ビヨンセ楽曲対訳「スピリット(『ライオン・キング』のテーマより)」

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(上記写真は今年全米公開予定の映画実写版『ライオン・キング』の公開に先立ち,L.A.でのワールド・プレミア祭で。)

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(映画『ライオン・キング』のサウンドトラック,ビヨンセ「スピリット」のシングル曲ジャケットです。)

Beyonce – “Spirit”
ビヨンセ対訳「スピリット(映画『ライオン・キング』より)」

Uishi kwa muda mrefu mfalme

(Uishi kwa uishi kwa)

Uishi kwa muda mrefu mfalme
(
Uishi kwa, uishi kwa)

王よ,永遠なれ
(王よ,永遠なれ)
王よ,永遠なれ
(王よ,永遠なれ)

[Verse 1]

Yeah, yeah, and the wind is talkin’

Yeah, yeah, for the very first time

With a melody that pulls you towards it

Paintin’ pictures of paradise

(ヴァース1)
そう,風が語っている
そう,こんなことは初めて
音色に乗せて,心をとらえる
楽園の絵を描いている

[Pre-Chorus]

Sayin’ rise up

To the light in the sky, yeah

Watch the light lift your heart up

Burn your flame through the night, woah

(プレ・コーラス)
さあ,立ち上がれ
光とともに,大空へ
光とともに,羽ばたいて
夜空にあなたの炎を輝かせて,ウォゥ

[Chorus]

Spirit, watch the heavens open (Open)

Yeah

Spirit, can you hear it callin’? (Callin’)

Yeah

(コーラス)
精霊よ,さあ,天空を見上げて(見上げて)
そう
精霊よ,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう

[Verse 2]

Yeah, yeah, and the water’s crashin’

Trying to keep your head up high

While you’re trembling, that’s when the magic happens

And the stars gather by, by your side

(ヴァース2)
そう,大海の波は打つ
顔を上げて,もう,うつむかないで
おびえている時は,奇跡が起こる時
夜空の星群が,あなたの味方になる

[Pre-Chorus]

Sayin’ rise up

To the light in the sky, yeah

Let the light lift your heart up

Burn your flame through the night, yeah

(プレ・コーラス)
さあ,立ち上がれ
光とともに,大空へ
光とともに,羽ばたいて
夜空にあなたの炎を輝かせて,ウォゥ



[Chorus]
Spirit, watch the heavens open (Open)
Yeah
Spirit, can you hear it callin’? (Callin’)
Yeah

(コーラス)
精霊よ,さあ,天空を見上げて(見上げて)
そう
精霊よ,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう

[Post-Chorus]
Your destiny is comin’ close
Stand up and fi-i-ight

(ポスト・コーラス)
運命が近くまで来ている
立ち上がれ,力を出しきって

[Bridge]
So go into that far off land
And be one with the Great I Am, I Am
A boy becomes a man, woah

(ブリッジ)
はるか遠くの大地へたどり着き
天の主とともに一つとなる
少年が一人前の男となる瞬間,ウォゥ

[Chorus]
Spirit, watch the heavens open (Open)
Yeah
Spirit, can you hear it callin’? (Callin’)
Yeah
Spirit, yeah, watch the heavens open, open
Yeah
Spirit, spirit, can you hear it callin’? (Callin’)
Yeah

(コーラス)
精霊よ,さあ,天空を見上げて(見上げて)
そう
精霊よ,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう
精霊よ,さあ,天空を見上げて,見上げて
そう
精霊よ,精霊よ,あなたを呼んでいる(呼んでいる)
そう

[Post-Chorus]
Your destiny is comin’ close
Stand up and fi-i-i-ight

(ポスト・コーラス)
運命が近くまで来ている
立ち上がれ,力を出しきって

[Outro]
So go into a far off land
And be one with the Great I Am

(アウトロ)
はるか遠くの大地にたどり着き
天の主とともに一つとなる

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

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元ネタの曲を知る⑨:トリーナ&ニッキー・ミナージュ⇆ビッグ・タイマーズ,ジュヴィナイル&リル・ウェイン

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元祖“Baddest Bitch(最高にワルな女)”こと,トリーナ(Trina)がまたもやヒットを飛ばしてくれました。最近のCity GirlsやSaweetieのおおもとを創ってくれた元祖女神=トリーナは,マイアミ出身の女性ラッパーです。以前,当サイトでも取り上げました。

トリーナのニックネームである“Baddest”という語彙は,本来は存在しません。形容詞“bad”の最上級は“worst”ですから。しかしながら,むかしから黒人の間で(といいますか,黒人は),“bad”に「良い」意味合いを持たせて使ってきました。文字を禁じられた人々(=黒人)は,白人が通常「悪い」意味で使ってきた言葉や定義をflipして(くつがえして)使うことにより反抗心を表現してきました。

