第1位:2019年の夏を制し,遂に1年まるごとヒップホップ界を盛り上げてくれた大・大・大ブレイクアーティスト登場!Megan Thee Stallion! (2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

2019年を一言で表現するとすれば,これかもしれません。「今年は女子ラッパーが活躍した一年だった」と。

シティ・ガールズ(City Girls)しかり,カーディB(Cardi B)しかり,ニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj),カマイヤ(Kamaiyah),ドージャ・キャット(Doja Cat),キャッシュ・ドール(Kash Doll),ティエラ・ワック(Tierra Whack),トリーナ(Trina),ノーネイム(NoName),ステフロン・ドン(Stefflon Don),そしてラプソディ(Rapsody)などなど。いま挙げたのは全員女性です。

必ずしもヒップホップとは呼べませんがポップ界では,黒人女性として歌手のリゾ(Lizzo)も大活躍しました。

そしてさらに追い討ちをかけるかのように,ヒップホップ界の超重鎮黒人女性ラップ・アーティストのミッシー・エリオット(Missy Elliott)も今年のMTV Video Music Award賞受賞会でその伝説的なカムバックを果たしました。おまけにニューEPもリリース!

こんなにも黒人女性及び女子ラッパーが活躍した2019年,なかでも特に,そう,特に,そう,くりかえします,特に!大・大・大ブレイクしたのが,この女性でした。それがMegan Thee Stallion!

ヒップホップ業界ではよく「夏を制すものは,一年を制す」といわれます。つまりその夏に売れたものは,一年をとおして売れる,その一年でもっともHOTなものといえる,ということです。

そして今年の夏を制し,ついには一年をも制すこととなったヒップホップアーティストが,そう,Megan Thee Stallionです。

英語読みは「メーガン・ジー・スタリオン」ですが,日本語表記は「ミーガン・ジー・スタリオン」と書いたり,「メーガン・ザ・スタリオン」と書いたり,「ミーガン・ザ・スタリオン」と書いたりと,あらゆる場所で別記載をしています。英語で読む場合はあくまでも「メー」にアクセント(強調)を置いて「メーガン・ジー(“the”の強調形,舌を噛んで発音)・スタリオン(タにアクセント)」です。

英語表記は満場一致の“Megan Thee Stallion”です。彼女の名前を呼ぶときは仲間たちは「Megan(メーガン)」や「Meg(メグ)」と呼びます。サウス出身の人たちは「メィガン」と呼ぶ場合もあります。愛称は「Stalli(スタリー)」です。

さて,このメィガン AKA メグ,今年の夏前から,こういうハッシュタグで話題になりました。「#HotGirlSummer 」です。

ツイッターやインスタグラム,Facebook,スナップチャットまで,アメリカ中,西から東,北から南まで,女子,いや,クィアな男子たちまでも,#HotGirlSummerで今年の夏を盛り上げてくれました。

実はまだ大学生のメィガン。つまり,まだ学生。まさに,いまのトレンドをいっちばん理解している世代の女子なのです。学校はTexas Southern University(テキサス南部大学)。つまりですよ,キャンパスはほぼ黒人の,いわゆる「HBCU (Historically Black Colleges & Universities=歴史的黒人大学)」と呼ばれる大学に通学しています。

1995年2月15日生まれ。今年で24歳。いま,何が流行っているかをいちばん理解して,そのど真ん中を生きている女の子です。

その彼女=メィガンが,今年の夏,ニッキー・ミナージュとコラボレートを果たしました。

この写真です。

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(左がニッキー,右がメィガン)

そしてその曲が以下です。

Megan Thee Stallion feat. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign

メィガンは昨年からジワジワとヒップホップ界,ラップ界を湧かせてきておりました。

昨年2018年に発表したシングル曲が以下の曲です。これは今年になってもストリーミング及びダウンロードされまくり,売れ続けまくりました。

Megan Thee Stallion – “Big Ole Freak”

以下は11月に開催されたAmerican Music Awardsの帰り際にカマした即興フリースタイルです。

12月には遂に,NPR Music: Tiny Desk Concertにも登場いたしました。

メィガンのフリースタイルをもう一本,掲載しておきます。

最近のフィメール・ラッパーつまり女子ラッパーと何が異なるかというと,リリシズム(リリックを重視する)という態度です。

もちろん,タイトなルックスで,奇抜な服を着て(もしくは太ももを露出して)お尻を突き上げて,ダンスもしますが,それ以上に彼女の才能はそのリリシズムにあらわれています。

