第4位:大ブレイク寸前,漆黒の女子ラッパー=オラニカ又の名をCHIKA「トランプ大統領への手紙」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

チカ(CHIKA)という凄いラッパーがいます。日本ではまだ知られていないでしょう。アンダーグラウンドで活動し,最近はグツグツと煮え滾っており,間も無く大ブレイク寸前,漆黒の女子ラッパー,それがチカ(CHIKA)又の名をオラニカ(Oranicuhh)と言います。

まずはこちらをご覧下さい。ゲイの代弁として,オンナの代弁として,漆黒の肌を持つ者の代弁として,トランプ大統領へレターを放ちます。

チカ(CHIKA)はアメリカ深南部(deep south)のアラバマ州出身。Alabama-Obama-Mamaという彼女にとって重要な3つの単語が韻(rhyme)を踏んで彼女のライムに共鳴します。

“They want us to wallow.”
(連中は私たちがもがき苦しむのを見たがっている。)

「連中」というのはトランプ大統領を筆頭にした現政府の官僚のことでしょう。
「私たち」というのは深南部,とくにアラバマ州のようにゲイの権利や,女性の権利等が共和党政権(Republicans)によって剥奪された人間のことでしょう。

これほどの苦しみと憤りをここまで冷静に音楽に昇華させるのは,2年前のケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のMTVステージでのライヴ・パフォーマンスを思い起こさせます。

曲の後半でオバマ前大統領の名前が出ます。10年前,当時12歳だった小学生のチカ(CHIKA)はランドセル(book bag)を背負って,そこに自分で描いたオバマ大統領の肖像画の画用紙を入れて,家に帰ってママに見せようと胸を張って歩いた,という文が出てきます。この部分です。

I think it’s crazy when I look back
I remember being 12 and in my book bag I tucked away the drawing of Obama
I was so proud I couldn’t wait to show my Mama
He was larger than life
Bigger than black
Made me rethink what’s holding me back and kill these excuses I ever had to be anything less successful.

唖然とするよ,あの頃を思い出すと
12歳の頃,私はオバマの肖像画を描いてランドセルに入れた
それを提げて誇らしげに,ママに見せるのが待ちきれなかった
オバマは英雄だった
「ブラック」以上の存在だった
それを見て私は自分の人生を考え直した,「ブラック」であることを言い訳に,黒人だから成功できないなどと,私は何を馬鹿なことを考えていたのかと。
(歌詞起こし及び対訳:Jun Nishihara)

チカ(CHIKA)のその他のフリースタイルを以下のとおり3件,掲載しておきます。

ローリン・ヒル(Lauryn Hill)をフリップしたフリースタイルは美しい。
カニエ・ウェストに対する反骨フリースタイルはハングリーで醜い。
美しきは醜く,醜さは美しい。

P.S.ローリン・ヒル(Lauryn Hill)の名盤『The Miseducation of Lauryn Hill』がリリースされた1998年,チカ(CHIKA)は1歳。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

第19位:ウェッサイはオークランド出身の現在ノリノリの若手女子MC=Kamaiyahの新曲「Still I Am」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

スローでメロウなラップをカマすカマイヤ(Kamaiyah)は1992年生まれ。ギャングスタの血を引き継ぎ,ラップスタイルは西海岸出身の雰囲気がドクドク血のように流れるBay Area臭いアーティストです。Bay Area… more specifically, Oak Town A.K.A. Oakland出身です。

2019年の第19位は若手女子MCの彼女=カマイヤ(Kamaiyah)に贈ります。

Kamaiyah – “Still I Am”

Kamiayah feat. Quavo & Tyga – “Windows”

MERRY CHRISTMAS!!!!!

