黒人若手女子アーティスト2名(米公共ラジオ局(NPR)主宰“Tiny Desk Concert”で取り上げられた黒人女子シンガー抜粋(その②))

本日ご紹介する2名のシンガー/ラッパーは,現代音楽界に於ける,とても特別なお二人です。

ひとりめは,当サイトでも以前取り上げました。
公式デビューアルバムを本年3月にリリースしたチカ(CHIKA)です。
(「第4位:大ブレイク寸前,漆黒の女子ラッパー=オラニカ又の名をCHIKA「トランプ大統領への手紙」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)」)

ついに,チカも米公共ラジオ局(NPR)の「Tiny Desk Concert」に登場するようになりました。
以下の演奏と彼女の饒舌ぶり(間奏中の,おしゃべり達者!)をご堪能下さい。

前回,当サイトで彼女を取り上げた際には彼女が公式デビューアルバム『Industry Games』をリリースする前でしたので,彼女のフリースタイル映像をメインにご紹介いたしました。

最近はもう有名になってきておりますので,米国現代の若者文化(スローガンは“The Culture of Now”)を代表するウェブサイトUPROXXに於いて,“Rising Hip-Hop Star”(人気上昇中のヒップホップスター)として取り上げられたこともあり,その洗練されたミニセッション映像をお送りいたします。

チカのシングル曲「No Squares」も掲載しておきます。

ちなみにヒップホップを聴いている方なら誰でも知っている(べき)元Queen of Hip-Hopといえばローリン・ヒル(Lauryn Hill)ですが,彼女のメジャーヒットシングル曲「Doo Wop (That Thing)」のビートに乗っけたチカ(CHIKA)のフリースタイルがありますので,掲載しておきます。これは2017年の映像です。もう3年前!

もうひとつ,チカのフリースタイルを。これも3年前の映像です。キレッキレのフリースタイルです。韻を全くハズさない!脚韻だけでも注意して聴いてみてください。脚韻というのは各ラインの終わりのフレーズで踏む韻です。

続きまして,ふたりめはNoname(ノーネーム)です。本名ファティマ・ワーナー。当サイトでも以前,こちらで取り上げました

彼女の以下“Tiny Desk Concert”での模様は,大好きな動画の一つで,これを観て朝元気になって仕事に行くということもありました。

Nonameはシカゴ出身。シカゴはカニエ・ウェストやコモン,ルーペ・フィアスコなど,ソウルフルなラッパーを数々輩出してきた大都市です。そこにこの特別な星(スター)をわれわれファンに授けてくれるなんて,なんてありがたいことか。

Nonameのように,ラップが詩的な人,って最近はめずらしくなってきています。とくに20代のアーティストではそうです。とっても貴重なアーティストなのですよ,ノーネームは。

そんな特別な存在であるNonameのライヴが51分間堪能できる映像がありますので(YouTube, thank you!)掲載しておきます。

あまりにも有名なシングル曲「Diddy Bop」のサビでNonameは歌います。

Watching my happy block my whole neighborhood hit the diddy bop
(ハッピーな近所の隣人たちが,みんなでディディ・ボップのダンスを踊る)

この1行を聴いた時,聴いた人の頭の中では,「幸せそうな隣人たち」のイメージが浮かんだかと思いきや,その後瞬間的に,イメージは「ディディ・ボップを踊る黒人」に切り替わります。

「幸せそうな隣人たち」といういかにもゆったりした時間かと思いきや,次に飛び込んでくる映像は「ディディ・ボップ」ですからね。もう,たまんないです。

同曲から,もう少し歌詞を引用してみます。

Stop overreacting, it’s past my curfew I’m out after 6
Happily making my accident
Mama gon’ whoop on my ass again
Pray that I’m making my way before 8 and I might have to sneak in the back again

(対訳)
過剰に反応しないで,門限はとっくに過ぎてる,夕方6時を回ってる
嬉しさあまりにアクシデント起こす
ママにまたお尻ぺんぺんされるわよ
祈ってる,午後8時前までには帰宅できること,また家の裏口からこっそり入ろうかしら

