダーズ出身の女子ラッパーでした。つまり,ニッキー・ミナージュやカーディ・Bの大ダイダイ先輩なのですよ。

それからブロンクスをぶいぶい言わせたザ・ロックス(The LOX)を知っていますか?ヤツらも登場します。

ここで1曲,聴いてみましょう。「Ruff Ryders Anthem」その名のとおり「アンセム」です。

Ruff Rydersの代名詞とも言われるこの曲は,私が2002年NYのスタテン・アイランド(Staten Island)にいたころ,道端で黒人の若者らが(iPhoneの無い時代),通り過ぎるクルマでガンガン鳴り響くこの曲のビートに合わせて,大声でラップしてたのを覚えています。それから18年,19年経ちましたが(信じられん!),いまだにこの曲ほどのヒップホップ・クラシックと呼べる曲は最近生まれたのかどうか不明。

ビートとともにくりかえし繰り出す「What!」は獰猛犬が吠えているように聞こえます。「STOP!」とくれば「DROP!」と返す。その後は「SHUT EM DOWN, OPEN UP SHOP!」。

それから,こちらもどうぞ。2000年4月にリリースされたアルバム『Ryde Or Die Vol.II』より楽曲「Ryde Or Die Boyz」です。

スタイルズ・P(もラフ・ライダーズ出身)が大好きなそこのあなた,次の2曲,こちらもどうぞ。懐メロです。

1. Styles P – “Good Times (I Get High)”
2. Styles P – “Holiday”

東海岸,なかでもNYのゴテゴテのヒップホップが大好きだった連中にとっちゃたまらん曲の数々を,Ruff Rydersは生み出してくれました。その感謝とともに第3位という称号をお送りします。

(文責:Jun Nishihara)

第4位:コロナ禍からBLM運動まで (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年を振り返ってみると様々な社会的問題/事件が起こりました。

「コロナ禍」による「NYでのパンデミック」,その影響を受けた「自主隔離」や「ヴァーチャル〇〇(コンサートや会議やコール)」,そして世界中に広がる働き方改革「テレワーク」。そして,2012年2月に発生した白人警察によるトレイヴォン・マーティン(Trayvon Martin)殺害に端を発する「BLM運動」,これが2020年に発生したジョージ・フロイド(George Floyd)事件で全米にその運動が広がった「Black Lives Matter運動」。加えて,中国と米国の対立により影響を受けた「TikTok禁止令」。そして,それら全てを包括するかのようにトランプ元大統領とバイデン現大統領による一連のディベートの末に繰り広げられた「米大統領選挙」。

2020年はこれまでにない歴史的な年となったと同時に,それらの出来事に,Hip-Hopも無縁ではありませんでした。むしろ,Hip-Hopはその中でも最も影響を受けた(与えた)音楽の一つの体系ではなかったでしょうか。なぜならHip-Hopではそれら社会問題を題材に取り扱った楽曲は多く発表されたからです。それらの楽曲の中から,2020年を象徴する楽曲として,5曲,取り上げておきます。

Noname – 「Song 33』

Lil Baby – 「Bigger Picture」

H.E.R. – 「I Can’t Breathe」

MIKE EVENN – 「Cold Summer Remix (#ColdSummerChallenge)」

ここから,2020年のおさらいは全てアンクル・マーダー(Uncle Murda)におまかせするとして,14分のノンストップ・ラップをご堪能あれ。コロナ禍の後に期待される「ニューノーマル(The New Normal)」。それについてもマーダーおじさんは語ります。

Uncle Murda – 「Rap Up 2020」

(キュレーティング:Jun Nishihara)

第5位:NETFLIXラップ・バトル番組『リズム+フロー』で優勝したD・スモーク (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年といえば,NETFLIXで放映された『リズム+フロー』というラップ・バトル番組無しには語れません。エピソード1,2を観た感じでは,レベル低いと思い,初めは期待もしていなかったのですが,これが,すごいことになっていきます。注目すべきはもちろん,それぞれに全く異なる個性を持つラッパーたちですが,番組が進んでいく中,投じる予算も増えていくのがもう明らかに分かります。いろいろな仕掛けが為され,超大物プロデューサーやアーティストと楽曲を作成したり,ブースでスピットしたり,ミュージックビデオを製作したり(製作舞台裏もたっぷり見せたり),まぁそういうことをして,それそのものが一つ一つの勝負となり,その勝負に負けたヤツが一人ずつ番組から落とされていく,というリアリティ・ショーです。

そして,そのラップ・バトルで大活躍を果たしたD・スモーク(D Smoke)が2020年にアルバム『Black Habits』をリリースしました。BLM(Black Lives Matter)ムーヴメントがここまで取り上げられた2020年の象徴となるようなアルバムです。

同アルバムから2曲以下のとおり掲載しておきます。

D Smoke – 「Black Habits 1」

D・スモークは上記楽曲でこう言います。

Every time they hear this, they gon’ say he made an anthem
Life ain’t a panda
Shit ain’t black and white, it’s a canvas
Spike Lee your dreams and Bruce Lee your tantrums

この曲を流す度,皆は言うだろう「これがアンセムだ」
人生はパンダじゃねえ
黒白分けられるモンじゃねえ,人生はカンヴァスだ
スパイク・リーだと思って夢を叶え,ブルース・リーだと思って癇癪起こせ

