Hip-Hopの一つの回帰場所:2002年リリースの楽曲。

シカゴ出身のカニエ・ウェストによるプロダクション,ブルックリン出身のJAY-Zによるリード,フィラデルフィア出身のビーニー・シーゲルによるフィーチャリング,そして場所は深南部(Deep South)に飛んで,ヒューストン出身のスカーフェイス。ヒップホップ史なかなか多種性(diversity)に富んだラップ曲。こんな素晴らしい曲が2002年にリリースされていた,ことを憶えておいてほしいです。

電話の保留音(以下)が当時のNYイチカッケーラップになるとは誰も思っていなかった。

ベートーヴェン「エリーゼのために」をフリップしたNASの「I Can」である。

Mos Defの「Brown Sugar」。2002年が蘇ってきますか?

続いては,ブルックリンからマンハッタンダウンタウンの映像を細切れに集めたコラージュをミュージックビデオに昇華させたタリブ・クウェリの名曲「Get By」。“get by”とは「ありあわせのものでなんとかやっていく」という意味で,ゼータクなんてできねぇよ的なサヴァイヴァル・ミュージック。「just to get by」ってタリブがリピートしますよね?それ「なんとかやっていくだけで」っていう意味です。

そして,密かにHip-Hop史上原点回帰の楽曲「What We Do」。一つには,ワルやらなきゃ生きてけねえ時代を映し出した音楽。まさに「正しさ」とは逆のことをやって生きていた2002年。他方で,ハスリングという,ヒップホップ界で当時流行った金儲けのやり方も表現している。2002年という時代が俺らの心の中で永遠にすたれることのないように,この曲にそれらを閉じ込めてくれた,偉大なる曲。この曲を聴けば,2002年当時の精神(ワルやってた,その代わり勢いはめちゃめちゃあった生き様)に即,戻してくれる。

雰囲気は一変して,パーリーピーポー感のある映像を一つ。これも2002年。なつかしいですね。

次はブロンクスから。Fat Joe(ファット・ジョー)の登場。これも2002年。かなりなつかしいですね。

Fat Joeと同じく同郷ブロンクス出身のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)がLL Cool Jとコラボレーションした曲。これも2002年リリース。流行りましたねえ。

ヒップホップ・ダンスに生涯を捧げているミッシー・エリオット(Missy Elliott)の「Gossip Folks」。これも2002年リリース。

続いて同じくミッシーから。「Work It」。これは当時,50セントのREMIXバージョンも世に出ました。

50セントといえば,当時ガチ流行った「In Da Club」以外に,なかなか素晴らしい曲を出しています。その一つが「21 Questions」。これは「In Da Club」の裏で流れていた曲。2002年を思い出しますね。

続きまして,ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)プロダクションのSnoop Dogg「Beautiful」。これも2002年リリース。当時私もNYに住んでいましたが,Hot97のヒップホップラジオで流れまくり。ハヤりました。ファレルは年取らないですね。いまも同じルックス。

まだまだ行けそうですが,今日はここら辺で。これくらい2002年リリース楽曲の数々を聴くと,いつでも即原点回帰が可能となります。人生に迷った時には,原点回帰することが重要。上記を聴いて,回帰してください。

最後に,2002年リリースのアルバム『The Blueprint 2: The Gift & The Curse』に収録された「All Around The World」の素人ドラムバージョンをお届けして終わりにします。

今日も当サイトにお越しいただき,ありがとうございます。過去のページも見ていってください。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

ドレイクに影響を与え,そして影響を受けた,UKの黒人音楽シーン(その②)

UKの黒人音楽シーンに出現した若手シンガー女子2名=エラ・メイ(Ella Mai)とマハリア(Mahalia)が並んで映ると,まさに姉妹のように映る,そんな映像が流れるのが2019年9月にリリースされたミュージックビデオ「What You Did」です。二人ともUK出身。エラ・メイはジャマイカ人の母親と,アイルランド出身の父親の混血。マハリアは,英国ミッドランド東部に位置するレスターシャーの生まれ。同じくジャマイカ人の母親と,アイルランド出身の父親の混血。やっぱり二人とも,姉妹?!