男子ラッパーもファンの我々も,トリーナのことを“Baddest”という愛称で呼び,「最高にワル」というニュアンスを持たせることにより「ひじょうに素晴らしい」という隠れた意味で彼女の存在を表象してきました。「最高にワルくて,最高にステキな」トリーナ(Trina)が,先般新曲を発表してくれたことは,本当に嬉しいことでございます。

早速,聴いてみてください。
Trina feat. Nicki Minaj – “BAPS”
トリーナ feat. ニッキー・ミナージュ「BAPS」です。

この楽曲の元ネタは,2000年頃にはすでにヒップホップを聴いていた方なら一発でわかるはず。「プロジェクト・チック!やないか!」と。

Big TymersやJuvenile,そしてLil Wayne。ノーリンズことニューオーリンズ出身のキャッシュ・マネー軍団。トリーナと同じくサウス出身。「サウスつながり」で,トリーナ所属のSlip-N-Slide軍団とリル・ウェイン所属のCash Money軍団は,昔から親しい付き合いでやってきました。

ビッグ・タイマーズ率いるジュヴィナイル&リル・ウェインの名曲「Project Bitch」は2000年にリリースされました。当時,リル・ウェインはまだ年齢18歳。いまでこそ「大御所」として呼ばれるまでに昇りつめたリル・ウェインですが,まだこの頃は10代後半の青年でした。以下のビデオを観てもらうとわかるかもしれませんが,シャツをまくり上げて着る仕草とかは,もう2000年頃流行った完全「サグ・ファッション」ですね。中西部ラッパー=セントルイス出身のネリー(Nelly)やアトランタ出身のリュダクリス(Ludacris)もまさにこの頃デビューしたてでしたけれど,シャツをまくり上げて,ゲットーやビーチで女子まじえて遊びまくっている光景がPVに流れたりして,いや〜,いい時代でした。

さて,その元祖,オリジナルPVがこちらです。姉御トリーナと,妹のニッキーは,以下の楽曲を元ネタに起用しております。

(文責:Jun Nishihara)

Kanye Westの“Sunday Service”まとめ(23週目から26週目まで)

毎週日曜日の恒例行事といいますと,カニエの世界では「日曜のミサ」つまりサンデー・サービス=Sunday Serviceセッションです。今年に入ってから1日も休まず開催してきたミニコンサートですが,以下のとおり23週目から26週目までをまとめておきます。過去のものは,当サイトで全て掲載しておりますので,探してみてください。

23週目:6月9日(日)
カニエ・ウェストが新曲をアカペラで披露している映像です。

24週目:6月16日(日)
下記映像ではこれが「23週目(Week 23)」と記載されておりますが,もとから数えますと,これは正しくは24週目となります。4月のイースター祝祭日に開催したコーチェラ祭での“Sunday Service”を入れるか入れないかで計算が変わってきますが,ここではコーチェラ祭の“Sunday Service”も日曜日(イースター)に開催したものですので,カウントしております。

25週目:6月23日(日)
この週ではアルバム『808’s & Heartbreak』収録の楽曲「Say You Will」をゴスペル風にアレンジし,披露してくれています。

26週目: 6月30日(日)
こうして“Sunday Service”の映像を26週間に亘って観察してきますと,パフォーマンスする「場所」の要素もおもしろいものと気づきます。初期の頃はカラフルな照明に照らされた部屋で開催し,途中から「外」つまり屋外へと飛び出しました。それはウェスト家のあるカラバサスの山の中で開催されたものですした。その後またこうして屋内へと場所を移し,サンデーサービスを開催しております。

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ音楽とイスラム教の関係 (アルバム『Ye』のリリースから今年6月1日で1年を経たいま振り返る(その③))

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(上記写真の中心奥で,ネーション・オヴ・イスラームの現・指導者であるルイス・ファラカーンと肩を並べて映るカニエ・ウェスト)

前々回,そして前回は,カニエ・ウェスト周辺のイスラム教徒たち,そしてヒップホップ界のイスラム教徒たちはイスラム教のどういったところに魅了され改宗していったのか,ということをさぐっていきました。

本日はその最終日,ネーション・オヴ・イスラームの起源,そしてルイス・ファラカーンという人物についてお送りして,幕を閉じたいと思います。

<ネーション・オヴ・イスラーム(Nation of Islam(略してNOI))とは>
ネイション・オヴ・イスラムという表記もします。これはいわば「黒人イスラム団体」です。1930年7月4日(アメリカでは独立記念日の日)にアフガニスタン出身とされるウォレス・D・ファード・ムハンマドという人物によって創始されました。黒人イスラム団体ではありますが,幾分か政治的な含みも持っておりました。NOIを批判する人たちは,この団体を「黒人至上主義団体だ」みたいに主張しますが,NOI側は,これをまっさきに否定し「我々は黒人“至上”団体なんかでは全くない。黒人と白人の平等を目指す団体だ」と明確に主張しております。もともとは「黒人の社会的自立を目指す運動」として始まりました。これまで400年間,黒人は奴隷として扱われてきた歴史を立て直そうという使命のもと,立ち上がりました。それがこの団体の起源でした。