(文責:Jun Nishihara)

第20位:姉御Trinaと令妹Nicki Minajのコラボレーション曲「BAPS」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

本年リリースされたトリーナ(Trina)&ニッキー・ミナージュのシングル曲「BAPS」が古き良きサウス・ヒップホップをよみがえらせました。そしてTrinaが最近の若手女子ラッパーたちへ与えた影響力は偉大なるものであると,当サイトでも何度も書いてきました。

当該楽曲については,以下をご参照願います。

元ネタの曲を知る⑨:TRINA & ニッキー Minaj ⇆ Big Tymers, ジュヴィナイル&リル・ウェイン

そしてトリーナがどれだけサウス出身の若手女子ラッパーたちに影響力を与えきたかは,最近の若手女子ラッパーの曲を聴いてみれば感じると思います。今までトリーナがやってきたことが,うまく受け継がれてきております。カーディBやニッキー・ミナージュやキャッシュ・ドールやドージャ・キャットやカマイヤやティアラ・ワックやシティ・ガールズ,彼女たち若手ラッパーに影響を与えてきた張本人がまさしく,トリーナ(Trina)なのです。

以下もご参照願います。

ヒップホップ歌詞引用解説:2ライヴ・クルー「Me So Horny」の場合。

それでは,Trina & Nicki Minaj – “BAPS”で本日を締め括ります。

Merry Christmas EVE!

(文責:Jun Nishihara)

永久保存版:米・女子ラッパーを網羅②:写真&代表作 (ニッキー・ミナージュ(2004)以前)

前回はニッキー・ミナージュ登場以前からすでに活躍していた女子ラッパーについて包括的にご紹介いたしました。つまり2004年以前にすでにヒップホップ最前線で活躍していた女子ラッパーたちです。

本日はその彼女たちの写真にあわせてもっとも最初に聴くべき代表作品とともにご紹介していきます。

1. Roxanne Shante (1984)(ロクサン・シャンティ)
71TIdVE9I7L._SL1500_

代表作:『Bad Sister』
4 Panel Digipak w Pocket Final

2. Salt-N-Pepa (1986)(ソルト・アン・ペッパー)
1495308_799700556726096_1176083922_o

代表作:『Very Necessary』
R-6141910-1412109292-5521.jpeg

3. MY Lyte (1988)(MCライト)
MC+Lyte+2016+ESSENCE+Festival+Presented+Coca+asDj6Ub5cfal
(↑真ん中がMC Lyteです。)

代表作:『Act Like You Know』
R-1085688-1190940789.jpeg

4. Queen Latifah (1989)(クイーン・ラティファ)
Black Girls Rock! 2018 - Show
(左=Mary J. Blige, 右=Queen Latifah)

代表作:『Black Reign』
R-309187-1092087556.jpg

5. Mary J. Blige (1989)(メアリー・J.ブライジ)
static.politico

代表作:『What’s the 411』
R-9871677-1487707332-2623.jpeg

6. Missy Elliott (1989)(ミッシー・エリオット)
capture211

代表作:『Under Construction』(下記ジャケ写真)もしくは『Miss E… So Addictive』
under-construction

7. Monie Love (1990)(モニー・ラヴ)
Celebrities Visit SiriusXM - August 28, 2012

代表作:『Down to Earth』
R-3681334-1340139292-9977.jpeg

8. Da Brat (1992)(ダ・ブラット)
11667486_715542858573514_5495927136240809673_n-1

代表作:『Funkdefied』
HO5A2105

9. Rah Digga (1993)(ラー・ディガ)
THE SOURCE NOMINEES ML
(左=Lil’ Kim,右=Rah Digga)

代表作:『Dirty Harriet』
R-771324-1482828982-7925.jpeg

10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)(ローリン・ヒル)
nxzwercotkagvxkf6xtpo9vhreiwfmxnrvrofsrbccjud62z4fyryfgx3idp23v1

代表作:『The Miseducation of Lauryn Hill』
R-227020-1314476480.jpeg

11. Lil’ Kim (1994)(リル・キム)
eve-lil-kim
(左=Lil’ Kim, 右=Eve)

代表作:『Hard Core』
R-9394146-1484398630-5395.jpeg

12. Erykah Badu (1994)(エリカ・バドゥ)
Erykah-Badu-Tiny-Desk-Aug-2018

代表作:『Baduism』
baduizm

13. Amil (1994) (アミル)
video_image-264708
(左から,Memphis Bleek, Amil, Jay-Z, Beanie Sigel)

代表作:『All Money Is Legal』
R-2626479-1293915443.jpeg

14. Charli Baltimore (1995)(チャーリ・バルティモア)
tumblr_owunupnFm91qhr6j3o1_1280
(左=Charli Baltimore, 右=Ashanti)

代表作:『Cold As Ice』
R-1375958-1507495628-1808.jpeg

15. Foxy Brown (1995)(フォクシー・ブラウン)
nicki-minaj-foxy-brown
(左=Nicki Minaj, 右=Foxy Brown)

代表作:『Broken Silence』(楽曲3,4はアツ過ぎ!“B.K. the Home of Biggie and Jay!”)
R-5815075-1403520251-4442.jpeg

