JAY ELECTRONICAのアルバム『A Written Testimony』楽曲③「The Blinding」(独断偏見ライナーノーツ)

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収録楽曲③「The Blinding」

フィーチャリング・アーティストとして現代ヒップホップ界を先導(仙道?)するトラヴィス・スコット(Travis Scott)参戦。プロデューサー陣は,ジー・ライ(G. Ry),エイラーブ・ミュージック(AraabMUZIK),ヒット・ボーイ(Hit-Boy),そしてビートプロデューシング名人=スウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)センセー。なんと豪華な。ヒット間違いナシ。

冒頭からアラビア語が飛び出します。もうスローダウン,メーン!

Kayfa ḥal-uk? Kayfa ḥal-uk, habibi?
(調子,どうや?元気に,やってっか?)

この曲では,ヒップホップの伝統芸=マイクリレー(mic relay)が行われます。

ジェイとジェイ,つまり,ジェイ・エレクトロニカとジェイZのマイクリレーです。
ヴァース1でもジェイ・エレクトロのリリックと,ジェイZのリリックが交差します。

It’s the return of the Mahdi, it’s the return of the Akhis
It’s the return of the lost and found tribe of Shabazz, the Annunakis
It’s the return of Mr. Shakur spittin’ out phlegm at paparazzi
That’s my new style

マーディがお戻りになった,アーキーがお戻りになった
シャバズの見失われた部族,つまりアヌナーキーがお戻りになった
パパラッチ向けツバを吐きまくるシャクール(=2パック)がお戻りだ
それが俺の新しいスタイル

マーディというのはイスラームの先導師,アーキーとはムスリムの間での兄弟関係を意味し,
シャバズとはアフリカの内陸部へ黒人を導いた部族の長,
アヌナーキーとは,シュメール神話に登場する神々のこと。
シャクールとはご存知,2パックの本名(=トゥパック・アマル・シャクール)。

さて,曲の途中でビートを一変させる技については,このページで説明しました

まさにこの技を得意とするトラヴィス・スコット(Travis Scott)の登場です。エンジニアリング・ミクスチャーはヒップホップ界の大ベテランでありロッカフェラ時代からジェイZの盟友である=ヤング・グールー(Young Guru)が担当。

Blinding (Hit-Boy)
Blinded by the light
See the stars and our sun

目がくらむ(ヒット・ボーイ)
光がまばゆくて,目がくらむ
見えるか,スターたちとあの太陽が

そして,ヴァース2ではジェイ・エレクトロニカが内省的(introspected)なラップを試みます。

When I lay down in my bed it’s like my head in the vice
When I look inside the mirror all I see is flaws
When I look inside the mirror all I see is Mars
In the wee hours of night, tryna squeeze out bars
Bismillah, just so y’all could pick me apart?

夜中,床(トコ)につき,悪徳にアタマをうずめる
鏡を見れば,映るのは俺の欠点ばっか
鏡を見れば,映るのは娘(マーズ)の姿
夜が開けようとする早朝,俺はリリックを搾り出している
ビスミッラー,そのリリックを聴いて,俺を批判しまくってくれ

ビスミッラー,つまり,アッラーの名にかけて。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

JAY ELECTRONICAのアルバム『A Written Testimony』楽曲②「Ghost of Soulja Slim」(独断偏見ライナーノーツ)

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3月13日(金)に突如リリースされたアルバム『A Written Testimony』。ここへ来て,誰が想定していただろうか。10年以上,ジェイ・エレクトロニカのアルバムがリリースされることをファンは待ち,待ち,待ち続けていた。まるでDr. Dreの『Chronic 2.0』のごとく。しかし一向にリリースされない。10年以上待ってもこれなんで,ファンは半ば諦めかけていた。

そうしてジェイ・エレクトロニカの存在が人々の顕在意識から離れようとしていたまさにこの時,ジェイは突如アルバムをリリースした。

そしてアルバムを再生し,2曲目「Ghost of Soulja Slim』に入る時,JAY-Zの声が聞こえる。しかしクレジットにJAY-Zの名前は無い。ファンは驚く。え?えっ?この声はJAY-Zだよね?と。

そう,そのとおり。

そのJAY-Zのヴァースをいくつか引用してみる。

Next time they bring up the Gods, you gon’ respect us
(名人とは俺らのこと,リスペクトしな)