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「What You Did」のミュージックビデオはこちらです。

Mahalia feat. Ella Mai – “What You Did”

キャムロン(Cam’ron)好きの私は,すぐにこの曲が好きになりました。
(キャムロンについては,コチラを読んでみてください。)

なぜこれがキャムロン好きにはタマらん曲なのか,と言えば,マハリアのこの楽曲「What You Did」のビートは,まさに以下のキャムロンの2002年4月リリースのシングル曲をサンプリングしているからです。

Cam’ron – “Oh Boy”(2002年4月リリース)ディップ・ディップ・セッセッ!!

なお,知ってました?この「オゥ・ボーイ・ビート」は以下の曲でマライア・キャリー(Mariah Carey)もサンプリングします。

Mariah Carey feat. Cam’Ron – “Boy (I Need You)”

さて,話を戻しますと,エラ・メイはシングル曲「Boo’d Up」で2018年に全世界を席巻し,売り上げは米国のみで500万枚セールス,カナダや英国での売り上げを合わせますと,合計600万枚以上。2018年のビルボードチャートを総ナメする勢いにまで発展しました。

他方,マハリアはその間,UKの音楽シーン,とりわけアンダーグラウンド・シーンでグツグツと人気を温存してきており,2019年9月にアルバム『Love and Compromise』をリリースし,同アルバムは英国R&Bアルバムランキングに於いて第3位を記録しました。

この生粋のUK生まれの二人は,冒頭のシングル曲「What You Did」でコラボレーションしたわけですけれども,楽曲に起用されている元ネタ・ビート「Oh Boy」を世に出した張本人であるキャムロン自身を迎えたというREMIXヴァージョンも今年リリースされました。2002年に出たキャムロンのビートをサンプリングとして使い,そして18年後の2020年に,キャムロン自身をREMIXに迎えた!という大胆な手法で,以下REMIXをリリースしたものです。

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ちなみに,マハリアが上記写真でまとっている緑色の毛皮は,2002年にキャムロンがピンクの毛皮をまとって撮った以下の写真をオマージュとしております。これは2002年当時,キャムロンがヒップホップ界随一のピンク色好きということで有名で,クルマもピンク,ダボダボのシャツもピンク,毛皮もピンクという出立(いでたち)で,ヒップホップ界では当時このピンク色を「Cam’ron Pink(キャムロン・ピンク)」と呼ぶようにまでなり,当時かなり話題になりました。ゴテゴテのヒップホップ野郎でもピンク色のシャツを着てもいいんだ,と,NYの若者はそのカラーを真似するようになり,ついにヒップホップ・ファッション界にまで影響を及ぼすこととなりました。

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さて,そのキャムロン張本人を迎えてリリースしたREMIXヴァージョンがこちらです。

Mahalia feat. Cam’ron & Ella Mai – “What You Did (REMIX)”

(文責:Jun Nishihara)

Cam’ronのアルバム『Purple Haze』を知っているか?

今般の新型コロナウイルスの影響で,アメリカ人も隔離の生活(quarantine life)を送っているわけですけれど,家でこもっている全米の人たちにとって,あらゆる「おうち娯楽(At-Home Entertainment)」が届けられています。

まずは全米音楽ストリーミングサイトであるTIDALでは,「At Home with TIDAL」という題名で,これまでのTIDALインタヴューをまとめて放映しています。

そこでニューヨーク市はイースト・ハーレム出身のベテランラッパー=キャムロン(Cam’ron)のインタヴューが流れていました。

キャムロンについては以前このサイトでも少しだけ取り上げました。

キャムロンがこれまでリリースしてきた公式ソロ・アルバムは7枚。以下のとおりです。

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『Confessions of Fire』

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『S.D.E.』

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『Come Home with Me』

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『Purple Haze』

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『Killa Season』

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『Crime Pays』

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『Purple Haze 2』

この中でキャムロンはじぶんが一番気に入っているアルバムとして,TIDALインタヴュー中で,話します。それが『Purple Haze』であると。

アルバム『Purple Haze』については,知っている人も,リリース当時から何回も聴いてきた人も,この機会にもう一度,聴き直すべき名作です。

収録楽曲は以下のとおりです。

1. “Intro”
2. “More Gangsta Music” (featuring Juelz Santana)
3. “Get Down”
4. “Welcome to Purple Haze” (skit)
5. “Killa Cam”
6. “Leave Me Alone, Pt. 2”
7. “Down and Out” (featuring Kanye West and Syleena Johnson)
8. “Harlem Streets”
9. “Rude Boy” (skit)
10. “Girls” (featuring Mona Lisa)
11. “I’m a Chicken Head” (skit)
12. “Soap Opera”
13. “O.T.” (skit)
14. “Bubble Music”
15. “More Reasons” (featuring Jaheim)
16. “The Block” (skit)
17. “The Dope Man” (featuring Jim Jones)
18. “Family Ties” (featuring Nicole Wray)
19. “Adrenaline” (featuring Twista and Psycho Drama)
20. “Hey Lady” (featuring Freekey Zekey)
21. “Shake” (featuring J.R. Writer)
22. “Get ‘Em Girls”
23. “Dip-Set Forever”
24. “Take ‘Em to Church” (featuring Juelz Santana and Un Kasa)

