第33位:Big K.R.I.T.のニューアルバム『K.R.I.T. Iz Here』(今年出たHip-Hop名曲名場面ベスト50)

ビッグ・クリット(Big K.R.I.T.)というアーティストは安定してアルバムをリリースしてきております。日本での認知度はまだ低いのかもしれませんが,アメリカ南部,とりわけミシシッピ州では彼を知らないラップファンはいないほど有名,人気者です。彼の有名なリリックに以下があります。

King city, king, king city
Third coast representer, Mississippi-ssippi-land
Three hundred, three hundred, my stomping ground
Three hundred, three hundred, my stomping ground
Three hundred, three hundred, my stomping ground
King city, M-town, hometown hero

キングの街,キング,キングの街
第3の海岸をレペゼン,そこはミシシッピ,ミシシッピの地
300,300,そこが俺のたまり場
300,300,そこが俺のたまり場
300,300,そこが俺のたまり場
キングの街,Mで始まる地,地元のヒーロー

「キングの街」というのはキング牧師を示唆し,「第3の海岸」というのは,東海岸でもなく西海岸でもないというところ。数字の「300」はビッグ・クリットが育ったミシシッピ州メリディアン市の30アベニュー,そこを俗語で「スリーハンドレッド(300)」と呼んでいます。

彼に希望を見るところは,「田舎者でもここまでやっていけるんだ」という共感する思いです。ミシシッピ州のメリディアンというわずか4万人足らずの人口密度の街で生まれ育ちました。じぶんを田舎者(country boy)と呼び,時に名曲「Hometown Hero」をリリースし(2010年),南部のMCやラッパーたちから根強い支持を受けてきました。

そういう素晴らしき南部ラッパーが今年リリースしたアルバムが『K.R.I.T. Iz Here』。東京に似合わないラップアルバムです。もしあなたが田舎出身でラップ好きであるならば,聴いてみる価値は必ずあります。決して,大都会に依ることなく,東海岸や西海岸のヒップホップに染まることもなく,デビューしてすでに14年,ここまでやってきました。

今年リリースしたアツいシングル曲,ここに掲載しておきます。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る⑨:TRINA & ニッキー Minaj ⇆ Big Tymers, ジュヴィナイル&リル・ウェイン

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元祖“Baddest Bitch(最高にワルな女)”こと,トリーナ(Trina)がまたもやヒットを飛ばしてくれました。最近のCity GirlsやSaweetieのおおもとを創ってくれた元祖女神=トリーナは,マイアミ出身の女性ラッパーです。以前,当サイトでも取り上げました。

トリーナのニックネームである“Baddest”という語彙は,本来は存在しません。形容詞“bad”の最上級は“worst”ですから。しかしながら,むかしから黒人の間で(といいますか,黒人は),“bad”に「良い」意味合いを持たせて使ってきました。文字を禁じられた人々(=黒人)は,白人が通常「悪い」意味で使ってきた言葉や定義をflipして(くつがえして)使うことにより反抗心を表現してきました。

男子ラッパーもファンの我々も,トリーナのことを“Baddest”という愛称で呼び,「最高にワル」というニュアンスを持たせることにより「ひじょうに素晴らしい」という隠れた意味で彼女の存在を表象してきました。「最高にワルくて,最高にステキな」トリーナ(Trina)が,先般新曲を発表してくれたことは,本当に嬉しいことでございます。

早速,聴いてみてください。
Trina feat. Nicki Minaj – “BAPS”
トリーナ feat. ニッキー・ミナージュ「BAPS」です。

この楽曲の元ネタは,2000年頃にはすでにヒップホップを聴いていた方なら一発でわかるはず。「プロジェクト・チック!やないか!」と。

Big TymersやJuvenile,そしてLil Wayne。ノーリンズことニューオーリンズ出身のキャッシュ・マネー軍団。トリーナと同じくサウス出身。「サウスつながり」で,トリーナ所属のSlip-N-Slide軍団とリル・ウェイン所属のCash Money軍団は,昔から親しい付き合いでやってきました。

