黒人音楽の月であり奴隷解放記念日であるJuneteenthに,ティアナ・テイラー (Teyana Taylor)新盤をリリース。

黒人音楽の月(Black Music Month)に相応しいアルバムリリースとはこのことです。

ティアナ・テイラー(Teyana Taylor)の新盤『The Album』が2020年6月19日(黒人奴隷解放記念日=Juneteenthの日)に解放=リリースされました。

Teyana-Taylor

実はティアナ・テイラーと当サイトの進むべき方向性は似ていると思っております。彼女は1990年生まれで,まだ29歳であるにもかかわらず,まさに90年代のR&Bミュージックで奏でられた「音と声」を現在のブラック・ミュージックに蘇らせているのが彼女であります。つまり,90年代の音楽がティアナ・テイラーを媒介とさせて生きている,ということです。「旧い音楽」というものが,こうしてティアナ・テイラーのようなアーティストが出現することにより,30年の周期で蘇っているのであれば嬉しいです。

勿論新しい体系の音楽も若者の黒人音楽も素晴らしいですが,同時に「聴き続けられるべき音楽」をこのように蘇らせてくれるのも素晴らしい。この両サイドをバランス良くとらえて楽曲に昇華させているのがティアナ・テイラーであり,それは同時に当サイトが目指すところでもあります。

ティアナ・テイラー(Teyana Taylor)の新盤『The Album』では,エリカ・バドゥ(Erykah Badu・・・出た!)やローリン・ヒル(Ms. Lauryn Hill)をフィーチャリング・ゲストとして迎えており,ティアナの芸への熱が感じられます。

楽曲4「Lowkey」でエリカの声が聞こえる瞬間,たしかに「おぉっ!」となりますね。ティアナとエリカのヴァースはこの楽曲では明確に区別されており,そこがエリカの偉大さに対するティアナの敬意のように感じられます。

楽曲5「Let’s Build」はしっとりとしたメロディーの楽曲です。ミーゴスのメンバーであるラッパーQuavoを迎えておりますが,これはQuavoがジョインした曲の中でも最もオトナっぽいしっとりとした曲の類に入るのではないでしょうか。

楽曲6「1800-One-Night」は,ティアナ自身がプロデューサーとして関わった楽曲です。つまり,「ワン・ナイト・スタンド(一夜だけの愛)」をテーマにした曲ですが,官能的な歌詞にしても,ティアナが制作したアンビアンス溢れるメロディーにしても,そういった夜があれば,まさにこの曲,使えます。そして次の楽曲7「Morning」(一晩明けた後の朝)へ移る移行(transition)は格別です。このあたり,楽曲5でしっとりとして,楽曲6でエロくして,楽曲7で朝を迎える,という風にグラデーションのように並べられているのはシングル曲では味わえないアルバムならではの聴き方でもあります。そして次・・・

楽曲8でミッシー・エリオット(Missy Elliott)を迎え,プロデューサーはティンバランド(Timbaland),簡単に踊れる曲ではないですが,メロディアスなビートにもかかわらず「静かに踊れる」曲になるでしょう。ここら辺はちゃんと90年代〜2000年代初期のR&Bを聴いて大きくなったティアナの生粋ぶりが発揮されていると思います。これは5分31秒の楽曲ですが,5分00秒に入った時点で,いきなりベース音とドラムマシンのサウンドが強くなり,曲が終わる寸前5分26秒でビートがダン・ダン・ダンとトラップ・ミュージックに変更しかけるのは,これは昔っからティンバランドが使っている手法で「次の曲への移行(transition)を予告することもあれば,新しい別の曲を披露しようとするがしないという寸止めのワザ(teasing)」でもあります。ティンバランドはこういうワザをたまに入れ込んでくるので,無意識的にもっと聴きたいという欲望が強くなります。この5分26秒のトラップ・ビートの箇所は,ヘッドフォンか何かで良く聴かないと聞こえないですので,御留意下さい。

楽曲10「Killa」及び楽曲11「Bad」は中南米の雰囲気が味わえる曲です。カリビアンもしくはジャマイカン。リアーナを彷彿とさせますが,声は全く違います。ティアナのドスの効いた奥深い声が響きます。このアルバムでは珍しい毛色になりますが,決して孤立していない(浮いていない)というところが,一貫性(consistency)を感じさせます。

