ドレイクに影響を与え,そして影響を受けた,UKの黒人音楽シーン(その②)

UKの黒人音楽シーンに出現した若手シンガー女子2名=エラ・メイ(Ella Mai)とマハリア(Mahalia)が並んで映ると,まさに姉妹のように映る,そんな映像が流れるのが2019年9月にリリースされたミュージックビデオ「What You Did」です。二人ともUK出身。エラ・メイはジャマイカ人の母親と,アイルランド出身の父親の混血。マハリアは,英国ミッドランド東部に位置するレスターシャーの生まれ。同じくジャマイカ人の母親と,アイルランド出身の父親の混血。やっぱり二人とも,姉妹?!

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「What You Did」のミュージックビデオはこちらです。

Mahalia feat. Ella Mai – “What You Did”

キャムロン(Cam’ron)好きの私は,すぐにこの曲が好きになりました。
(キャムロンについては,コチラを読んでみてください。)

なぜこれがキャムロン好きにはタマらん曲なのか,と言えば,マハリアのこの楽曲「What You Did」のビートは,まさに以下のキャムロンの2002年4月リリースのシングル曲をサンプリングしているからです。

Cam’ron – “Oh Boy”(2002年4月リリース)ディップ・ディップ・セッセッ!!

なお,知ってました?この「オゥ・ボーイ・ビート」は以下の曲でマライア・キャリー(Mariah Carey)もサンプリングします。

Mariah Carey feat. Cam’Ron – “Boy (I Need You)”

さて,話を戻しますと,エラ・メイはシングル曲「Boo’d Up」で2018年に全世界を席巻し,売り上げは米国のみで500万枚セールス,カナダや英国での売り上げを合わせますと,合計600万枚以上。2018年のビルボードチャートを総ナメする勢いにまで発展しました。

他方,マハリアはその間,UKの音楽シーン,とりわけアンダーグラウンド・シーンでグツグツと人気を温存してきており,2019年9月にアルバム『Love and Compromise』をリリースし,同アルバムは英国R&Bアルバムランキングに於いて第3位を記録しました。

この生粋のUK生まれの二人は,冒頭のシングル曲「What You Did」でコラボレーションしたわけですけれども,楽曲に起用されている元ネタ・ビート「Oh Boy」を世に出した張本人であるキャムロン自身を迎えたというREMIXヴァージョンも今年リリースされました。2002年に出たキャムロンのビートをサンプリングとして使い,そして18年後の2020年に,キャムロン自身をREMIXに迎えた!という大胆な手法で,以下REMIXをリリースしたものです。

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ちなみに,マハリアが上記写真でまとっている緑色の毛皮は,2002年にキャムロンがピンクの毛皮をまとって撮った以下の写真をオマージュとしております。これは2002年当時,キャムロンがヒップホップ界随一のピンク色好きということで有名で,クルマもピンク,ダボダボのシャツもピンク,毛皮もピンクという出立(いでたち)で,ヒップホップ界では当時このピンク色を「Cam’ron Pink(キャムロン・ピンク)」と呼ぶようにまでなり,当時かなり話題になりました。ゴテゴテのヒップホップ野郎でもピンク色のシャツを着てもいいんだ,と,NYの若者はそのカラーを真似するようになり,ついにヒップホップ・ファッション界にまで影響を及ぼすこととなりました。

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さて,そのキャムロン張本人を迎えてリリースしたREMIXヴァージョンがこちらです。

Mahalia feat. Cam’ron & Ella Mai – “What You Did (REMIX)”

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る(12):ドレイク ⇄ JAY-Z ⇄ ボビー・グレン

どうも,西原潤です。

1年半以上前ですが,2018年9月にこういう見出しを1件UPしました。

ジェイZのヒップホップ界歴史に残る名盤『The Blueprint』に収録されている「Song Cry」の元ネタを探ったものでした。

この曲が世にリリースされて,かれこれ18年以上が過ぎておりますが,その18年以上が経過した今,ヒップホップ界でベテランの域に入り始めているドレイクが,この名曲を引っ提げお手本にして,「When To Say When」という曲を今年2月にリリースしました。そして,2020年5月1日にリリースした公式ミックステープに同曲「When To Say When」を収録しました。