ヒップホップ界では互いのことをGodsと呼び合う。これはお互いにリスペクトの意を含めた呼び名であるが,おそらく最近の若手はこういう呼び名は使わなくなってきている。90年代〜2000年代前半に見られた呼び名で,つまり2020年の現代,そういう呼び名をしていたラッパーは既にベテラン,名人となっているということ。ここではジェイ・エレクトロニカの歌詞でよく登場する宗教的レフェレンスも含めた二重の意の含みを持たせている。

That lil’ vest ain’t gonna do you, I shoot from neck up
(防弾チョッキじゃ足りねえ,首から上は無防備だ)

ジェイ・エレクトロニカはイスラム教徒としてメッカ礼拝を行った。ここでは「neck up(ネカッ(プ))という音と「mecca(メカッ)」という音を重ねている。

I ain’t even tryna hold ya, Magnolia Slim
I’m a soldier from that mode, I’m the ghost of him

マグノリア・スリムの死に対し,誰を責め立てようとしてる訳でもない
俺はその世代に育った勇士(ソウルジャ)であり,ヤツの霊が俺の中に息づく

出ました。この曲のタイトルともなっている「Soulja Slim(ソウルジャ・スリム)」の名。アメリカ深南部(deep south)に位置するジャズ音楽やブラック・ミュージックの源流であるニューオーリンズ。ジェイ・エレクトロニカはそのニューオーリンズ出身。他に有名どころではLil Wayne, Juvenile, Mannie Fresh, Birdman等々が同郷出身。彼らはニューオーリンズ市のスラム街=マグノリア(Magnolia)エリアで生まれ育った。そしてそのマグノリア出身のヒップホップ・アーティストらが尊敬してやまないのが,2003年に亡くなったSoulja Slim又の名をMagnolia Slim。ジェイZはここで,「じぶんはこの世代の野郎だ。Magnolia Simの霊が俺の中に息づく」ということをヴァースで言っています。

Peaceful teaching of Rumi, but don’t confuse me
You mouth off for the cameras, I make a silent movie
Now here’s some jewelry
No civilization is conquered from the outside until it destroys itself from within

ルーミー開祖による平穏なる教え,勘違いすんな
カメラに向かってわめき散らすお前と,無声映画を製作する俺
金言を一つ教えてやろう
文明というものは,外部からの力で滅びるのではなく,とかく内部から腐り滅びる

ルーミー開祖というのは,イスラーム神学であるスーフィズムの重要人物であり,ペルシア(現・イラン)の詩人(1207年〜1273年)。実際に,イスラム教徒の国で本屋さんに入ると,ルーミー開祖が書いた詩集が沢山置いてある。1200年代の詩人であるのに,2000年代の現代になっても,いまだにイスラム教徒をここまで魅了するものとは何なのであろうか。

実際,彼の名=ルーミーにちなんで,JAY-Zとビヨンセは双子の息子をRumiと名付けた。

さて,ヴァース2ではジェイ・エレクトロニカ(Jay Electronica)がこうラップする。

If it come from me and Hov, consider it Qur’an
If it come from any of those, consider it Harām
The minaret that Jigga built me on the Dome of the Roc
Was crafted, so beautifully, consider this Adhan
From a hard place and a rock to the Roc Nation of Islam

俺とホヴァ(=JAY-Z)の曲,コーランの如く
他の連中の曲,ハラームの如く
ジガ(=JAY-Z)が俺のために建ててくれたミナレット,ロック・ドームのテッペンに
あまりにも美しき芸術,アドハーンの如く
苦悩に満ちたどん底から這い上がり到達した,ロック・ネーション・オヴ・イスラーム

ジェイ・エレクトロニカの公式デビューアルバムとして,冒頭の曲にふさわしい,イスラム・レファレンス満載の1曲。イスラーム教に関するレファレンスが次から次へと繰り出します。