容赦ないフロー。スピード感あるラップ。90年代から2000年代にかけて,流行ったハードコアラップをも彷彿とさせます。リリックの内容はストリッパーだけじゃない。エロだけじゃない(もちろんエロもありますが,内容をセックスやドラッグばかりに頼っていない。

古き良き時代?!(いや,ヒップホップはそんなに古くない)のヒップホップをbring it back (よみがえらせた)ラッパーとも言えます。そういう点で優れているにもかかわらず,そういう点を差し置いたとしても,今年#HotGirlSummerのハッシュタグでヒップホップ界最高にアツい夏を魅せてくれました。

もうひとつ,メィガンについて,特筆しておくべき点は,アメリカのディープサウス(深南部)出身ということです。その深南部出身という肌感覚から,同じ深南部であるメンフィス出身のジューシーJ(Juicy J)とタッグを組んでラップしております。

肌感覚はよく曲にあらわれます。メィガンの肌感覚は,その昔,深南部で奴隷が経てきた苦しみを深い歴史に刻んでいます。500年間つづいた奴隷制度です。その奴隷の感覚がメィガンの肌感覚に残っている。その肌感覚から溢れ出るメィガンの音楽,といいますか,ラップといいますか,ヒップホップには,北部出身のラッパーには出せないソウルがあります。それはビートによってもあらわれます。コーンフィールドという畑を,鍬をふりかざして,耕す黒人奴隷。その「耕す」という行為には,早いテンポのビートが求められました。ビート(当時は「掛け声」)とともにふりかざして耕さないと,白人のご主人様にムチでぶったたかれますからね。だからダラダラしたラップで,間延びするラップのフローでは,いけなかった。間延びしちゃいけない。そこに深南部出身ラッパーの独特のラップスタイルがあります。それをメィガンも綿々と受け継いでいる。意識的に,無意識的に,どちらかはさて置いて,確実に受け継いでいる。そこにわずか40年という若い歴史のヒップホップを超えた,500年続いた奴隷制度の深い歴史を感じることができます。

Megan Thee StallionがJuicy Jとタッグを組んだ曲に,以下の曲があります。これはエロがメインテーマです。(Juicy Jはエロに生きる男ですから,彼と組めばこういう曲内容になるのは必然でしょう。うなずけます。)

つい先日1月10日(金)にリリースされた,Normani(ノーマニ)との新曲MVも以下に掲載しておきます。現在YouTubeにてトレンド第8位!

なお,こちらは年末年始のバケーション中に撮影したMegan Thee Stallionのフリースタイルです。

https://www.instagram.com/p/B7H6BemF7oL/

2019年,メィガン AKA メグは,ジェイZが築き上げたレーベル=Roc Nationに引き抜かれました。しかし,彼女がRoc Nationに入隊したのは,結果論。メィガンの魅力は彼女がRoc Nationに入ったことではなく,Roc Nationに入る前に,すでに魅力であふれておりました。Roc Nationに入ったのはオマケ。Roc Nationに入る事実を知る前から,Megan Thee Stallionは今年ナンバー1の女子ラッパー,いや,女子も男子もひっくりめての,「まるごと第1位」のヒップホップアーティストとして,ここに記載いたします。

2020年は明けました。2019年(平成31年/令和元年)もありがとうございました。今年も,当サイトに来ていただいて,ありがとうございます。これまでベスト50として,毎日アップをし続けましたが,あさってからは通常どおりのパターンに戻り,ほぼ毎週水曜日と土曜日の朝のアップいたします。2019年は皆さんにとってヒップホップに溢れた一年だったことと願っております。新年2020年はさらに素敵なヒップホップと出会えますように。どうもありがとうございました。

(文責:Jun Nishihara)

第20位:姉御Trinaと令妹Nicki Minajのコラボレーション曲「BAPS」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

本年リリースされたトリーナ(Trina)&ニッキー・ミナージュのシングル曲「BAPS」が古き良きサウス・ヒップホップをよみがえらせました。そしてTrinaが最近の若手女子ラッパーたちへ与えた影響力は偉大なるものであると,当サイトでも何度も書いてきました。

