第2位「今年のグラミー賞で,現代アメリカへの怒りと憤りをヒップホップという音楽に昇華させたケンドリック・ラマーのパフォーマンス!」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

今年2018年1月28日,ニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン(Madison Square Garden)で,「第60回グラミー賞」(60th Annual Grammy Awards)が開催されました。そのステージで見せてくれたケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のパフォーマンスが素晴らしかった。まずはそれをご覧あれ。

Kendrick Lamar – 60th Grammy’s Performance 2018 from Pablo Andres Vizcarra Montaño on Vimeo.

これは現代のアメリカ国への怒りと憤りに満ちた映像です。パフォーマンスの途中,バックのスクリーンに大きく「THIS IS A SATIRE by KENDRICK LAMAR(これはケンドリック・ラマーによる諷刺だ)」と映し出されます。現代アメリカへの怒りと憤りをヒップホップに昇華させたパフォーマンスでした。これをヒップホップと呼ばず,他に何をヒップホップと呼べるか。

さて,途中デイヴ・シャペル(Dave Chappelle)の一言が混じります。もちろんこれも意図的なものです。デイヴ・シャペルが言うとおり,「こんなものを国営放送で流しいいのか?!」ということですが,それをOKしたCBS局にも感謝です。もしCBSがこれをOKしていなければ,こんなに素晴らしいパフォーマンスは今頃は日の目を見ていなかったでしょう。

これこそ今年のヒップホップ,第2位に相応しいパフォーマンスでした。

(文責:Jun Nishihara)

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第3位「ティアナ・テイラーの“Gonna Love Me”のリミックスが大人と若者のヒップホップを融合させた!」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

いよいよ今年トップ3になりました。

ヒップホップは「若者のモノ」という概念が常に付きまといましたが,そんな考えは今年,ティアナ・テイラー(Teyana Taylor)がぶち破ってくれました。オトナも若者もカンケーなく,ヒップホップそのものを歌って踊れる曲をリリースしてくれました。

それが「Gonna Love Me」のリミックスです。

ミュージックビデオを観ていただくと分かりますが,これはもう,ほんとうに,90’s(90年代)へのオマージュです。80年代に生まれた世代で,90年代にヒップホップを聴いて育った方々へ,28歳になったばかりの若いティアナ・テイラーが作った素晴らしい楽曲です。

もともとはティアナ・テイラーがソロで歌う(フィーチャリング無しの)曲でしたが,ここへラップをのっけて作ったのがリミックスです。リミックスには,ゴーストフェイス・キラ(Ghostface Killah),メソッド・マン(Method Man),そしてレイクウォン(Raekwon)という全員NYのスタテン・アイランド(Staten Island)出身のウータンクラン(Wu-Tang Clan)メンバーを迎えています。ラップはスタテン出身のウータン,歌うのはハーレム出身のティアナ・テイラーという(もうR&Bにとどまらない)ヒップホップ曲です。

ミュージックビデオの冒頭スキットで,ハーレム出身のティアナ・テイラーとスタテン出身のゴーストフェイスが恋人同士という設定で,ゴーストフェイスの浮気が見つかり,たがいに喧嘩するという設定は,なんか嬉しいですね。ハーレムとスタテンが恋人なんだけど,たまにするハーレムとスタテンの喧嘩みたいで。ハーレム出身のディディ(別名パフ・ダディ,別名Pディディ,別名パフィー,別名パフ)と,スタテン出身のウータンが喧嘩するみたいで。ヒップホップファンにとっては,こういうコラボレーションは嬉しくなりますし,なによりも,90年代へのオマージュというこの曲の重要な点は見逃すことはできません。90’s Hip-Hop(90年代ヒップホップ)を彷彿とさせるこの曲を,今年2018年No.3に選びました。

補足1:上記ミュージックビデオの1:53〜2:02までのティアナのダンスは,ディディ・ボップ(Diddy Bop)という90年代にパフ・ダディとMa$eが流行らせたダンスです。もうこれはまさに90年代ヒップホップへのオマージュ以外の何者でもないですね。