楽曲16「Concrete」は名曲となる予感がします。コンクリートの街であるニューヨークはハーレム(Harlem)出身のティアナらしい題材です。同曲に,こういう歌詞があります。

Gaslightin’ my emotions
Somehow you got the notion
A woman’s better broken, but nigga, don’t provoke me
When I get reactive you tell me to chill
That’s that toxic shit that I don’t feel

溢れる感情にライターで火を点けて
あなたは気づいているフリをする
女は傷ついた状態が最高の状態なんて,ニガ,ふざけんな
あたしが激昂すると,あんたはチルしろ(おちつけ)なんて言う
そんな言葉にあたしは毒されないわ
 ー Teyana Taylor「Concrete」ヴァース2より。
(対訳:Jun Nishihara)

他にもほんとうに話題に溢れる楽曲満載の同アルバムですが,最後にもう1曲取り上げます。楽曲20「Friends」は解りますか?ミュージック・ソウルチャイルド(Musiq Soulchild)の名曲「Just Friends (Sunny)」を元ネタにサンプリングしているのです。2000年にリリースされた曲,ちょうど20年前!もうここら辺が私は,ティアナに共感・共鳴する大きな要素となっているんですよねぇ。

ちょっと聴き比べてみてください。まずはティアナから。

Teyana Taylor – “Friends”

そして元ネタ。

Musiq Soulchild – “Just Friends (Sunny)”

ティアナ・テイラーのこのアルバム,ひとまずは一通り,ご一聴してみてください。

(文責:Jun Nishihara)

「黒人音楽の月(Black Music Month)」=6月,そして黒人デモ・ムーヴメント。

アメリカ合衆国には「黒人音楽の月(Black Music Month)」として制定された月があります。「6月」ですが,これは1979年のジミー・カーター大統領政権が定めたもので,同年6月7日に施行されました。

正式名称は「African-American Music Appreciation Month(アフリカ系アメリカ人音楽を味わい楽しむ月)」ですが,2016年オバマ大統領は,この月に,オバマ自身の言葉で「to dance, to express our faith through song, to march against injustice, and to defend our country’s enduring promise of freedom and opportunity for all.(踊って,歌をとおして信条を表現し,世の不当な仕打ちに対してマーチングする月である。そして,国民全体のため,自由と機会を約束するというこの国(米国)の土壌を守るための月である。」として,オバマ大統領は黒人音楽の月である6月にそういった意味を込めました。

現在,白人警察による黒人への暴行事件に対するデモが全米各地で勃発しておりますが,それがこの月6月に起きているということと,加えてJuneteenth(黒人奴隷解放記念日)である6月19日も6月にあたるということ。なにかとこの6月という月は,いろいろな意味で黒人音楽に関係している月であります。

この6月にむかしから連綿と続く黒人音楽の良さをカラダ全体で感じることを目的として,以下,「これこそが黒人音楽!」というものを「ヒップホップ及びラップ以外の黒人音楽」という制限のみを設けて,キュレーティングしておきたいと思います。

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まずは,オバマ大統領も言っていたように「to dance, to express our faith through song」という表現が似合う「黒人音楽のおとん(父)=James Brown」からスタートです。

1. James Brown – “Say It Loud – I’m Black and I’m Proud”(以下ビデオでは,ジェイムス・ブラウンのみが踊り,観客の白人はほとんどカラダを動かしていないシーンがある,というのが時代を反映しているようで興味深いところがあります。)

2. Marvin Gaye – “What’s Going On”(これは1972年のライブ映像ですが,この7年後にカーター政権が黒人音楽の月を制定したのでした。この曲そのものも,まさに「白人警察による黒人への暴行事件に影響を受けて書かれた曲」だったのでした。)

3. Donna Summer – “I Feel Love”

4. Earth, Wind & Fire – “September”

5. Chaka Khan – “Through The Fire”

6. Melba Moore – “You Stepped Into My Life”

7. Banda Black Rio – “Miss Cheryl”

8. Patti LaBelle – “The Spirit’s In It”

9. Bob Marley & The Wailers – “Get Up, Stand Up”(これは1973年に書かれた曲で,当時のハイチの貧困さに影響されて制作された楽曲です。サビでは「起き上がれ,立ち上がれ」とひたすら連呼されます。)