当該楽曲については,以下をご参照願います。

元ネタの曲を知る⑨:TRINA & ニッキー Minaj ⇆ Big Tymers, ジュヴィナイル&リル・ウェイン

そしてトリーナがどれだけサウス出身の若手女子ラッパーたちに影響力を与えきたかは,最近の若手女子ラッパーの曲を聴いてみれば感じると思います。今までトリーナがやってきたことが,うまく受け継がれてきております。カーディBやニッキー・ミナージュやキャッシュ・ドールやドージャ・キャットやカマイヤやティアラ・ワックやシティ・ガールズ,彼女たち若手ラッパーに影響を与えてきた張本人がまさしく,トリーナ(Trina)なのです。

以下もご参照願います。

ヒップホップ歌詞引用解説:2ライヴ・クルー「Me So Horny」の場合。

それでは,Trina & Nicki Minaj – “BAPS”で本日を締め括ります。

Merry Christmas EVE!

(文責:Jun Nishihara)

永久保存版:米・女子ラッパーを網羅②:写真&代表作 (ニッキー・ミナージュ(2004)以前)

前回はニッキー・ミナージュ登場以前からすでに活躍していた女子ラッパーについて包括的にご紹介いたしました。つまり2004年以前にすでにヒップホップ最前線で活躍していた女子ラッパーたちです。

本日はその彼女たちの写真にあわせてもっとも最初に聴くべき代表作品とともにご紹介していきます。

1. Roxanne Shante (1984)(ロクサン・シャンティ)
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代表作:『Bad Sister』
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2. Salt-N-Pepa (1986)(ソルト・アン・ペッパー)
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代表作:『Very Necessary』
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3. MY Lyte (1988)(MCライト)
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(↑真ん中がMC Lyteです。)

代表作:『Act Like You Know』
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4. Queen Latifah (1989)(クイーン・ラティファ)
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(左=Mary J. Blige, 右=Queen Latifah)

代表作:『Black Reign』
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5. Mary J. Blige (1989)(メアリー・J.ブライジ)
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代表作:『What’s the 411』
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6. Missy Elliott (1989)(ミッシー・エリオット)
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代表作:『Under Construction』(下記ジャケ写真)もしくは『Miss E… So Addictive』
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7. Monie Love (1990)(モニー・ラヴ)
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代表作:『Down to Earth』
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8. Da Brat (1992)(ダ・ブラット)
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代表作:『Funkdefied』
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9. Rah Digga (1993)(ラー・ディガ)
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(左=Lil’ Kim,右=Rah Digga)

代表作:『Dirty Harriet』
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10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)(ローリン・ヒル)
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代表作:『The Miseducation of Lauryn Hill』
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11. Lil’ Kim (1994)(リル・キム)
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(左=Lil’ Kim, 右=Eve)

代表作:『Hard Core』
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12. Erykah Badu (1994)(エリカ・バドゥ)
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代表作:『Baduism』
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13. Amil (1994) (アミル)
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(左から,Memphis Bleek, Amil, Jay-Z, Beanie Sigel)

代表作:『All Money Is Legal』
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14. Charli Baltimore (1995)(チャーリ・バルティモア)
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(左=Charli Baltimore, 右=Ashanti)

代表作:『Cold As Ice』
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15. Foxy Brown (1995)(フォクシー・ブラウン)
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(左=Nicki Minaj, 右=Foxy Brown)

代表作:『Broken Silence』(楽曲3,4はアツ過ぎ!“B.K. the Home of Biggie and Jay!”)
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16. Ms. Jade (1995)(ミズ・ジェイド)
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代表作:『Girl Interrupted』(楽曲3はティンバランド制作ビートに似合いすぎ,楽曲10はジェイとの共演作(ヒップホップのクラシック!)。)
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17. Bahamadia (1996)(バハマディア)
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代表作:『Kollage』(↓アルバムジャケの裏面)
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18. Shawnna (1996)(ショーナ)
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(Shawnna, Ludacrisとのツーショット)

代表作:『Block Music』
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19. Eve (1996)(イヴ)
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代表作:『Scorpion』(楽曲9はDa BratおよびTrinaとの女子ラッパー3名の共演作。)
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20. Trina (1998)(トリーナ)
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(同郷マイアミ出身=Rick Rossとのツーショット)

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(元カレ=Lil Wayneと)

代表作:『Who’s Bad』(トリーナのラップ範疇の広さを物語るのは,楽曲16のようなエロい曲から,楽曲4のようなフリースタイルまで,あらゆる内容についてスピットできることです。)
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新曲:「F*** Boy」