第一印象は,収録楽曲が多いこと。その理由はなんといっても「スキット」の多さです。

まぁインタヴューの中でも笑い話として語られますが,当時のヒップホップ・アルバムはそれはまぁスキットが多かった。スキットを挟むことによって,ゲットーの暮らしっていうものを再現していた。黒人(とくに若者黒人)が実際に話している英語の使い方等を所々に散りばめて,黒人生活の「リアルさ」を再現していた。とくにキャムロンはそれを「ユーモア」を込めた会話を含め,収録していた。2002年〜2009年頃までにリリースされたヒップホップアルバムはとてもスキット(skits)が多かった。なつかしい。

さて,当時からすでにカニエ・ウェスト(Kanye West)は売れっ子のプロデューサーとして働いていたわけですけれど,キャムロンの当該アルバムには当時,DipSet常連のザ・ヒートメイカーズ(The Heatmakerz:例えば2曲目)と並んで,登場しておりました。カニエ・ウェストが上記収録楽曲中でプロデューサーとして関わったのは2曲。収録楽曲7.の「Down and Out」と楽曲23.の「Dip-Set Forever」です。

当時キャムロン自身,ソウルフルなサンプリングを好んでいましたので,カニエ・ウェストのソウルフルなサンプリング・ネタ使いと相性が合ったのでしょう。聴いているこちらも,とても心地よいです。

23曲も聴くのは大変ですので,つまみ食いするとするならば,次の曲を聴くべきでしょう。キャムロンとその周辺(DipSet野郎たち)のこのぶっ飛んだ音楽に打ちのめされてみてください。

【聴くべき曲目リスト】
7. Down and Out(カニエのソウル・ネタに乗っけた,キャムロンの遅めのラップに注目!)
8. Harlem Streets
10. Girls(マドンナのガールズ・ネタ使い!当時,シングル・ヒットした曲。)
21. Shake(テンポ,ビート,リズム,どれを取ってもクラブ用。ハーレム・シェイクを別の次元にもっていった,当時にしては,ぶっ飛んでいた曲。)
23. Dip-Set Forever

とくに23曲目の「Dip-Set Forever」はソウル・サンプリングを極端に回しているので,もう涙ものです。こんなことをやる人は,最近もういないですよ。こんな一歩まちがえるとシロウトが作ったビートに聞こえてしまいそうなネタ回しを,ここまで大袈裟に,真正面から,愚直にできるのは,もうカニエしかいない。そのカニエの「まわし」についてこれるキャムロンのラップは極上です。

ちなみに,最後になりましたが,この『Purple Haze』は小生自身,初めて対訳をさせてもらったアルバムでもあります。ユニバーサル・ミュージックの皆様,ありがとうございました。この感謝,Dip-Set THANKS Forever。

(文責:Jun Nishihara)

ジェイZの“B-Sides”ライヴ・コンサート(その①)

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(4月26日開催のB-Sidesライヴにて。左=ジェイZ,右=Nas)

4月26日(金),NYCの歴史的なダンスクラブであるウェブスター・ホール(Webster Hall:2002年頃当時はヒップホップのフロアもあった)の再開を記念して,ジェイZが「B-Sides(B面)」と題するライヴコンサートを開催しました。

ウェブスター・ホールは2017年8月9日に建物の修繕を理由に一時閉鎖されておりましたが,めでたく4月26日にジェイZのライヴをもって再開いたしました。建物自体は1886年に建設されており,建立から100年以上経ている歴史的な建造物です。ロケーションはNYCのイースト・ヴィッレジに位置します。現在はフロアごとにジャンルが分けれている,マルチダンス(ナイト)クラブです。