本年3月31日にこの世を去ったヒップホップ界の英雄=ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)もイスラム教徒でした。ネーション・オヴ・イスラーム団体は,ニプシーの追悼に以下の文章を捧げております。

「ネーション・オヴ・イスラーム(ニプシー・ハッスルを追悼)」

<ルイス・ファラカーン(Louis Farrakhan)とは何者か>
上記追悼ステートメントでも署名をしている「ルイス・ファラカーン」とは,ネーション・オヴ・イスラーム団体の現・議長です。1933年5月11日ニューヨーク市の生まれ。1955年にマルコムXに誘われて,ネーション・オヴ・イスラームに加盟します。1978年に黒人のイスラーム運動を再生すると主張し,イリノイ州シカゴ市にネーション・オヴ・イスラーム本拠地を再建し,強硬派をまとめて指導者となりました。1995年10月ワシントンで「黒人100万人大行進(ワシントン大行進)」を指揮し,1996年年米TIME誌で「米国の最も影響力のある25人」の一人に選ばれました。同年カダフィ大佐が主宰するカダフィ人権賞が贈られ,雄弁な演説家で、黒人の自立を唱える一方、米国は人種別に離婚すべきだと語る黒人分離主義者で,過激な主張も展開しています。

最後にネーション・オヴ・イスラーム現・指導者であるルイス・ファラカーンに言及しているカニエ・ウェストの楽曲「All Day」をお届けして,幕を閉じることといたします。

カニエ・ウェストはキリスト教徒ですが,ルイス・ファラカーンとは共感する部分も多かったといいます。特に「黒人であることに対する思想」については共鳴するところが多いようです。

同曲でカニエはこうラップします。

Just talked to Farrakhan, that’s sensei, nigga
Told him I’ve been on ten since the 10th grade, nigga

さっきファラカーンと電話で話した,あれは俺の師匠(センセー)だぜ
「高1の頃からずっとあんた(=ファラカーン)の言ってること信じてきたぜ」って,そう伝えたぜ

カニエ・ウェストのアルバム『Ye』のリリースから1年を経たいま,同アルバムを振り返るいい機会に,曲の冒頭でスピットする「I called up the Muslims」がとてもインパクトのある歌詞として取り上げ,
黒人文化がイスラム教に影響を受けてきた歴史や,ヒップホップ音楽とイスラム教との関係,そしてマルコムXを経由してのネーション・オヴ・イスラームについてほんの少しだけでしたが,取り上げました。

音楽がインスタントに消費され,作られては消え去っていくサイクルが短い昨今,アルバム『Ye』はスルメイカのようにじっくり噛んで,聴き込まれるべき音楽といえるでしょう。上記「I called up the Muslims」というほんの1行の歌詞だけで,いろいろ遊ぶことができます。そう言った意味合いでも,まさに長生きするアルバムでしょう。

最後に同アルバム『Ye』の全曲歌詞・対訳を以下のとおり掲載しておきます。
今日も当サイトにお越しいただき,ありがとうございます。

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楽曲①「I Thought About Killing You」
楽曲②「Yikes」
楽曲③「All Mine」
楽曲④「Wouldn’t Leave」
楽曲⑤「No Mistakes」
楽曲⑥「Ghost Town」
楽曲⑦「Violent Crimes」

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

JAY-Zに関する映像等アーカイブ(その1)

“archive”(アーカイブ)という語彙は,2000年初期に流行った一つの思想ともいえます。これは当時は「デジタルアーカイブ」という意味で使用されるようになりました。インターネットの急激な成長により,インターネット上で大量の書物や歴史的文書・音源・映像・データ等を保管できる「書庫」の役割として,アーカイブという思想が当時流行りました。

その少し後に友人から「アーカイブ」を作っておくと面白いかもしれない,というアイディアをもらい,小生も当時は既に聴き込んでいたジェイZ(JAY-Z)に関する音源やら映像やらをどうにかして残しておけないか,残しておくだけではなく,オフラインでもオンラインでも,いつでもアクセスできるような場所に置いておけないか,一箇所に集めておけないか,と思っておりました。

そこで,少しずつ集めていたジェイZに関する音源や映像なり(ほとんどがインターネットから拾ってきたもの)をこのコーナーで紹介していきます。ここで紹介しておけば,後々に自分のためにもなるからです。見たくなった時にここに来れば見られる,そういう場所作りとして,このコーナーを設けました。

1.ジェイZの若かりしき頃,レアな映像。バンダナとチェーン。話し方は最近のジェイの話し方とは全く異なっています。言葉遣い。くだけた話しぶり。アクセントの場所。(2000年頃)

2.ジェイZと世界一有名な投資家=ウォレン・バフェットのForbesインタヴュー映像。成功における「運」について話す。(2010年)

3.ジェイZ,米ニューヨークタイムズ紙の編集長ディーン・バケットによるインタヴュー映像。(2017年)

