ニッキー・ミナージュ:デビュー以前のフリースタイル動画など

ニッキー・ミナージュが正式デビューしたのは2010年11月22日,アルバム『Pink Friday』を引っ提げて全世界に旋風を巻き起こしました。ニッキーがデビューするまで,「女子MC」や「女子ラッパー」という職業はめずしらかった。限られたラッパーでしか(例えばLil Kim, Missy Elliott, Eve, Rah Digga, Remy Ma),名声は得られていませんでした。認知度は低かった。

しかしニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)が世に出てくることにより,女子MCという職業の認知度は上がり,「女子もヒップホップ界に出て,一発カマしていいんだ」という,これまで潜在的に準備してきた女子MCたちがドバドバッと輩出され始めてきました。もちろん,インターネットや動画サイト,SMSサイト等の発展もそれに寄与しているでしょう。

さて,そのニッキーがデビューする以前に収録されたフリースタイル動画というものがあります。ものすごく貴重なものです。

以下にまとめておきます。

・これはニッキーがリル・キム(Lil Kim)のシングル曲「The Jump Off」のビートに乗っかって,フリースタイルをカマしたものです。当時,ニッキーはリル・キムにビーフを仕掛けようとしていました。

・これはニッキーが有名になるキッカケとなった最初の映像です。時は2007年。『The Come Up』という駆け出しの新人ラッパーが出るDVDに出演し,リル・ウェイン(Lil Wayne)の目に留まり,ドレイクやリル・ウェインのレーベル=Young Money Entertainmentと契約する運びとなりました。そういう意味で,とても貴重な映像です。前半はニッキーの豪語連発(boasting),後半はフリースタイルという構成です。

・デビュー前,リル・ウェインに見出される前,ニッキーはDirty Money Recordsというブルックリンのローカルレーベルにサインされていました。時は2006年です。当時は,今のようにここまで有名になるとは,誰が予想したことでしょうか。ビッグ・フェンディ(Big Fendi)です。ビッグ・フェンディはそれを予想していた。ビッグ・フェンディっていうのは,ブルックリン在住のDirty Money Records所属A&Rマネージャーです。ニッキーはもともと,ニッキー・マラージュ(Nicki Maraj)というラッパー名でやっていたのですが,フェンディが「マラージュなんかより,ミナージュのほうが良い。フロウがヤバイから!」って言って,ニッキーに「Minaj(ミナージュ)」という芸名を与えた張本人です。

・リル・ウェイン見出されるキッカケとなったDVD『The Come Up』より,フリースタイルをいくつか掲載しておきます。

そしてこれがかの有名な「The Lip Gloss」フリースタイルです。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る⑨:TRINA & ニッキー Minaj ⇆ Big Tymers, ジュヴィナイル&リル・ウェイン

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元祖“Baddest Bitch(最高にワルな女)”こと,トリーナ(Trina)がまたもやヒットを飛ばしてくれました。最近のCity GirlsやSaweetieのおおもとを創ってくれた元祖女神=トリーナは,マイアミ出身の女性ラッパーです。以前,当サイトでも取り上げました。

トリーナのニックネームである“Baddest”という語彙は,本来は存在しません。形容詞“bad”の最上級は“worst”ですから。しかしながら,むかしから黒人の間で(といいますか,黒人は),“bad”に「良い」意味合いを持たせて使ってきました。文字を禁じられた人々(=黒人)は,白人が通常「悪い」意味で使ってきた言葉や定義をflipして(くつがえして)使うことにより反抗心を表現してきました。

男子ラッパーもファンの我々も,トリーナのことを“Baddest”という愛称で呼び,「最高にワル」というニュアンスを持たせることにより「ひじょうに素晴らしい」という隠れた意味で彼女の存在を表象してきました。「最高にワルくて,最高にステキな」トリーナ(Trina)が,先般新曲を発表してくれたことは,本当に嬉しいことでございます。

早速,聴いてみてください。
Trina feat. Nicki Minaj – “BAPS”
トリーナ feat. ニッキー・ミナージュ「BAPS」です。

この楽曲の元ネタは,2000年頃にはすでにヒップホップを聴いていた方なら一発でわかるはず。「プロジェクト・チック!やないか!」と。

Big TymersやJuvenile,そしてLil Wayne。ノーリンズことニューオーリンズ出身のキャッシュ・マネー軍団。トリーナと同じくサウス出身。「サウスつながり」で,トリーナ所属のSlip-N-Slide軍団とリル・ウェイン所属のCash Money軍団は,昔から親しい付き合いでやってきました。

ビッグ・タイマーズ率いるジュヴィナイル&リル・ウェインの名曲「Project Bitch」は2000年にリリースされました。当時,リル・ウェインはまだ年齢18歳。いまでこそ「大御所」として呼ばれるまでに昇りつめたリル・ウェインですが,まだこの頃は10代後半の青年でした。以下のビデオを観てもらうとわかるかもしれませんが,シャツをまくり上げて着る仕草とかは,もう2000年頃流行った完全「サグ・ファッション」ですね。中西部ラッパー=セントルイス出身のネリー(Nelly)やアトランタ出身のリュダクリス(Ludacris)もまさにこの頃デビューしたてでしたけれど,シャツをまくり上げて,ゲットーやビーチで女子まじえて遊びまくっている光景がPVに流れたりして,いや〜,いい時代でした。

さて,その元祖,オリジナルPVがこちらです。姉御トリーナと,妹のニッキーは,以下の楽曲を元ネタに起用しております。

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ歌詞引用解説:2ライヴ・クルー「Me So Horny」の場合。

