Nasアルバム『The Lost Tapes』(2002年)より,対訳「Purple」(全ヴァース対訳)

本日はNasの2002年リリース『The Lost Tapes』より名曲「Purple」の全ヴァース対訳を以下に掲載いたします。

[Intro]
Light it, uhh
Light it up, uhh

(イントロ)
火をつけろ,uhh
火をつけろ,uhh

[Verse 1]
The whole city is mine, prettiest Don
I don’t like the way P. Diddy did Shyne with different lawyers
Why it’s mentioned in my rhymes? Fuck it
It’s just an intro, hate it or love it, like it, bump it or dump it
Write it, across the stomach spell “God son”
Life is like a jungle, black, it’s like the habitat of Tarzan
Matter of fact, it’s harder than most can imagine
Most of my niggas packed in correctional facilities
Half of them passed on, MAC strong, couple of shots
Made the ghost leave a body, now they hauntin’ the block
Where they used to stand at, somebody’s takin’ they place
A younger man perhaps, hand slaps, can’t understand that
Same walk, same talk, I wonder can that be possible?
A thug dies, another step inside his shoes
And they will hurt you, layin’ low with a bottle
I’m blowin’ circles, my state of mind purple

(ヴァース1)
この街はどこまでも俺の街,イケメンの首領(ドン)
P.ディディが弁護士を数人雇い,シャイン*(註)相手に勝訴したのはイカセねえ
どうしてそんな内容のラップするかって? 理由なんてねえ
それがイントロ,好けど嫌えど,聴けど捨てれど
俺は“書いた”,肚に文字,「神の息子(ゴッド・サン)」と
人生はジャングル,真っ暗で,まるでターザンの住処
実際のとこ,ここは,おまえらが想像する以上にハードなトコ
俺の仲間のほとんどが,ムショにとっつかまえられている
その半分があの世にいっちまい,マック銃にやられ,2,3発喰らった
その霊は肉体を離脱し,いま,ゲットーをさまよい歩く
かつてハッスルしていた場所で,今となっては,別の野郎がそこにいるが
若手の野郎が,大金の取引を交わす,それが現実,俺は理解に苦しむ
似た歩き方,似た話し方,俺は思う,んなことあっていいのか?
サグは死に,ヤツの代わりに別のヤツがそこを継ぐ
そしてまた傷つけられる,ボトルを片手に身をひそめる
ケムリをふかして,円を吐く,俺の気分は「パープル」

[Break]
Light it, light it, uhh
Yeah… light it up
Light it up, uhh

(ブレイク)
火をつけろ,火をつけろ,uhh
Yeah… 火をつけろ
火をつけろ,uhh

[Verse 2]
Y’all just wanna deal with drama
Talk about niggas who got things, y’all ready to kill his mama
Everything you into is underworld related
You sell your man out, not even your girl is sacred
You don’t trust a soul, hold up, you moldin’ soldiers
To pull guns quick and always look behind the shoulder
Think of how many dudes died tryna be down with you
Everybody’s under six feet of ground but you
Still standin’, still roamin’ through the streets, that’s real
You a survivor, knowin’ all the beef is ill
You got a bunch of thugs with you even now that’s ready
Trustin’ your judgment, quick to put it down, they deadly
The hood love you, but behind your back they pray for the day
A bullet hit your heart and ambulances take you away
That ain’t love, it’s hate, think of all the mothers at wakes
Whose sons you killed and you ain’t got a cut on your face?
Unmarked police cars roam the streets hard, the heat is God
Somebody tell these shorties reach for the stars
Instead they tell ’em how to reach through the bars holdin’ a mirror
Lookin’ down a tear in jail, makin’ weapons to kill ya
Weed smoke, three tokes, nigga, pour more Henny
He sighs with eyes that seen a war too many
Cold-blooded murderers, universal
Hood to hood, blowin’ smoke, state of mind is purple