10. Diana Ross – “Brown Baby / Save the Children”

11. Carol Williams – “Dance The Night Away”

12. Solange – “Binz”(黒人女性の肌の色や身体をまさにappreciate(敬慕する)ということをテーマに描かれた楽曲が2曲続きます。1曲目はソランジュです。)

13. Ari Lennox – “BUSSIT”(アリ・レノックスの官能的な映像ですが,黒人女性が誇りとすべきものをもう少し世に広めるべしといった信条さえも窺えます。)

14. Erykah Badu – “On & On”(エリカ・バドゥの奇才ぶりを世に知らしめることとなった,そのおおもとの楽曲です。)

15. Stevie Wonder – “Black Man”

16. Curtis Mayfield – “The Makings of You”

17. Al Green – “Simply Beautiful”

18. Ohio Players – “I Want To Be Free”

19. Teddy Pendergrass – “Love T.K.O.”

20. Aretha Franklin – “Call Me”

(文責及びキュレーティング:Jun Nishihara)

米公共ラジオ局(NPR)主宰“Tiny Desk Concert”で取り上げられた黒人女子シンガー抜粋(その①)

初回は米国黒人女性シンガーを代表するこの2人です。

一人目はレイラ・ハサウェイ(Lalah Hathaway)。シカゴ出身のソウル・シンガー。女声の「アルト」の音域で歌う歌手として知られます。下記映像を観ていただくとわかると思いますが,かなり低い音程です。1990年にデビューし,既に6枚の公式アルバムをリリース。下記“Tiny Desk Concert”では楽曲セットリスト「Change Ya Life」「Boston」「Honestly」の順で歌います。

二人目はエリカ・バドゥ(Erykah Badu)。黒人音楽史上,非常に重要な奇才(鬼才)でありますため,紹介は不要でしょう。まぁ,この世の人物とは呼べない出立(いでたち)ですね。エリカは昔っからその奇才ぶりを発揮しておりました。その奇才ぶりはデビューアルバム『Baduism』を聴いて頂ければ分かると思いますが,最初っからこれまでのR&B界を覆す程のエネルギーを保持しておりました。公式デビューは1997年。同アルバム『Baduism』は後に「1976年以降リリースされた最も重要な261枚のアルバム」の内の1枚として称されることとなります。

レイラ・ハサウェイとエリカ・バドゥという同じソウルをやっていても,毛色が全く異なる二名は両名とも,音楽の歴史上,外せない人物です。

本日はいきなりの高レベルでした。歴史的な二名を取り上げましたが,レイラもエリカも,メジャーどころの曲を今回まったく披露していないのは,それもNPR主宰のこのミニセッションの醍醐味であります。

さて,今回は超ベテランのおふたりを取り上げましたが,次回は,まだまだ若手の黒人女子シンガーふたりを取り上げます。

(文責及びキュレーション:Jun Nishihara)

現代の若者黒人文化をリードする人物(続編:レイアナ・ジェイ)

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以前,当サイトで「現代の若者黒人文化をリードする人物」として,レイアナ・ジェイを2回に分けて,取り上げました。 1回目はこちらで。 そして,2回目はこちらです。

今回で,彼女を取り上げるのは3回目になりますが,幾つかのライヴ映像等を本日はこのページにまとめて掲載しておきます。彼女の歌声を聴きたくなったら,ここへ戻ってきてください。

① Rayana Jay Presents: Love Me Like Sessions – “Know Names”

② Rayana Jay – “Sunkissed” (@ Sofar NYC)

③ For The Record: Rayana Jay performs “Sleepy Brown” and “Nothing To Talk About”(彼女の初期EPから楽曲「Sleep Brown」と「Nothing To Talk About」の生演奏です。)

④ Rayana Jay at Paramount 2018 Recap

⑤ 2017 Women to Watch: Rayana Jay(2017年注目の「若手女子」としてレイアナ・ジェイが取り上げられました。1993年生まれですので,まだ24歳の頃です。)

⑥ Rayana Jay – “Love Me Like” Trailer

⑦ Rayana Jay – “One More Time”

⑧ Rayana Jay – “Way Back”

⑨ Rayana Jay – “Sleepy Brown”(スリーピー・ブラウンっていうのは昔(いや,今も)米国南部(サウス)のヒップホップ発祥地であるジョージア州アトランタ市で生きた伝説であるアウトキャスト(OutKast)らと共に活躍したラッパーの名前ですね。彼へのオマージュである曲です。特に“What’s cooler than cool?! ICE COLD!”(クールよりクールなことってナニ?!「アイス・コールド!」)っていう超有名なアウトキャストの1行(ワンライン・シャウト)がサンプリング起用されています。)