4.ジェイZ&メアリー・J.ブライジ,全米NBCネットワークTV「Late Night with David Letterman」でのインタヴュー。2人が全米ツアー「Heart of the City Tour」を開催するにあたってのインタヴュー。(2007年)

5.ジェイZ,オプラ・ウィンフリー・ショーに出演。(2009年9月24日)

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ音楽とイスラム教の関係 (アルバム『Ye』のリリースから今年6月1日で1年を経たいま振り返る(その②))

前回,カニエのラッパー仲間でイスラム教徒である人たちのお話をしました。
本日はその続きです。

黒人の歴史に根強く息づくネーション・オヴ・イスラームという思想ですが,どういったところにイスラム教徒のラッパー達(例えばモス・デフやルーペ・フィアスコ,バスタ・ライムスやスウィズ・ビーツ)は魅了されたのでしょうか。

1.アメリカ全土(特に南部)で奴隷制度は400年以上続きました。主人(マスター)と呼ばれる白人家族によって黒人(所有物)は奴隷として雇われました。家の中で雇われた奴隷(house negro)もいれば,炎天下のなか,屋外でこき使われた奴隷(field negro)もいました。外でこき使われ,綿やトウモロコシなどを積んでは鞭でぶたれ,水も与えられず重労働のみさせられ,人としてではなく所有物として扱われていた時代,ある黒人はふと思いました。こんなひどいことをする白人は何を信じているのだろうか。どれだけ教会に通って,神を信じているといっても,こんなひどいことをしていいというのか。こういうことをすることを教会で教えられているのか,と。この時代,ほとんどの白人はキリスト教徒でした。しかし白人の宗教(キリスト教徒)に疑問を持ち始めた一部の黒人は,やがて自分たちをひどく扱う白人の宗教(=キリスト教)からは離脱していき,イスラム教徒へと移り始めたのでした。

2.ひどい仕打ちを受けていた黒人たちは,麻薬に逃げ,白人女性を姦通し,あらゆる違法行為を犯し,刑務所に放り込まれました。これはほんとうに黒人が犯した罪もあれば,白人に迫害されて,行き場をなくし,どうしようもない時に,当時弱者であった黒人は,ほんとうは犯していない罪を被せられたというケースもありました。そういった時に,「いままで信じてきたもの(たとえば神様)とはいったい何だったんだろう」と疑問を持ち始めました。そこで,やさしい言葉で「イスラム教徒という素晴らしい思想がある。これを信じれば,麻薬からも救われるし,姦通からも救われるし,そういった犯罪をおかしたおまえも,アッラーは救ってくださる」という囁きを誰かしらから聞いたりします。そこで興味を持った今まではキリスト教徒であった黒人は,イスラム教徒へと移り始めます。

3.いままで当たり前のようにキリスト教徒として教会に通っていた黒人は,『マルコムX』という偉大な映画を観て,イスラム教(とくにネーション・オヴ・イスラーム)の存在を知ります。そこでは力強い言葉で「イスラム教は打ちひしがれた黒人のあなたを救ってくれる。これまで「黒人を」救うとはっきり言った宗教はこれまで存在しなかった。しかしイスラム教のみが「黒人を」救うと言っている」と,語られます。ここでいままで当たり前のようにキリスト教を信じていた黒人は,イスラム教に心を奪われ始めます。

キリスト教が白人を相手にして書かれた経典(Bible)だとすると,コーランは有色人種を対象として書かれたものである,という主張をネーション・オヴ・イスラームは広め,信者を増やしていきました。黒人の中でも特に奴隷として苦しい暮らしをしている人たちがNOIに救いを求めました。

しかしながら,実際,米国の統計センター(Pew Research Center)によりますと,アメリカ全土で考えてみますと,イスラム教徒である黒人はアメリカに住む黒人全体のわずか2%であり,その他黒人のほとんど(約80%)がキリスト教徒(カトリック,プロテスタント等を含む)との統計が出ております。

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つまり,映画『マルコムX』は非常に影響力があるものでしたが,それをマジでイスラム教徒に改宗した黒人の割合はほんの2%しかいなかったということですが,ここで新たに驚くべきことは,この2%の中の多くが,ヒップホップ界に君臨するアーティストである,ということです。黒人全体の2%しかいないのに,ヒップホップ界では,こんなにも多くの(前回ご紹介したとおり)ラッパーたちがムスリムなのですから。

ちなみに前回ご紹介した,熱心なイスラム教徒であるラッパー=ジェイ・エレクトロニカ(Jay Electronica)の楽曲「Exhibit C」のアラビア語でイスラームの祈りの言葉を発する箇所をもういちど聴いてみたいと思います。下記YouTubeのタイムライン3:11~3:17の部分です。

They call me Jay Electronica—fuck that
Call me Jay Elec-Hanukkah, Jay Elec-Yarmulke
Jay Elect-Ramadan, Muhammad as-salaam-alaikum
RasoulAllah Subhanahu wa ta’ala through your monitor