(ヴァース2)
あんたらはドラマのように騒ぎ立ててばっか
金持ちの連中に嫉妬して,おふくろを人質にして
かかわっている世界は,どこに行ってもウラの社会
仲間の魂を売るやつもいれば,ガールフレンドでさえ狙ってくるやつもいる
誰一人でさえ信用できない,そうだろ,無邪気なヤツを戦士に育てあげ
条件反射で拳銃を握るまでにしては,常に後ろを振り向かせて不安を駆り立てる
おまえらに尽くそうとして死んでいったヤツはごまんといる
そんなヤツらはすでに地中に埋葬され,生き残っているのはおまえだけという有様
未だ立ち続け,ストリートをさまよう,リアルだろ
そんなおまえは生き残り(サヴァイヴァー),どんなビーフもイカシてる
おまえの跡をつけるサグ連中,いつだって飛びつく準備はできている
決断すればすぐ,いさかいなくキメる,致命的
ゲットーに愛されているというが,陰でヤツらはおまえが銃弾に倒れる日を
望み続けて祈ってる,救急車のサイレンを聞きたがってる
それは愛なんかじゃねえ,ヘイトってもんだ,通夜に参列する母親がどれだけ多いか
おまえが仕留めたその息子,にもかかわらず,おまえはかすれ傷ひとつとない
覆面パトカーがストリートをさまよう真夜中,熱気はプンプン
誰か女子に言ってやってくれ,「星空に手を伸ばすんだ」って
現実は異なり,最近の女子は刑務所の鉄ポールの間から腕を伸ばし手鏡を持ち上げる
豚箱にぶち込まれ,涙がしみる,そしてまた新たに武器が生産される
ハッパを焚いて,3発吸い込み,ヘネシーそそぐ
数え切れないほど目の当たりにしてきた戦(いく)さを思い出す瞳にため息をつく
冷血の殺人鬼,世界中どこにでもいる
ゲットーからゲットーへ,ハッパを一服吐き出して,俺の気分は「パープル」さ

[Break]
Light it up, light it up, light it up, uhh
Light it up… light it up, light it up, uhh
Uhh… uhh, uhh, light it, light it, uhh

(ブレイク)
火をつけろ,火をつけろ,火をつけろ,uhh
火をつけろ,火をつけろ,火をつけろ,uhh
Uhh… uhh, uhh, 火をつけろ,火をつけろ

[Verse 3]
These hot-headed youngsters always get into trouble
Reactin’ before thinkin’, they easily irritated
And murder’s premeditated, it’s a fact that we sinkin’
When we should be climbin’, in a nutshell, it’s just jail
Drug sales, liquor and diamonds, niggas rewindin’
Instead of movin’ forward to blow up, so what’s the science?
People shoutin’, police pushin’ the crowd
And on the ground’s a young soldier with meat hangin’ out him
Am I hallucinatin’ off the hazin’?
Or did I just see a nigga shoot another nigga’s face in?
It’s a ugly nation, cops circle the block with mug shots
Photograph pictures of suspect faces
It’s usually two or three niggas who innocent
But if they lock the wrong ones up, then someone’ll snitch
A divide-and-fall strategy, they aren’t fair
I dig in my bag of weed that’s covered with orange hair
This Color Purple’ll make Whoopi give me the pussy
And Celie, Oprah and Danny Glover gots to feel me
This is how I escape the madness
Too much of anything’ll hurt you, so my state of mind’s all purple