補足2:こういうのを若者英語で#90svibes(ハッシュタグ#90’sヴァイブス)と言います。

補足3:ティアナ・テイラーよ,こういう素晴らしき曲&ミュージックビデオを作ってくれて,ありがとう。

補足4:冒頭のスキットでゴーストフェイスが激おこのティアナに向かって,”You smell the Jackson?”と言って,ティアナが”You think it’s funny?”と言っています。これは本当はめちゃめちゃおもしろいジョークなのですが,なにせティアナがマジでキレている状況下ですので,ゴーストフェイスはおもいきり笑えず,クスッと吹き出すだけで,ティアナは全く笑ってませんね。
 アウトキャスト(Outkast)の曲で「Ms. Jackson」という曲があります。黒人の男が黒人のガールフレンドのお母さんに向かって「ジャクソンさん,すいません!あなたの娘さんに浮気してしまいました!」って本気で謝罪しているのか,ふざけているのか,もうわからないラップ曲なのですが,ここのジョークはそれの言及ですね。”You smell the Jackson?”「なんかジャクソンさんっぽく臭うぞ」って本気で申し訳ないと思っているのか,ふざけているのか,ゴーストフェイスもこんな真面目なシチュエーションで,おもしろいこと言うので,自分自身でクスッと吹き出してしまっています。だからティアナも”You think it’s funny?”「ふざけてんの?」って返しています。こういうディテール(細部)が意外にこのビデオ,おもしろかったりします。

(文責:Jun Nishihara)

第5位「今年イチの同窓会。Dipset!の再結成!」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

このカウントダウンも,いよいよトップ5に入ってきました。

ヒップホップそのものを愛するヒップホップヘッズの諸君たちへ。

今年イチの再結成といえばもう,ディップセット(Dipset!)の再結成でしょう。14年ぶりにNYはハーレム出身のヒップホップ最強グループ=The Diplomats(別名:Dipset(ディップセット))が再結成されました。これほどヒップホップファンにとってエキサイティングなニュースは,今年,なかったでしょう。

昨日第6位に出たドレイクですら,Dipset好きで有名です。

その彼らがDipset Reunion(ディップセットの再結成)を記念して作った楽曲「Once Upon A Time」のミュージックビデオを観てみましょう。

むかしからDipsetを聴いてきた人たちにとっては,「なつかしさ」で涙がこぼれるほど感動的なことでしょう。こういったヒップホップを次の世代にも受け継いでいかなきゃいけない,それが自分たちの使命であると,そう思います。

そしてDipsetを今回初めて聴いたというワカモノたちよ,2003年にリリースされた以下の曲を聴いてどう思うか君たちに聴いてみたい。ミュージックビデオの途中で曲調が変わるところとか,最近じゃケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)がやってますけれど,それは15年前にDipsetがすでにやっていました。

こういうのを見て「すげえことするヤツらだな」とか思ったり,彼らのド派手なヒップホップスタイルを見て自分らも真似したり,Dipsetは音楽だけでなく「スタイル全般」としてヒップホップを確立した,物凄く影響力のあるグループでした。その彼らが14年ぶりに再結成したなんて,まさに僕らが待ち望んでいたことですよ。

(文責:Jun Nishihara)

第7位「カニエ・ウェストの“Lift Yourself”という意味の無い歌詞(擬音)を発するだけの壮大なる楽曲」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

意味の無い歌詞に,声(音声)だけを発して1曲にしてしまうという全くイカレた偉業を成し遂げたのは,今年イチ物議を醸し出したヒップホップ・プロデューサーならぬラッパー,カニエ・ウェストです。

現在12月,いまだにドレイクとのビーフがやまず,トランプ支持についてペチャクチャ喋っているこの人ですが,ひとまず,第7位はめでたく「Lift Yourself」です。

