第16位:この時代にこのフローで勝負するコンウェイ・ザ・マシーンのアルバム『From King To A GOD』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

コンウェイ・ザ・マシーン(Conway The Machine)は2020年9月にソロデビュー・アルバム『From King To A GOD』をリリースしました。

ヒップホップが若年化してきたこの時代に,ゴテゴテのヒップホップ・フローで勝負するコンウェイ・ザ・マシーン。コンウェイのラップは,若手ラッパーどもの最近のマンブル・ラップなど怖いもの無しのごとく,ハードコア・ラップに忠実に,昔ながらのリリカル・フローをカマしてくれています。

いわゆる“マンブル・ラッパー”に象徴される若手ラッパーのスタイルがある一方,ハードコアなリリックのラップで勝負しているグリセルダ・レコード(Griselda Records)のメンバーであるコンウェイ・ザ・マシーンには,今後も目が離せないでしょう。何が注目かと言えば,も一回言っときます,若手ラッパーどもがいる中で揺らぎないそのハードコア・ラップです。

(文責:Jun Nishihara)

第21位:歌モノ・リリカル,どちらも揃ったミックステープ『No Ceilings 3』をリリースしたリル・ウェイン (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

本年2020年の初頭1月にリル・ウェインがリリースした公式アルバム『Funeral』を聴いた時,リリカルな時代のウィージー(Weezy)が戻ってきた,と思ったのは私だけでは無いでしょう。

その勢いを落とさずほぼ1年間その勢いを保ち続けたリル・ウェインは,2020年11月に『No Ceilings 3』をリリース。このミックステープには『A Side』と『B Side』があり,後者は12月18日にリリース。

これは一応ミックステープという体裁を取っておりますが,クオリティはアルバムそのもの。datpiff.com等でダウンロード可能です。リリースから1ヶ月経た現在,既にダウンロード回数は300万回を超えております。再生回数ではなくダウンロード回数で300万回超えというのはなかなか調子が良いです。

アメリカのヒップホップ界(特にミックステープを聴く連中の間)では,リル・ウェインに対するリスペクトは堅いことが見て取れます。

リル・ウェインは楽曲『BB King Freestyle』でこうスピットします。

Everyone got they glass out, let’s drink to Weezy
Every nigga that stare me down just came to see me
Choppin’ up a lil’ cash cow, that’s steak I’m eatin’
Check deposits, high-risers with extra closets
The sex platonic, I talk intelligent, text Ebonics
The electronic guitars whinin’, that’s just Nirvana
Tommy gun on the counter, I call it Mr. Thomas
That’ll keep niggas honest
I’m dozin’ off in the driver seat ’cause the seat give massages

(対訳)
おまえらグラスを挙げな,ウィージーに乾杯
今まで俺のこと軽蔑してたヤツらにこの前会った
ヤツら「金のなる牛」を探してた,その目の前でステーキ食ってやった
預金額チェックしな,クローゼットだらけの高層マンションビル
セックスはプラトニック,トークはインテリ,SNSは黒人話法(エボニックス)
泣きのエレキ・ギター,バックで流れる,それニルヴァーナの曲
カウンターにトミーガン,「トーマスさん」俺が名付け親
正直に吐かせてやるよ
運転手席でうたた寝,マッサージ機能付きのシートだぜ
(楽曲「BB King Freestyle」より)

上記リリックを見ても分かるとおり,リル・ウェイン節連発。これを音源で聴けば,それがさらに感じられます。まぁ,聴いてみてください。

次に,ドレイクの「Laugh Now, Cry Later」をフリップした(捩った)リル・ウェインの「Something Different」を掲載しておきます。(これもミックステープ『No Ceilings 3』より。)

リリック“scroll down”の箇所で,ちょうど(↓)を出すという,こういう細かなネタをぶっ込んでくるのもウェインらしいですね。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

第23位:サウス出身の新人ワル女ラッパー=Mulatto(ムラート)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年にラップ界のメインストリームにその名をとどろかせた女子ラッパーの一人としてMulatto(ムラート)を第23位に取り上げたい。