なんて素朴な歌詞!
Rauryというノーネーム仲間のヴァースです。

まぁ,これがノーネーム(Noname)なのです。まったく飾らない,素朴な歌詞を曲にするのです。

そして冒頭のチカ(CHIKA)とは対照的で,ノーネームには脚韻はあまり関係ないのです。その分,ラップにキレ感は無いのですが,しかしながら,脚韻なんて踏まなくても,すでに詩的になっている。

もう一丁,歌詞,行ってみましょう。

B2K in the stereo, we juke in the back seat
Or juke in the basement, in love with my KSWISS’s
This feel like jumping in a pool and I’m knowing I can’t swim
Ooh, you about to get your ass beat
For stealing that twenty dollars like “baby, just ask me”

(対訳)
ステレオで流れるB2Kの歌,後部座席でバカ暴れするアタシたち
お気に入りのKSWISSのスニーカー履いて,家の地下でバカ暴れ
まるで気分は,プールに飛び込んで,アタシ,泳げないんだけどね
ウゥゥ,あんた,ママにお尻蹴飛ばされるわよ
20ドル札ドロボーしたでしょ「ベイビー,いつでも言って」って

良いですねえ。

歌詞中の「B2K」っていうのは2000年代前半に流行った黒人のボーイバンドです。↓これです。

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2行目の「KSWISS」っていうのは,これも2000年代前半に流行ったスニーカーです。懐かしいですね。今でも売れていますよ。

で,そのKSWISSを履いて,家の地下で踊りまくるっていうイメージです。まず,KSWISSで1ポイント。それに加えて,アメリカの家はよく地下に部屋がありますよね。郊外の中流階級の家庭では地下の部屋にpool table(ビリヤード台)を置いて,ちょっとした遊びの場所にするっていう。で,もちろんアメリカの家は靴を履いたまま家の中に入りますから,KSWISSを履いて踊るという映像。そういったアメリカの素敵なイメージを思い浮かばせといて,その後に「you ’bout to get your ass beat」というフレーズを繰り出す。まったりした白人の日常かと思いきや,リスナーが安心した瞬間に上記のようなフレーズを繰り出して「アタシは黒人よ!」というアイデンティティの表出を成功させます。

その素敵なシングル曲「Diddy Bop」を掲載して,本日終わりにします。

(対訳,文責及びキュレーション:Jun Nishihara)

米公共ラジオ局(NPR)主宰“Tiny Desk Concert”で取り上げられた黒人女子シンガー抜粋(その①)

初回は米国黒人女性シンガーを代表するこの2人です。

一人目はレイラ・ハサウェイ(Lalah Hathaway)。シカゴ出身のソウル・シンガー。女声の「アルト」の音域で歌う歌手として知られます。下記映像を観ていただくとわかると思いますが,かなり低い音程です。1990年にデビューし,既に6枚の公式アルバムをリリース。下記“Tiny Desk Concert”では楽曲セットリスト「Change Ya Life」「Boston」「Honestly」の順で歌います。

二人目はエリカ・バドゥ(Erykah Badu)。黒人音楽史上,非常に重要な奇才(鬼才)でありますため,紹介は不要でしょう。まぁ,この世の人物とは呼べない出立(いでたち)ですね。エリカは昔っからその奇才ぶりを発揮しておりました。その奇才ぶりはデビューアルバム『Baduism』を聴いて頂ければ分かると思いますが,最初っからこれまでのR&B界を覆す程のエネルギーを保持しておりました。公式デビューは1997年。同アルバム『Baduism』は後に「1976年以降リリースされた最も重要な261枚のアルバム」の内の1枚として称されることとなります。

レイラ・ハサウェイとエリカ・バドゥという同じソウルをやっていても,毛色が全く異なる二名は両名とも,音楽の歴史上,外せない人物です。

本日はいきなりの高レベルでした。歴史的な二名を取り上げましたが,レイラもエリカも,メジャーどころの曲を今回まったく披露していないのは,それもNPR主宰のこのミニセッションの醍醐味であります。

さて,今回は超ベテランのおふたりを取り上げましたが,次回は,まだまだ若手の黒人女子シンガーふたりを取り上げます。

(文責及びキュレーション:Jun Nishihara)