さて,本題ですが,この無意味な歌詞のこの曲のどこが一体「壮大」なのか,ということですが,皆さまは音楽史に残る偉人,ジェイムス・ブラウンの「The Payback」という名曲をご存知でしょうか。

ジェイムス・ブラウンの『The Payback』(1973年リリース)は彼がリリースしたアルバムの中でも最も優れた作品と呼ばれております。

そのアルバムから45年後の時を経て,ジェイムス・ブラウンの「The Payback」で歌われる(動物のように発せられる)擬音語に満ちた「意味の無い」歌詞がカニエ・ウェストの音楽によってよみがえさせられた,といったら,それは壮大なことでしょう。

ここでファンクの帝王ことJB=ジェイムス・ブラウン(James Brown)の「The Payback」とカニエ・ウェスト(Kanye West)の「Lift Yourself」の類似性を確認しておきましょう。

Abo, jabba, jabba, abo
Ha, ha, abo, ha, ha
Jabba, ba, ha, jabbam ba, ha
Jabba, ba, ba, ba, ha, do
Do, do, do, do, do, do
Yo, go, go, go, go, go
Mi, bak, ya see you are
Ba, da, de, de, da
Ba, da, de, da
Ba, da, da, ba, da, da
Da, da, da, da
Da, da, da, da

アボ ジャバ ジャバ アボ
ハッ ハッ アボ ハッ ハッ
ジャバ バ ハッ ジャバム バ ハッ
ジャバ バ バ バ ハッ ドゥ
ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ
ヨゥ ゴー ゴー ゴー ゴー ゴー
もどってきたぜ そや ほらそこや
バ ダ ディー ディー ダ
バ ダ ディー ダ
バ ダ ダ バ ダ ダ
ダ ダ ダ ダ
ダ ダ ダ ダ
(ジェイムス・ブラウン「The Payback」より)

Poopy-di scoop
Scoop-diddy-whoop
Whoop-di-scoop-di-poop
Poop-di-scoopty
Scoopty-whoop
Whoopity-scoop, whoop-poop
Poop-diddy, whoop-scoop
Poop, poop
Scoop-diddy-whoop
Whoop-diddy-scoop
Whoop-diddy-scoop, poop

プーピディスクープ
スクープディディウープ
ウープディスクープディプープ
プープディスクープティ
スクープティウープ
ウープティスクープ,ウーププープ
プープディディ,ウープスクープ
プープ,プープ
スクープディディウープ
ウープディディスクープ
ウープディディスクープ,プープ
(カニエ・ウェスト「Lift Yourself」より)

そしてきわめつけは・・・

Here, here, here, here
Yeah, yeah, yeah, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, huh
Here, here, here, here, here
Here, here, here, agh, whoa

ほら ほら ほら ほら
イヤー イヤー イヤー ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
(ジェイムス・ブラウン「The Payback」より)

この「Here, here, here, here / Yeah, yeah, yeah, here」のくだりを実際の音声を聴いてみると分かると思いますが,まるでケモノが吼えているかのような声のようにも聞こえます。危険ですね。これはジェイムス・ブラウンであるからこそ通用しますが,もしこれを無名のアーティストがやって売り出せば猥褻行為で逮捕ものです。

そしてまさにその危険で猥褻さがカニエ・ウェストの「Lift Yourself」にも匂います。どちらも人間を「動物」としてとらえ,その「汚さ」やら「穢れ」やら「卑猥さ」やらをむき出しにして曝け出している音楽であるといえます。

もう一つこの曲が壮大であるという所以は,「意味」に悩んでいる人々(弱者)へ向けた応援歌ならぬアンチテーゼであるからです。あらゆるものには「意味がなければいけない」という固定観念をぶち破り,それに悩んでいる人々を根っこから「解放」してくれる爽快な曲であるからです。意味がなくてもラップはできる,意味がなくても生きる“意味”はある,ということを教えてくれる,人生そのものについて心の底から「解放」してくれる素晴らしい曲であるからです。こんな曲はヒップホップ界でいままで誰も作ったことが無いでしょう。カニエ・ウェストが「天才」と呼ばれる意味が垣間見れたことでしょう。