彼女(本名:アリッサ・ミッシェル・スティーヴンズ)は米国北東エリア(五大湖エリア)のオハイオ州コロンバス市生まれ。しかし2歳の頃,南部ジョージア州に両親に連れられ移り住み,黒人の父親と白人の母親を持つにもかかわらず,アリッサ自身,皮膚の色が無色であったことから学校でイジメに遭っていたことが理由で,自分のことをその時からムラート(Mulatto)と呼ぶことにし,当初はMiss Mulattoという名でラップを始めた。

ちなみにMulattoというのは,黒人と白人の混血を指す言葉であり,奴隷制度時代には,黒人の血が一滴でも入っていればcolored(有色人種)として扱われ,差別の対象となった。有名人の間ではオバマ大統領もMulattoとして知られる。

その彼女(ムラート)が有名になるキッカケとなったMVを下記に掲載する。

Mulatto feat. Saweetie & Trina – “Bitch From Da Souf”

(文責:Jun Nishihara)

第27位:Jadakissのアルバム『Ignatius』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第30位〜第28位までとはガラッと雰囲気が変わります。

第27位はジェイダキッス(Jadakiss)のアルバム『Ignatius』です。

まー,こちらを聴いてみてください。
この曲を聴くと,ここまで第30位〜第28位のアルバムをつまみ聴きしてきた曲とは,全く種が異なるということが分かると思います。同じHIP-HOPという所謂“ジャンル”にくくられた中にあるかもしれませんが,どれだけ幅が広いものか,わかっていただけると思います。

Jadakiss feat. Pusha T – 「Huntin Season」

90年代にHIP-HOPという言葉がカバーしていた幅の広さと,現在2020年にHIP-HOPという言葉がカバーする幅の広さ,というのは,「広さ」という意味でまず,異なってきています。そして次に異なるのはその言葉が表すものであったり意味するものであったり,定義も異なってきています。しかしながら,何よりも,90年代を生きた人々が「Hip-Hop」と聴いて想像するものと,2020年代に10代や20代を過ごしている現在の若者たちが「Hip-Hop」と聴いて想像するものが,異なってきている,というものは大きいでしょう。

Jadakissの「Hip-Hop」を聴くと,いつもこのように「Hip-Hop世代の変革」を感じます。

まずは聴いてみてください,Jadakissの「ME」を。

この曲からこのセリフ・・・

Never had a wack verse!

ダサいヴァースとは無縁で来たぜ!

直訳すると「イカシていないヴァースなんて1つも書いたことがない」,つまり,これまで俺がスピットしてきたラップに,ダサいヴァースなんて1つもねえよ!

これはJadakissにしか言えない称号。

第27位にするのがもったいないくらいデキの良いアルバム。

も1曲いっときまひょか。

Jadakiss – 「Catch & Release」です。

(文責:Jun Nishihara)

第28位:A Boogie wit da Hoodieのアルバム『Artist 2.0』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30

2020年の第28位は,全米ビルボードで第2位を獲得し,1年以内に50万枚以上を既に売り上げているというヒット・アルバム『Artist 2.0』です。アルバムジャケがなかなか記憶に残る,ヒップホップではめずらしい,ファンタジー掛かった演出ですね。

もはやこのアルバムジャケを見るだけでは果たしてヒップホップのアルバムなのか,イギリスのファンタジー映画クエスト・オブ・キング的な映画のプロモなのか,分からないという風に,アルバムジャケからして,これまでのHIP-HOPではめずらしく,興味深い作品に仕上がっています。

たとえば収録楽曲には「Cinderella Story(シンデレラ・ストーリー)」なんていう曲もあります。

調子に乗って「Thug Love(サグ・ラヴ)」も掲載しておきます。

(文責:Jun Nishihara)

第29位:Lil Uzi Vertのアルバム『Eternal Atake』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第29位はリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)のアルバム『Eternal Atake』です。

収録楽曲「P2」を聴いていただくと感じていただけると思いますが,これはもうまさに現代の世代を象徴しているエモ・ラップ(emo rap)もしくはエモ・トラップ(emo trap)というジャンルの先頭に立ち,新世代の若者達をリードしていく存在であるべく邁進しているラッパーであることが伺えます。リル・ウージー・ヴァートは見かけによらず,けっこう頑張り屋なのです。

今年はフューチャー(Future)とのコラボレーション・アルバム(シングル曲でなくてアルバム!)『Pluto x Baby Pluto』もリリースしました。

同年に現代のニュー・ラップ世代に重要な意味を持つアルバムを2枚もリリースする,というのが彼の勤勉さを表しております。

『Eternal Atake』から収録楽曲「Lo Mein」をどうぞ。

(文責:Jun Nishihara)

カニエ・ウェストの新曲「Nah Nah Nah」にDaBaby及び2 Chainzが乗っかって,リミックス誕生!