1行目の「コーラン(クルァーン)」というのはイスラム教で最も聖なるものといわれている聖書のことです。
2行目の「ハラーム」というのは,ハラール(ムスリム教徒が食して良いとされる合法的と認められたもの)の反対語。つまり,イスラームとして認められていない(非合法の)もの。
3行目の「ミナレット」というのは,イスラム教の国に旅行したことある方であればご存知のとおり,イスラム寺院の尖塔(せんとう)であり,ここの上から人々に歌(アザーン=アドハーン)で礼拝の時を知らせます。
同じく3行目の「the Dome of the Roc」とは,ジェイZのレーベル=ロック・ネーション(Roc Nation)の軍団組織(ドーム)を指す。
4行目の「アドハーン」とは上記でも出た「アザーン」のこと。アザーンという歌をうたい,「これからお祈りが始まりますよ」という時をみんなに知らせる。イスラム教の国ではこれが1日に5回ある。タイミングは,早朝,正午,午後,日没後,就寝前。世界のどこにいても,これを守る。世界のどこにいても,メッカの方向を向いて,額を地面につけて,お祈りする。
5行目の「ロック・ネーション・オヴ・イスラーム」とは,Roc Nationと当サイトでも頻出しているNation of Islamaを重ね合わせている。

最後にJAY-Zがこうラップします。

Think of things I said that you hated then
Empirical facts that can’t be debated now
Things you say today, I was sayin’ then
Tell us who your favorite now

だから当時から言ってんじゃん,あんたらは聞きたくなさそうにしていたけどよ
経験に基づく事実,もはや今となっては火を見るよりも明らか
ようやく理解されようとしてきているけど,当時から俺が言ってたきたこと。
で,誰だっけ?あんたらが大好きなラッパーって

(文責・対訳:Jun Nishihara)

現代の若者黒人文化をリードする人物(その①:レイアナ・ジェイ)

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(上記写真は,2019年4月4日にYouTubeにて生ストリーミングされた番組より。右から2人目がレイアナ・ジェイ。)

新人の女性若手アーティスト=レイアナ・ジェイは,今年でまだ25歳。昨年11月に当サイトでも取り上げました(→こちらです)

これまで3枚のEPを発表し,ついに今年3月22日に初の公式アルバム『Love Me Like』をリリースしました。

いまだにウィキペディアでは取り上げられておりませんが,上記アルバム『Love Me Like』はレイアナにとって人生初の全米ビルボードでチャートインし,冒頭の生ストリーミングでは女友達から「charting queen(チャートの女王)」と呼ばれるようにまでなりました(もちろん誇張していますし,大げさですけれど)。人生初にリリースしたアルバムが,全米ビルボードチャートのR&B部門第25位を達成。メジャーデビューは果たしていないどころか,インディーズのレーベル=EMPIRE RECORDSとの契約であるにもかかわらず,25位というのはアングラでのデビュー作にしてはなかなか良いポジションでしょう。

昨年レイアナ・ジェイについて書いた際に言及いたしましたが,レイアナは,つい最近まで,音楽だけでは食べていけず,アルバイトと兼業をしておりました。それがいつしか,やがて,アルバイトを辞めてもなんとか食べていけるようになり,音楽に専念するためニューヨークへも引っ越しをするようになり,EMPIREレーベルと契約を交わし,ニューヨークのスタジオでレコーディングをし,公式アルバムをリリースして,ついに全米ビルボードにチャートインする,というのをここ3,4年で果たしております。なかなか素敵な声の持ち主である彼女は,(ジャジーなのにジャジーすぎない)現在ヒップホップ界に蔓延る「ウケ」狙いのアーティストが多い中,そんなものたちとは全くかけ離れた,真の音楽的才能(歌手としての堅実な才能)の持ち主であるといえるでしょう。

本年3月にリリースされた『Love Me Like』より,以下の楽曲「Know Names」をご紹介いたします。

「現代の若者黒人文化(young black culture)をリードする人物」にレイアナ・ジェイを選んだ理由は,彼女はカーディBやニッキー・ミナージュのような派手さはまったくないですが,堅実な音楽性という意味では,最近ヒップホップ界に蔓延る「単なるハヤり」や「ウケ」を遥かに凌駕するものを彼女に感じたからです。冒頭の生ライヴストリームでは,レイアナは,1970年代に活躍したテディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)という黒人男性歌手についても言及しています。現代の新しいものばかりで固めるのではなく,「古きをたずねる」ということをちゃんとしています。そういった面を持ち合わせている若手アーティストはこれからも必ず伸びていくことでしょう。

昨年も書きましたが,彼女の名前=Rayana Jayの読み方は「レイアナ・ジェイ」です。英語でこれを発音すると,「レイナ」のように「ア」にアクセントを置きます。つまり「ア」を強く発音するのですが,レイアナ自身が経験した,以下のエピソードを紹介いたします。