⑩ Rayana Jay – “it’s you”(2020年5月にリリースされた彼女の新曲です。)

(文責及びキュレーション:Jun Nishihara)

「ガタ・カタ・ラタ・アダ・ヤ・ビッチ・オナ・ガナ・ワナ・・・」と続く最新のラップ曲。

2020年5月22日にリリースされたニューアルバム『Wunna(ワナ)』は米国ジョージア州出身の若手ラッパー=Gunna(ガナ)の仕業によるものです。

リードシングルであるアルバムタイトルと同名の楽曲「Wunna」は,フック(サビ)が「ワナ」に韻を踏む語の羅列を用いてリスナーの耳に心地良い錯覚を与えるデキとなっています。

ビジュアルはこんなヤツです。

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Still a Kid I Love Barney 🥵🧡

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以下のミュージックビデオでも聴けますが,そのサビの部分は英文で表記するとこうなります。

Money puddles (puddles) got a cutter (cutter)
Lotta orders (Orders), dollars, quarters (Ayy)
Wrist water (Ayy), Rich Porter (Ayy)
Your bitch on now (On now), Gunna Wunna (Wunna)
Commas, commas (Racks), hundreds, hey (Hey)
I’m a stunna (sauna) summer (Hey)
Benihana (‘Hana), cook up, hey (Hey)
My crew paid (Paid), surf a wave (Wave)

音声をカタカナで表記するとすれば,こうなります。
「マネー」が「マニ」,「ウォーター」が「ワラ」,「コンマ」が「カマ」になります。

マニ・パド・(パド)・ガタ・カタ・(カタ)
ラタ・アダ・(アダ)・ダラ・クォタ・(エィ )
リス・ワラ・(エィ)・リチ・ポタ・(エィ )
ヤ・ビッチ・オナ・(オナ)・ガナ・ワナ(ワナ)
カマ・カマ・(ラク)・ハニッ・ヘイ(ヘイ)
アイマ・スタナ・(ソナ)・サマ(ヘイ)
ベニ・ハナ・(ハナ)・クカッ・ヘイ(ヘイ)
マクル・ペイ・(ペイ)・サファ・ウェィ(ウェィ)

さて,日本語意味に対訳するとなると,こうなります。

カネ・たんまり・(たんまり)・忍ばす・銃・(銃)
どっさり・注文・現ナマ・硬貨(エィ )
手首・ギラギラ・(エィ )・リッチ・野郎(エィ )
おまえの・女・抱く・俺が・ヤる(ヤる)
1万・10万・(札束)・100万・ヘイ(ヘイ)
俺は・スタナ・(サウナ)の如く・夏のよに・アツい・野郎
高級・レストラン・コックの・料理・ヘイ(ヘイ)
仲間も・カネも・(儲け)・波に・ノッてる(ノッてる)

真夏の・夜の・眠れなき・暑さの・中で・こんな・曲は・どで・っか?

1993年生まれのラッパー=ガナ(Gunna)は,同郷であるアトランタ出身の大人気ラッパー野郎ヤング・サグ(Young Thug)に見出されて,ヤング・サグ自身が創設したレコード・レーベル=YSN Recordsに迎えられた。まさに現代の若者ラップをリードするヤング・サグ(Young Thug)に認められたラッパーであり,昨年2019年にはデビューアルバム『Drip Or Drown 2』を発売し,米ビルボードチャート第2位を獲得した。そして先日リリースされた本アルバム『Wunna』では,現在最も勢いあるウェッサイはコンプトン出身のラッパー=ロディ・リッチ(Roddy Ricch)をフィーチャリングした楽曲「Cooler Than A Bitch」も収録。ガナ自身はサウス・ラップのど真ん中であるATL(アトランタ)はカレッジ・パーク出身。カレッジ・パーク出身のラッパーには,2チェインズ(2 Chainz)やリュダクリス(Ludacris),ヤング・ジョック(Yung Joc)等,大物ラッパーが並ぶ,と書くと,ガナにプレッシャーを与えるかな,カナ?