カニエ・ウェストが2020年10月に発表した新曲「Nah Nah Nah」に,いまをときめくラッパー=DaBaby(ダベイビー)と2チェインズ(2 Chainz)が乗っかりました。

カニエ・ウェストが先月本曲「Nah Nah Nah」を出した時点で,この曲のことを「なんて馬鹿馬鹿しい曲だ」なんて一刀両断したあなた,気づけばDababyがリミックスに乗っかり,2 Chainzがヴァースを乗っ取り,いよいよ段々と,楽曲は洗練され始め,いよいよHip-Hop界に影響力を増し始めてきました。

こんな独特な曲は米国のラジオに馴染まないから,ラジオでオンエア(On Air)される頻度も少ないでしょう,なんてリリース当時は思われていた曲が,あながちそうでもないのではないか,という風に展開が逆転してきました。「馬鹿馬鹿しい」と思わせといて,後半で覆す,というのは最近のカニエにとってよく見られる動静です。そういった意味でこの曲は,今後どのような展開を遂げていくのかワクワクします。

それではその問題のリミックス(REMIX)ヴァージョンです。

Kanye West feat. DaBaby & 2 Chainz – “Nah Nah Nah (Remix)”

(キュレーティング:Jun Nishihara)

HIP-HOP歌詞引用その2:Kanye West「Father Stretch My Hands, Pt.2」

カニエ・ウェストの2016年2月リリースのアルバム『The Life of Pablo』収録楽曲「Father Stretch My Hands, Pt.2」より,以下の歌詞を取り上げます。

Up in the mornin’, miss you bad
Sorry I ain’t call you back, same problem my father had
All this time, all he had, all he had
And what he dreamed, all his cash
Market crashed, hurt him bad
People get divorced for that
Dropped some stacks, pops is good
Mama passed in Hollywood
If you ask, lost my soul
Drivin’ fast, lost control
Off the road, jaw was broke
‘Member we all was broke
‘Member I’m comin’ back
I’ll be takin’ all the stacks, oh

(対訳)
朝起きて,めちゃ恋しい
ごめん,電話返さず,親父に似た性格
老舗,それが親父の全て,全て
親父の夢,でも市場が暴落し,水の泡
親父は無一文,泣いていた
それが理由で離婚するヤツもいた
実家にカネを入れた,親父は立ち直った
ハリウッドで,おふくろはあの世へ
その時の気持ち,魂を奪われた気分
アクセル踏んで,コントロール失って
クルマをぶつけて,アゴの骨粉砕
覚えてっか,一文無しだった頃
覚えてって,成り上がってやるって言っただろ
ありたっけのカネ儲けてさ,オゥ

コンマごとにリズムを切って,テンポ良くラップしていくこの歌詞は,音読するに値するヴァースです。密かにそういった意味で名曲です。以下音源を聴きつつ,リズム感のある詞を音読してみてください。

(対訳及び文責:Jun Nishihara)

Hip-Hopの一つの回帰場所:2002年リリースの楽曲。

シカゴ出身のカニエ・ウェストによるプロダクション,ブルックリン出身のJAY-Zによるリード,フィラデルフィア出身のビーニー・シーゲルによるフィーチャリング,そして場所は深南部(Deep South)に飛んで,ヒューストン出身のスカーフェイス。ヒップホップ史なかなか多種性(diversity)に富んだラップ曲。こんな素晴らしい曲が2002年にリリースされていた,ことを憶えておいてほしいです。

電話の保留音(以下)が当時のNYイチカッケーラップになるとは誰も思っていなかった。

ベートーヴェン「エリーゼのために」をフリップしたNASの「I Can」である。

Mos Defの「Brown Sugar」。2002年が蘇ってきますか?