D Smoke – 「Sunkissed Child」feat. Jill Scott & Iguocho

なお,コロナ禍により,米NPR局が主催する「Tiny Desk (Home) Concert」にも参加しましたので,以下掲載しておきます。

(対訳・キュレーティング:Jun Nishihara)

第6位:Run the Jewelsが2020年にリリースしたアルバム『RTJ4』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

まずはこのアルバム『RTJ4』を聴いてみなはれ。
ハマります。

これはそれぞれの曲をかいつまんで別々に聴くのではなく(勿論それでも面白いでしょうが),ここは一つ,アルバムを1つの作品を考え,「通し」で聴いてみてください。

と言いつつ,アルバムから2曲,あえて,あまり目立たない曲を以下に掲載しておきます。

楽曲7「JU$T」

楽曲3「out of sight」

ハマりました?
私はハマったので,2020年リリースされた素晴らしきアルバムのトップ5(そして2020年の総まとめトップ6)として,ヘヴィ・ローテー...ショーン!

(キュレーティング&文責:Jun Nishihara)

第7位:今となってはHip-Hop及びR&Bアーティスト対決の鉄板の「場」となった“Verzuz Battle” (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年3月24日,新型コロナウイルス感染拡大により発動されたパンデミックの最中に誕生した,米Hip-Hop及びR&B界に新しい「場」(=遊び場,広場,空き地,ラウンジ,セッション,空間,瞬間,時間)を提供してくれることとなった“Verzuz Battle”。

ここでは,ヒップホップアーティストに限らずR&Bアーティストまでもが,1対1の対決を繰り広げます。

もともとは2017年に大御所プロデューサーであるティンバランド(Timbaland)とスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)がプロデューサー対決をしたことがその事の発端となります。

実はこのプロデューサー対決というのは,それよりも前に,Swizz BeatzがJust Blazeを相手に対決したHot97 LIVEが大元のきっかけとなります。

それは私も生で観ておりましたが,非常に面白い対決で,どんどん出てくる出てくる,ヒット曲の数々が。SwizzとJust Blazeがどれだけヒット曲を飛ばしてきたか,というのが,一目瞭然で分かります。

そして,そういった対決の「場」を定期的に提供してくれるスポンサーとして,Apple TVが手を挙げてくれました。そしてその「場」の名前が“Verzuz TV”となりました。

2020年3月に番組がスタートしてから,これまで23組が対決してきました。そしてこの23組が対決していく中で,音楽だけでなく,音楽以外の面でも,本当にいろいろなドラマが繰り広げられてきました。相手は時間に几帳面な日本人ではなく「なんでもアリなことがまかり通る」アメリカ人です。そしてその「ドラマ」がまたエンタメ・ニュースになり報道されて,それがまたこの番組に想定外の「面白味」を加えていくこととなり,視聴者はどんどん増えていく。そして,それに加えて,まさに,時代の申し子とでもいわんばかりに,アメリカ中,コロナ禍で自宅隔離が人々が多い中,ヴァーチャルで配信するのにもってこいの提供方法とでもいえる形にぴったり嵌まった。まさにこのコロナ禍に適応「できた」非常にタイミングが良い「場の提供方法」だったのです。それが“Verzuz Battle”の特徴(特長)でした。

先般,Rick Ross vs. 2 Chainzは当ページで紹介したところですが,以下に数組を掲載しておきます。

Erykah Badu vs. Jill Scott (2020年5月9日開催)

Alicia Keys vs. John Legend (2020年6月19日開催)

Snoop Dogg vs. DMX (2020年7月22日開催)

Fabolous vs. Jadakiss (2020年7月30日開催)

↑このファボラスとジェイダキスの対決は,ちゃんと最後まで観て,どれだけのヒップホップ・クラシックスを彼らが作ってきたかを勉強すべし!対決中盤から,最重要レコードが出てきます。あと,ちょっと余談ですが,ファボラスの「Niceeeeeee」のキャッチフレーズ,覚えてますか?その「おおもと」となった曲も出てきます。しかしそれは2010年の頃のこと。まだコイツらにとっちゃまだまだ「最近」のハナシ。ほんとうは,さらにもっともっとさかのぼります。パフ・ダディ(Puff Daddy aka P.Diddy aka Diddy)が1997年にBad Boy Recordsから出した「It’s All About the Benjamins」という曲(これこそヒップホップ・クラシックス!)をジェイダキスがタイムライン(@1:02:00)でやります。あと,まぁ,2003年に出したファボラスfeat.アシャンティの「Into You」。あと,ビギー(The Notorious B.I.G.)の曲をやるのは,もう卑怯(これ出したら負けないワケがない!)なのですが,ジェイダキスは「Victory」を出そうとします(タイムライン(@45:09))。あと,タイムライン@49:50で2パックのサンプリングを回しフリースタイルやるファボラスを聴くと「フロー」に関してはファボラスの右に出るものはそうそういない,と感じます。この独特の「フロー」はファボラスにしかできないものです。

Brandy vs. Monica (2020年8月31日開催)

Jeezy vs. Gucci Mane (2020年11月19日開催)

Ashanti vs. Keyshia Cole (2021年1月21日開催)

(キュレーティング&文責:Jun Nishihara)