出ました。カニエがexecutive produceしたキング・コムズのニューアルバム『NEVER STOP』。(アルバム『NEVER STOP』全曲2分解説)

ここ2週間ほど、世の中から最も嫌われることとなったHip-Hop/R&BアーティストであるDiddy(ディディ)とR. Kelly(R.ケリー)の特集をした。未だにこの2人については世間から批判の目を浴びせられ、彼らを擁護する者たちも批判の対象となり得る。

しかし、である。Hip-Hopというものそのものの存在意義は、1973年に誕生した時から、「世間に反抗して」育まれてきたものであるといえる。つまりいつの時代もHip-Hopは少数派の音楽/文化であり、大多数の人たちの賛同を得られることなく、メインストリームには(その存在性質からして)なりえなかった音楽/文化であった。

ということはつまり、DiddyもR. Kellyも至極Hip-Hopの人生を歩んでいるといえる。そしてこの週末(2025年6月27日(金)米国東部時間真夜中0時)ついにカニエ・ウェスト(Kanye West)改めイェ(イェイ(Ye))がDiddyの息子であるKing Combs(キング・コムズ)とコラボレートし、ニューアルバムをリリースした。その名は『Never Stop』。クレジットにはExecutive produced by Yeの名が。これまでDiddyこそが他のアーティストのアルバムをExecutive produceする立場であり、これまでも数えきれないほどのHip-Hipアルバムに(Executive produced by Sean Combs)というクレジットが表記されてきたのに、ついに、ここにSean Combs (=Diddy) ではなく、カニエの名前が入ることになるとは。

コロナ後、ニューヨークの街はこんな画で溢れ返った。外を歩けば2、3ブロック毎に必ず1軒くらいは、このような状況になっている建物やビルが見られた。

Diddy(ディディ)が創設したBad Boy Records(バッド・ボーイ・レコーズ)という名だたるHip-Hopアーティストを輩出してきた(ビギーもそう!)Hip-Hop史上最も重要なレーベルの一つ、それがいま、こういう状況になっている。まずはアルバムジャケからして90年代のHip-Hopを聴いて育った我々としては蒼然とする画である。これをジャケにしたカニエとDiddyの息子であるKing Combsの静かな憤りが聞こえてくる気がする。

2分で読めるブログにする。1曲ずつ、解説していく。(長く書くともう誰も読んでくれない時代になったので。)

まずタイトルは『NEVER STOP』。DiddyがBad Boy Records創設してきた時から言ってきた合言葉/フレーズである「As we proceed… to give you what you need」の前半部分「As we proceed…(前へ進め)」というフレーズの哲学とも一致するタイトルである。

【収録楽曲】

  1. Lonely Roads
  2. KIM
  3. People Like Me
  4. Diddy Free
  5. Repeat Me
  6. The List
  7. Souls Outro

【各楽曲解説(かけ足で)】

1.Lonely Roads

まずビートはDiddyにリスペクトを捧げたものであるとしか思えない。Bad Boy Recordsの昔っからのビートそのものである。後半、Diddyのかすれた声が聞こえる。おそらく刑務所内で録音したものか。カニエ(Ye)の娘さんであるノース・ウェスト(North West)も軽めのラップをしている。

2.KIM

このKimって誰の事だと思う?Diddyの亡くなった奥さん、キム・ポーター(Kim Porter)のこと。つまり、King Combs(キング・コムズ)のお母さん。冒頭、キング・コムズが歌う。「I love you, Mama. Things aint been the same without you Mama」(ママがいなくなってから、何もかも変わってしまったよ。愛してるよ、ママ。)

もう一つ、カニエも自身の母親を亡くした。アルバム『Graduation』をリリースしてからのこと。その後、Hip-Hopの概念を覆した非常に重要なアルバムである『808s & Heartbreak』をリリースした。キング・コムズの思いは、そのままカニエ(Ye)の思いを乗せているといえる。

もう一つ、ノース・ウェスト(North West)にとっては、母親であるキム・カーダシアン(Kim Kardashian)が父親のカニエと離婚したことの思いも反映しているといえる。