そのre-opening nightをジェイZが飾りました。

タイトルは「B-Sides」といって,今までめったにライヴでは演じてこなかったいわゆる「B面」の曲の数々をここで(久々に)披露しました。

さらにその夜,ニューヨークのヒップホップ史として大事なことが,Nas(ナズ)と今まで犬猿の仲であったCam’ron(キャムロン),そしてJim Jones(ジム・ジョーンズ)をステージに呼んだということです。(これに関する動画はYouTubeで検索願います。)

https://www.instagram.com/p/Bwwt9f9nd1B/?utm_source=ig_web_copy_link

さて,3月31日(日)に亡くなったNipsey Hussle(ニプシー・ハッスル)のトリビュートとして,この夜ジェイZは追悼のフリースタイルも披露しました。こちらです。

(このフリースタイルの邦訳は次回に。)

(文責:Jun Nishihara)

第5位「今年イチの同窓会。Dipset!の再結成!」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

このカウントダウンも,いよいよトップ5に入ってきました。

ヒップホップそのものを愛するヒップホップヘッズの諸君たちへ。

今年イチの再結成といえばもう,ディップセット(Dipset!)の再結成でしょう。14年ぶりにNYはハーレム出身のヒップホップ最強グループ=The Diplomats(別名:Dipset(ディップセット))が再結成されました。これほどヒップホップファンにとってエキサイティングなニュースは,今年,なかったでしょう。

昨日第6位に出たドレイクですら,Dipset好きで有名です。

その彼らがDipset Reunion(ディップセットの再結成)を記念して作った楽曲「Once Upon A Time」のミュージックビデオを観てみましょう。

むかしからDipsetを聴いてきた人たちにとっては,「なつかしさ」で涙がこぼれるほど感動的なことでしょう。こういったヒップホップを次の世代にも受け継いでいかなきゃいけない,それが自分たちの使命であると,そう思います。

そしてDipsetを今回初めて聴いたというワカモノたちよ,2003年にリリースされた以下の曲を聴いてどう思うか君たちに聴いてみたい。ミュージックビデオの途中で曲調が変わるところとか,最近じゃケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)がやってますけれど,それは15年前にDipsetがすでにやっていました。

こういうのを見て「すげえことするヤツらだな」とか思ったり,彼らのド派手なヒップホップスタイルを見て自分らも真似したり,Dipsetは音楽だけでなく「スタイル全般」としてヒップホップを確立した,物凄く影響力のあるグループでした。その彼らが14年ぶりに再結成したなんて,まさに僕らが待ち望んでいたことですよ。

(文責:Jun Nishihara)

追悼:ソウルの女王=アレサ・フランクリンがヒップホップに与えた影響(その2)

前回のつづきです。

NYはハーレム出身のラッパー=キャムロン(Cam’ron)の引き出しから,この一曲です。

2002年5月にリリースされたヒップホップ名盤『Come Home With Me』から,シングルリリースされた「Day Dreaming」を取り上げます。

このアルバムには,ジェイZがfeat.されている「Welcome to New York City(ニューヨークシティーへようこそ)」という曲も収録されています。

さて,アレサ・フランクリンがヒップホップ界に与えた影響は,当時の若手ラッパーT.I.にとどまらず,ハーレム出身のベテラン・ラッパー=キャムロンにも及びました。

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キャムロンは素晴らしい数々のヒップホップ名曲を残していますが,その中でもアレサ・フランクリンの「Day Dreaming」がサンプリングされた,名前が似ている(スペルの綴り方は異なります)「Daydreaming」(プロデュースはカニエ・ウェスト!)から,この歌詞を取り上げます。

I know fucking with a crook is whack
I lied, cheated, still took me back
What I do? Turn around, ask you to cook me crack
Boost my work with a jerk and tell the truth it hurts
Cause you even ask me to come through to church
What I do? Act second rate
I stole ten dollars out of the collection plate
But I’m ready to change
You got my heart, plus you smart
And the sex is great
And you hate rap, I like that girl
I argue with Keisha, I ain’t like that girl
You jumped right out the car, to fight that girl
You beat her ass, you ain’t have to bite that girl
And my baby got the best thighs
And my whip she ain’t never got to test drive
Copped her the X5
You paid attention when no one acknowledge me
This is my public apology, holla B