あなたはスタバ(正式名:Starbucks)で働いていたとします。そこへ,とある黒人女性のお客さんがやってきて,抹茶ラテのトールを注文しました。スタバでは,カップにお客様の名前を書くことになっていますので,あなたは,その女性に尋ねます。「How may I call you?(あなたのお名前は?)」,すると女性はこう答えました「You can call me ‘Rayana(レイナ)’.」と。

さて,それを聞いたあなたは,彼女の名前を英語で,カップにどう書きますか?忘れてはいけないのは,ここはスタバです。まわりはお客様でにぎわっておりますので,けっして静かな場所とは言えません。静かなところで,耳をすまして,「レイアナ」と聞いたわけではなく,まわりで抹茶ラテを作るシェーカーがガガガガガガガーーーー!と鳴って,がちゃがちゃしているところでそのお客さんが「レイアナ」と発音するのを聞いて,あなたはカップにその名前を英語で書かなきゃいけないのです。さて,英語でなんと書きますか?

これは実際に起こったシチュエーションです。レイアナ・ジェイがアトランタ(ジョージア州アトランタ)にあるTrap Museumを観に旅行した際,寄ったスタバで出てきた抹茶ラテのカップにはこう書かれておりました。

「Rihanna(リーナ)」と。

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なお,女性ファッション雑誌(Nylon Mag)で取り上げられた企画「60秒でわかるレイアナ・ジェイ」を掲載しておきます。

最後に,レイアナ・ジェイの最新アルバム『Love Me Like』から楽曲「Know Names」をセッションした映像を掲載しておきます.

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ音楽とイスラム教の関係 (アルバム『Ye』のリリースから今年6月1日で1年を経たいま振り返る(その①))

本年6月1日で,カニエ・ウェストのアルバム『Ye』リリースから1年が経ちました。昨年のちょうど今頃,暑い夏が始まろうとしていた頃でした,同アルバムを当サイトで翻訳・対訳を掲載させていただき,いろいろな方々に読んで頂きました。当サイトにお越しいただき,読んでいただき,ありがとうございました。そして今日もここに来ていただき,ありがとうございます。

リリースから1年後の今,アルバム『Ye』を振り返って,カニエがアルバム冒頭の楽曲「I Thought About Killing You」でラップしている歌詞の一部について,注目しておきたいと思います。

カニエはこういう歌詞で曲を始めております。

[Verse: Kanye West]
I called up my loved ones, I called up my cousins
I called up the Muslims, said I’m ’bout to go dumb
Get so bright, it’s no sun, get so loud, I hear none
Screamed so loud, got no lungs, hurt so bad, I go numb
Time to bring in the drums, that prrt-pu-pu-pum
Set the NewTone on ’em, set the nuke off on ’em
I need coke with no rum, I taste coke on her tongue
I don’t joke with no one, they’ll say he die so young
I done had a bad case of too many bad days
Got too many bad traits, used the floor for ashtrays
I don’t do shit halfway, I’ma clear the cache

(ヴァース:カニエ・ウェスト)
愛する人たちに,親戚兄弟に,ムスリムの仲間たちに
電話してこう伝えた,「ついに俺,暴れちゃいそう」
まぶしくなって,太陽は沈んだ,爆音で,音は消えた
悲鳴をあげた,声は出ない,傷ついた,感覚は麻痺した
叩いて響かせろ,太鼓の音を,ダ・ダ・ダ・ダン・ダン
オートチューンを効かせて,ピッチを爆発させろ
ラム無しのコーラ,彼女の舌にコカの味
ふざけてんじゃない,よく言われるよ,「早死にするよ」って
ツイてない日が連続で起こったケースが俺
悪い癖がありすぎて,床を灰皿代わりにしたりして
中途半端なことはしたくない,すべて真っさらにしてやりたい
(対訳:Jun Nishihara)

曲の冒頭でカニエは「I called up my loved ones / I called up my cousins / I called up the Muslims(俺は愛する人たち,親戚兄弟,そしてムスリムの仲間たちに電話してこう伝えた)」と言っております。

ムスリムとはイスラム教の教えを信仰する教徒の人々のことですが,カニエ・ウェストにとって,そしてヒップホップ,はたまた黒人の歴史にとって,イスラム教は切っても切れない一つの宗教といいますか思想でした。アメリカに住む黒人が信仰するイスラム教は一般的にブラック・イスラーム(Black Islam)と呼ばれているものですが,どういう宗派があって,ヒップホップ・アーティストでは誰がそのイスラム教徒で,どういう教えで,なぜ彼らはイスラム教徒に改宗したのか,というのを簡単にひもといていきたいと思います。