俺の名はジェイ・エレクトロニカ・・・はもう死んだ
これからはジェイ・エレク・ハヌカ,否,ジェイ・エレク・ヤルムルケ
ジェイ・エレク・ラマダン・ムハンマドと呼んでくれ,アッサラーム・ア・レイコム
ラスール・アッラー,スブハナフ・ワ・タッラー,そうモニターから祈りが流れ出す

註釈:
・ハヌカはユダヤ教のお祭りで,クリスマスの時期に行われる。「ハヌカー」とはヘブライ語で「奉仕する」という意味。神殿の清みの祭りとされる。
・ヤルムルケはユダヤ人が頭に被っている聖なる絹。
(ここから以下がイスラム教への言及)
・ラマダンは断食の月。前回も言及したように,夕刻のイフタールが来るまでは,厳しいところでは水も飲まない。(しかし最近は酷暑の国で水を飲まず死者が出たため,水分は取ることが推奨される。)
・ムハンマドとはイスラームの預言者の名前であるが,イスラム教徒のもっとも典型的な男性の名前でもある。
・アッサラーム・ア・レイコムとは,イスラム教徒同士が交わす挨拶であるが,おおもとの意味は「神の平和を」。
・ラスール・アッラー.スブハナフ・ワ・タッラーとは,「神の遣いよ,栄光に包まれ,喜びとともにあれ」という意味。

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(上記のシーンは,映画『マルコムX』でも映し出される,世界中のイスラム教徒が一生に一度巡礼(=ハッジ)するといわれるサウジアラビアのメッカの模様。)

さて,次回は,いよいよ佳境に入ります。ネーション・オヴ・イスラームはいつから始まり,誰が始めたのか。そしてルイス・ファラカーンとはいったい何者なのか,ということを紐解いてみたいと思います。

(文責対訳:Jun Nishihara)

カニエ・ウェスト対訳「Waves」全ヴァース訳(アルバム『The Life of Pablo』楽曲⑩)

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(上記写真はビヨンセ(左)とクリス・ブラウン(右)。クリス・ブラウンは以下楽曲「Waves」でカニエ・ウェストとコラボレーションしました。)

Kanye West feat. Chris Brown, Kid Cudi & Chance the Rapper – “Waves”
カニエ・ウェスト feat. クリス・ブラウン,キッド・カディ&チャンス・ザ・ラッパー「Waves」(全ヴァース訳)

[Intro]
Turn me up!

(イントロ)
音アゲてくれ!

[Verse 1: Kanye West]
Step up in this bitch like (turn me up!)
I’m the one your bitch like
Yeah I’m the one your bitch like (turn me up!)
And I be talkin’ shit like
I ain’t scared to lose a fistfight (turn me up!)
And she grabbin’ on my **** like
She wanna see if it’ll fit right (turn me up!)
That’s just the wave

(ヴァース1:カニエ・ウェスト)
シーンにスキップして入ってきた(アゲてくれ!)
おまえの彼女が惚れてる男
そうさ,俺は,おまえの彼女が惚れてる男(アゲてくれ!)
おまけに,こんなくっだらねえことほざいて
「コブシの喧嘩に負けるのは怖くねえ!」(アゲてくれ!)
女は俺の股間をがっつり掴んで
試してんのさ,すっぽり入るかどうか(アゲてくれ!)
それが「ウェーブ」ってもんさ

[Chorus: Chris Brown & Chance The Rapper]
(Yeah) Waves don’t die
Let me crash here for the moment, yeah
I don’t need to own it
No lie
Waves don’t die, baby
Let me crash here for a moment
Baby, I don’t, I don’t need to own you
(Yeah, yeah, yeah, yeah) (turn me up!)

(サビ:クリス・ブラウン&チャンス・ザ・ラッパー)
(そうさ)ウェーブは死なない
しばらくここで,波打たせてくれるかい,イヤー
永遠を求めているわけじゃない
ほんとうさ
ウェーブは死なないよ,ベイビー
しばらくここで,波打たせてくれるかい
ベイビー,俺は君と,永遠を求めているわけじゃない
(イヤー,イヤー,イヤー,イヤー)(アゲてくれ!)

[Verse 2: Kanye West]
Sun don’t shine in the shade, ugh (turn me up!)
Bird can’t fly in a cage, ugh (turn me up!)
Even when somebody go away (turn me up!)
The feelings don’t really go away
That’s just the wave

(ヴァース2:カニエ・ウェスト)
日陰に太陽は当たらない,アッ!(アゲてくれ!)
鳥はケージの中じゃ飛び立てない,アッ!(アゲてくれ!)
たとえ去る人がいたとしても(アゲてくれ!)
気持ちまで去っていくことはない
それが「ウェーブ」ってもんさ

[Chorus: Chris Brown & Chance The Rapper]
(Yeah) Waves don’t die
Let me crash here for the moment
I don’t need to own it
No lie
Waves don’t die, baby
Let me crash here for a moment
Baby, I don’t, I don’t need to own you
(Yeah, yeah, yeah, yeah)