ビッグ・タイマーズ率いるジュヴィナイル&リル・ウェインの名曲「Project Bitch」は2000年にリリースされました。当時,リル・ウェインはまだ年齢18歳。いまでこそ「大御所」として呼ばれるまでに昇りつめたリル・ウェインですが,まだこの頃は10代後半の青年でした。以下のビデオを観てもらうとわかるかもしれませんが,シャツをまくり上げて着る仕草とかは,もう2000年頃流行った完全「サグ・ファッション」ですね。中西部ラッパー=セントルイス出身のネリー(Nelly)やアトランタ出身のリュダクリス(Ludacris)もまさにこの頃デビューしたてでしたけれど,シャツをまくり上げて,ゲットーやビーチで女子まじえて遊びまくっている光景がPVに流れたりして,いや〜,いい時代でした。

さて,その元祖,オリジナルPVがこちらです。姉御トリーナと,妹のニッキーは,以下の楽曲を元ネタに起用しております。

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ歌詞引用解説:“サウスのおもてなし” by Ludacrisの場合

2000年10月17日にリリースされた名作『Back for the First Time』は,アメリカ南部のジョージア州アトランタ出身=リュダクリス(Ludacris)のセカンド・アルバムです。

リュダクリスといえば,巨大なアフロにコミカルな表情して,南部(サウス)訛りの英語でラップする,当時の若者に大人気を博したラッパーです。

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2000年代初期に,ゆっくりと「サウスのラップ」が若者の認知を集めてきました。当時,ニューヨークのラップは「カタすぎる」「マジメすぎる」「リリカルすぎる」っていうんで,リリック(歌詞)よりも,リズムや音,ビートに乗せた「ノリのいい」ラップをより重要視する「サウスのラップ」が若者のあいだで人気となりました。全米ハイスクールの白人までが,黒人のマネして,ラップするのが流行ったのは,こういう「ノリのいい」ラップがきっかけとなりました。「ニューヨークや東海岸のラップは古い。そんなのはオトナが聴くようなラップで,若者が聴くラップはサウスだ」と,小生が通ったアメリカのハイスクールのクラスメートは言っていました。こうして,サウスの時代が到来しました。ヒップホップがサウスに傾き始めたのが,2000年代初期でした。

その「サウス時代」のまさに先駆け(先頭)をいっていたのが,リュダクリスです。「サウスのラップ」がメインストリームとなることに当時最も貢献していたのがリュダクリスです。リュダクリスがきっかけで,サウスのラップが若者に認知され,人気となり,ついにメインストリームとなるに至りました。リュダクリスのおかげで,こうしてゆっくりとサウスのラップがグツグツと沸き出はじめていた頃,2002年後半にサウスのラッパーT.I.が出てきました。2002年にT.I.を知る者はまだ南部にいる黒人/若者だけで,ニューヨークやL.A.等の東西ヒップホップを聴いている人間は,ほぼ,まだT.I.を認知していませんでした。

同時にリル・ウェイン(Lil Wayne)というラッパーが当時,南部から出てきました。しかし,まだ白人はリル・ウェインを上手く理解できていなかったようです。白人に理解できなければ,まだ,メインストリームにはなり得なかった時代です。その点,リュダクリスのラップはわかりやすく,おもしろく,ギャグ豊富,下ネタ豊富,ノリがいい,ということで,白人にもウケが良かったのです。

ということで,白人のあいだでも「ノリのいいサウスのラップ」を馴染みなものにさせたのが,リュダクリスということでした。南部特有の訛りでラップするアーティストたちは,自分たちのことを「こぎたない南部ラッパー(dirty south rappers)」と,愛情を込めて呼んでいました。リュダクリスももちろんその1人でした。

そのリュダクリスのアルバム『Back for the First Time』から,ファレル・ウィリアムス率いるプロダクション軍団=The Neptunesプロデュースの2002年作品「Southern Hospitality(サウスのおもてなし)」の歌詞を引用します。