カニエ・ウェストの周辺では,カニエと同郷出身でむかしからともに活動してきたラッパーのモス・デフ(Mos Def)がカニエに一番近いムスリム(イスラム教徒)といえるでしょう。

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(上記写真はモス・デフです。)

モス・デフは2011年9月に自身の名前を法的に「Yasiin Bey(ヤシーン・ベイ)」に改名し,2016年1月19日,カニエ・ウェストのホームページでヒップホップ業界からの引退宣言をしました。モス・デフ改めヤシーン・ベイは,母親シェロン・スミスと父親アブドゥル・ラフマーンの子です。父親アブドゥル・ラフマーンはネーション・オヴ・イスラーム(Nation of Islam(略してNOI))の信者で,ワリス・ディーン・ムハンマドというスンニ派(イスラム教徒の宗派)に信徒として仕えました。モス・デフは20代の頃,ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)という偉大なるヒップホップ・グループのメンバーでありイスラム教徒であるアリ・シャヒード・ムハンマドやQティップ(Q-Tip)とよくつるんでいました。

また,カニエと同郷シカゴ出身ですが,カニエよりも若い世代のルーペ・フィアスコ(Lupe Fiasco)もムスリムです。

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(上記写真はルーペ・フィアスコです。)

ジェイZのレーベル=ロック・ネーション(Roc Nation)に所属しているヒップホップ・アーティスト=ジェイ・エレクトロニカ(Jay Electronica)も熱心なイスラム教徒です。彼の歌詞には,「神の平和を」を意味するムスリム同士の挨拶言葉「As-salāmu ʿalaykum(السَّلَامُ عَلَيْكُمْ)」がよく使われております。以下は,ジェイ・エレクトロニカの名曲「Exhibit C」ですが,以下YouTubeのタイムライン3:11~3:17の箇所で,アラビア語らしきイスラームの祈りの言葉が発せられております。

上記曲「Exhibit C」のプロデューサーはかの有名なジャスト・ブレイズです。ジェイZの名盤『The Blueprint』(2011年9月11日(9.11の日)にリリース)でカニエ・ウェストと双璧をなしたベテラン・プロデューサーです。ビヨンセのアルバム『レモネード(Lemonade)』に収録されているケンドリック・ラマーをfeat.した楽曲「Freedom」も,ジャスト・ブレイズがプロデューサーを務めております。

さて,話を戻しますと,このようにヒップホップ界にはイスラム教徒はめずらしくなく,他にも以下のとおり結構な数でイスラム教徒と呼ばれるヒップホップアーティストはいます。一部を挙げますと,T-ペイン,DJキャレド,バスタ・ライムス,SZA(最近ポップ界でも人気の女性歌手),スウィズ・ビーツ,MCレン,ケヴィン・ゲイツ,アイス・キューブ,フレンチ・モンタナ,フリーウェイ,ビッグ・ダディ・ケイン,ビーニー・シーゲル,エイコン,スカーフェイス,シェック・ウェス,ニプシー・ハッスルです。彼らの多くは,モス・デフの父親と同じく,ネーション・オヴ・イスラーム(NOI)を中心に信仰しているようですが,各アーティストによっては,どれくらい信仰しているかについての程度の差はあると思います。

ブラック・イスラームにおけるネーション・オヴ・イスラームという宗派は,どういった教えなのでしょうか。大きくわけて3つのことがいえるそうです。

1.伝統的イスラームの教えと同じくイスラム教の五行は基本的に信じているが(例えば「ラマダンの月には断食を行う」(夕刻のイフタールまでご飯を食べないし,水も飲まない。しかし最近は,パキスタンやアフガニスタン,イラクなど,酷暑の夏には水分を取らないのは危険なため,水だけは許されている国もあるそうです。)など)しかし,解釈の面で伝統的イスラームと相違している部分もある。

2.堕落した人生を送っている黒人を救うとする。(街角や監獄で,未来への希望も夢もなく時を過ごしている黒人たちや,麻薬,白人女性に対するレイプ,家庭崩壊などといったような(黒人として)誇るべき生き方でない道を歩んでいる者を救うとする。)