ダメ男と付き合うのはダサいなんて思ってんだろ
ウソついて,浮気もした,それでも俺のこと,好きでいてくれた
君にムリも言った,ふり向けば,「コカイン寄こせ」とか言って
仕事前にフェラして,やる気出させてくれた,ちょい痛かったけど
「あたしと教会,いっしょに行こ」って,さそってくれた
でも俺は,ふざけてた
教会の募金箱から,10ドル盗んだり
でも良い人間になろうと決めた
君の愛にやられた,おまけに君は育ちもイイし
君とのセックス,たまんないし
君はラップが大嫌い,それでもダイジョウブ
キーシャと口喧嘩,それはダイジョウブじゃない
君は車から飛び降りて,キーシャを黙らしてくれた
ボッコボコにしてくれた,噛みつくまでもなかった
それに君の太もも最高さ
俺のアメ車,試乗するまでもないさ
君にBMW買ってあげた
だれひとり俺のこと相手にしてくれなかった時に,君だけは認めてくれた
この曲は君に捧げる,謝礼の曲さ,連絡してこいよ,Bちゃんよ

カニエ・ウェストは,この曲のプロデュースに関わっています。前回の「追悼:アレサ・フランクリン」のページでも書きましたが,古い曲をサンプリングすることによって,その曲が現代・現在によみがえります。カニエ・ウェストがやってきたことの偉大なひとつは,まさに,このことでした。

アレサ・フランクリンの才能は,そうそう受け継げるものではありません。しかし,こうして,40年の月日を経て,現代のヒップホップでアレサ・フランクリンの歌声が聴けるなら,「アレサの代わり」がいなくとも,いまのところは,なんとかやってけるかもしれないと感じています。

「アレサ・フランクリンの代わり」はいないかもしれませんが,「アレサ・フランクリンの魂(ソウル)」は,こうして現代のヒップホップ音楽を媒介として,受け継がれていくでしょう。

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Source: photo: WENN.com

(文責:Jun Nishihara)

追悼:ソウルの女王=アレサ・フランクリンがヒップホップに与えた影響

ヒップホップというのはおもしろいもので,昔に作られた古い曲をよみがえらせる力を持っている。

たとえば1972年1月にリリースされたアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)の「Day Dreaming」(シングルカットされたのは翌月の2月)という曲は,当時レコード盤で売り出され,B面には「I’ve Been Loving You Too Long」や「Border Song (Long Moses)」という曲が収録されていました。この「Day Dreaming」が収録されていたのは『Young, Gifted and Black』という名盤で,後に米国TVネットワークのVH1にて「音楽史上最も偉大なアルバム76位」に挙げられました。

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この「Day Dreaming」という曲をサンプリングして,よみがえらせたのがラッパーT.I.とキャムロン(Cam’ron)です。T.I.はアルバム『Trap Muzik』を2003年8月にリリースし,その中に「Let’s Get Away」という曲を収録しました(後にシングル曲としてリリース)。キャムロンはアルバム『Come Home With Me』(ヒップホップの名盤!)を2002年5月にリリースし,中に「Daydreaming」を収録しました(こちらも後にシングル曲としてリリース)。

T.I.の「Let’s Get Away」もキャムロンの「Daydreaming」も,アレサ・フランクリンの名曲「Day Dreaming」をベースに,サンプリングしています。YouTube等で検索して,聴いてみてください。

T.I.がこの曲を出したのは2003年です。大人気を博する直前,まさにヒップホップ界の若者として活動していた頃ですね。T.I.の時代はまだ始まっていなかったですが,「才能あるヤツだ」と誰もが認めつつある頃でした。そして2年後の2005年,T.I.は『Urban Legend』というアルバムをリリースし,遂にミリオンセラー(100万枚セールス超え)を達成しました。2006年にリリースしたアルバム『King』はビルボード第1位を獲得し,こちらもミリオンセラー達成(日本のオリコンチャートでも26位達成。アメリカのポップ音楽がオリコンチャートに登場するならまだしも,ヒップホップ曲が日本のオリコンチャートに入ってくるというのは稀であった時代です。)しました。

その後2008年にリリースしたアルバム『Paper Trail』もビルボード第1位を獲得し,このアルバムに至っては米国のみで200万枚セールス達成,ダブル・プラチナム盤の地位を獲得しました。2008年というダウンロード真っ盛りの時代に,ダブル・プラチナム盤獲得というのは,珍しく,稀有なことです。

そういったヒップホップ界の若手T.I.が爆発的人気を博する直前に出していたのが,アレサ・フランクリンの「Day Dreaming」をサンプリングし,ラップを乗せたこの曲です。ヒップホップ界では,「サンプリングネタ」というのは,昔の曲への究極のリスペクトと考えられています。古い曲を死なせない,むしろ,よみがえらせるという力をヒップホップは持っている。しかも若者が。