私の尊敬するHip-Hop JournalistにElliott Wilsonという方がいます。Elliott(YN)は80年代から米ヒップホップ雑誌(『ego trip』『The Source』『XXL』『RESPECT.』)の編集者(後に編集長)として名を上げてきた人物です。最近はTIDALで放送されている動画付きのラッパー・インタヴュー集「Rap Radar Podcast」を立ち上げております。すでに現時点で,90話まで進んでおりますので,約90名のラッパーをインタヴューしてきた計算になります。このインタヴュー集は,TIDALを月額購買していれば,視聴可能です。

昨年2019年12月25日に公開されたElliott Wilson & B.Dotとドレイク(Drake)のインタヴューは,ドレイクのトロントの自宅で行われました。インタヴューが“あの”ドレイクの自宅で行われた,というのは,どれだけElliottがヒップホップ界でリスペクトされているか,ということを物語っています。このインタヴューはTIDALを月額払って観てみる価値はありますので,お金に少し余裕のある方は,月額スタートしてみると良いですよ。

さて,そのドレイクが「When To Say When」を今年2月にリリースした際に,ミュージックビデオも同日公開されました。そのミュージックビデオは,ドレイクがジェイZの生まれ育ったブルックリンのMarcy Projectsに赴き,そこで撮影しているという感動的なものです。なぜ感動的か,というのは幾つか理由はあるのですが,1つは,タイミングです。2001年8月に亡くなったAaliyahをドレイク自身,当時好きで聴いていました。当時2001年にドレイクはラッパーとしてまだ世に出ていませんでしたが,同じ世代の人間として私も,Aaliyahを当時ヘヴィロテで聴いておりました。当時ヘヴィーローテーションで流していた大好きなアルバムの歌手が亡くなった,と。それを知ったのは,当時インターネットなんて僕はやってなかったですから,誰かアメリカに住んでいた友達から聞いたんだと思います。新聞でも見たのかな?もうアメリカと黒人音楽にどっぷり浸かっていた2001年でしたので,当時の様々な思い出が,「Song Cry」を聴くと甦ってくるのです。そういう最中のことでしたから,Aaliyahが亡くなった翌月にリリースされた『The Blueprint』収録楽曲の最も感動的である曲をサンプリング(という言葉が安っぽく聞こえてしまうので使いたくない)否,サンプリングではなく「お手本として起用させていただいた」曲をドレイクがリリースしたというのは,そして同日にリリースされたミュージックビデオを拝見した時には,あの当時を思い出して,いろいろな感情が溢れ出してきたため,涙が出てしまったのでした。

ここにその「When To Say When」と「Song Cry」と,そしてBobby Glennの「Sounds Like A Love Song」を掲載しておきます。

Drake – “When To Say When”

JAY-Z – “Song Cry”
(ミュージックビデオの冒頭で2002年という文字が出てきますが,この曲を収録したアルバムが出たのは2001年です。当時はミュージックビデオ(当時の言葉でPV)は時間をかけて製作されていましたから,曲が世に出て1年,2年後にPVが発表されても不自然ではなかったのです。最近のように,リードシングル曲ならまだしも,それ以外の曲がリリースされて,同日中にミュージックビデオも世に出るなんていうのは極めて稀なことだったのです。)

Bobby Glenn – “Sounds Like A Love Song”

(文責&キュレーション:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る(11):Megan Thee Stallion⇄2パック⇄ファンクの奇才=ブーツィー・コリンズ

久しぶりにこのコーナーをやってみました。
「元ネタ」というのは,ある曲(とりわけ旧い曲)を下敷き(つまり元ネタ)にして,新しいヒップホップやR&B曲を作り出す,というものです。

本日ご紹介するのは,現在全米チャートを総ナメ状態の,大ブレイクしているシングル曲「B.I.T.C.H.」です。アーティスト名は,ご存知Megan Thee Stallion(ミーガン・ジー・スタリオン,メーガン・ジー・スタリオン,愛称メグ,メィガン)です。昨年2019年に最も活躍したアーティストとして,大ブレイクを果たしました。

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(ビヨンセと娘ブルー・アイヴィー,そしてMegan Thee Stallionとの3ショット)

さて,そのチャート急上昇の楽曲「B.I.T.C.H.」を以下のとおりまずお聴きください。

この曲を聴いて,どこか「なつかしさ」を感じた方は,理由があります。なぜ「なつかしく」感じたか。それは1996年2月にリリースされた2パック(2Pac = Tupac)の名盤『All Eyez on Me』に収録されている楽曲「Ratha Be Ya Nigga」をこの曲は下敷きにしているからなのです。