21. Vita (1998)(ヴィータ)
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(左から,Vita, Ja Rule, Ashanti)

代表作:『Pre-Cumm』
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22. Remy Ma (2000)(レミー・マ)
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(ダンナのPapooseと)

代表作:『there’s something about remy』
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(文責:Jun Nishihara)

永久保存版:米・女子ラッパーを網羅① (ニッキー・ミナージュ(2004)以前)

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(写真は2018年2月15日,ハーレムのネイルサロン(Junie Bee Nails)のオープニングセレモニーで。左はTeyana Taylor,右はMissy Elliott。)

本年2019年,ヒップホップ界で何が最大の出来事だったかといいますと,ヒップホップ史上最高の度合いで女子ラッパーたちが活躍したという事実でしょう。今年は物凄い勢いで女子ラッパー陣が活躍いたしました。

現代ヒップホップには欠かせないシティ・ガールズ(City Girls)やカーディB(Cardi B)といったラッパーたちもさることながら,今年は「女子ラッパーの年(Year of the Female Rappers)」と呼んでいいほど,あらゆるエリアからの女性ラッパーがメインストリームへの登場を果たしてきました。

シティ・ガールズに関しては,昨年ドレイクが楽曲「In My Feelings」をリリースしたことにより,一躍有名となりました。これまではフロリダ州の一部でしか名を馳せていなかったこの女子ラッパーユニットは,ドレイクのこの曲のおかげで世界的名声を勝ち得たともいえます。

カーディBに関しては,もはやヒップホップ界のみならず,ポップス界で勝負していけるほどの才覚やセンスの持ち主となり,3年前(2016年)の時点ですでに,当時ポップス界のブルーノ・マーズと肩を並べるほどの存在となりました。

さて,こうした現代ヒップホップ界における「女子ラッパー」の存在にスポットライトを注いだ火付け役といえば,おおもとを辿れば,ニッキー・ミナージュが始まりといえます。2007年にアングラでリリースされたミックステープ『Playtime Is Over』収録のフリースタイル曲「Warning」でニッキーはヒップホップのアングラ界で一躍有名となりました。これだけフリースタイルをカマせる女子ラッパーはめずらしいぞ,と。ニッキーが世に出てきたからというもの,数多の女子ラッパーが登場しました。Azealia Banks, Rapsody, Young M.A, Iggy Azalea, Angel Haze, Dreezy, DeJ Loaf, Doja Cat, Snow Tha Product, Saweetie, Lizzo, Teyana Taylor等々です。

逆に,ニッキーが世に出る「までの」女子ラッパーというのももちろんおります。
以下は女子ラッパーの礎を築いた,それこそ最重要人物たちです。
このリストは心に刻んでおくべきでしょう。この人たちがいなければニッキー・ミナージュの存在はなかったといえます。そしてニッキーの存在がいなければ,今のシティ・ガールズやカーディBもいなかったでしょう。しかしながら,ニッキーの存在が凄いのは,黄金時代の女子ラッパーたちと現代の女子ラッパーたちの「あいだ」の存在として,ちゃんと橋渡しをしているところです。ニッキーが出るまでは今の世代の女子ラッパーは半分以上現れていなかったと過言してもよいところでしょう。

『歴代女子ラッパー』:ヒップホップ黄金時代の礎を築き上げた偉大なる女子ラッパーたち
(上からデビュー順に並べていきます。( )内はデビューの年です。)
1. Roxanne Shante (1984)
2. Salt-N-Pepa (1986)
3. MC Lyte (1988)
4. Queen Latifah (1989)
5. Mary J. Blige (1989)
6. Missy Elliott (1989)
7. Monie Love (1990)
8. Da Brat (1992)
9. Rah Digga (1993)
10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)
11. Lil’ Kim (1994)
12. Erykah Badu (1994)
13. Amil (1994)
14. Charli Baltimore (1995)
15. Foxy Brown (1995)
16. Ms. Jade (1995)
17. Bahamadia (1996)
18. Shawnna (1996)
19. Eve (1996)
20. Trina (1998)
21. Vita (1998)
22. Remy Ma (2000)

ここまでがひととおり,ニッキー・ミナージュがヒップホップのアングラ界で名を挙げるまでに登場した,ヒップホップ黄金時代を築き上げた最も重要な女子ラッパーたちです。(つまり,ニッキー以前のラッパーたち。)