第1位:2019年の夏を制し,遂に1年まるごとヒップホップ界を盛り上げてくれた大・大・大ブレイクアーティスト登場!Megan Thee Stallion! (2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

2019年を一言で表現するとすれば,これかもしれません。「今年は女子ラッパーが活躍した一年だった」と。

シティ・ガールズ(City Girls)しかり,カーディB(Cardi B)しかり,ニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj),カマイヤ(Kamaiyah),ドージャ・キャット(Doja Cat),キャッシュ・ドール(Kash Doll),ティエラ・ワック(Tierra Whack),トリーナ(Trina),ノーネイム(NoName),ステフロン・ドン(Stefflon Don),そしてラプソディ(Rapsody)などなど。いま挙げたのは全員女性です。

必ずしもヒップホップとは呼べませんがポップ界では,黒人女性として歌手のリゾ(Lizzo)も大活躍しました。

そしてさらに追い討ちをかけるかのように,ヒップホップ界の超重鎮黒人女性ラップ・アーティストのミッシー・エリオット(Missy Elliott)も今年のMTV Video Music Award賞受賞会でその伝説的なカムバックを果たしました。おまけにニューEPもリリース!

こんなにも黒人女性及び女子ラッパーが活躍した2019年,なかでも特に,そう,特に,そう,くりかえします,特に!大・大・大ブレイクしたのが,この女性でした。それがMegan Thee Stallion!

ヒップホップ業界ではよく「夏を制すものは,一年を制す」といわれます。つまりその夏に売れたものは,一年をとおして売れる,その一年でもっともHOTなものといえる,ということです。

そして今年の夏を制し,ついには一年をも制すこととなったヒップホップアーティストが,そう,Megan Thee Stallionです。

英語読みは「メーガン・ジー・スタリオン」ですが,日本語表記は「ミーガン・ジー・スタリオン」と書いたり,「メーガン・ザ・スタリオン」と書いたり,「ミーガン・ザ・スタリオン」と書いたりと,あらゆる場所で別記載をしています。英語で読む場合はあくまでも「メー」にアクセント(強調)を置いて「メーガン・ジー(“the”の強調形,舌を噛んで発音)・スタリオン(タにアクセント)」です。

英語表記は満場一致の“Megan Thee Stallion”です。彼女の名前を呼ぶときは仲間たちは「Megan(メーガン)」や「Meg(メグ)」と呼びます。サウス出身の人たちは「メィガン」と呼ぶ場合もあります。愛称は「Stalli(スタリー)」です。

さて,このメィガン AKA メグ,今年の夏前から,こういうハッシュタグで話題になりました。「#HotGirlSummer 」です。

ツイッターやインスタグラム,Facebook,スナップチャットまで,アメリカ中,西から東,北から南まで,女子,いや,クィアな男子たちまでも,#HotGirlSummerで今年の夏を盛り上げてくれました。

実はまだ大学生のメィガン。つまり,まだ学生。まさに,いまのトレンドをいっちばん理解している世代の女子なのです。学校はTexas Southern University(テキサス南部大学)。つまりですよ,キャンパスはほぼ黒人の,いわゆる「HBCU (Historically Black Colleges & Universities=歴史的黒人大学)」と呼ばれる大学に通学しています。

1995年2月15日生まれ。今年で24歳。いま,何が流行っているかをいちばん理解して,そのど真ん中を生きている女の子です。

その彼女=メィガンが,今年の夏,ニッキー・ミナージュとコラボレートを果たしました。

この写真です。

Nicki-Minaj-and-Megan-Thee-Stallion-pic
(左がニッキー,右がメィガン)

そしてその曲が以下です。

Megan Thee Stallion feat. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign

メィガンは昨年からジワジワとヒップホップ界,ラップ界を湧かせてきておりました。

昨年2018年に発表したシングル曲が以下の曲です。これは今年になってもストリーミング及びダウンロードされまくり,売れ続けまくりました。

Megan Thee Stallion – “Big Ole Freak”