16. Ms. Jade (1995)(ミズ・ジェイド)
480x480

代表作:『Girl Interrupted』(楽曲3はティンバランド制作ビートに似合いすぎ,楽曲10はジェイとの共演作(ヒップホップのクラシック!)。)
R-697107-1176913616.jpeg

17. Bahamadia (1996)(バハマディア)
hearthis4-bahamadia

代表作:『Kollage』(↓アルバムジャケの裏面)
R-138826-1332656356.jpeg

18. Shawnna (1996)(ショーナ)
Untitled
(Shawnna, Ludacrisとのツーショット)

代表作:『Block Music』
Block-Music

19. Eve (1996)(イヴ)
eve_photo_by_michael_loccisano_film_magic_getty_76089113

代表作:『Scorpion』(楽曲9はDa BratおよびTrinaとの女子ラッパー3名の共演作。)
R-4260767-1391912517-6738.png

20. Trina (1998)(トリーナ)
4285452f36da8020e6295771fe9da1a0
(同郷マイアミ出身=Rick Rossとのツーショット)

trina-discusses-lil-wayne-proposing-to-her-their-current-relationship-miami-heat-beef.jpg
(元カレ=Lil Wayneと)

代表作:『Who’s Bad』(トリーナのラップ範疇の広さを物語るのは,楽曲16のようなエロい曲から,楽曲4のようなフリースタイルまで,あらゆる内容についてスピットできることです。)
418459233723

新曲:「F*** Boy」

21. Vita (1998)(ヴィータ)
ja-rule-ashanti-vita-teen-people-party-1519835727-view-0
(左から,Vita, Ja Rule, Ashanti)

代表作:『Pre-Cumm』
Vite_Pre-cumm_the_Mixtape-front-large

22. Remy Ma (2000)(レミー・マ)
Celebrity Sightings in New York City-September27, 2018
(ダンナのPapooseと)

代表作:『there’s something about remy』
61wiDEyZgNL._SY355_

(文責:Jun Nishihara)

永久保存版:米・女子ラッパーを網羅① (ニッキー・ミナージュ(2004)以前)

teyana-taylor-and-missy-elliott
(写真は2018年2月15日,ハーレムのネイルサロン(Junie Bee Nails)のオープニングセレモニーで。左はTeyana Taylor,右はMissy Elliott。)

本年2019年,ヒップホップ界で何が最大の出来事だったかといいますと,ヒップホップ史上最高の度合いで女子ラッパーたちが活躍したという事実でしょう。今年は物凄い勢いで女子ラッパー陣が活躍いたしました。

現代ヒップホップには欠かせないシティ・ガールズ(City Girls)やカーディB(Cardi B)といったラッパーたちもさることながら,今年は「女子ラッパーの年(Year of the Female Rappers)」と呼んでいいほど,あらゆるエリアからの女性ラッパーがメインストリームへの登場を果たしてきました。

シティ・ガールズに関しては,昨年ドレイクが楽曲「In My Feelings」をリリースしたことにより,一躍有名となりました。これまではフロリダ州の一部でしか名を馳せていなかったこの女子ラッパーユニットは,ドレイクのこの曲のおかげで世界的名声を勝ち得たともいえます。

カーディBに関しては,もはやヒップホップ界のみならず,ポップス界で勝負していけるほどの才覚やセンスの持ち主となり,3年前(2016年)の時点ですでに,当時ポップス界のブルーノ・マーズと肩を並べるほどの存在となりました。

さて,こうした現代ヒップホップ界における「女子ラッパー」の存在にスポットライトを注いだ火付け役といえば,おおもとを辿れば,ニッキー・ミナージュが始まりといえます。2007年にアングラでリリースされたミックステープ『Playtime Is Over』収録のフリースタイル曲「Warning」でニッキーはヒップホップのアングラ界で一躍有名となりました。これだけフリースタイルをカマせる女子ラッパーはめずらしいぞ,と。ニッキーが世に出てきたからというもの,数多の女子ラッパーが登場しました。Azealia Banks, Rapsody, Young M.A, Iggy Azalea, Angel Haze, Dreezy, DeJ Loaf, Doja Cat, Snow Tha Product, Saweetie, Lizzo, Teyana Taylor等々です。