3.イライジャ・ムハンマドを使徒とする。(2019年時点の指導者はルイス・ファラカーンであるが,指導者は時代によって変われど,使徒(Messenger)であるイライジャ・ムハンマドは変わらない(注:NOIが解体しない限り。))ちなみに,預言者(Prophet)は伝統的イスラームもNOIも,ムハンマドであると信じる。

さて,こうしたネーション・オヴ・イスラームという黒人を対象とした特有のイスラム教のひとつの思想に,ブラック・ムスリムであるモス・デフやルーペ・フィアスコ,ジェイ・エレクトロニカは,どういうところに魅了されたのでしょか。

この続きは,後日,ひもといて参ります。

(文責:Jun Nishihara)

エミネムのラップ術に学ぶ(その②:教材はロジックの楽曲「Homicide」)

前回は,エミネムのラップ術について,1.アクセントの場所を入れ替えるワザを取り上げました。
本日はその②として,以下のとおり説明していきます。

2.次から次へと連打のように繰り出す韻踏み

まずは以下のヴァースをご覧下さい。

Big bills like a platypus
A caterpillar’s comin’ to get the cannabis
I’m lookin’ for the smoke but you motherfuckers are scatterin’
Batterin’ everything and I’ve had it with the inadequate
Man, I can see my dick is standin’ stiff as a mannequin
And I’m bringin’ the bandana back, and the fuckin’ headband again
A handkerchief and I’m thinkin’ of bringin’ the fuckin’ fingerless gloves back
And not giving a singular fuck, like fuck rap

上記の赤文字で反転している箇所の特に下線を引いているシラブルは韻を踏んでおり,これをまるでエミネムは連打するかのように,次から次へをスピットしています。

この部分を音声で聴いてみましょう。
以下のタイムライン,2:49〜3:02の部分です。

ものの13秒で以上のヴァースをスピットするのも驚くべきことではありますが,それ以上に注目すべきは「韻踏みを1秒に1回以上繰り出しているということ」です。13秒のうちに14回韻を踏んでいますので,その計算になります。

3.息の長さ

これは言うまでもないことですが,上記のヴァースにしても,ひと息でラップをやり遂げています。最後の「fuck rap」という箇所で息継ぎをして,その後の「I sound like a fuckin’ millionaire」のくだりへと進んでいます。

息継ぎはリセットです。たとえ,へとへとになっていたとしても,エミネムはこんなことないでしょうが,ぐだぐだのラップになっていたとしても,息継ぎの箇所で一旦持ち直して,心機一転,新たな心持ちで,その後に進めていけるようになります。

息継ぎをどこでするかという大切さはあります。ラップは息継ぎの場所で決まります。むかしから思っていたのは,ジェイZ(Jay-Z)は息継ぎがとてもうまい人だな〜と思って聴いておりました。しかも息をしているということが判らないように,「息の音」をひそめている。ラッパーによっては,「スーッ」とはっきりと息継ぎをしていることが聞こえる人もいますが,ジェイZはむかしから聞こえなかった。自分でもラップしてみると必ず,「スーッ」とやってしまうのですが,慣れてくると,「息の音」をひそめて息継ぎをすることができるようになってきます。意識をするかしないか,という要素もあります。「スーッ」と聞こえるように息継ぎするのが悪いというわけでもないです。ラップは芸術ですから,どちらが正解ということはないですが,おそらく息の音を聞かせると,敵に心の内を読まれてしまうキケンがあるので,下積み時代をハスラーとして過ごしたジェイZは,人に心の内を読まれないようにするため,自然に息の音を消すことを身につけていったのかもしれません。それが彼のラップに顕在していた,と言えるかもしれません。

(文責:Jun Nishihara)

ジェイZの“B-Sides”ライヴ・コンサート(その①)

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(4月26日開催のB-Sidesライヴにて。左=ジェイZ,右=Nas)

4月26日(金),NYCの歴史的なダンスクラブであるウェブスター・ホール(Webster Hall:2002年頃当時はヒップホップのフロアもあった)の再開を記念して,ジェイZが「B-Sides(B面)」と題するライヴコンサートを開催しました。

ウェブスター・ホールは2017年8月9日に建物の修繕を理由に一時閉鎖されておりましたが,めでたく4月26日にジェイZのライヴをもって再開いたしました。建物自体は1886年に建設されており,建立から100年以上経ている歴史的な建造物です。ロケーションはNYCのイースト・ヴィッレジに位置します。現在はフロアごとにジャンルが分けれている,マルチダンス(ナイト)クラブです。