非常にたいせつなリストですので,もういちど復習しておきます。

1. Roxanne Shante (1984)←※昨年,映画『Roxanne Roxanne』を観ました。初期のヒップホップにとってあまりにも重要な人物ですので,彼女へのリスペクトを表し,その半生を描いた映画です。映画の後半には子供の頃のNas(ナズ)も出てきます。この映画を観ると,あのナズでさえも,彼女(Roxanne Shante)の生き様に関わっていたことがわかります。Roxanne Shanteは1969年のクイーンズ生まれ。母子家庭で姉妹とともに育ちました。9歳の頃にラップを始めて,14歳の頃にラッパー名をロリータからロクサン(英語読み)へと変更。周りの女子は誰一人としてラップなんてしていなかった時代に,ラップを始めた。その度胸だけでも称賛されるべきです。その生き様はまことに苦闘の日々でした。その苦闘をラップ曲へと昇華することに成功し,初期ヒップホップを次に紹介するSalt-N-Pepaへと繋げた最重要人物です。

2. Salt-N-Pepa (1986)←※塩(ソルト)はシェリル・ジェイムス,胡椒(ペッパ)はサンドラ・デイトンです。二人はクイーンズの短大(Queensboro Community College)で看護学を学ぶ学生時代に出会い,ラップユニットを結成しました。シェリルはブルックリン出身。サンドラはクイーンズ出身。もともとはスーパーネーチャー(Super Nature)というユニット名で,3人目がいました。専属DJのDJ Spinderella(スピン+シンデレラ=スピンデレラ)です。Salt-N-PepaはRoxanne Shanteと並んで,ヒップホップの創設時代に必ず名前が挙がる人物です。

3. MC Lyte (1988)←※自身の名前に“MC”という呼称を付ける数少ないMCの一人です。しかも女性で。しかもですね,女子ラッパーで“MC”という呼称を入れているのは,MCライトだけです。男子ラッパーでは,MC Ren, MC Eigt, MC Shan, MC Jin, MC Hammer等いますが,女性ではMC Lyteのみ。女子ラッパーというより,女子リリシストと呼べるほど凛々しいラップをする彼女。MC Lyteの曲で「Poor George」というのがあります。ジージー(Young Jeezy)が楽曲「Shake Life」でサンプリングしておりました。名曲ですので,「Poor George」(1991)を聴いてみてください。しかしそれにも,さらに元ネタがありまして,それがTotoの「Georgy Porgy」(1978)でした。

4. Queen Latifah (1989)←※知っていますか?クイーン・ラティファとニッキー・ミナージュが映画『Barbershop: The Next Cut(邦題:バーバーショップ3 リニューアル!)』で共演していることを。女性ヒップホッパーというジャンルを象った一人の女性(=ラティファ)が,今の世代のバービー・ドールたちを産み出した若き女子ラッパー(=ニッキー)とともに「世代を超えて」共演している映画があるということを。ニッキーは今,アップル・ミュージック(Apple Music)専用ラジオ局で,Queen Radioというラジオ局を持っておりますが,おおもとの“Queen”はこの人=Queen Latifaでした。ラティファとニッキーがこうして多面的に繋がっていることにより,ラティファの音楽がいつの時代も生き続けるように祈るばかりです。

5. Mary J. Blige (1989)←※ヒップホップ界ではいろいろな人が「クイーン」の名を好き勝手に使っておりますが,この人こそが正真正銘「元祖クイーン」です。メアリーは次に出るミッシーとともに,黒人女性にとって非常に重要なアイコンでしょう。メアリーの名盤『What’s the 411』は,女子ラップではなく,女子とか男子とかカンケーなく,ヒップホップ音楽(そしてR&B音楽)における最も重要なアルバムです。日本国民全員が一家に一枚持っておくべき最重要アルバムです。今晩の夕ご飯の時には,TVは消して,DVDも消して,Netflixも消して,『What’s the 411』をかけてみてください。ハマります。一度ハマれば,二度と戻れない。一度ブラックにハマれば,二度と戻れない(“Once you go black, you can never go back.”)。入り口は『What’s the 411』です。全てはここで始まります。そんなアルバムを作ったメアリーは次のミッシーとともに歴史的人物として歴史(少なくとも黒人女性の歴史)の教科書に載るべき人物でしょう。日本の小学校の歴史の授業で,「メアリーがいたから〇〇」や「ミッシーがいたから〇〇」の〇〇には,この二人により救われた人々の名前が入ります。メアリーの何がすごいかって,彼女の苦しみと涙に満ちた歌詞に共感する女子が当時も,今も,ほんとうに多くいらっしゃるということです。時代は変われど,メアリーの歌詞と歌に共感する人は絶えないですね。それだけ女子にとって普遍的な音楽を創り続けているメアリーは偉大な人物です。