以下は11月に開催されたAmerican Music Awardsの帰り際にカマした即興フリースタイルです。

12月には遂に,NPR Music: Tiny Desk Concertにも登場いたしました。

メィガンのフリースタイルをもう一本,掲載しておきます。

最近のフィメール・ラッパーつまり女子ラッパーと何が異なるかというと,リリシズム(リリックを重視する)という態度です。

もちろん,タイトなルックスで,奇抜な服を着て(もしくは太ももを露出して)お尻を突き上げて,ダンスもしますが,それ以上に彼女の才能はそのリリシズムにあらわれています。

容赦ないフロー。スピード感あるラップ。90年代から2000年代にかけて,流行ったハードコアラップをも彷彿とさせます。リリックの内容はストリッパーだけじゃない。エロだけじゃない(もちろんエロもありますが,内容をセックスやドラッグばかりに頼っていない。

古き良き時代?!(いや,ヒップホップはそんなに古くない)のヒップホップをbring it back (よみがえらせた)ラッパーとも言えます。そういう点で優れているにもかかわらず,そういう点を差し置いたとしても,今年#HotGirlSummerのハッシュタグでヒップホップ界最高にアツい夏を魅せてくれました。

もうひとつ,メィガンについて,特筆しておくべき点は,アメリカのディープサウス(深南部)出身ということです。その深南部出身という肌感覚から,同じ深南部であるメンフィス出身のジューシーJ(Juicy J)とタッグを組んでラップしております。

肌感覚はよく曲にあらわれます。メィガンの肌感覚は,その昔,深南部で奴隷が経てきた苦しみを深い歴史に刻んでいます。500年間つづいた奴隷制度です。その奴隷の感覚がメィガンの肌感覚に残っている。その肌感覚から溢れ出るメィガンの音楽,といいますか,ラップといいますか,ヒップホップには,北部出身のラッパーには出せないソウルがあります。それはビートによってもあらわれます。コーンフィールドという畑を,鍬をふりかざして,耕す黒人奴隷。その「耕す」という行為には,早いテンポのビートが求められました。ビート(当時は「掛け声」)とともにふりかざして耕さないと,白人のご主人様にムチでぶったたかれますからね。だからダラダラしたラップで,間延びするラップのフローでは,いけなかった。間延びしちゃいけない。そこに深南部出身ラッパーの独特のラップスタイルがあります。それをメィガンも綿々と受け継いでいる。意識的に,無意識的に,どちらかはさて置いて,確実に受け継いでいる。そこにわずか40年という若い歴史のヒップホップを超えた,500年続いた奴隷制度の深い歴史を感じることができます。

Megan Thee StallionがJuicy Jとタッグを組んだ曲に,以下の曲があります。これはエロがメインテーマです。(Juicy Jはエロに生きる男ですから,彼と組めばこういう曲内容になるのは必然でしょう。うなずけます。)

つい先日1月10日(金)にリリースされた,Normani(ノーマニ)との新曲MVも以下に掲載しておきます。現在YouTubeにてトレンド第8位!

なお,こちらは年末年始のバケーション中に撮影したMegan Thee Stallionのフリースタイルです。

https://www.instagram.com/p/B7H6BemF7oL/

2019年,メィガン AKA メグは,ジェイZが築き上げたレーベル=Roc Nationに引き抜かれました。しかし,彼女がRoc Nationに入隊したのは,結果論。メィガンの魅力は彼女がRoc Nationに入ったことではなく,Roc Nationに入る前に,すでに魅力であふれておりました。Roc Nationに入ったのはオマケ。Roc Nationに入る事実を知る前から,Megan Thee Stallionは今年ナンバー1の女子ラッパー,いや,女子も男子もひっくりめての,「まるごと第1位」のヒップホップアーティストとして,ここに記載いたします。

2020年は明けました。2019年(平成31年/令和元年)もありがとうございました。今年も,当サイトに来ていただいて,ありがとうございます。これまでベスト50として,毎日アップをし続けましたが,あさってからは通常どおりのパターンに戻り,ほぼ毎週水曜日と土曜日の朝のアップいたします。2019年は皆さんにとってヒップホップに溢れた一年だったことと願っております。新年2020年はさらに素敵なヒップホップと出会えますように。どうもありがとうございました。

(文責:Jun Nishihara)