そのre-opening nightをジェイZが飾りました。

タイトルは「B-Sides」といって,今までめったにライヴでは演じてこなかったいわゆる「B面」の曲の数々をここで(久々に)披露しました。

さらにその夜,ニューヨークのヒップホップ史として大事なことが,Nas(ナズ)と今まで犬猿の仲であったCam’ron(キャムロン),そしてJim Jones(ジム・ジョーンズ)をステージに呼んだということです。(これに関する動画はYouTubeで検索願います。)

さて,3月31日(日)に亡くなったNipsey Hussle(ニプシー・ハッスル)のトリビュートとして,この夜ジェイZは追悼のフリースタイルも披露しました。こちらです。

(このフリースタイルの邦訳は次回に。)

(文責:Jun Nishihara)

若手アーティストの街角:Rayana Jay – “Sunkissed”

それは昨年のことであった。最近お気に入りの若手アーティスト,Nonameという女性ラッパー/シンガーのデビューアルバム『Telefone』を視聴者が好きな金額を出し合って購入できるサイト=bandcampで購入しようとしていた時であった。もちろん『Telefone』は購入した。そのあと,もっと黒人女性のヴォーカルが聴きたかったので,引き続きbandcampでいろいろとさぐってみた。

するといいのを見つけてしまった。Rayana Jayという新人歌手である。R&Bでもない,ジャズでもない。でも声はまさに私が求めていたものであった。Apple Musicで無料で聴ける時代に,お金を出して買って聴きたくなる声であった。

それから彼女のアルバム『Sorry About Last Night』と『Morning After』を何度聴いたことか。

彼女の声は色っぽくて,ちょっぴりエロいけれど,ぜんぜん下品じゃない。ジャズでもないけれど,ジャジーに聞こえる。メロディーは洗練されている。でも上品すぎない。だって,歌詞に「nigga」とか言ってるんだし。でもやっぱり,ぜんぜん下品に聞こえない。黒人女性が「nigga」という時,なぜかエロく聞こえる。呼びかけの「nigga」じゃなくて,文法的にちゃんとしたセンテンスの中に含む「nigga」である。
たとえば・・・

You are my Rhythm and Blues, the one who invented the cool
The one’s who dented the rules
And showed the world what my niggas could do, ay!
– Rayana Jay “Sunkissed”

私にとって,あなたの存在は“リズム&ブルース”/元祖クールな連中
ルールなんてぶち破ってくれる
世界中に見せつけてやりな,黒人野郎たちが秘めてるスゴイところを,エィ!
– Rayana Jayのシングル曲「Sunkissed」より

黒人女性が同胞の男たちを「niggas」と呼ぶとき,その根底には「共通理解/暗黙の了解」が流れている。「わたしはあなたのことをniggaと呼ぶけど,わかってるわよね」ということである。

また,歌詞中の「dent」の使い方がドキドキする。普通「rules」に付ける動詞は「break」である。それなのに,先の「invented」と韻を踏ませるために過去形の「broke」ではなく「dented」を使っているのだけれども,「niggas」という言葉を使っているような若者の女が「dented」なんていう,よく考え出された知的な語彙を使っているところが,もうたまらなくエロく感じてしまう。

さて,彼女の素顔をこの映像で見てみてほしい。まだ23歳。

そして,先ほど取り上げた歌詞が含まれている楽曲「Sunkissed」をライヴで歌っているRayana Jayは以下のとおりである。

ときにRayana Jayの読み方は「レイアナ・ジェイ」である。まだ彼女の情報は現時点(2018年11月28日時点)では英語版ウィキペディアにも載っていないし,日本盤のCDも出ていないので,彼女の名前の公式な日本語表記はどこにも無いが,読み方は「レイアナ・ジェイ」でございます。(ウィキペディアにも載っていない頃からRayana Jayの音楽をどっぷり聴いているんだけれど,これから近い将来にはRayanaもウィキペディアに掲載されるようになって,そのうちメジャーデビューを果たしたりするんだと思う。もちろんメジャーデビューして,もっともっと金儲けしてもらいたいのだけれど,そうなると,なんか遠くへいってしまったように感じたりするのだろうか。アーティストっていうのは,そんなものよね。なんちゃって。)