本日はクリスマスイブ(Xmas Eve)です。この「Lift Yourself」をかけて,意味なんかに囚われることなく,「意味」という固定観念などはぶっ飛ばして,文字どおり,自分自身をアゲて(liftして)みてください。

今日もRapHabitに来てくれて,ありがとうございました。
これほど弱者にパワーをくれる音楽を作るカニエというアーティストは,常に我々をサプライズしてくれる,天晴れなアーティストです。

(文責:Jun Nishihara)

第8位「本物のヒップホップファンであるのなら,ニプシー・ハッスルのアルバム『Victory Lap』を通しで聴くべし」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

遂に2018年のヒップホップ界に相応しいアルバムがリリースされました。ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)の『Victory Lap』です。

これはポップのリストでも,ロックのリストでもありませんから,ヒップホップの曲を載せています。アメリカ中のヒップホップ・ヘッズがアツく湧き上がったのが今年リリースされたニプシーの新作アルバム『Victory Lap』でした。今年イチのアルバムは,本物のヒップホップ・ヘッズにとっては,カニエのアルバムでも,ドレイクのアルバムでも,ニッキー・ミナージュのアルバムでもなく,このニプシー・ハッスルのアルバム『Victory Lap』でした。

5年前にニプシーが1枚100ドルの値をつけて限定1000枚で,『Crenshaw』というアルバムをリリースした際,限定1000枚のうち100枚を,ジェイZが1万ドル(約100万円)を出して買った,といったニュースがあったのを覚えているファンも少なくないと思います。その時ニプシーはMTVインタヴューでこう言っておりました。「ジェイZが俺のためにリスクを取ってくれた。でもその“上手いリスクの取り方”のおかげで,全てコトがうまく進むようになった。」

ラッパーには2種類のラッパーがいると云います。

ラップ・ファンに人気のラッパーと,
ラッパーが好むラッパー,の2種類です。

「ラップ・ファンに人気のラッパー」とは,つまりラップばかり聴いているラップのファン(これは一般市民であったり,ラップの音楽を好きな一般大衆であったりする一般のファン)のあいだで人気のラッパー。

もうひとつは「ラッパーが好むラッパー」,つまり,ラップ業を職業として金儲けをしているプロのラッパーが好むラッパーのことです。

そしてニプシー・ハッスルの場合は後者でしょう。

ヒップホップ界からのリスペクトを着々と確立されたものにしていっているニプシー・ハッスルの今後の動きに注目です。

ということで第8位は,ニプシー・ハッスルのアルバム『Victory Lap』です。

ここではボーナストラックに指定されている「Double Up」のミュージックビデオを記載しておきます。

おまけとして,ニプシー・ハッスルの曲からもう1曲。
「Hussle & Motivate」という曲です。

これは,ミュージカル『アニー』の主題歌である「It’s A Hard Knock Life」をサンプリングしたジェイZの「Hard Knock Life」のビートを下敷きにしています。

ニプシーは言います。
“Hustle the HOVA way.”(ホヴァ(=ジェイZ)のようにハッスルしろ。)

次回に続きます。

(文責:Jun Nishihara)

第9位「ドレイクの“God’s Plan”という100万ドル(=約1億円)の予算をかけて製作したミュージックビデオ」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

今年も残すところあと10日を切りました。

2018年総まとめヒップホップ曲ランキング《トップ30》です。
本日はいよいよ第9位の発表です。
トップ30からカウントダウンしてきたこのランキングですが,いよいよ昨日第10位を発表し,カウントダウンもあと少し,となってきました。

第9位:ドレイク(Drake)のシングル曲「God’s Plan」のミュージックビデオ。

上記ビデオを撮影するのにかけた予算はなんと,米貨$996,631.90ドル。ほぼ100万ドル(日本円で約1億円)です。ミュージックビデオ1つで,土地と家が1つずつ買えてしまう,という驚愕のビデオです。