この曲はこの3名の思いを複雑に(というかストレートに)のっけた楽曲であるといえる。

3.People Like Me

個人的にこの曲がいちばん好きである。唯一、アルバム中カニエがラップするトラックである。

冒頭の「You need people like me…so you can point you middle finger and say there go the BAD BOOOOYYYY」これはHip-Hopでよく引用される映画『Scarface(スカーフェイス)』からのスカーフェイスの言葉ですね。「おまえらには俺みたいな人間が必要なんだろ。そうやって指差して、俺をワル者に仕立てあげたいんだろ。」これをもじって「おまえらには俺みたいな人間が必要なんだろ。そうやって中指立てて、ワル者に仕立てあげたいんだろ、Bad Boooyyyをな!」

4.Diddy Free

「フランク・オーシャン構文」と、私が勝手に名付けている英文構造があります。それがこの曲のリリックに出てくる「What’s a good kid to a bad boy」(よい子はバッド・ボーイにはかなわない)という部分です。なぜ、フランク・オーシャン構文と呼ぶかというと、2011年にリリースされたHip-Hop史上最も重要なアルバムであるJAY-Zとカニエが作り上げた『Watch The Throne』(ウォッチ・ザ・スローン)の冒頭の曲で、Frank Ocean(フランク・オーシャン)がこう歌うからです。

What’s a mob to a king / what’s a king to a God / what’s a God to a Non-Believer who don’t believe in anything – Jay-Z & Kanye West feat. Frank Ocean “No Church In The Wild”

輩(やから)はキングにかなわない。キングは神(ゴッド)にかなわない。しかし、その神でも、信じるものがいない野生の無神論者には到底かなわない。

これは同アルバムの冒頭の曲「No Church In The Wild」(野生の地に教会は無い)からR&B歌手であるFrank Ocean(フランク・オーシャン)の余りにも有名なリリックです。このリリックはもはや今や格言化しているため、フランク・オーシャンのこの歌詞の英文構造を私が勝手に「フランク・オーシャン構文」と名付けたのです。

当曲「Diddy Free」に戻ります。「Diddyを解放せよなら「Free Diddy」」ですが、それを逆にして「Diddy Free」にすると、Diddyはすでに解放された(freeである)ことを形容しているフレーズになります。ここら辺も、ただ単にこのアルバムはDiddyを解放することを擁護しているものではないというカニエの意図が窺えます。

5.Repeat Me

エモーショナルなメロディーで始まる曲ですね。前半の1曲目~4曲目まではカニエ(Ye)色が色濃かったですが、ここからはキング・コムズの若さとエロさが出ます。この曲を聴いて、King CombsとIce Spice(アイス・スパイス)に恋愛関係があったのかどうかググってしまったんですが(笑)、あまりにもIce Spiceのラップに似ていたので、二人には恋愛感情があったのかどうか、調べてしまった(笑)。そういう曲です。(どういう曲やねん)

6.The List

このリストってなんのリストかというと、いわんやThot-listのことですね。Thotって「That Hoe Over There(あっちのビッチ)」の頭文字(イニシャル)であすが、要するに「ヤリマン」ということです。そういった女の子たちについて歌っている曲です。

6.Souls Outro

最後の曲です。キング・コムズが言います。「F*** around and lose yourself chasing these hoes.(女を追いかけてばっかいたら、自分を見失うぞ)」と警告してくれている曲です。Diddyの裁判の内容と照らし合わせても、現実味を浴びていて、ゾッとするラインですね。それが「Souls(複数の魂)」つまり、これまで刑務所に入ってきた複数の人間たちの思いを総称して、それをOutro(エンディング)にしている曲です。

駆け足で解説しましたが、7曲にあらゆる感情がギュッと色濃く凝縮された稀有なアルバムになっています。このアルバムが「世の中から嫌われるアルバムになればなるほど」カニエやキング・コムズの思惑(おもわく)通りとなる。世間から嫌われるアルバムになることで存在意義を発するアルバムとなる。嫌われて「勝ち」であり、万が一好かれたとしても(いや、どう考えても世間から好かれるアルバムにはならないと思うが、万が一好かれたとしても)負けではない、つまり「負けがない」アルバムであると言える。しかしながら、カニエが目指したのはもう少し先にある。それが「マイノリティ(minority=少数派)への回帰」である。これについては2分では語れないのでまた今度書くことにする。