(ヴァース3)
最近の若者は短気で浅はか,トラブルに巻き込まれてばっか
考える前に反応し,いともたやすくキレやすい
計画的殺人犯行,事実,落ちぶれていっちまってる
向上しなきゃいけねえ時に,結果,ムショ行き
麻薬販売,酒の密輸にダイアモンド,黒人は退化しちまうばかり
進化して,一発当てなきゃいけねえ時に,その心は,どんな理論だ
大衆は叫び,サツは群衆を押し分けて
地面に横たわるのは,若い黒人青年,片手に拳銃を握ったまま
俺はハッパの吸いすぎで,幻覚を見ちまってるのか
それとも黒人が別の黒人の顔面狙って一発撃ったってのは事実なのか
醜い国家,犯人の顔写真がはびこるエリア
容疑者のツラに向けシャッターを押す
中には2,3人,無実な連中もいる
しかし密告されるヤツらは,ほとんど無罪なヤツらばっか
「内輪揉めで,共倒れ」,それがサツの狙い
ハッパが大量に入ったバッグに手を突っ込み
『カラーパープル』映画のように,女が俺の胸に飛び込んでくる
セリー役のオプラがダニー・グローヴァーにそうしたように
そうやって俺は狂気から逃れてんのさ
なんでもやり過ぎは体に悪い,だから俺の気分は「パープル」さ

*註釈
シャイン(Shyne):90年代後半から2000年前半にかけて活躍したラッパー。一時はそのドスの効いた声で,ザ・ノトーリアスBIG(AKAビギー)の生まれ変わりとも称された。最大のヒット曲は,ヒップホップ史上,極めて危険で,最も“ビギーを彷彿とさせる”と呼ばれた名曲“Bad Boyz”。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

Nasアルバム『The Lost Tapes』(2002年)より,対訳「Purple」(ヴァース1)

2002年にNYの街角でNasの『The Lost Tapes』というアルバム(当時はミックステープと呼ばれていた)を5ドルで購入し,ポータブルCDプレイヤーで聴き込んだ頃,まさかじぶんがこの曲を将来翻訳することになるとはこれっぽっちも思っていなかった。そして,そのアルバムを聴いていた当時は,日本語に訳すというマインドはまったく持たず,ありのままにNasがラップするのを聴いていた。「訳す」ということを考えず。

たとえば最近では,ラップを聴いていると,「ふむ,この部分は日本語に訳すとすればこう訳すだろう」ということを考えながら聴いている時もある。しかしそんなことは当時まったく考えずに聴いていた。

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(上記写真は,2002年のMTV Music Awards(MTVミュージックアワード賞)のリハーサルにて。左からNas,Ashanti,Ja Rule。当時2002年,彼ら3人は,ヒット曲「The Pledge」という曲をリリースしていました。当時,アーヴ・ゴッティ率いるザ・マーダー・インクというレーベルが勢いつけてきており,アシャンティやジャ・ルールなどがヒット曲をリリースしていました。この楽曲「The Pledge」は2パックの楽曲「So Many Tears」をサンプリングしており,曲の終わりにかけて,2パック本人のセリフも登場します。)

さて,そのNasの偉大なるウラのアルバム『The Lost Tapes』(2002年)から,楽曲「Purple」の対訳を掲載いたします。

Nas(ナズ) – “Purple” (Verse 1) 対訳

[Verse 1]
The whole city is mine, prettiest Don
I don’t like the way P. Diddy did Shyne with different lawyers
Why it’s mentioned in my rhymes? Fuck it
It’s just an intro, hate it or love it, like it, bump it or dump it
Write it, across the stomach spell “God son”
Life is like a jungle, black, it’s like the habitat of Tarzan
Matter of fact, it’s harder than most can imagine
Most of my niggas packed in correctional facilities
Half of them passed on, MAC strong, couple of shots
Made the ghost leave a body, now they hauntin’ the block
Where they used to stand at, somebody’s takin’ they place
A younger man perhaps, hand slaps, can’t understand that
Same walk, same talk, I wonder can that be possible?
A thug dies, another step inside his shoes
And they will hurt you, layin’ low with a bottle
I’m blowin’ circles, my state of mind purple