このDrakeの曲は,今年の夏は「俺のもんだ」と予言するかのように「ひとまずの導火線」として発火した1曲でした。この「God’s Plan」のヒットを筆頭に,まさに「神が仕掛けた企て」のごとく,これに続くドレイクの曲は,次から次へとヒットの連続でした。この曲は1月19日にリリースされましたが,まさに今年1月から,アルバム『Scorpion』がリリースされた今年の夏を経て,そして,同アルバムからシングルカットされた曲の連続ヒットまで,今年のドレイクの勢いは12月になった今でも止まりません。「今年はドレイクのもんだ」というのはドレイクの予言ではなく,まさに神の予言のように,的中しました。

この曲の歌詞の中で特筆すべきは,ドレイクの謙虚さです。この曲でドレイクは繰り返し,次のセリフを曲の要所要所でリピートしています。

I can’t do this on my own.
(じぶん一人じゃ,できないことなのさ。)

それではこのミュージックビデオ中の3:14~3:20部分の生徒たちみんなで大合唱する歌詞部分を,これを読んでくださっている皆さんも一緒に合唱できるよう,歌詞と歌詞の意味内容をここで確認しておきましょう。

She said, “Do you love me?”
I tell her, “Only partly”
I only love my bed and my mama, I’m sorry

カノジョに聞かれた「あたしのこと愛してる?」って
俺は答えた「ちょっとだけな」
「ほんとに愛してるのは,おふくろと自分のベッドだけなんだ,ごめんな」

さて,もう一度上記ミュージックビデオを3:14の部分に合わせて,皆さんも一緒に大合唱に加わってみましょう。

せーの!

(文責:Jun Nishihara)

第11位「キッズ・シー・ゴーストの”Reborn”あるいはカニエ・ウェストの”Ghost Town”」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

どちらも幽霊に関するお話です。

この2曲は今年の夏真っ盛り6月〜7月にかけてリリースされた曲ですが,まさに真夏に涼しい気分にしてくれる「夏の風物詩」である「幽霊」をモチーフにした2曲でした。

曲の内容や対訳については,こちらを確認していただくこととして,ここではほんの少しだけ,この2人(カニエ・ウェストとキッド・カディ)の存在について話します。

ギャングスタ・ラップとかハスラー・ラップとかコンシャス・ラップとか,ラップの中でもいろいろなサブ・ジャンルが存在する中で,「今まで誰もやらなかったこと」をやってきた2人が,カニエ・ウェストとキッド・カディでした。その「今まで誰もやらなかったこと」とは何か,と言えば,大きく分けて3つあります。

1.弱者もしくは「一番ヒップホップから程遠いもの」の味方をしている。
2.カニエにしてもカディにしても,じぶんが「変人」と思われることを厭わない。
3.常にヒップホップの「外」にいる存在として,常にヒップホップに「新しい風」を入れ,マンネリ化しそうな局面にあったヒップホップを換気し,救い出し,空気を入れ換えてくれていた。

今年2018年はややもすると「ドレイクの年」と言われかけそうになっていたところを,カニエ・ウェストやキッド・カディが出てきて,新しい「ちょっと変わった」風を入れてくれました。ドレイクとトラヴィス・スコットの「SICKO MODE」の曲がラジオで一日中流れている中,キッズ・シー・ゴーストやカニエの曲が聞こえてくると,やはり新鮮さを感じさせます。

「ヒップホップの換気扇」として外の空気と入れ替えてくれていたカニエとカディのミュージックビデオを以下に載せておきます。

第11位:Kids See Ghosts – “Reborn”

そしてもうひとつ第11位:Kanye West feat. 070 Shake, John Legend & Kid Cudi – “Ghost Town”

(文責:Jun Nishihara)

第12位「亡くなる直前に収録されたマック・ミラーのNPR Musicのタイニー・デスク・コンサート映像」。(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