T.I.の「Let’s Get Away」はラップ曲でありますが,R&B風です。歌いやすく,耳にもやさしい。普段ラップを聴かない人にも,なじみやすい。親しみやすい。

そして,「Let’s Get Away」という「いま」の曲を通して,アメリカの若者たちは,古い曲を聴いているのでした。「T.I.ばっか聴いて育った」,という若者が,どこかでアレサ・フランクリンの曲を聞いたときに,「うん?これはどこかで聞いたことのある曲だな」とか言って,興味を持つかもしれない。それでツカミはできます。一度,ツカミ(hook)ができれば,あとはアレサ・フランクリンのパワーによって,惹きつけられるのみ。そうやって,惹きつけられれば,人はその音楽を聴いて,さらに他の曲も聞いてみたくなるでしょう。そうやって,40年の年月を経て,アレサ・フランクリンの昔の曲はよみがえり,生き返ります。

ヒップホップの「サンプリング」という技術はこういった素晴らしい力を秘めています。

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さて,そのT.I.の「Let’s Get Away」から,以下のリリックを取り上げます。

Bet they be like “I know he tired of the nightlife
He want a wife, he just lookin’ for the right type”
Yea right, I be ridin’ through the city lights
My hat bent, gettin’ high behind the ‘lac tint
I’m chilllin’ with Brazilian women, heavy accents
They black friends translatin’, got’em all ass naked, adjacent
Have relations wit’em many places
Leavin’ semen in they pretty faces
Make’em kiss they partners with it in they faces
Young pimpin’ sprung women ‘cross the 50 states
Got young ladies requestin’ “What’s Yo Name” on 50 stations
Askin’ me what’s a pussy popper, want a demonstration
But I ain’t waitin’ til the second date, I’m so impatient
Relieve’em of they aggravation, take’em rollerskatin’
On them Dayton’s, tell’em “Baby, stick with me, you goin’ places”
Go replace’em, draw erase’em out my memory
Moist panties and wet sheets when they think of me

まさか俺が「夜遊びなんて飽き飽きさ
奥さん候補の,まともな女,探してんのさ」なんて思ってるって?
んなバカな,今でもネオン街のド真ん中クルマで走って
キャップ傾けて,窓にスモーク張ったキャディラック乗って,ハイに飛ばしてる
ブラジル出身で,英語ナマリの激しい女たちと,くつろいで
黒人の女友達に通訳してもらって,ズボン脱がして,オシリむき出し
いろんな場所で,エッチして
カワイイ顔に愛汁ぶっかけて
顔に白いのつけたまま,女友達にチューさせて
アメリカ中の女を気絶させ,遊びまわって,若いしイケメンだし
アメリカ中の女子高生,俺の曲「What’s Yo Name」をリクエストするし
彼女たち「「マン突き」ってナニ?」だって,実演して見せてやろうか?
2回目のデートまで待てない,俺って超せっかちだからさ
彼女たちのストレス発散させてあげて,ローラースケートに連れてって
デイトンのリム(タイヤ)廻して,「ベイビー,俺について来な,いろんなトコへ」
次から次へと女を変えて,ハッパ吸って,記憶から消してって
彼女たち,俺のこと妄想して,パンティーずぶ濡れ,ベッドシーツ湿ってる

T.I.をとおしてアレサ・フランクリンを知った人も,そもそもT.I.は知っているけれど,アレサ・フランクリンを聴いたことない人も,どちらも良いと思います。後者の人もいつかアレサ・フランクリンをどこかで聞いて,「あ,この曲どこかで聴いたことある。T.I.の曲に似てるけど,ちょっと違う」とか言って,探してみると,実は「この曲」がオリジナルの原曲だった,ということを知ることになれば,ほんとおもしろいな,とか私は思います。音楽の楽しみには,「新しい曲」をとおして「原曲」というか「古い曲」を知る,ということにあると思います。

アレサ・フランクリンが亡くなった先週8月16日に,アメリカのあるラジオパーソナリティがインスタグラムでアレサ・フランクリンの素敵な写真をアップしつつ,こう書いていました。”Every time a real legend dies in music, I always think ‘who the hell do we have in the wings to uphold that excellence?'”(音楽史に残る伝説のミュージシャンが一人一人と死んでゆく時代に,私はいつも思う。「こんなに素晴らしい才能を受け継いでいける人なんて,この人以外にいるか」って。)