逆に,ニッキーが世に出る「までの」女子ラッパーというのももちろんおります。
以下は女子ラッパーの礎を築いた,それこそ最重要人物たちです。
このリストは心に刻んでおくべきでしょう。この人たちがいなければニッキー・ミナージュの存在はなかったといえます。そしてニッキーの存在がいなければ,今のシティ・ガールズやカーディBもいなかったでしょう。しかしながら,ニッキーの存在が凄いのは,黄金時代の女子ラッパーたちと現代の女子ラッパーたちの「あいだ」の存在として,ちゃんと橋渡しをしているところです。ニッキーが出るまでは今の世代の女子ラッパーは半分以上現れていなかったと過言してもよいところでしょう。

『歴代女子ラッパー』:ヒップホップ黄金時代の礎を築き上げた偉大なる女子ラッパーたち
(上からデビュー順に並べていきます。( )内はデビューの年です。)
1. Roxanne Shante (1984)
2. Salt-N-Pepa (1986)
3. MC Lyte (1988)
4. Queen Latifah (1989)
5. Mary J. Blige (1989)
6. Missy Elliott (1989)
7. Monie Love (1990)
8. Da Brat (1992)
9. Rah Digga (1993)
10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)
11. Lil’ Kim (1994)
12. Erykah Badu (1994)
13. Amil (1994)
14. Charli Baltimore (1995)
15. Foxy Brown (1995)
16. Ms. Jade (1995)
17. Bahamadia (1996)
18. Shawnna (1996)
19. Eve (1996)
20. Trina (1998)
21. Vita (1998)
22. Remy Ma (2000)

ここまでがひととおり,ニッキー・ミナージュがヒップホップのアングラ界で名を挙げるまでに登場した,ヒップホップ黄金時代を築き上げた最も重要な女子ラッパーたちです。(つまり,ニッキー以前のラッパーたち。)

非常にたいせつなリストですので,もういちど復習しておきます。

1. Roxanne Shante (1984)←※昨年,映画『Roxanne Roxanne』を観ました。初期のヒップホップにとってあまりにも重要な人物ですので,彼女へのリスペクトを表し,その半生を描いた映画です。映画の後半には子供の頃のNas(ナズ)も出てきます。この映画を観ると,あのナズでさえも,彼女(Roxanne Shante)の生き様に関わっていたことがわかります。Roxanne Shanteは1969年のクイーンズ生まれ。母子家庭で姉妹とともに育ちました。9歳の頃にラップを始めて,14歳の頃にラッパー名をロリータからロクサン(英語読み)へと変更。周りの女子は誰一人としてラップなんてしていなかった時代に,ラップを始めた。その度胸だけでも称賛されるべきです。その生き様はまことに苦闘の日々でした。その苦闘をラップ曲へと昇華することに成功し,初期ヒップホップを次に紹介するSalt-N-Pepaへと繋げた最重要人物です。

2. Salt-N-Pepa (1986)←※塩(ソルト)はシェリル・ジェイムス,胡椒(ペッパ)はサンドラ・デイトンです。二人はクイーンズの短大(Queensboro Community College)で看護学を学ぶ学生時代に出会い,ラップユニットを結成しました。シェリルはブルックリン出身。サンドラはクイーンズ出身。もともとはスーパーネーチャー(Super Nature)というユニット名で,3人目がいました。専属DJのDJ Spinderella(スピン+シンデレラ=スピンデレラ)です。Salt-N-PepaはRoxanne Shanteと並んで,ヒップホップの創設時代に必ず名前が挙がる人物です。