今年はヒップホップにとって素晴らしい年であり,同時に,悲しい年でもありました。

ヒップホップ界でかなり!貴重な存在であったマック・ミラー(Mac Miller)は2018年9月7日に26歳という若い年齢でその素晴らしい生涯を終えました。

先週(12月13日に),アリアナ・グランデが「Imagine(イマジン)」という新曲を発表しました。これは元カレであるマック・ミラーに捧げた曲とも言われています。

さて,26歳のマック・ミラーがヒップホップ界に与えてきた影響というものは計り知れないです。マック・ミラーの功績等については,こちらをご参照ください。

そして本日ご紹介するのは,以下,亡くなる直前に放映されたマック・ミラーのNPR Music Tiny Desk Concertです。

ハイライトは,映像11:30部分から始まる生演奏の「2009」です。

“You gotta jump in to swim.”
(水に飛び込まなきゃ,泳げない。)

“Buy a lot of things just to feel a lot ugly.”
(高価なモノをたくさん買って,けっきょく醜(みにく)く感じる。)

“2009 no more / Yeah I know what’s behind that door”
(もう2009年じゃない。あのドアの向こうに何があるかは,もう分かってる。)

“Sometimes, sometimes, I wish I took a simpler route / Instead of having demons that’s as big as my house.”
(時々,時々,思うんだ。もっと単純な人生を歩んでれば,って。巨大な悪魔につきまとわれるんじゃなくて。)

“Cuz the party ain’t over till they kickin’ me out.”
(放り出されるまで,パーティーは終わらない。)

Mac Millerの音楽は,ヒップホップを愛する我々の魂(soul)に刻み込まれ,これからも我々のsoulとともに,生き続けていくことでしょう。

(文責:Jun Nishihara)

第13位「A$AP Rockyとタイラー・ザ・クリエイターのコラボ曲”Potato Salad”」。(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

エイサップ・ロッキーとタイラー・ザ・クリエイターがコラボするなんて,誰が想像したでしょう?

この曲で凄いことは,お互いにラップのレベルを上げあっていることです。エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)がここまでスムースなビートに,押韻,抑揚,律動を加えてライムすることは久々です。まさにそのスムースなビートとはタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)の影響でしょう。タイラーもタイラーで,ここまで「ちゃんと」ビートに乗せて「はみ出さずに」ライムをしているというのは,エイサップ・ロッキーの影響でしょう。

このようにエイサップもタイラーも互いに影響しあって,螺旋状のようにレベルを上げあっている(レベル・アップさせている)という事実を見せてくれているのがこの曲です。

今年はこういった「互いに良い影響を与え合う」というコラボレーションが多かったですね。ドレイクとトラヴィス・スコットの2人,スウィズ・ビーツとリル・ウェインの2人,ジェイ・ロックとケンドリック・ラマーの2人,そしてエイサップ・ロッキーとタイラー・ザ・クリエイターの2人,という風にです。

その中でも,いちばんローキー(lowkey)で目立たず,それでいてここまで上手く融け合っているコラボレーションというのは,エイサップとタイラー以外には無かったでしょう。

「出」は二人とも,まったく違います。

エイサップはギャングスタ・ラップの出。
タイラー・ザ・クリエイターはコンシャス・ラップの出。

二人ともデビューは2007年。
しかし,その11年後,この全然違うスタイルで出発した2人が,こうして同じ曲でコラボレーションし,それにとどまらず(ジェイとカニエのように)『WANG$AP』というようなコラボレーションアルバムまでほのめかしているほどですから,ヒップホップファンとしてはワクワクものです。これですからヒップホップは飽きないですし,益々おもしろくなってきます。(そういえば,ジェイもハスラーラップの出,カニエももともとは,モス・デフやタリブ・クウェリやコモンたちが所属していたコンシャス・ラッパーの集団の出でした。)