(サビ:クリス・ブラウン&チャンス・ザ・ラッパー)
(イヤー)ウェーブは死なない
しばらくここで,波打たせてくれるかい
一生モノじゃなくたっていい
ほんとうさ
ウェーブは死なないよ,ベイビー
しばらくここで,波打たせてくれるかい
ベイビー,俺は君と,永遠を求めているわけじゃない
(イヤー,イヤー,イヤー,イヤー)

[Bridge: Chris Brown]
No lie
No lie
No lie
You set the night on fire
I’m still gon’ be here in the morning
No lie

(ブリッジ:クリス・ブラウン)
ほんとうさ
ほんとうさ
ほんとうさ
君が夜を燃え上がらせてくれる
僕はここにいるよ,朝までね
ほんとうさ

[Interlude: Kid Cudi & Kanye West]
Humming

(インタールード:キッド・カディ&カニエ・ウェスト)
“ハモり”

[Outro: Chris Brown]
No lie
Ooh baby, ooh baby, ooh yeah
You set the night on fire
I’m still gon’ be here in the morning
No lie

(アウトロ:クリス・ブラウン)
ほんとうさ
ウゥベイビー,ウゥベイビー,ウゥイヤー
君が夜を燃え上がらせてくれる
僕はここにいるよ,朝までね
ほんとうさ

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

カニエ・ウェスト対訳「Waves」ヴァース2(アルバム『The Life of Pablo』楽曲⑩)

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(写真はジャスティン・ビーバー(左)とクリス・ブラウン(右)。クリス・ブラウンは,以下楽曲「Waves」でカニエ・ウェストとコラボレーションしました。)

Kanye West feat. Chris Brown – “Waves” (Verse 2)
カニエ・ウェスト feat. クリス・ブラウン「Waves』(ヴァース2対訳)

[Verse 2: Kanye West]
Sun don’t shine in the shade, ugh (turn me up!)
Bird can’t fly in a cage, ugh (turn me up!)
Even when somebody go away (turn me up!)
The feelings don’t really go away
That’s just the wave

(ヴァース2:カニエ・ウェスト)
日陰に太陽は当たらない,アッ!(アゲてくれ!)
鳥はケージの中じゃ飛び立てない,アッ!(アゲてくれ!)
たとえ去る人がいたとしても(アゲてくれ!)
気持ちまで去っていくことはない
それが「ウェーブ」ってもんさ

現代の若者黒人文化をリードする人物(その①:レイアナ・ジェイ)

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(上記写真は,2019年4月4日にYouTubeにて生ストリーミングされた番組より。右から2人目がレイアナ・ジェイ。)

新人の女性若手アーティスト=レイアナ・ジェイは,今年でまだ25歳。昨年11月に当サイトでも取り上げました(→こちらです)

これまで3枚のEPを発表し,ついに今年3月22日に初の公式アルバム『Love Me Like』をリリースしました。

いまだにウィキペディアでは取り上げられておりませんが,上記アルバム『Love Me Like』はレイアナにとって人生初の全米ビルボードでチャートインし,冒頭の生ストリーミングでは女友達から「charting queen(チャートの女王)」と呼ばれるようにまでなりました(もちろん誇張していますし,大げさですけれど)。人生初にリリースしたアルバムが,全米ビルボードチャートのR&B部門第25位を達成。メジャーデビューは果たしていないどころか,インディーズのレーベル=EMPIRE RECORDSとの契約であるにもかかわらず,25位というのはアングラでのデビュー作にしてはなかなか良いポジションでしょう。

昨年レイアナ・ジェイについて書いた際に言及いたしましたが,レイアナは,つい最近まで,音楽だけでは食べていけず,アルバイトと兼業をしておりました。それがいつしか,やがて,アルバイトを辞めてもなんとか食べていけるようになり,音楽に専念するためニューヨークへも引っ越しをするようになり,EMPIREレーベルと契約を交わし,ニューヨークのスタジオでレコーディングをし,公式アルバムをリリースして,ついに全米ビルボードにチャートインする,というのをここ3,4年で果たしております。なかなか素敵な声の持ち主である彼女は,(ジャジーなのにジャジーすぎない)現在ヒップホップ界に蔓延る「ウケ」狙いのアーティストが多い中,そんなものたちとは全くかけ離れた,真の音楽的才能(歌手としての堅実な才能)の持ち主であるといえるでしょう。

本年3月にリリースされた『Love Me Like』より,以下の楽曲「Know Names」をご紹介いたします。

「現代の若者黒人文化(young black culture)をリードする人物」にレイアナ・ジェイを選んだ理由は,彼女はカーディBやニッキー・ミナージュのような派手さはまったくないですが,堅実な音楽性という意味では,最近ヒップホップ界に蔓延る「単なるハヤり」や「ウケ」を遥かに凌駕するものを彼女に感じたからです。冒頭の生ライヴストリームでは,レイアナは,1970年代に活躍したテディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)という黒人男性歌手についても言及しています。現代の新しいものばかりで固めるのではなく,「古きをたずねる」ということをちゃんとしています。そういった面を持ち合わせている若手アーティストはこれからも必ず伸びていくことでしょう。