これまで出てきたサウスのラップ調子をさらに鋭敏化させたこの「ガナ・ワナ調」ラップを以下ミュージック・ビデオでお聴き下さい。

Gunna – “Wunna”

(文責&キュレーティング:Jun Nishihara)

ドレイクに影響を与え,そして影響を受けた,UKの黒人音楽シーン(その③)

まずは,こちらをお聴き頂いて,この英国ヒップホップの雰囲気を十分に堪能して下さい。

ドレイク(Drake)が2017年3月にリリースしたUKミュージックシーンの影響をモロに受けた(heavily influenced)アルバム『More Life』には,UK(英国)のR&Bシンガーソングライターであるジョルジャ・スミス(Jorja Smith)もフィーチャリングされていました。

ジョルジャ・スミスは英国中部に位置するウェスト・ミッドランド州ウォル・ソール市の生まれ。父親はジャマイカ人で母親はイギリス人。2018年にリリースされた公式デビューアルバム『Lost & Found』は「UK R&Bチャート」で第1位を記録。毎年イギリスで開催される音楽の祭典式=ブリット・アワード(The Brit Awards)では,2018年にクリティクス・チョイス・アワード(音楽評論家が選ぶアーティスト)を受賞。翌年2019年には,同ブリット・アワードのベスト・フィメール・ソロ・アーティスト(最優秀女子ソロアーティスト)部門で賞を受賞しました。

雨季が多い英国のしっとりした雰囲気を醸し出す音楽もあれば,冒頭のように現代英国のヒップホップシーンを映し出す楽曲も披露するという多才ぶり。彼女の幾つかのミュージックビデオを以下に紹介いたします。

Jorja Smith – “Goodbyes”

Jorja Smith – “Teenage Fantasy”

Jorja Smith – “Where Did I Go?”

Jorja Smith – “The One”

そして2018年に大ヒットしたマーベル・スタジオ製作の映画『ブラックパンサー』のサウンドトラックでもジョルジャはフィーチャリングされておりました。それがこちらです。

Jorja Smith – “I Am”

最後に英国ラッパーであるストームジー(Stormzy)と,生粋のナイジェリア生まれラッパー=バーナ・ボーイ(Burna Boy)と共演した楽曲をそれぞれ掲載いたします。ストームジーやバーナ・ボーイと共演してここまでぴったりウマが“合う”女性のR&Bアーティストというのは珍しく,ジョルジャ・スミスならではの味が出ていることが伺えます。

Jorja Smith feat. Stormzy – “Let Me Down”

Jorja Smith feat. Burna Boy – “Be Honest”

(文責&キュレーティング:Jun Nishihara)

ドレイクに影響を与え,そして影響を受けた,UKの黒人音楽シーン(その②)

UKの黒人音楽シーンに出現した若手シンガー女子2名=エラ・メイ(Ella Mai)とマハリア(Mahalia)が並んで映ると,まさに姉妹のように映る,そんな映像が流れるのが2019年9月にリリースされたミュージックビデオ「What You Did」です。二人ともUK出身。エラ・メイはジャマイカ人の母親と,アイルランド出身の父親の混血。マハリアは,英国ミッドランド東部に位置するレスターシャーの生まれ。同じくジャマイカ人の母親と,アイルランド出身の父親の混血。やっぱり二人とも,姉妹?!

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「What You Did」のミュージックビデオはこちらです。

Mahalia feat. Ella Mai – “What You Did”

キャムロン(Cam’ron)好きの私は,すぐにこの曲が好きになりました。
(キャムロンについては,コチラを読んでみてください。)

なぜこれがキャムロン好きにはタマらん曲なのか,と言えば,マハリアのこの楽曲「What You Did」のビートは,まさに以下のキャムロンの2002年4月リリースのシングル曲をサンプリングしているからです。

Cam’ron – “Oh Boy”(2002年4月リリース)ディップ・ディップ・セッセッ!!