6. Missy Elliott (1989)←※いやぁ,ミッシーに関しては,現代黒人女子ラッパーのみならず,黒人女性のアイデンティティを作り上げたという点において,特筆すべき,非常に重要な歴史的人物です。「黒人女性史」というジャンルがあるならば,必ずメンションされるべき人です。この前,どこかのTV番組で,若い黒人女性シンガーがこう言っているのを見かけました。「こんなデブの私でもひとりのブラックシンガーとして認められるようになったのは,ミッシーのおかげです。当時ミッシーが,MTVで流れるミュージックビデオでダンスしているのを観て,私も家で曲にあわせて真似して歌った。ミッシーが成し遂げたことは,黒人女性にとって革命的なことだった。」ヒップホップや音楽という範疇を超えて,ミッシーが成し遂げたことは,黒人女性にとっていかにたいせつであったかを,別の機会に書ければと思っております。

7. Monie Love (1990)←※UK出身です。英国はロンドン生まれ。名前の読み方は「マニー・ラヴ」ではなく「モゥニー・ラヴ」。彼女の「Monie in the Middle」を聴いてみて下さい。「彼女は誰だ!」「モゥ,モゥ,モゥニー・インダ・ミド」「ダ,ダ,ダ,ミド!」って言ってます。

8. Da Brat (1992)←※ヒップホップ界最も重要なプロデューサーの一人であるジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)率いるソー・ソー・デフ(So So Def)所属の女子ラッパー。高い声に,早いラップが売り。ノリは良く,ツカミは完璧。パッパッパとしたテンポのいいラップが好きな人なら,すぐに好きになれます。彼女のアルバム『Funkdafied』はオススメ。ジャーメイン・デュプリは数えきれないほどの名曲を残しておりますが,Lil’ Kim, Left Eye Lopes, Missy Elliott, Da Brat & Angie Martinezとのコラボレーション曲「Not Tonight」の中でもいちばんハードなラップをカマしているのはDa Bratでした。

9. Rah Digga (1993)←※バスタ・ライムス率いるフリップモード・スクワッド軍団のファースト・レディ!女子なのにタフ.タフ,タフ。タフな女子ラップを聞きたければ,とにかく彼女のアルバムを聞くべし。彼女が尊敬するラッパーは,KRS-One,Rakim,Kool G Rapと,ヒップホップ界でもハードなラップをするベテラン勢を挙げております。メジャーデビューは,当時Q-ティップに才能を見出さられ,バスタ・ライムスを紹介されたことに始まります。

10. Lauryn Hill (as The Fugees) (1994)←※下記12.のエリカ・バドゥもそうですが,ローリン・ヒルについても日本の女子ヒップホッパーの間で特に人気がありますね。彼女のグラミー賞受賞のアルバム『Miseducation of Lauryn Hill』はあまりにも有名です。それまでは,女子ラッパーが「Album of the Year(最優秀アルバム)」を受賞したことはありませんでした。歴史上初めて最優秀アルバム(ヒップホップ部門でもなく,ラップ部門でもなく,女性アーティスト部門でもなく,全てを包括した中で,男女関係なく,ジャンル関係なく,最も優秀なアルバム)は,ヒップホップ,しかも女性のヒップホップとしては,初めての快挙でした。そういった意味では,ヒップホップ史のみならず,音楽史で非常に重要なアルバムでしょう。

11. Lil’ Kim (1994)←※冒頭でニッキー・ミナージュは現代女子ラッパーのおおもとを築き上げた人物だと云いました。ニッキーがそうであれば,リル・キムが成し遂げたのは,ニッキーが成し遂げたものとの性格(性質)は似ているかもしれません。また,90年代のヒップホップで最も有名な女子ラッパーとも呼べるかもしれません。名付けて女子OG。女子のオリジナル・ギャングスタ。ブルックリン出身で,ビギーの愛人。レコードでもビギーとのセックスをそのまま曲に流し,下品なラップ曲を厭わずに,世に出しました。ヒップホップに恥など無関係,と言わんばかりに。このおかげで,あらゆる女性が自由を勝ち取ったことでしょう。女子のエロを解放してくれたラッパー,それがリル・キムでした。