マイケル・ジャクソンが2009年に亡くなった日に私はこう書きました。「ポップの王は死んで,ポップを永遠の音楽にさせた。」と。ポップはトレンドです。移り変わってゆくものです。その時代,時代に合わせて,ポップは変わってゆくものですが,マイケル・ジャクソンは,その「移りゆくもの」を「永遠」の音楽にさせました。

アレサ・フランクリンは,これからも「Queen of Soul(ソウルの女王)」として,ヒップホップ界に敬愛されてゆくでしょう。そして,アレサの音楽は,ヒップホップをとおして,生き続けてゆくことでしょう。

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ歌詞引用解説:キャムロン「Horse & Carriage」の場合

1998年7月21日リリースの名作『Confessions Of Fire』は,後のディップセットのボス=キャムロン(Cam’Ron)のデビュー作です。NYCはハーレム出身。ハーレムと言えば色んなラッパーの出身地です。ディディ(パフ・ダディ),メイス,ビッグL,ブラック・ロブ,Qーティップ,J.R.ライター(ナツい!),そしてまさに「今」をきらめくティアナ・テイラー(先週金曜日にカニエ・プロダクションのアルバムをリリースしたばっか!),そしてキャムロン率いるディップ・セット軍団です。

このようにハーレムは素晴らしき数々のラッパーを輩出してきたヒップホップ聖地です。

そのキャムロンのデビュー作でもあり,名作と呼ばれる『Confessions Of Fire』より,楽曲「Horse & Carriage」から,以下の歌詞を引用します。

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Aye yo, I pull to the hotel with my shit on blast
Tell the valet “Motherfucker don’t hit my Jag”
Seen the bell boy, nigga he can kiss my ass
Just show me my room nigga, and get my bags
So the girl, that’s my hon, almost dropped his glass
I guess he was shocked when I touched her ass
It really wasn’t nothin’ she was peedy aight
“Does that say Harlem World?” yeah you readin’ it right
And we havin a party, be there tonight
Like Phil Collins have her in “The Heat Of The Night”
Cause Cam rocks the party (All Night Long)
‘Til when? (‘Til the early morn’)
It don’t stop (and uh) it don’t quit
(and uh) drop six (and uh) we pop Cris
Right now too tipsy to drive
But I got my horse and carriage right outside

エイヨゥ,自分の曲,爆音で鳴らして,カノジョと一緒にホテルへ行った
駐車係にカギ渡してこう言った,「俺のジャガー,ぶつけんじゃねえぜ」
フロントのベルボーイ,ちんたらしやがって
はよ部屋に連れてってくれ,俺のカバン持てよ
そいつ,俺のカノジョ見て,ジュースをこぼしやがった
カノジョのお尻さわってるとこ見て,そいつビビったんだろ
たいしたことねえよ,カノジョ,まぁまぁイケてんぜ
「そのジャケット,ハーレム・ワールドですか?」って,当たりめーだよ
今夜パーティーあっからよ,おまえも来いよ
フィル・コリンズのように,「今夜は燃えるぜ」
キャムのおかげでパーティー盛り上がり(ひとばんじゅー)
いつまで?(翌朝まで)
やめらんねー(それに)やめさせねー
(それに)高級車(それに)クリスタル・シャンパン
今は酔っ払って,ハンドル握れねえ
でも外によ,「馬と馬車」待たせてっからよ
(訳:Jun Nishihara)

キャムロンのこの歌詞の素晴らしいところは,ちゃんと物語が絵になって見えるところです。「女を連れてホテル行って,ベルボーイさそって,みんなでパーティー盛り上がって,朝まで酒飲んで,暴れてる。」といった内容。ちなみに高級車とシャンパンは,この時代からヒップホップの象徴として,「季語」のように使われています。ヒップホップ歌詞になくてはならない要素として,組み込まれています。

最近のアメリカの10代〜20代の若者は,キャムロンを聴いた人は少ないと思いますが,30〜40代でヒップホップが好きな人なら,必ずキャムロンやディップ・セットを聴いて育ってきています。ヒップホップにとって,とても大切な人物です。ヒップホップ史をちゃんと築いてきた重要人物の一人です。ぜひ,おぼえておいてください。

(文責:Jun Nishihara)