左から、カニエ・ウェスト(Ye)、ノース・ウェスト(North West)、キング・コムズ(King Combs)。

毎週月曜日と木曜日に更新していますが、今週木曜日はお休みです。

(文責:Jun Nishihara)

(今でも)R&Bの王様:R. Kelly特集②

前回に続き、今回もR. Kellyについて書きます。

高校生の時に、R. Kellyの「I Wish」というシングル曲が発売されました。その後まもなく同曲のRemix版である「I Wish – Remix (To the Homies That We Lost)」がリリースされることになったのですが、それを当時私は和歌山県の実家でその曲を聴いて、歌詞カードを読みながらリリックに感動して泣きながら聴いて、それを台所にいるおかんに持っていって見せたのを憶えています。

その曲が先週末、頭の中でずっと鳴っていたので、ジャーナルに書き残しておきました。手書きで書くことによって思考が沈静化/深層化します。

その曲がこちら。

R. Kelly feat. Boo & Gotti – “I Wish – Remix (To the Homies That We Lost)”

途中、R. Kellyが「ラジオよ、お願いだから “nigga” という言葉を消さないでくれ!」って叫ぶところ。これこそこのサイトで伝えたい「その言葉にしか伝えられないブラザーに対する感情」というものです。「Bro」でもなく「Fam」でもなく「その言葉(N-word)であるからこそ」ほんとうの思いが伝えられる、というものです。軽々しくその言葉を使ってはいけないっていう問題じゃないのです。もはや。だって、それを言っているのは「黒人」なのですから。当然のことながら、放送禁止用語だからその言葉を検閲するっていう問題でもないのです。その後、ケリーはなんていうかというと、こう歌います。「Let it play on, play on, play on…」と。これには、「曲よ、このまま鳴り続けてくれ、鳴り続けてくれ、鳴り続けてくれ」というケリーの願いに重ねて、人生よ、終わらないでくれ、つまり、「生き続けろ、生き続けろ、生き続けろ」と、死んでいくブラザーを目の前にして伝えようとしているR. Kellyの言葉なのです。

(文責:Jun Nishihara)

黒人英語・考察①:“dope”の意味と用法そしてその濫用について

英語の語彙である”dope”の通常の意味については,以下のとおりです。

1.informal : an illicit drug (such as heroin or cocaine) used for its intoxicating or euphoric effects; especially MARIJUANA
2.informal : information especially from a reliable source
-Merriam-Webster

違法ドラッグであるヘロインやコカイン,はたまた,信頼度が高い情報源から得たネタ,とあります。しかし黒人英語として使用される場合,白人=標準に苛まされてきた歴史を持つ黒人たちは,あらゆる語彙の「通常の語義をflip it and use it(くつがえして用いる)」ことをしてきました。それは大多数の白人もしくはメインストリームへの反発でもありました。

現在,ヒップホップやラップ,R&Bといった黒人の歴史から生まれてきた音楽を聴くようになった白人の若者も含めて,「通常の語義ではない」”dope”という語彙が使用されるようになってきました。

違法ドラッグであるヘロインやコカインの「快感」という語義にフォーカスを当て,それをflip it(くつがえして),最高とかナイス,クール,イかす,といった意味で使われるようになってきました。

ここで用法をいくつか取り上げてみます。

Yeah, yeah, I’m so cold like, yeah (yeah)
I’m so dope like, yeah (woo)
We gon’ blow like, yeah (straight up, uh)
そうさ,そうさ,俺は超クールで,イヤー(イヤー)
マジでイカシてる,イヤー(ウー)
ぶっ飛んでくぜ,イヤー(まっすぐな,アッ)
(Childish Gambino – “This Is America”より)