12. Erykah Badu (1994)←※この人が成した功績に関しては,ここだけでは語りきれないでしょう。エリカ・バドゥは日本のヒップホッパー女子にも非常なる人気を誇っております。わたくしがここで語るのはおこがましいことですが,ひとつ彼女について言えるとすれば,エリカ・バドゥほどヒップホップに創造性を与えたアーティストは男女ともにいない,ということでしょう。彼女ほどヒップホップの可能性をさぐった人はいませんでしたし,その可能性をどこまでも挑戦し続けた。実践的な面でも,スピリチュアルな面でも。そしてヒップホップそのものと肉体面での関係を持ち,純粋にそれを愛した。肉体のエロさという極致とスピリチュアルな愛というもののもう片方の極みを昇華させたアーティストは男のアーティストを探してみてもめずらしいでしょう。エリカほど理解不能な歌手は今の時代はあらわれにくくなっていますねえ。

13. Amil (1994)←※アミルの特徴的な声は忘れられません。今はどこにいるのかわかりません。でも彼女の声だけはこの耳にこばりついています。ケガが治りかけた瘡蓋のように。ジェイZの「Can I Get A…」を聴いてみてください。あと,1998年に日本でデフ・ジャム関係のアルバム(国内盤)を入手すると,「次回Def Jamレーベルからリリース予定の新盤!」ということでライナーノーツにおまけでチラシが入っていました。その中で,アミルのアルバム『All Money Is Legal』が近々リリース予定!として記載がありました。そしてそれがリリースされたのは2000年8月29日。リードシングル「I Got That」では当時まだデスチャに所属していたビヨンセをフィーチャリング。デフ・ジャムのみならず,Roc-A-Fellaレーベルの辿った歴史として,重要な女子ラッパーです。

14. Charli Baltimore (1995)←※チャーリー・ボルティモアはビギーの愛人でした。ビギー(=The Notorious B.I.G.)は1995年,ライヴ後のアフター・パーティでチャーリーと出会い,関係を持ち始めました。ビギーとジェイZとパフ・ダディが当時スーパーグループ=The Commissionを結成しようと計画していたのを目の当たりにしていた女子ラッパーこそが彼女チャーリーでした。チャーリーに聞けば聞くほど,当時のビギーの秘話が出てくる出てくる。ビギーと関係を持っていた女子ラッパーとして,おさえておくべき重要人物でしょう。

15. Foxy Brown (1995)←※フォクシーは当時,Nas達とThe Firmというスーパーヒップホップユニットを結成しておりました。その彼女が,ジェイZの楽曲「Ain’t No Nigga」にフィーチャリングされ,一躍有名に。デビュー作の『Ill Na Na』ではその特徴的な声で,ヒップホップ界に「新しい旋風」を巻き起こしました。リル・キムとは違った趣向で切り口,角度でヒップホップに登場しました。当時は,「リル・キム派」か「フォクシー・ブラウン派」か,もしくは第三の波「ミッシー派」か,その三大帝王の指に入るほどメジャーなフィメール・ラッパーでした。

16. Ms. Jade (1995)←※個人的にはとても好きな女子ラッパーです。彼女を知ったのは2001年でした。当時ニューヨークのストリートで売られていたミックステープにMs. JadeとJAY-Zのコラボ曲が収録されていて(「Count It Off」という曲です),あれがヒップホップこてこてのクラブ(当時NYCで有名であったClub Speed(ヒップホップ伝説の男DJ Mister Ceeもここでスピン!))で流され,「おぉ,これミックステープで聴いた曲や!」とテンション上がったのは記憶にあります。Ms. Jadeのフィリーをレペゼンする,ドスの聴いた声で低音ベースがガンガン聴いたティンバランド・ビーツは超マッチ。「Count It Off」はあらゆる意味で名曲ですので,聴いてみてください。

17. Bahamadia (1996)←※デビュー作アルバム『Kollage』のカバー表紙はきっと見たことがあるでしょう。あまりにも有名なアルバム。女子ラッパー名盤。バハマディアのこのアルバムは必ず聴いておくべき。

18. Shawnna (1996)←※アトランタ出身リュダクリスのDisturbing Tha Peaceレーベル所属。ショーナ自身はシカゴ出身。リュダクリスのメインストリーム・デビュー・シングル曲である喘ぎも入るエロエロの曲「What’s Your Fantasy」でコラボレーション。