昨年も書きましたが,彼女の名前=Rayana Jayの読み方は「レイアナ・ジェイ」です。英語でこれを発音すると,「レイナ」のように「ア」にアクセントを置きます。つまり「ア」を強く発音するのですが,レイアナ自身が経験した,以下のエピソードを紹介いたします。

あなたはスタバ(正式名:Starbucks)で働いていたとします。そこへ,とある黒人女性のお客さんがやってきて,抹茶ラテのトールを注文しました。スタバでは,カップにお客様の名前を書くことになっていますので,あなたは,その女性に尋ねます。「How may I call you?(あなたのお名前は?)」,すると女性はこう答えました「You can call me ‘Rayana(レイナ)’.」と。

さて,それを聞いたあなたは,彼女の名前を英語で,カップにどう書きますか?忘れてはいけないのは,ここはスタバです。まわりはお客様でにぎわっておりますので,けっして静かな場所とは言えません。静かなところで,耳をすまして,「レイアナ」と聞いたわけではなく,まわりで抹茶ラテを作るシェーカーがガガガガガガガーーーー!と鳴って,がちゃがちゃしているところでそのお客さんが「レイアナ」と発音するのを聞いて,あなたはカップにその名前を英語で書かなきゃいけないのです。さて,英語でなんと書きますか?

これは実際に起こったシチュエーションです。レイアナ・ジェイがアトランタ(ジョージア州アトランタ)にあるTrap Museumを観に旅行した際,寄ったスタバで出てきた抹茶ラテのカップにはこう書かれておりました。

「Rihanna(リーナ)」と。

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なお,女性ファッション雑誌(Nylon Mag)で取り上げられた企画「60秒でわかるレイアナ・ジェイ」を掲載しておきます。

最後に,レイアナ・ジェイの最新アルバム『Love Me Like』から楽曲「Know Names」をセッションした映像を掲載しておきます.

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ音楽とイスラム教の関係 (アルバム『Ye』のリリースから今年6月1日で1年を経たいま振り返る(その①))

本年6月1日で,カニエ・ウェストのアルバム『Ye』リリースから1年が経ちました。昨年のちょうど今頃,暑い夏が始まろうとしていた頃でした,同アルバムを当サイトで翻訳・対訳を掲載させていただき,いろいろな方々に読んで頂きました。当サイトにお越しいただき,読んでいただき,ありがとうございました。そして今日もここに来ていただき,ありがとうございます。

リリースから1年後の今,アルバム『Ye』を振り返って,カニエがアルバム冒頭の楽曲「I Thought About Killing You」でラップしている歌詞の一部について,注目しておきたいと思います。

カニエはこういう歌詞で曲を始めております。

[Verse: Kanye West]
I called up my loved ones, I called up my cousins
I called up the Muslims, said I’m ’bout to go dumb
Get so bright, it’s no sun, get so loud, I hear none
Screamed so loud, got no lungs, hurt so bad, I go numb
Time to bring in the drums, that prrt-pu-pu-pum
Set the NewTone on ’em, set the nuke off on ’em
I need coke with no rum, I taste coke on her tongue
I don’t joke with no one, they’ll say he die so young
I done had a bad case of too many bad days
Got too many bad traits, used the floor for ashtrays
I don’t do shit halfway, I’ma clear the cache

(ヴァース:カニエ・ウェスト)
愛する人たちに,親戚兄弟に,ムスリムの仲間たちに
電話してこう伝えた,「ついに俺,暴れちゃいそう」
まぶしくなって,太陽は沈んだ,爆音で,音は消えた
悲鳴をあげた,声は出ない,傷ついた,感覚は麻痺した
叩いて響かせろ,太鼓の音を,ダ・ダ・ダ・ダン・ダン
オートチューンを効かせて,ピッチを爆発させろ
ラム無しのコーラ,彼女の舌にコカの味
ふざけてんじゃない,よく言われるよ,「早死にするよ」って
ツイてない日が連続で起こったケースが俺
悪い癖がありすぎて,床を灰皿代わりにしたりして
中途半端なことはしたくない,すべて真っさらにしてやりたい
(対訳:Jun Nishihara)

曲の冒頭でカニエは「I called up my loved ones / I called up my cousins / I called up the Muslims(俺は愛する人たち,親戚兄弟,そしてムスリムの仲間たちに電話してこう伝えた)」と言っております。

ムスリムとはイスラム教の教えを信仰する教徒の人々のことですが,カニエ・ウェストにとって,そしてヒップホップ,はたまた黒人の歴史にとって,イスラム教は切っても切れない一つの宗教といいますか思想でした。アメリカに住む黒人が信仰するイスラム教は一般的にブラック・イスラーム(Black Islam)と呼ばれているものですが,どういう宗派があって,ヒップホップ・アーティストでは誰がそのイスラム教徒で,どういう教えで,なぜ彼らはイスラム教徒に改宗したのか,というのを簡単にひもといていきたいと思います。