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Dirty South mind blowing Dirty South bread
Catfish fried up, Dirty South fed
Sleep in a cot’-picking Dirty South bed
Dirty South gurrls give me Dirty South head
Hand-me-down flip-flops, hand-me-down socks
Hand-me-down drug dealers hand me down rocks
Hand me down a 50-pack Swisher Sweets box
And goodfella rich niggas hand me down stocks
Mouth full of platinum, mouth full of gold
40-Glock cal’ keep your mouth on hold
Lie through your teeth, you could find your mouth cold
And rip out your tongue cause of what your mouth told
Sweat for the lemonade, sweat for the tea
Sweat from the hot sauce, sweat from the D
And you can sweat from a burn in the 3rd degree
And if you sweat in your sleep, then you sweat from me

きったねえサウスで,エゲつない額のギャラ,ゲットして
ナマズのフライ料理,一丁アガり! おまえの口も,きたねえサウス慣れ
綿摘み,奴隷のサウスで,泥だらけのベッドに横たわり
サウスの田舎オンナが,ヤらしいフェラ,してくれる
おさがりのサンダル,おさがりのソックス
おさがりの麻薬取引,おさがりのコカイン
50本入りのシガーボックス,こっちへ寄こせ
リッチな連中,グッドフェラ・マフィア,おさがりの株儲け
歯ぐきにプラチナ,詰め物ゴールド
40口径のグロック銃で,おまえの口,ぽっかりあいて
嘘ばっか言ってっと,おまえの口,凍らせちゃう
嘘ばっか言ってっと,おまえのベロ,引き抜いちゃう
汗掻いたあとのレモネード,汗掻いたあとのアイスティー
汗だく,激辛ソース,汗だく,俺のアソコ
拷問ヤケドで冷や汗かいて
汗だくの夜,俺と,ひとばんじゅー
(訳:Jun Nishihara)

まさに南部(サウス)を上手くレペゼンしてくれている歌詞です。南部ゆかりの産物が,ぞくぞく出てきます。以下のとおりです。

◎「ナマズのフライ料理」は,南部ニューオーリンズで名物の料理です。「ナマズ専門店」もいくつかあります。「ニューオーリンズのナマズ料理店トップ5」は,以下で紹介されていますので,興味のある方はどうぞ。https://www.nola.com/dining/index.ssf/2017/04/top_5_fried_catfish_makers_in.html

◎「綿摘み」は,差別用語です。奴隷制度の時代,南部農園で奴隷は綿を摘まされていました。差別用語ですが,リュダクリスはここでおおっぴろげにラップして,それを笑い話にしています。

◎「歯ぐきにプラチナ」,これはラッパーが口の中に入れるグリルです。ダイヤモンドや金メッキのグリルをハメて,口を横に広げて,見せびらかし(show off)します。もともとはサウスで広がり,いまは古今東西関係なく,好きなラッパーは自分の口にグリルをハメます。(「南部ラップ学」の参考に,リル・フリップをググってみてください。)

◎「汗だく,激辛ソース」,これは黒人ソウルフードの大切な薬味です。既出のナマズ料理もソウルフードですが,激辛ソース(hot sauce)を料理にかけるのがソウルフードのミソのひとつです。

このようにサウスに関係する用語をふんだんに取り入れたラップを披露してくれるのがリュダクリスです。YouTube等で,同曲のミュージックビデオをご覧になられると感じると思いますが,ニューヨークのラップとは違って,ビートに乗せてラップをするスタイルは,南部特有です。その南部ラップを全米に広めるキッカケを作った大切なラッパーとして,リュダクリスを覚えておいてください。

当時リュダクリスを聴いていた若者たちは,いまは立派なオトナになり,マジメに仕事して働いています。同曲が流行ったのはもう18年前の話ですが,いまだにリュダクリスのラップは健全ですし,いま聴いても全く古さを感じさせないこの曲「Southern Hospitality」は名曲でございます。

(文責:Jun Nishihara)