ヒップホップの風物詩といえば,「お尻」と「女性」ですね。とくに「お尻」をフリフリする「女性」が出ているミュージックビデオが新旧問わず,どこでも流れています。「お尻」と「女性」を前面に出しているミュージックビデオを思いつくかぎり以下10個挙げてみます。

1.ネリー      「Tip Drill」
2.リュダクリス   「Pussy Poppin’」
3.レイ・シュリマー 「Shake It fast」
4.ヤングM.A    「Petty Wap」
5.トリーナ     「Damn」
6.フレンチ・モンタナ「Pop That」
7.イギー・アゼリア 「Kream」
8.タイガ      「Taste」
9.イン・ヤン・ツインズ「Salt Shaker」
10.69ボーイズ  「Tootsee Roll」

さて,今回紹介しますのは,1989年にリリースされた2ライヴ・クルーの名盤『As Nasty As They Wanna Be』アルバムからシングル曲としてカットされた「Me So Horny」という曲です。当時このアルバムは卑猥すぎる,歌詞は過激すぎる,ということで,2ライヴ・クルーの出身地=フロリダ州の州政府が「わいせつ罪」で訴え,逮捕しました。裁判は1990年に行われ,2年後の1992年に上級審が下級審の判決を却下し,リリースから3年の時を経て,無事,2ライヴ・クルーの名は晴れて,アルバムは市場に出回ることになりました。このアルバムは音楽の歴史で,史上初「わいせつ罪」をふっかけられたアルバムとして,名を残す大切なアルバムです。

ジャケ写真は以下のとおりです。

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これは卑猥すぎるということで,「お尻」を隠したアルバムジャケも出回りました。
まさに「クリーン版」ということですが,それがこのジャケです。

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「お尻」はうまく隠れていますが,余計に想像力が掻き立てられますね。

さて,この伝説のアルバムからシングルカットされた「Me So Horny」から,このヴァースを取り上げます。

Sitting at home with my dick on hard
So I got the black book for a freak to call
Picked up the telephone, then dialed the 7 digits
Said, “Yo, this Marquis, baby! Are you down with it?”
I arrived at her house, knocked on the door
Not having no idea of what the night had in store
I’m like a dog in heat, a freak without warning
I have an appetite for sex, cause me so horny

おうちでまったり,アソコは勃起
電話帳とってきて,エッチな女に電話した
受話器をあげて,カノジョの番号,ダイアルした
「もしもし,オレだオレ,マーキスだ,ベイビー,今夜エエか?」
カノジョの家着いて,玄関ノックした
期待はふくらみ,気分はウキウキ
まるで発情した狂犬,イカれた変態野郎
性欲止まんない,気分はムラムラ,たまんない
(訳:Jun Nishihara)

さて,マジメな話に戻しますと,2ライヴ・クルーはその後も名曲をずらずらと残しています。YouTubeやウィキペディアで検索してみると面白いかもしれません。

彼らがデビューしたのは1984年,「The Revelation」という曲をファーストシングルとしてリリースしました。創始メンバーの中には,世界で初めてのアジア系ラッパーと言われているフレッシュ・キッド・アイスもいました。残念ながら彼は昨年2017年7月に人間界を去りましたが,彼の遺した偉大なる遺産(レガシー)は後のマイアミ出身のラッパー達=Trick Daddy, DJ Khaled達に受け継がれていくこととなりました。

それを最もうまく表現しているのが,フロリダ出身で女性ラッパーのトリーナです。トリーナ自身もミュージックビデオでお尻をフリフリしておりますが,彼女こそが2ライヴ・クルーに認められたSlip-N-Slideレーベルの初女性アーティストです。Trina feat. Trick Daddy – “Pull Over”を検索してみてください。

話は少し逸れますが,女性ラッパーというと最近,特に増えてきました。そういう数多の女性ラッパーがいる中で,唯一昔っっっからヒップホップシーンを席巻し続け,いまだに現役というラッパーは,リル・キムではなく,トリーナですね。しかしながら,リル・キムがヒップホップの世界に与えた影響は計り知れないものですが,トリーナの「静か」な安定感については,そうそう右に出るものはいないと思います。

ニッキー・ミナージュ以降にデビューした女性ラッパーは除外して,それ以前にいた,リル・キム,ミッシー・エリオット,ローリン・ヒル,フォクシー・ブラウン,クイーン・ラティーファ,MCライト,イーヴ,レミー・マー,ダ・ブラット・・・といる中で,唯一今もアルバムやミックステープを出し続けているのはトリーナくらいだと思います。ウィキペディア情報では,トリーナは2010年以降はアルバムをリリースしていないことになっておりますが,2011年に『Diamonds Are Forever』,2012年に『Back 2 Business』,2014年に『Incredible』,2015年に『Trina EP』,2016年に『Dynasty 6』というEPを含むミックステープをリリースしています。そして今年2018年にはアルバム『The One』をリリースする予定です。

フロリダ州マイアミつながりで,2ライヴ・クルーからトリーナの話へと移行しましたが,「お尻」と「女性」というヒップホップ風物詩は,30年前の1988年でも,現代のミュージックビデオでも健在です。

こうして「今」のヒップホップに多大なる影響を与え続けているラッパー達=2ライヴ・クルーを是非,覚えておいてください,そしてご自身でもいろいろなところで探してみてください。LPレコード店等に行くと,掘り出し物のLP盤が見つかったりします。

(文責:Jun Nishihara)