カニエ・ウェスト対訳「Wolves」ヴァース3(アルバム『The Life of Pablo』楽曲13)

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(以下歌詞でヨセフとマリアの話が出てきますが,マリアを孕ませたのはヨセフで,お腹の中にはイエス・キリストが宿ります(新約聖書マタイによる福音書1章18~25節より)。つまり,カニエが言うとおり,「もしもマリアがあの夜,ヒップホップクラブなんかに行ったりしていて,イケメンの男に囲まれて,ナンパなんかされていれば,どうなっていたことだろう」と。その後に,カニエは歌詞中で,自身の子ども=ノースとセイントの言及をしますが,これは,マリアがヒップホップクラブで出会ったのはカニエだったと仮定してのことだとも解釈できます。マリアとカニエが出会って,ノースとセイントが産まれたのだと。
 上記の歴史的絵画は,巨匠ラファエロ・サンティによるものです。題名は『システィーナの聖母(原題:Sistine Madonna)』です。中央では聖母マリアが幼児キリストを抱えています。つまりこれはキリストが産まれた後(クリスマスの後)の絵ですが,この子をノースやセイントに重ねているのが以下カニエの歌詞の後半です。)

Kanye West feat. Sia & Vic Mensa – “Wolves” (Verse 3)
カニエ・ウェスト feat. シーア&ヴィック・メンサ 「ウルヴス」(ヴァース3対訳)

[Verse 3: Kanye West]
You gotta let me know if I could be your Joseph
Only tell you real shit, that’s the tea, no sip
Don’t trip, don’t trip, that pussy slippery, no whip
We ain’t trippin’ on shit, we just sippin’ on this
Just forget the whole shit, we could laugh about nothin’
I impregnate your mind, let’s have a baby without fuckin’, yo
I know it’s corny bitches you wish you could unfollow
I know it’s corny niggas you wish you could unswallow
I know it’s corny bitches you wish you could unfollow
I know it’s corny niggas you wish you could unswallow
I know it’s corny bitches you wish you could unfollow
I know it’s corny niggas you wish you could unswallow
You tried to play nice, everybody just took advantage
You left your fridge open, somebody just took a sandwich
I said baby what if you was clubbin’
Thuggin’, hustlin’ before you met your husband?
Then I said, “What if Mary was in the club
‘Fore she met Joseph around hella thugs?
Cover Nori in lambs’ wool
We surrounded by the fuckin’ wolves”
(What if Mary) “What if Mary
(Was in the club) was in the club
‘Fore she met Joseph with no love?
Cover Saint in lambs’ wool
(And she was) We surrounded by
(Surrounded by) the fuckin’ wolves”

(ヴァース3:カニエ・ウェスト)
教えてや,キミのヨセフにならせてや
リアルしか話さねえ,紅茶は啜らねえ
あわてんな,あわてんな,あの女のアソコは濡れてんぜ,かき混ぜんな
イカれてんじゃねえ,ゆっくり堪能してんのや
なにもかも忘れて,くだらないことで大笑いして
キミの脳ミソを孕んでやる,セックスやらずに赤ちゃん産ませてヨゥ
ダッセェ女どもをフォローから外したがってるって,知ってんだぜ
ダッセェ男どものザーメンは飲み込みたくないって,知ってんだぜ
ダッセェ女どもをフォローから外したがってるって,知ってんだぜ
ダッセェ男どものザーメンは飲み込みたくないって,知ってんだぜ
ダッセェ女どもをフォローから外したがってるって,知ってんだぜ
ダッセェ男どものザーメンは飲み込みたくないって,知ってんだぜ
「いい人」ぶってると,まわりから「いいように」使われちまうぜ
冷蔵庫を開けっ放しにしてると,誰かが君のサンドイッチを食っちまうぜ
俺は彼女にこう訊いた,「ねぇベイビー,君だって今のダンナに会う前は,
クラブ行ったりなんかして,可愛くキメて,男を逆ナンしたりしてたんでしょ」
そしてこうも言った,「もしもマリアがヨセフに会う前に
クラブ行ったりなんかして,男ばっかりに囲まれていたら,どうなっていただろう」
ノリちゃん(ノース)を羊毛でまとってあげて
俺らはオオカミ連中に囲まれる
(もしもマリアが)もしもマリアが
(クラブ行ったりして)クラブ行ったりして
ヨセフに会ったとしても,愛していなかったら
セイントを羊毛でまとってあげて
(するとあたりは)あたりは
(寄ってきた)どう猛な,オオカミだらけ

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

Mary J. Bligeの名曲「You Remind Me」から回想できる事柄。

「You Remind Me」という曲は,メアリーJ.ブライジ(Mary J. Blige)のデビュー作です。今からちょうど30年前にリリースされました。

メアリーも,この曲をプロデュースしたDave”Jam”Hallも,あれから30年も後に,メアリーが全米向けのTV番組でこの曲が歌われることになるとは思っていなかったんじゃないでしょうか。少なくともこの曲が制作された当時,30年後の今のことは想像されていたかどうかは分からないです。

「You Remind Me」とは「あなたを見てると,かつての恋人のことや,かつて感じていた気持ちや,どこかで見た景色などを思い出す」という意味があります。

この曲が作られて30年後,僕らはこの曲が作られた頃のメアリーを思い出します。それとともに,当時じぶんたちが何をたいせつに感じていたか,という初心といいますか原点のようなものも思い出すことになります。