19. Eve (1996)←※もはや女優としての才能に恵まれた多才なラッパー。当時はスウィズ・ビーツ率いるラフ・ライダーズのファースト・レディー的存在。

20. Trina (1998)←※女子ラッパー,特にサウス出身の女子ラッパー,にとっても最も重要な女子MC。サウス女子のそれこそ礎を築き上げた張本人

21. Vita (1998) ←※当時ジャ・ルールと同胞マーダーINC.に所属していた女子ラッパー。ジャの「Put It On Me」のPVがMTVで流れ,そこでジャの相方としてラップしていた細身の彼女。

22. Remy Ma (2000)←※Ne-Yo(ニーヨ)とのコラボレーション「Feels So Good」はあまりにも有名な楽曲。当時ミックステープを売りまくっていた「アルファベットラッパー」ことPapoose(パプース)と結婚。パプースはオフィシャル・アルバムを出す出す出す,と言っていて,ずっと待ち続けていたが,いまだに出していない。(蛇足ですが「アルファベットラッパー」といっても馬鹿にすることなかれ。アルファベットを「A」から「Z」まで順番に韻を踏んでいくんです。当時ニューヨークのHOT97で聴いたときは,「スゲエッ!こんなん初めて聴いたわ!」と度肝を抜かれました。後に同胞ブルックリン出身のファボラスも「C→G」までアルファベットラップをやって,それもなかなかよかったです。)

さて,次回は各女子ラッパーの写真と代表作を掲載します。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る⑨:TRINA & ニッキー Minaj ⇆ Big Tymers, ジュヴィナイル&リル・ウェイン

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元祖“Baddest Bitch(最高にワルな女)”こと,トリーナ(Trina)がまたもやヒットを飛ばしてくれました。最近のCity GirlsやSaweetieのおおもとを創ってくれた元祖女神=トリーナは,マイアミ出身の女性ラッパーです。以前,当サイトでも取り上げました。

トリーナのニックネームである“Baddest”という語彙は,本来は存在しません。形容詞“bad”の最上級は“worst”ですから。しかしながら,むかしから黒人の間で(といいますか,黒人は),“bad”に「良い」意味合いを持たせて使ってきました。文字を禁じられた人々(=黒人)は,白人が通常「悪い」意味で使ってきた言葉や定義をflipして(くつがえして)使うことにより反抗心を表現してきました。

男子ラッパーもファンの我々も,トリーナのことを“Baddest”という愛称で呼び,「最高にワル」というニュアンスを持たせることにより「ひじょうに素晴らしい」という隠れた意味で彼女の存在を表象してきました。「最高にワルくて,最高にステキな」トリーナ(Trina)が,先般新曲を発表してくれたことは,本当に嬉しいことでございます。

早速,聴いてみてください。
Trina feat. Nicki Minaj – “BAPS”
トリーナ feat. ニッキー・ミナージュ「BAPS」です。

この楽曲の元ネタは,2000年頃にはすでにヒップホップを聴いていた方なら一発でわかるはず。「プロジェクト・チック!やないか!」と。

Big TymersやJuvenile,そしてLil Wayne。ノーリンズことニューオーリンズ出身のキャッシュ・マネー軍団。トリーナと同じくサウス出身。「サウスつながり」で,トリーナ所属のSlip-N-Slide軍団とリル・ウェイン所属のCash Money軍団は,昔から親しい付き合いでやってきました。

ビッグ・タイマーズ率いるジュヴィナイル&リル・ウェインの名曲「Project Bitch」は2000年にリリースされました。当時,リル・ウェインはまだ年齢18歳。いまでこそ「大御所」として呼ばれるまでに昇りつめたリル・ウェインですが,まだこの頃は10代後半の青年でした。以下のビデオを観てもらうとわかるかもしれませんが,シャツをまくり上げて着る仕草とかは,もう2000年頃流行った完全「サグ・ファッション」ですね。中西部ラッパー=セントルイス出身のネリー(Nelly)やアトランタ出身のリュダクリス(Ludacris)もまさにこの頃デビューしたてでしたけれど,シャツをまくり上げて,ゲットーやビーチで女子まじえて遊びまくっている光景がPVに流れたりして,いや〜,いい時代でした。

さて,その元祖,オリジナルPVがこちらです。姉御トリーナと,妹のニッキーは,以下の楽曲を元ネタに起用しております。

(文責:Jun Nishihara)