3. MC Lyte (1988)←※自身の名前に“MC”という呼称を付ける数少ないMCの一人です。しかも女性で。しかもですね,女子ラッパーで“MC”という呼称を入れているのは,MCライトだけです。男子ラッパーでは,MC Ren, MC Eigt, MC Shan, MC Jin, MC Hammer等いますが,女性ではMC Lyteのみ。女子ラッパーというより,女子リリシストと呼べるほど凛々しいラップをする彼女。MC Lyteの曲で「Poor George」というのがあります。ジージー(Young Jeezy)が楽曲「Shake Life」でサンプリングしておりました。名曲ですので,「Poor George」(1991)を聴いてみてください。しかしそれにも,さらに元ネタがありまして,それがTotoの「Georgy Porgy」(1978)でした。

4. Queen Latifah (1989)←※知っていますか?クイーン・ラティファとニッキー・ミナージュが映画『Barbershop: The Next Cut(邦題:バーバーショップ3 リニューアル!)』で共演していることを。女性ヒップホッパーというジャンルを象った一人の女性(=ラティファ)が,今の世代のバービー・ドールたちを産み出した若き女子ラッパー(=ニッキー)とともに「世代を超えて」共演している映画があるということを。ニッキーは今,アップル・ミュージック(Apple Music)専用ラジオ局で,Queen Radioというラジオ局を持っておりますが,おおもとの“Queen”はこの人=Queen Latifaでした。ラティファとニッキーがこうして多面的に繋がっていることにより,ラティファの音楽がいつの時代も生き続けるように祈るばかりです。

5. Mary J. Blige (1989)←※ヒップホップ界ではいろいろな人が「クイーン」の名を好き勝手に使っておりますが,この人こそが正真正銘「元祖クイーン」です。メアリーは次に出るミッシーとともに,黒人女性にとって非常に重要なアイコンでしょう。メアリーの名盤『What’s the 411』は,女子ラップではなく,女子とか男子とかカンケーなく,ヒップホップ音楽(そしてR&B音楽)における最も重要なアルバムです。日本国民全員が一家に一枚持っておくべき最重要アルバムです。今晩の夕ご飯の時には,TVは消して,DVDも消して,Netflixも消して,『What’s the 411』をかけてみてください。ハマります。一度ハマれば,二度と戻れない。一度ブラックにハマれば,二度と戻れない(“Once you go black, you can never go back.”)。入り口は『What’s the 411』です。全てはここで始まります。そんなアルバムを作ったメアリーは次のミッシーとともに歴史的人物として歴史(少なくとも黒人女性の歴史)の教科書に載るべき人物でしょう。日本の小学校の歴史の授業で,「メアリーがいたから〇〇」や「ミッシーがいたから〇〇」の〇〇には,この二人により救われた人々の名前が入ります。メアリーの何がすごいかって,彼女の苦しみと涙に満ちた歌詞に共感する女子が当時も,今も,ほんとうに多くいらっしゃるということです。時代は変われど,メアリーの歌詞と歌に共感する人は絶えないですね。それだけ女子にとって普遍的な音楽を創り続けているメアリーは偉大な人物です。

6. Missy Elliott (1989)←※いやぁ,ミッシーに関しては,現代黒人女子ラッパーのみならず,黒人女性のアイデンティティを作り上げたという点において,特筆すべき,非常に重要な歴史的人物です。「黒人女性史」というジャンルがあるならば,必ずメンションされるべき人です。この前,どこかのTV番組で,若い黒人女性シンガーがこう言っているのを見かけました。「こんなデブの私でもひとりのブラックシンガーとして認められるようになったのは,ミッシーのおかげです。当時ミッシーが,MTVで流れるミュージックビデオでダンスしているのを観て,私も家で曲にあわせて真似して歌った。ミッシーが成し遂げたことは,黒人女性にとって革命的なことだった。」ヒップホップや音楽という範疇を超えて,ミッシーが成し遂げたことは,黒人女性にとっていかにたいせつであったかを,別の機会に書ければと思っております。

7. Monie Love (1990)←※UK出身です。英国はロンドン生まれ。名前の読み方は「マニー・ラヴ」ではなく「モゥニー・ラヴ」。彼女の「Monie in the Middle」を聴いてみて下さい。「彼女は誰だ!」「モゥ,モゥ,モゥニー・インダ・ミド」「ダ,ダ,ダ,ミド!」って言ってます。