続いては,ブルックリンからマンハッタンダウンタウンの映像を細切れに集めたコラージュをミュージックビデオに昇華させたタリブ・クウェリの名曲「Get By」。“get by”とは「ありあわせのものでなんとかやっていく」という意味で,ゼータクなんてできねぇよ的なサヴァイヴァル・ミュージック。「just to get by」ってタリブがリピートしますよね?それ「なんとかやっていくだけで」っていう意味です。

そして,密かにHip-Hop史上原点回帰の楽曲「What We Do」。一つには,ワルやらなきゃ生きてけねえ時代を映し出した音楽。まさに「正しさ」とは逆のことをやって生きていた2002年。他方で,ハスリングという,ヒップホップ界で当時流行った金儲けのやり方も表現している。2002年という時代が俺らの心の中で永遠にすたれることのないように,この曲にそれらを閉じ込めてくれた,偉大なる曲。この曲を聴けば,2002年当時の精神(ワルやってた,その代わり勢いはめちゃめちゃあった生き様)に即,戻してくれる。

雰囲気は一変して,パーリーピーポー感のある映像を一つ。これも2002年。なつかしいですね。

次はブロンクスから。Fat Joe(ファット・ジョー)の登場。これも2002年。かなりなつかしいですね。

Fat Joeと同じく同郷ブロンクス出身のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)がLL Cool Jとコラボレーションした曲。これも2002年リリース。流行りましたねえ。

ヒップホップ・ダンスに生涯を捧げているミッシー・エリオット(Missy Elliott)の「Gossip Folks」。これも2002年リリース。

続いて同じくミッシーから。「Work It」。これは当時,50セントのREMIXバージョンも世に出ました。

50セントといえば,当時ガチ流行った「In Da Club」以外に,なかなか素晴らしい曲を出しています。その一つが「21 Questions」。これは「In Da Club」の裏で流れていた曲。2002年を思い出しますね。

続きまして,ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)プロダクションのSnoop Dogg「Beautiful」。これも2002年リリース。当時私もNYに住んでいましたが,Hot97のヒップホップラジオで流れまくり。ハヤりました。ファレルは年取らないですね。いまも同じルックス。

まだまだ行けそうですが,今日はここら辺で。これくらい2002年リリース楽曲の数々を聴くと,いつでも即原点回帰が可能となります。人生に迷った時には,原点回帰することが重要。上記を聴いて,回帰してください。

最後に,2002年リリースのアルバム『The Blueprint 2: The Gift & The Curse』に収録された「All Around The World」の素人ドラムバージョンをお届けして終わりにします。

今日も当サイトにお越しいただき,ありがとうございます。過去のページも見ていってください。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

コロナ禍「以前」のNYラップ。

コロナ禍「以前」のNYラップを載せておきます。コロナ禍前はこういう感じだったというフィーリングを憶えておくために。

まずはNYベテラン・ラッパー。ファボラス(Fabolous)の2019年11月リリースのミュージックビデオから。

続きまして,ハーレム・ラップの極み,ディップセット(ディッップセッ!!)の凄さを世に知らしめたゴテゴテのNYラップ,キャムロン(Cam’ron)。

上記キャムロン(aka キラ・キャム)の「Losing Weight 3」には勿論のこと,バージョン1とバージョン2がございまして,バージョン1に至っては2000年9月リリース。ちょうど20年前の今月ですね。ちゃんとその伝統を引き継いでいる。興味ある方はネットを探してみてください。ビートのサンプリングはTeddy Pendergrassの「Don’t Leave Me Out Along the Road」です。以下掲載しておきます。

ファボラス及びジェイダキスのタッグはNY以外の何物でもない。その贅沢なソウルフル・コラボレーションを以下でどうぞ。FabolousとJadakissがこう言ってます。「ほら,おまえも椅子持ってこい(Then, pull up a chair)」ってね。そこで一緒にsoul foodを頰張ろうじゃないか,と。

次は,クイーンズブリッジのプロジェクト・ビルディングで1973年9月に産声を挙げ,1994年,HIP-HOP史で最も重要なアルバム『Illmatic』を世に送り出したラッパー,NAS(ナズ)の登場。これもコロナ前。コロナになろうとならまいと,コロナ前から,生きることに伴う「生の苦闘」がNASの生声には漂っていた。

次はブルックリンのMARCY PROJECTS野郎,JAY-Z。又の名をホヴァ。ここでは多くを語らない。

コロナ禍以前にも関わらず,NYラップはどうしてここまでも哀しみを帯びた音楽であろうのだろう。全然パーリーピーポー感が感じられない。哀愁漂う楽曲の多さ。