なお,知ってました?この「オゥ・ボーイ・ビート」は以下の曲でマライア・キャリー(Mariah Carey)もサンプリングします。

Mariah Carey feat. Cam’Ron – “Boy (I Need You)”

さて,話を戻しますと,エラ・メイはシングル曲「Boo’d Up」で2018年に全世界を席巻し,売り上げは米国のみで500万枚セールス,カナダや英国での売り上げを合わせますと,合計600万枚以上。2018年のビルボードチャートを総ナメする勢いにまで発展しました。

他方,マハリアはその間,UKの音楽シーン,とりわけアンダーグラウンド・シーンでグツグツと人気を温存してきており,2019年9月にアルバム『Love and Compromise』をリリースし,同アルバムは英国R&Bアルバムランキングに於いて第3位を記録しました。

この生粋のUK生まれの二人は,冒頭のシングル曲「What You Did」でコラボレーションしたわけですけれども,楽曲に起用されている元ネタ・ビート「Oh Boy」を世に出した張本人であるキャムロン自身を迎えたというREMIXヴァージョンも今年リリースされました。2002年に出たキャムロンのビートをサンプリングとして使い,そして18年後の2020年に,キャムロン自身をREMIXに迎えた!という大胆な手法で,以下REMIXをリリースしたものです。

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ちなみに,マハリアが上記写真でまとっている緑色の毛皮は,2002年にキャムロンがピンクの毛皮をまとって撮った以下の写真をオマージュとしております。これは2002年当時,キャムロンがヒップホップ界随一のピンク色好きということで有名で,クルマもピンク,ダボダボのシャツもピンク,毛皮もピンクという出立(いでたち)で,ヒップホップ界では当時このピンク色を「Cam’ron Pink(キャムロン・ピンク)」と呼ぶようにまでなり,当時かなり話題になりました。ゴテゴテのヒップホップ野郎でもピンク色のシャツを着てもいいんだ,と,NYの若者はそのカラーを真似するようになり,ついにヒップホップ・ファッション界にまで影響を及ぼすこととなりました。

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さて,そのキャムロン張本人を迎えてリリースしたREMIXヴァージョンがこちらです。

Mahalia feat. Cam’ron & Ella Mai – “What You Did (REMIX)”

(文責:Jun Nishihara)

ドレイクに影響を与え,そして影響を受けた,UKの黒人音楽シーン(その①)

2017年3月にリリースされたドレイク(Drake)のアルバム『More Life』で特筆すべきことは,アルバム全体をとおして,UK(英国)調のヒップホップシーンが鮮やかに表現されている点です。(このアルバムを「公式ミックステープ」と呼んでいるメディアもあるそうですが,ここでは「アルバム」と呼ぶことにしたいと思います。)

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本アルバムで共演しているアーティストは,Jorja Smith,Black Coffee,Sampha,Baka Not Nice,Giggsなど,英国出身もしくは英国のミュージックシーンに影響を受けてきたアーティストが勢揃いしております。

この中でも収録楽曲⑧「4422」という雨の日のロンドンを彷彿とさせるしっとりとした音調の曲に,英国はロンドン南部のモーデン(Morden)出身アーティスト=サンファ(Sampha)がfeat.されています。

サンファは2016年9月にリリースされた,ビヨンセの妹であるソランジュ(Solange)のアルバム『A Seat At The Table』でも共演しておりました。

実はこのサンファとドレイクの共演は2013年のアルバム『Nothing Was The Same』の楽曲12「Too Much」にまで遡ります。

ドレイクのアルバムに起用された2013年以降,サンファは共演アーティスト(featured artist)としてどんどん売れ始めていきます。

2014年のBlood Orangeとの共演(楽曲「A Kiss Goodbye」),2016年カニエ・ウェストとの共演(楽曲「Saint Pablo」),2016年ソランジュとの共演(楽曲「Don’t Touch My Hair」),2017年ドレイクとの共演(楽曲「4422」),2017年現代ジャズの大物=Kamasi Washingtonとの共演(楽曲「Mountains of Gold」)等々です。そして遂に同年2017年,自身のデビューアルバム『Process』をリリースします。

現代ヒップホップ/R&Bシーンでは,静かに,UKの黒人音楽シーンがグツグツと出現し始めてきております。ヒップホップはもうアメリカ人のものだけじゃないんだよ,と言わんばかりに。

それが見事に垣間見れるのが,ドレイクの2017年発売のアルバム『More Life』でした。

この『More Life』というアルバムが米国のヒップホップシーンに与えた影響,つまり,UKの音楽シーンをそのまんまアメリカに引っ張ってきたという,その偉大さを振り返るとともに,その原点の一つであり,サンファのキャリアに非常な影響を与えた,ドレイクとサンファの共演作品
「Too Much」を以下に掲載しておきます。以下掲載する映像は,英国BBC Radio 1で放映されたサンファのライヴ・パフォーマンスです。

(文責及びキュレーション:Jun Nishihara)