(ヴァース1)
この街はどこまでも俺の街,イケメンの首領(ドン)
P.ディディが弁護士を数人雇い,シャイン*(註)相手に勝訴したのはイカセねえ
どうしてそんな内容のラップするかって? 理由なんてねえ
それがイントロ,好けど嫌えど,聴けど捨てれど
俺は“書いた”,肚に文字,「神の息子(ゴッド・サン)」と
人生はジャングル,真っ暗で,まるでターザンの住処
実際のとこ,ここは,おまえらが想像する以上にハードなトコ
俺の仲間のほとんどが,ムショにとっつかまえられている
その半分があの世にいっちまい,マック銃にやられ,2,3発喰らった
その霊は肉体を離脱し,いま,ゲットーをさまよい歩く
かつてハッスルしていた場所で,今となっては,別の野郎がそこにいるが
若手の野郎が,大金の取引を交わす,それが現実,俺は理解に苦しむ
似た歩き方,似た話し方,俺は思う,んなことあっていいのか?
サグは死に,ヤツの代わりに別のヤツがそこを継ぐ
そしてまた傷つけられる,ボトルを片手に身をひそめる
ケムリをふかして,円を吐く,俺の気分は「パープル」

*註釈
シャイン(Shyne):90年代後半から2000年前半にかけて活躍したラッパー。一時はそのドスの効いた声で,ザ・ノトーリアスBIG(AKAビギー)の生まれ変わりとも称された。最大のヒット曲は,ヒップホップ史上,極めて危険で,最も“ビギーを彷彿とさせる”と呼ばれた名曲“Bad Boyz”を下記掲載しておきます。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

おまけ:
Shyne – “Bad Boyz”

Nasは現代ヒップホップの原点である。

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昨日(米国時間では本日),Nas(ナズ)が『The Lost Tapes 2』をリリースしました。

時をさかのぼり,2002年のニューヨーク。
マンハッタンの街角(ストリート)で売られていた『The Lost Tapes』のミックステープを5ドルで購入し,SONYのポータブルCDプレイヤーで以下の曲をかける。

このNasのフローとビートの流れを聴くと,いまだに当時を思い出す。

曲の冒頭で,イントロが終わるのを待たずに,ラップを開始するNasのスタイル。そしてビートに飲み込まれず,むしろ,ビートをラップ側に寄せていくというNasのフロー。

ラッパーの中には「ビートに飲み込まれたようなラップをする」ものがいる。
しかしNasのスタイルはまったくそれとは異なり,「Nasのタイミングでビートに乗っかり,Nasのタイミングでビートから降りる」という,素人のビートメーカーとしてはいつNasがラップを始めるかも,ラップを止めるかも予想がつかない。まったくの即興めいたラップをやってのけている。

もう1曲,オリジナルの『The Lost Tapes』から,この曲を掲載しておきます。

ヒップホップ界で最も偉大なるオモテのアルバムがNasの『Illmatic(イルマティック)』(1994年)であるならば,Nasのこの『The Lost Tapes』(2002年)は,最も偉大なるウラのアルバム(もしくはミックステープ)と呼ぶことができる。

そして2019年7月19日,あれから17年の時を経て,『The Lost Tapes 2』がリリースされた。

17年の時を経ているのにもかかわらず,Nasのフローがまったく衰えていないことは特筆に値することである。

そしてこんなことは言いたくないが,「これこそがNYのフロー」という懐かしい気持ちをも思い起こさせてくれるし,おまけに「これこそが現代が忘れかけているラップだ」という今の若き世代のラッパーどもの背筋を伸ばしてくれるような,いわゆる「王道のラップ」がこのアルバムに収録されている。

最近のへなちょこなラップで満足していてはいけない。

今こそ昨日リリースされたばかりのNas『The Lost Tapes 2』を聴いて,「王道のラップ」を思い出すべきだ。

ラップが来た道を思い出せないのであれば,あんたらのやってるそれは「ヒップホップ」じゃない。

(文責:Jun Nishihara)