カニエ・ウェストの周辺では,カニエと同郷出身でむかしからともに活動してきたラッパーのモス・デフ(Mos Def)がカニエに一番近いムスリム(イスラム教徒)といえるでしょう。

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(上記写真はモス・デフです。)

モス・デフは2011年9月に自身の名前を法的に「Yasiin Bey(ヤシーン・ベイ)」に改名し,2016年1月19日,カニエ・ウェストのホームページでヒップホップ業界からの引退宣言をしました。モス・デフ改めヤシーン・ベイは,母親シェロン・スミスと父親アブドゥル・ラフマーンの子です。父親アブドゥル・ラフマーンはネーション・オヴ・イスラーム(Nation of Islam(略してNOI))の信者で,ワリス・ディーン・ムハンマドというスンニ派(イスラム教徒の宗派)に信徒として仕えました。モス・デフは20代の頃,ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)という偉大なるヒップホップ・グループのメンバーでありイスラム教徒であるアリ・シャヒード・ムハンマドやQティップ(Q-Tip)とよくつるんでいました。

また,カニエと同郷シカゴ出身ですが,カニエよりも若い世代のルーペ・フィアスコ(Lupe Fiasco)もムスリムです。

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(上記写真はルーペ・フィアスコです。)

ジェイZのレーベル=ロック・ネーション(Roc Nation)に所属しているヒップホップ・アーティスト=ジェイ・エレクトロニカ(Jay Electronica)も熱心なイスラム教徒です。彼の歌詞には,「神の平和を」を意味するムスリム同士の挨拶言葉「As-salāmu ʿalaykum(السَّلَامُ عَلَيْكُمْ)」がよく使われております。以下は,ジェイ・エレクトロニカの名曲「Exhibit C」ですが,以下YouTubeのタイムライン3:11~3:17の箇所で,アラビア語らしきイスラームの祈りの言葉が発せられております。

上記曲「Exhibit C」のプロデューサーはかの有名なジャスト・ブレイズです。ジェイZの名盤『The Blueprint』(2011年9月11日(9.11の日)にリリース)でカニエ・ウェストと双璧をなしたベテラン・プロデューサーです。ビヨンセのアルバム『レモネード(Lemonade)』に収録されているケンドリック・ラマーをfeat.した楽曲「Freedom」も,ジャスト・ブレイズがプロデューサーを務めております。

さて,話を戻しますと,このようにヒップホップ界にはイスラム教徒はめずらしくなく,他にも以下のとおり結構な数でイスラム教徒と呼ばれるヒップホップアーティストはいます。一部を挙げますと,T-ペイン,DJキャレド,バスタ・ライムス,SZA(最近ポップ界でも人気の女性歌手),スウィズ・ビーツ,MCレン,ケヴィン・ゲイツ,アイス・キューブ,フレンチ・モンタナ,フリーウェイ,ビッグ・ダディ・ケイン,ビーニー・シーゲル,エイコン,スカーフェイス,シェック・ウェス,ニプシー・ハッスルです。彼らの多くは,モス・デフの父親と同じく,ネーション・オヴ・イスラーム(NOI)を中心に信仰しているようですが,各アーティストによっては,どれくらい信仰しているかについての程度の差はあると思います。

ブラック・イスラームにおけるネーション・オヴ・イスラームという宗派は,どういった教えなのでしょうか。大きくわけて3つのことがいえるそうです。

1.伝統的イスラームの教えと同じくイスラム教の五行は基本的に信じているが(例えば「ラマダンの月には断食を行う」(夕刻のイフタールまでご飯を食べないし,水も飲まない。しかし最近は,パキスタンやアフガニスタン,イラクなど,酷暑の夏には水分を取らないのは危険なため,水だけは許されている国もあるそうです。)など)しかし,解釈の面で伝統的イスラームと相違している部分もある。

2.堕落した人生を送っている黒人を救うとする。(街角や監獄で,未来への希望も夢もなく時を過ごしている黒人たちや,麻薬,白人女性に対するレイプ,家庭崩壊などといったような(黒人として)誇るべき生き方でない道を歩んでいる者を救うとする。)

3.イライジャ・ムハンマドを使徒とする。(2019年時点の指導者はルイス・ファラカーンであるが,指導者は時代によって変われど,使徒(Messenger)であるイライジャ・ムハンマドは変わらない(注:NOIが解体しない限り。))ちなみに,預言者(Prophet)は伝統的イスラームもNOIも,ムハンマドであると信じる。

さて,こうしたネーション・オヴ・イスラームという黒人を対象とした特有のイスラム教のひとつの思想に,ブラック・ムスリムであるモス・デフやルーペ・フィアスコ,ジェイ・エレクトロニカは,どういうところに魅了されたのでしょか。

この続きは,後日,ひもといて参ります。

(文責:Jun Nishihara)