Rayanaの生まれはカリフォルニア州リッチモンド市。10歳の頃に教会のクワイヤーで歌い始めて,2012年の夏に初めてプロの歌手として働き始める。出だしはまったく稼げないので,アルバイトと兼業していた。Rayanaとツイッター上で何度かメッセージを交わしたことがあるが,今年になってアルバイトを辞めるだけのお金が稼げるようになり,今年2018年の夏に晴れてニューヨークへ引っ越し,シンガーソングライターとして全面的に働けるようになったという。

これからの活躍に期待大です。

最後に彼女の言葉で締めくくります。

“My friend once said that the church is like the hood Juilliard…like everything starts here.”
(あたしの友達がかつて言ってた。地元の教会って,ゲットーのジュリアード大学みたいなもんよ,ってね。何もかもそこから始まったわ。)

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る③:ジェイZ⇄ローズ・ロイス⇄ビヨンセ

前回はジェイZの名曲「Song Cry」の元ネタとなっている1976年の曲を紹介いたしました。

引き続いてジェイZの曲です。
ジェイの隠れた傑作である「Wishing On A Star」(1998年3月11日リリース)という曲を紹介します。「隠れた」というのは米国で公式にリリースされたジェイZのアルバムには,この曲は収録されたことがないからです。現時点(2018年9月時点)では,月額サービスのApple Musicでも聴くことはできません。

もともとこの曲は,ジェイZのアルバム『In My Lifetime Vol.1』のUK(英国)盤のボーナストラックとして収録されました。その後,日本では,ジェイZの『Chapter One: Greatest Hits』(2002年リリース盤)に収録され,聴くことができます。

聴き比べてみてください。

Jay-Z – “Wishing On A Star”

その元ネタがこちらです。
Rose Royce – “Wishing On A Star”

ジェイZはこの曲を1998年にリリースしましたが,その6年後,2004年にビヨンセが同曲をカバーしました。

こちらです。

Beyonce – “Wishing On A Star”

元ネタは,1978年にリリースされたローズ・ロイス(Rose Royce)という女性歌手の曲です。1978年の曲がこうして,20年の年月を経て,ジェイZにサンプリングされたことがよみがえり,その6年後にビヨンセがカバーしました。

まさにこれがヒップホップの醍醐味のひとつであります。古い曲が現代に“真新しく”よみがえり,これを聴いている老若男女が「おおもとの曲(元ネタの曲)」を探しに行く,また,探したくなる,見つけて,聴きたくなる,という欲を掻き立ててくれるものだと感じております。そうなると,たまらなくおもしろいです。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る②:ジェイZ ⇄ ボビー・グレン

さて,このコーナーでは,現代のヒップホップ曲で起用されている「おおもととなっている曲ネタ」を紹介しています。

前回は,ドレイクがマライア・キャリーの曲をネタにした「Emotionless」⇄「Emotions」を紹介しました。

このように「もとのネタ」を知ることによって,ヒップホップのおもしろさが少しでも伝われば幸いです。

さて,今回はこんな曲を紹介します。

カニエ・ウェストよりも少し前に出現した異次元ビートメイカーにジャスト・ブレイズ(Just Blaze)というビート・プロデューサーがいます。カニエ・ウェストは「元ネタづかい」を世界中のヒップホップ界に広めたビートメイカーとして知られていますが,カニエが世に出るよりもずっと前に「元ネタあそび」をグヅグヅとアングラで温め続けてきたのは,ジャスト・ブレイズです。

ジャスト・ブレイズがプロデュースしたヒップホップ曲には,数々の名曲が生まれています。

その豊富なレパートリーの中から,ジェイZの名盤『The Blueprint』に収録されている楽曲(名曲!)「Song Cry」を取り上げます。

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この「Song Cry」は2001年9月11日(世界同時多発テロ事件と同日)にリリースされたアルバム収録楽曲ですが,この曲のおおもととなっている曲は,美しきまさに名曲(名曲をサンプリングにしたからこそジェイZの名曲が生まれたという,なんというビート・プロデューサーのセンス!)である,ボビー・グレン(Bobby Glenn)の1976年リリースの楽曲「Sounds Like A Love Song」を元ネタにしています。

それでは聴いてみましょう。

Bobby Glenn – “Sounds Like A Love Song”

(文責:Jun Nishihara)