第45位:21 Savage feat. J. Coleの“a lot” (今年出たHip-Hop名曲名場面ベスト50)

ミュージックビデオはこちらです。

冒頭の立派な豪邸は,アメリカの中産階級(あるいは中間階級)の家庭でよく見る家の形をしています。わたしもアメリカの高校に通っていた際,卒業生プロムパーティーの準備で,お相手の友達の家に集合して,男子はレンタルしてきたタキシードを着て,女子は綺麗なプロムドレスに身を纏って写真を撮ってから会場に行ったのですが,その人の家は映像の家の造りに似ており,裏庭(backyard)は芝生で広く,そこでグループフォトを取るスペースがある。そういうことを思い出して感慨に耽っている場合ではないのですが,とても懐かしい感じがするとともに,アメリカの中間階級の家庭では一般的な家であり,大富豪にならずともアメリカの中西部ではこのくらいの家は持てる人が多いようです。

このソウルフルなビートは,1960年代の名曲East of Undergroundの「I Love You」をベースにサンプリングしております。

Verse by 21 Savage:

Penitentiary chances just to make a couple bucks
My heart so cold I could put it in my cup
Gang vs. the world, me and my dawg, it was us
Then you went and wrote a statement, and that really fucked me up
My brother lost his life and it turned me to a beast
My brother got life and it turned me to the streets
I been through the storm and it turned me to a G
But the other side was sunny, I get paid to rap on beats

2, 3ドルの儲けのために,あやうくムショにぶち込まれ
ギンギンに冷えたハート,グラスにカランカラン
世間vs.俺と仲間たち,いつも共にいた
それがいきなり俺の元を去り,チクリやがって,途方に暮れた
弟が命を犠牲にしてから,俺は野獣のように戦った
兄貴が終身刑を宣告され,俺はストリートをさまよった
嵐のなかを進んできた俺は,立派なギャングスタとなった
しかしそういった生き様の真逆にあったのは,華やかで,ラップをビートに乗っけて稼ぎ始める人生だった

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

アメリカ『BET』の歴史と重なるメアリーJブライジの音楽史に贈られた特別功労賞。

MJBRealLove
(デビュー当時のMary J. Blige)

黒人音楽を聴くという習慣がついているものにとって,アメリカのBETというTVチェンネルは欠かせないものです。アメリカ黒人のカルチャーやファッション,音楽やミュージックビデオ等に関するあらゆる番組を一日中放映しているTVです。(BET=Black Entertainment TV)2000年代初期の頃にはまだまだBETよりもMTVという時流はありましたが,最近ではMTVと双璧をなすほどのクオリティとトレンド力をBETはつけてきたと思います。

MTVと同じくBETでも毎年「BET Music Awards」が開催されます。2001年から開催するようになり,今年で19年目です。

そのBET Music Awardsで今年開かされたAwards授賞式では,メアリー・J.ブライジ(Mary J. Blige)が素晴らしきステージパフォーマンスを見せてくれました。メアリーが活動を始めたのは1989年,BETが創設されたのは1980年,アメリカの全国版TVチャンネルとして認められたのは1983年でした。つまり,BETがアメリカ全土に放映されるようになって僅か6年後にメアリーのミュージックビデオはBETチャンネルで放映されるようになったのでした。

こうして四半世紀以上の黒人音楽史を,Mary J. Bligeとともに歩んできた米国BETチャンネルは,今年(2019年)のBET授賞式で彼女を特別に讃えることとしました。まさにその名に等しい「Lifetime Achievement Award(特別功労賞)」です。この特別功労賞は,黒人音楽の歴史において名を馳せるとともに,黒人音楽に長年の間貢献した偉大なる人物に贈られる賞です。過去に同賞を受賞した人物にホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston),ジェイムス・ブラウン(James Brown),チャカ・カーン(Chaka Khan),プリンス(Prince),ダイアナ・ロス(Diana Ross)等,まさに偉大なる人物が並びます。

その偉大なる人物の中に,ついにMary J. Bligeも並ぶこととなりました。現代の世代のヒップホップアーティストでこの受賞者の欄に並ぶのは初めてです。「ヒップホップ」が初めてなんです。信じられないようで,ずっとヒップホップを聞いてきたものにとっては感慨深いものがあります。繰り返しますが,「功労賞」にヒップホップという音楽も入るようになったんです。今まで「若者の音楽」だと勝手に思ってきたヒップホップも「歳をとったものだなぁ」とこれを見て思いましたよ。あのダボダボのシャツとダボダボのパンツとベースボールキャップを被って腰を屈めてストリートを闊歩したいたナインティーズのヒップホップスタイルも,今や,小ぎれいに着飾って,ジュエリーなんかしちゃって,パンツもタイト,シャツもタイト,キャップも高価,もうかつての「土臭さ」はなくなりつつありますけれど,以下のメアリーのパフォーマンス映像では,ミーゴスもカーディBもリスペクトの目でメアリーを見る映像が映し出されます。この姿はMTVでは観られないんじゃないかなぁなんて思います。

そしてその同授賞式でのメアリーのステージがまた素晴らしかった。これです。

そして以下がメアリーが特別功労賞を受賞する際の模様です。

ヒップホップ・ソウルの歴史がまた1ページ,刻まれました。

(文責:Jun Nishihara)

第2位「今年のグラミー賞で,現代アメリカへの怒りと憤りをヒップホップという音楽に昇華させたケンドリック・ラマーのパフォーマンス!」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

今年2018年1月28日,ニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン(Madison Square Garden)で,「第60回グラミー賞」(60th Annual Grammy Awards)が開催されました。そのステージで見せてくれたケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のパフォーマンスが素晴らしかった。まずはそれをご覧あれ。

Kendrick Lamar – 60th Grammy’s Performance 2018 from Pablo Andres Vizcarra Montaño on Vimeo.