ヒップホップの楽しさを垣間見せてくれた,思い出させてくれた,今年イチのコラボレーション曲として,第13位はこの2人です。

最後に2人の曲「ポテトサラダ(Potato Salad)」を載せておきます。

(文責:Jun Nishihara)

第14位「シアラの”Level Up”で次世代のヒップホップダンスを踊れ」。(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

さて,前回の第15位に続いて,第14位は,ミッシー・エリオットの女弟子であるシアラ(Ciara)の曲「Level Up」です。

日本でもヒップホップダンスをされる方は,知らない人はいないと言われるシアラの存在ですが,彼女は2002年にリリーされた巨大ヒットシングル曲「1, 2 Step」で全世界にヒップホップダンスの嵐を巻き起こしました。彼女を取り巻くアーティストは,全米ネットで放映されたアメリカン・アイドル(American Idol)でおなじみのファンテイジア(Fantasia)や,ヒップホップ・プロデューサーのジャジー・フェイ(Jazze Pha),そしてシアラの師匠であるミッシー・エリオットです。

シアラのキャリアの一番最初にヒットしたシングル曲としての「1, 2 Step」ではミッシー・エリオットをフィーチャリングしており,実際にミッシーも作曲に加わっています。この曲は当時,ヒップホップダンスの未来と呼ばれた程,ミュージックビデオもダンスの振り付けも,全米で大人気を博しました。

その彼女が,今年リリースした最大のヒップホップダンス曲が本日ランクインした「Level Up」です。2002年にリリースされた「1, 2 Step」がそうであったように,2018年リリースされた「Level Up」も未来のヒップホップダンスと呼んでいい程,今年は誰もこんな素早いヒップホップダンスはやらなかったですね,シアラ以外は。

実際に「Level Up」のミュージックビデオで観られるダンスをご自身でもやってみると分かると思いますが,息が切れます。心拍数が上がり,最強の有酸素運動となるでしょう。今までのヒップホップダンスは,ゆっくりめで態度をデカく見せつけビートに乗ってダンスする,というのが一般的でしたが,今年シアラが全米に流行らせたダンスは,スピード感に溢れ,こまやかなキレで,腰を微妙に使い,早いテンポでバウンスする,というまさに今まで見たことないヒップホップダンスでした。

今まで見たことないヒップホップダンスですが,全米のヒップホッパー女子がこれを真似して,SNS上に自分が踊る「Level Up」のダンスをアップして,話題になりました。一部では男子も真似して踊り,笑いをもたらせてくれました。今年全米に広がったその現象は「レベルアップ・チャレンジ(Level Up Challenge)」と呼ばれました。

以下のビデオは素人コメディアンのクウェイ(Kway)がインスタ上にアップした「Level Up」のダンスビデオのスクリーンショットですが,再生回数はまだシロウトのコメディアンにもかかわらず,すでに500万回を超えています。(@blameitonkway on Instagramより)

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さて,今年全米に「Level Up Challenge」現象を巻き起こした本物のビデオが以下のとおりです。

そして全米・・・いや,以下のビデオを見ると全世界ですね,シアラの公式YouTubeアカウントで発表された素人が踊る「レベルアップ・チャレンジ」のビデオを集めたコンピレーションです。

続いて,Aliya Janellによる別バージョンの振り付け(Choreography)も載せておきます。

ミッシー・エリオットが2002年にシアラという前途多望なアーティストをジョージア州アトランタで発掘していなければ,16年後の現在こういった現象も起きていなかったということです。まさに昨日の話じゃないですけれど,ミッシーがヒップホップ史に与えた功績は計り知れないものですが,いくらミッシーが偉人であったとしても,シアラもシアラで,それを受け容れる器がなければ,ここまで大きなアーティストにはなり得ていなかったでしょう。ヒップホップダンスという「新しいジャンル」を生み出したミッシー,そしてそれを師匠から受け継いでまさに現役で全世界にダンスと振り付けを広めているシアラは,ヒップホップ界にとって現代欠かせない大切なアーティストです。

(文責:Jun Nishihara)