8. Da Brat (1992)←※ヒップホップ界最も重要なプロデューサーの一人であるジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)率いるソー・ソー・デフ(So So Def)所属の女子ラッパー。高い声に,早いラップが売り。ノリは良く,ツカミは完璧。パッパッパとしたテンポのいいラップが好きな人なら,すぐに好きになれます。彼女のアルバム『Funkdafied』はオススメ。ジャーメイン・デュプリは数えきれないほどの名曲を残しておりますが,Lil’ Kim, Left Eye Lopes, Missy Elliott, Da Brat & Angie Martinezとのコラボレーション曲「Not Tonight」の中でもいちばんハードなラップをカマしているのはDa Bratでした。

9. Rah Digga (1993)←※バスタ・ライムス率いるフリップモード・スクワッド軍団のファースト・レディ!女子なのにタフ.タフ,タフ。タフな女子ラップを聞きたければ,とにかく彼女のアルバムを聞くべし。彼女が尊敬するラッパーは,KRS-One,Rakim,Kool G Rapと,ヒップホップ界でもハードなラップをするベテラン勢を挙げております。メジャーデビューは,当時Q-ティップに才能を見出さられ,バスタ・ライムスを紹介されたことに始まります。

10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)←※下記12.のエリカ・バドゥもそうですが,ローリン・ヒルについても日本の女子ヒップホッパーの間で特に人気がありますね。彼女のグラミー賞受賞のアルバム『Miseducation of Lauryn Hill』はあまりにも有名です。それまでは,女子ラッパーが「Album of the Year(最優秀アルバム)」を受賞したことはありませんでした。歴史上初めて最優秀アルバム(ヒップホップ部門でもなく,ラップ部門でもなく,女性アーティスト部門でもなく,全てを包括した中で,男女関係なく,ジャンル関係なく,最も優秀なアルバム)は,ヒップホップ,しかも女性のヒップホップとしては,初めての快挙でした。そういった意味では,ヒップホップ史のみならず,音楽史で非常に重要なアルバムでしょう。

11. Lil’ Kim (1994)←※冒頭でニッキー・ミナージュは現代女子ラッパーのおおもとを築き上げた人物だと云いました。ニッキーがそうであれば,リル・キムが成し遂げたのは,ニッキーが成し遂げたものとの性格(性質)は似ているかもしれません。また,90年代のヒップホップで最も有名な女子ラッパーとも呼べるかもしれません。名付けて女子OG。女子のオリジナル・ギャングスタ。ブルックリン出身で,ビギーの愛人。レコードでもビギーとのセックスをそのまま曲に流し,下品なラップ曲を厭わずに,世に出しました。ヒップホップに恥など無関係,と言わんばかりに。このおかげで,あらゆる女性が自由を勝ち取ったことでしょう。女子のエロを解放してくれたラッパー,それがリル・キムでした。

12. Erykah Badu (1994)←※この人が成した功績に関しては,ここだけでは語りきれないでしょう。エリカ・バドゥは日本のヒップホッパー女子にも非常なる人気を誇っております。わたくしがここで語るのはおこがましいことですが,ひとつ彼女について言えるとすれば,エリカ・バドゥほどヒップホップに創造性を与えたアーティストは男女ともにいない,ということでしょう。彼女ほどヒップホップの可能性をさぐった人はいませんでしたし,その可能性をどこまでも挑戦し続けた。実践的な面でも,スピリチュアルな面でも。そしてヒップホップそのものと肉体面での関係を持ち,純粋にそれを愛した。肉体のエロさという極致とスピリチュアルな愛というもののもう片方の極みを昇華させたアーティストは男のアーティストを探してみてもめずらしいでしょう。エリカほど理解不能な歌手は今の時代はあらわれにくくなっていますねえ。

13. Amil (1994)←※アミルの特徴的な声は忘れられません。今はどこにいるのかわかりません。でも彼女の声だけはこの耳にこばりついています。ケガが治りかけた瘡蓋のように。ジェイZの「Can I Get A…」を聴いてみてください。あと,1998年に日本でデフ・ジャム関係のアルバム(国内盤)を入手すると,「次回Def Jamレーベルからリリース予定の新盤!」ということでライナーノーツにおまけでチラシが入っていました。その中で,アミルのアルバム『All Money Is Legal』が近々リリース予定!として記載がありました。そしてそれがリリースされたのは2000年8月29日。リードシングル「I Got That」では当時まだデスチャに所属していたビヨンセをフィーチャリング。デフ・ジャムのみならず,Roc-A-Fellaレーベルの辿った歴史として,重要な女子ラッパーです。