これは現代のアメリカ国への怒りと憤りに満ちた映像です。パフォーマンスの途中,バックのスクリーンに大きく「THIS IS A SATIRE by KENDRICK LAMAR(これはケンドリック・ラマーによる諷刺だ)」と映し出されます。現代アメリカへの怒りと憤りをヒップホップに昇華させたパフォーマンスでした。これをヒップホップと呼ばず,他に何をヒップホップと呼べるか。

さて,途中デイヴ・シャペル(Dave Chappelle)の一言が混じります。もちろんこれも意図的なものです。デイヴ・シャペルが言うとおり,「こんなものを国営放送で流しいいのか?!」ということですが,それをOKしたCBS局にも感謝です。もしCBSがこれをOKしていなければ,こんなに素晴らしいパフォーマンスは今頃は日の目を見ていなかったでしょう。

これこそ今年のヒップホップ,第2位に相応しいパフォーマンスでした。

(文責:Jun Nishihara)

第16位「チャイルディッシュ・ガンビーノの”This Is America”か,もしくはジョイナー・ルーカスの”I’m Not Racist”」。(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

2018年総まとめヒップホップ曲ランキング《トップ30》の第16位をどの曲にするか検討するにあたり,今年全米に最も物議を醸し出した曲を2つ選びました。それが以下の2曲でした。

1.Childish Gambino – “This Is America”
もしくは,
2.Joyner Lucas – “I’m Not Racist”

1つは,現代全米に蔓延る銃問題。白人の警察官が黒人の若者を銃殺するという事件が増えているという事実にとどまらず,白人同士でも黒人同士でも,アメリカ中で銃問題が現在,大問題となっております。それを音楽や映像という媒体をとおして,ここまで過激なミュージックビデオに仕上げているチャイルディッシュ・ガンビーノの芸術性に脱帽しますが,それはさておき,近代のアメリカ史で,ここまで銃を使った犯罪が大きく問題になっている時期は無かったでしょう。

2つは,現代全米に蔓延る人種問題。ジョイナー・ルーカスは黒人アーティストですが,ミュージックビデオに白人を起用し,白人の目線からの「言い分」と,セカンド・ヴァースには黒人の目線からの「言い分」を両方載せています。白人の言い分は,黒人は自分らが差別されていることを大昔の奴隷時代のことをいまだに持ち出してきて,それを理由(言い訳)にして,だらしない生活を送っているだけ,そんな大昔のことを言い訳にせずに,ちゃんと真面目に働けば,貧困を抜け出すこともできるし,ちゃんとした生活を送ることもできるし,「白人のせいにする」こともないだろう,と言っております。逆に黒人の言い分としては,奴隷制度は大昔の歴史であるものの,現代に生きている自分たちにはその影響はあるんだ,と。おばあちゃんやおじいちゃんが経てきた苦しみは,現代の黒人の俺たちに受け継がれているんだ,と。とりわけ「Nigga」という言葉は,黒人の我々を抑制するために,「白人が作り出した単語」であるのだ,と。けっきょくいまだにこの国(アメリカ)は白人が支配しているもの。黒人が職を見つけようと面接とかやっても,面接やテストが通ることはない。けっきょくは肌の色で判断されているんだ,と。だからドラッグを売りさばいて,子供のために金を稼ぐしかないんだ,と。しかも,最近は黒人がクールだと勝手に解釈して,黒人の真似している白人の若者ども,おまえらには「黒人の生き様(カルチャー)」なんて分かってたまるか,と。この国(アメリカ)には「システム化された糞人種差別(systematic racism bullshit)」がある,と。

ちなみにこのジョイナー・ルーカスの「I’m Not Racist」は来年(2019年)のグラミー賞に先日ノミネートされたばかりです。

ということで,第16位は,Childish Gambinoの「This Is America」及びJoyner Lucasの「I’m Not Racist」の両方,ということで締めくくりたいと思います。

現代のアメリカにとって最も必要である会話は,この2つの楽曲から生まれる会話である,と言っても過言では無いでしょう。

最後に,この2つの楽曲のミュージックビデオを記載しておきます。

今年ヒップホップ第16位:Childish Gambino – “This Is America”

今年ヒップホップ第16位(タイ):Joyner Lucas – “I’m Not Racist”

追記:黒人のJoyner Lucasのセリフを口パクで完璧に真似た白人男性に拍手。

(文責:Jun Nishihara)