There goes Rabbit, he choked, he’s so mad but he won’t
Give up that easy, no, he won’t have it, he knows
His whole back’s to these ropes, it don’t matter, he’s dope
He knows that but he’s broke, he’s so stagnant, he knows
When he goes back to this mobile home, that’s when it’s
Back to the lab again yo, this whole rhapsody
ラビットの出番だ,言葉に詰まり,キレてる,それでもヤツは
簡単には引き下がらねえ,そんなことじゃクタばらねえ,ヤツは分かってる
もう後には引けないと,すべてを賭けて,ヤツは最高の野郎
自分でも分かってる,だが一文無し,淀んだ人生,そして気づいてる
トレーラーの家に戻れば最後,そんな人生もうゴメン
だからブースに戻って,ラップをカマシてやんのさ
(Eminem – “Lose Yourself”より)

Flippin’ up my skirt and I be whippin’ all that work
Takin’ trips with all them ki’s, car keys got B’s
Stingin’ with the Queen Bey and we be whippin’ all of that D
Cause we dope girls we flawless, we the poster girls for all this
We run around with them ballers, only real niggas in my call list
I’m the big kahuna, go let them whores know
Just on this song alone, bitch is on her fourth flow
スカートまくって,オシリを突き上げて金儲けてる
キロ(コカ)を車に載せて長旅,カギには「B」の文字
クイーン・ビーのビヨンセとタッグ組んで,男たちをメロメロにさせる
アタシたちはイカシた女,欠点ゼロ,世界中の女性のモデルとして
いっちょまえの男たちとデートして,電話帳にはリアルな野郎の番号しか入ってない
女王のアタシについてきな,アバズレ女どもに見せてやれ
曲まだ終わってないのに,すでに4ヴァース決めてやった
(Nicki Minaj feat. Beyonce – “Feeling Myself”)

このように”dope”を形容詞として使用することで,いろいろなものにくっ付けて使うことができます。

Ahhh, that was a dope lunch! We should go there again!
「あぁ,最高のランチだった!またあのお店行こうね!」

The LINE message that you’ve just sent him… it was pretty dope.
「あなたがさっき彼に送ったライン・・・なかなかステキだったわ」

We da dope boyz forreal. Nobody can top us.
「俺らマジ最高。誰にも負けやしねえ」

しかしながら,こういう一時的に流行した語は,廃(すた)れるのも早いものです。今では”dope”というスラングが多くの一般人に使われるようになり,果ては白人にも使われるようになりました。そうなると,もうその語義は廃れの方向へとまっしぐら。もともと,白人=標準から外れるために,語義(意味)をくつがえして用いた黒人英語であったため,それが幅広く白人に使われるようになると,イメージは白々しい(pretentious)なものになってしまいます。

現在(2018年11月時点),”dope”にはかつてあった「カッコいい,イかす」というイメージとは逆に,「まだその言葉使ってるの?」といったようなダサいイメージが付き始めています。

それを物語っているのが,先日,ホワイトハウスに招かれたカニエ・ウェストとトランプ大統領の対話です。

One of the things we gotta set is Ford to have the highest design, the dopest cars, the most amazing — I don’t really say dope. I don’t say negative words and try to flip them. We just say positive, lovely, divine, universal words. So the fly-est, freshest, most amazing car.
1つ言っておきたいのは,フォード社に最高のデザインで,イカシてる車を作ってもらうこと。いや,俺は”dope”なんて言葉は使いたくない。ネガティヴな語を使って,その意味をflip it(くつがえしたり)するなんてことはしたくない。ポジティヴで愛おしてくて,万国共通の言葉を用いて伝えたい。世界一ぶっ飛んでいて,何よりも斬新な,最高に素晴らしい車を作ってもらいたい。
(引用元:カニエ・ウェスト(ホワイトハウスでのトランプ大統領との対話より))

カニエのこの”fly”という語の見事な使い方に拍手を送ります。ここでは形容詞として使われています。さらっと”fly”を形容詞として使っていること,また,もはや時代は”dope”ではないこと,それが象徴となる対話でした。それ以外はカニエのいつもどおりの情熱こもる話しっぷりでした。

(文責:Jun Nishihara)