14. Charli Baltimore (1995)←※チャーリー・ボルティモアはビギーの愛人でした。ビギー(=The Notorious B.I.G.)は1995年,ライヴ後のアフター・パーティでチャーリーと出会い,関係を持ち始めました。ビギーとジェイZとパフ・ダディが当時スーパーグループ=The Commissionを結成しようと計画していたのを目の当たりにしていた女子ラッパーこそが彼女チャーリーでした。チャーリーに聞けば聞くほど,当時のビギーの秘話が出てくる出てくる。ビギーと関係を持っていた女子ラッパーとして,おさえておくべき重要人物でしょう。

15. Foxy Brown (1995)←※フォクシーは当時,Nas達とThe Firmというスーパーヒップホップユニットを結成しておりました。その彼女が,ジェイZの楽曲「Ain’t No Nigga」にフィーチャリングされ,一躍有名に。デビュー作の『Ill Na Na』ではその特徴的な声で,ヒップホップ界に「新しい旋風」を巻き起こしました。リル・キムとは違った趣向で切り口,角度でヒップホップに登場しました。当時は,「リル・キム派」か「フォクシー・ブラウン派」か,もしくは第三の波「ミッシー派」か,その三大帝王の指に入るほどメジャーなフィメール・ラッパーでした。

16. Ms. Jade (1995)←※個人的にはとても好きな女子ラッパーです。彼女を知ったのは2001年でした。当時ニューヨークのストリートで売られていたミックステープにMs. JadeとJAY-Zのコラボ曲が収録されていて(「Count It Off」という曲です),あれがヒップホップこてこてのクラブ(当時NYCで有名であったClub Speed(ヒップホップ伝説の男DJ Mister Ceeもここでスピン!))で流され,「おぉ,これミックステープで聴いた曲や!」とテンション上がったのは記憶にあります。Ms. Jadeのフィリーをレペゼンする,ドスの聴いた声で低音ベースがガンガン聴いたティンバランド・ビーツは超マッチ。「Count It Off」はあらゆる意味で名曲ですので,聴いてみてください。

17. Bahamadia (1996)←※デビュー作アルバム『Kollage』のカバー表紙はきっと見たことがあるでしょう。あまりにも有名なアルバム。女子ラッパー名盤。バハマディアのこのアルバムは必ず聴いておくべき。

18. Shawnna (1996)←※アトランタ出身リュダクリスのDisturbing Tha Peaceレーベル所属。ショーナ自身はシカゴ出身。リュダクリスのメインストリーム・デビュー・シングル曲である喘ぎも入るエロエロの曲「What’s Your Fantasy」でコラボレーション。

19. Eve (1996)←※もはや女優としての才能に恵まれた多才なラッパー。当時はスウィズ・ビーツ率いるラフ・ライダーズのファースト・レディー的存在。

20. Trina (1998)←※女子ラッパー,特にサウス出身の女子ラッパー,にとっても最も重要な女子MC。サウス女子のそれこそ礎を築き上げた張本人

21. Vita (1998) ←※当時ジャ・ルールと同胞マーダーINC.に所属していた女子ラッパー。ジャの「Put It On Me」のPVがMTVで流れ,そこでジャの相方としてラップしていた細身の彼女。

22. Remy Ma (2000)←※Ne-Yo(ニーヨ)とのコラボレーション「Feels So Good」はあまりにも有名な楽曲。当時ミックステープを売りまくっていた「アルファベットラッパー」ことPapoose(パプース)と結婚。パプースはオフィシャル・アルバムを出す出す出す,と言っていて,ずっと待ち続けていたが,いまだに出していない。(蛇足ですが「アルファベットラッパー」といっても馬鹿にすることなかれ。アルファベットを「A」から「Z」まで順番に韻を踏んでいくんです。当時ニューヨークのHOT97で聴いたときは,「スゲエッ!こんなん初めて聴いたわ!」と度肝を抜かれました。後に同胞ブルックリン出身のファボラスも「C→G」までアルファベットラップをやって,それもなかなかよかったです。)

さて,次回は各女子ラッパーの写真と代表作を掲載します。

(文責:Jun Nishihara)