このサイトを見られている方の中には,30年前はMary J. Bligeの曲を聴いていたけれど,今はもうそういった音楽はめっきり聴かなくなったという方もいらっしゃると思います。もしくは,今は日々の仕事に追われて,ヒップホップなんかとは全く関係のない仕事をして,せわしなく仕事や生活をされている方もいらっしゃると思います。

しかしそんな時にこそ,Mary J. Bligeのこの曲「You Remind Me」を聴いて,ほんとうは何がたいせつだったのかを,一時的にも思い出すことができれば,人生がすこし良い方向に進むかもしれません。

そんなのは余計なお世話ですし,かってなおせっかいかもしれませんが,メアリーが30年後の今,あらためて「You Remind Me」をBETで歌ったのは,僕らにそういうことを思い出させてくれている縁かもしれません,なんて思います。

「You Remind Me」の解釈は,必ずしも恋愛に関するものでなくともいいですし,特定の元カレや元カノのことに関するものでなくともいいです。これは日々あわただしく仕事をするサラリーマンにとって,もう一度,一息立ち止まって,何がじぶんにとってたいせつだったのかを思い出すための曲なんです。

この曲を聞くと,「俺はこんなことしてる場合じゃない」と思えてきますね。30年前のヒップホップをもういちどからだじゅうに浴びるべきだ,と。

仕事は代わりがあるけれど(別の人が後を継げばいいけれど),ほんとうにじぶんが愛していたもの(“Real Love”)は,他の誰でもなく,じぶんでしかやることができない,ということを思い出させてくれる(“You Remind Me”)という曲です。

だからこれを読んでいるあなたもですね,ほんとうに熱くなれない仕事なのであれば,じぶんがあの頃好きだったことを少しだけでも思い出してみるといいと思います。会社で上司のことや人間関係について苦しんでいる場合じゃないのです。たいせつなものはもっと違うところにあるのですから。

ちょっとズレてみてください。

そのズレがきっかけとなって,ヒップホップに回帰することができるといいですね。

Mary J. Blige,そういうことを思い出させてくれて,ありがとう。

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(上記はMary J. Bligeが「You Remind Me」をリリースした当時のジャケ写真です。)

(文責:Jun Nishihara)

アメリカ『BET』の歴史と重なるメアリーJブライジの音楽史に贈られた特別功労賞。

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(デビュー当時のMary J. Blige)

黒人音楽を聴くという習慣がついているものにとって,アメリカのBETというTVチェンネルは欠かせないものです。アメリカ黒人のカルチャーやファッション,音楽やミュージックビデオ等に関するあらゆる番組を一日中放映しているTVです。(BET=Black Entertainment TV)2000年代初期の頃にはまだまだBETよりもMTVという時流はありましたが,最近ではMTVと双璧をなすほどのクオリティとトレンド力をBETはつけてきたと思います。

MTVと同じくBETでも毎年「BET Music Awards」が開催されます。2001年から開催するようになり,今年で19年目です。

そのBET Music Awardsで今年開かされたAwards授賞式では,メアリー・J.ブライジ(Mary J. Blige)が素晴らしきステージパフォーマンスを見せてくれました。メアリーが活動を始めたのは1989年,BETが創設されたのは1980年,アメリカの全国版TVチャンネルとして認められたのは1983年でした。つまり,BETがアメリカ全土に放映されるようになって僅か6年後にメアリーのミュージックビデオはBETチャンネルで放映されるようになったのでした。

こうして四半世紀以上の黒人音楽史を,Mary J. Bligeとともに歩んできた米国BETチャンネルは,今年(2019年)のBET授賞式で彼女を特別に讃えることとしました。まさにその名に等しい「Lifetime Achievement Award(特別功労賞)」です。この特別功労賞は,黒人音楽の歴史において名を馳せるとともに,黒人音楽に長年の間貢献した偉大なる人物に贈られる賞です。過去に同賞を受賞した人物にホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston),ジェイムス・ブラウン(James Brown),チャカ・カーン(Chaka Khan),プリンス(Prince),ダイアナ・ロス(Diana Ross)等,まさに偉大なる人物が並びます。

その偉大なる人物の中に,ついにMary J. Bligeも並ぶこととなりました。現代の世代のヒップホップアーティストでこの受賞者の欄に並ぶのは初めてです。「ヒップホップ」が初めてなんです。信じられないようで,ずっとヒップホップを聞いてきたものにとっては感慨深いものがあります。繰り返しますが,「功労賞」にヒップホップという音楽も入るようになったんです。今まで「若者の音楽」だと勝手に思ってきたヒップホップも「歳をとったものだなぁ」とこれを見て思いましたよ。あのダボダボのシャツとダボダボのパンツとベースボールキャップを被って腰を屈めてストリートを闊歩したいたナインティーズのヒップホップスタイルも,今や,小ぎれいに着飾って,ジュエリーなんかしちゃって,パンツもタイト,シャツもタイト,キャップも高価,もうかつての「土臭さ」はなくなりつつありますけれど,以下のメアリーのパフォーマンス映像では,ミーゴスもカーディBもリスペクトの目でメアリーを見る映像が映し出されます。この姿はMTVでは観られないんじゃないかなぁなんて思います。

そしてその同授賞式でのメアリーのステージがまた素晴らしかった。これです。

そして以下がメアリーが特別功労賞を受賞する際の模様です。

ヒップホップ・ソウルの歴史がまた1ページ,刻まれました。

(文責:Jun Nishihara)