聴いてみましょう。1996年のカリフォルニアを思い起こされるでしょう。

しかしながら,これにもさらに「大元(おおもと)」のサンプリング・ネタが存在します。

それがファンク界でもエキセントリックな格好をし,サイケデリックさをバンバン醸し出していたベースの天才=ブーツィー・コリンズの「I’d Rather Be With You」です。

これらを聴いた上で,もとに戻ってMegan Thee Stallionの「B.I.T.C.H.」を聴いてみてください。

最後にもう一つ。黒人音楽(ブラック・ミュージック)の歴史に残る素晴らしき名曲と呼ばれた「Redbone」についても同曲を一部サンプリングとして起用しております。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る⑩:クリス・ブラウン⇆Q-Tip&カニエ・ウェスト⇆アリシア・マイヤーズ

元ネタの曲が二重にさかのぼって発見できる場合があります。

今回もそのケース第2弾です。

先般リリースされたクリス・ブラウン(Chris Brown)のニューアルバム『Indigo』より,楽曲「Temporary Lover」の紹介です。これは,サウスイチのパーティー野郎=リル・ジョンをfeat.しており,以下のネタを回しています。

まずは,新曲のChris Brown feat. Lil Jon – “Temporary Lover”を聴いてみて下さい。

さて,上記楽曲を聴いた人はリアクションが二手に分かれると思います。ひとつはカニエ・ウェストがサンプリングした「Thank You」という曲をまっさきに思い出すという人。そんな方は,この曲を想起されたことでしょう。

Busta Rhymes feat. Q-Tip, Lil Wayne & Kanye West (2013)

上記楽曲のQ-ティップのフローは別格です。この曲に彼をもってきたカニエも素晴らしいセンスの持ち主です。

さて,上記2曲には,おおもとのネタがあります。以下のおおもとの曲をまっさきに思い出されたという方もいらっしゃいますでしょう。そんな方々,さすがでございます。

Alicia Myers – “I Want To Thank You”です。

1981年には既にヒップホップ界ではカーティス・ブローやシュガーヒル・ギャングが活躍しておりましたが,「ネタ回し」というテクニックはまだ生まれておりませんでした。その年に誕生したこの「I Want To Thank You」という名曲は,30年以上の時を経て,ヒップホップ界の大御所とR&B界の王子にサンプリングされることになりました。サンプリングされるということは,第一にリスペクトがなければ出来ないことでもあります。1981年当初の楽曲を最大の敬意をもって,2019年,このように再び蘇らせられたというのはまことにあっぱれなことでございます。

(文責:Jun Nishihara)

’70年代のディスコ名曲を4曲もサンプリングネタとして起用したゼータクなカニエ・ウェストの楽曲「Fade」。

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件名のとおり,まずそのゼータクな楽曲「Fade」とはこの曲のこと。↓
ちなみにこのミュージックビデオで素晴らしくキレがあるダンスを披露してくれているのはティアナ・テイラー(Teyana Taylor)。

Kanye West – “Fade”

さてこの曲には,’70年代〜’80年代にかけてディスコブームの全盛期に流行った名曲をなんと4曲もサンプリングネタとして起用しているという物凄くマニアックな曲なのである。その元ネタを以下のとおり紹介いたします。

第1のサンプリングネタ:Fingers Inc.の「Mystery Of Love (Club Mix)」
これは1986年にリリースされたハウス・ミュージック界の名曲。「Fade」の冒頭を飾っている。Fingers Inc.もカニエと同じシカゴ出身。ハウス・ミュージックをディープに知る者こそ知る名曲である。

第2のサンプリングネタ:Rare Earthの「I Know I’m Losing You」
おおもとはモータウン黄金時代に活躍したザ・テンプテーションズの名曲(1966年リリース)。それをレア・アース(Rare Earth)が1970年にカバー曲として発表したもの。この曲を上記のハウス・ナンバーと組み合わせてみようという発想はそうそう出ない。(カニエしかそんなことしようとしない。)冒頭の「Your love is fadin’(キミの気持ちがうすれていくのがわかる)」という本来であればセツない歌詞をフリップさせ,力強くインパクトのある「Fade!」(色褪せ!)という一語にあらゆるフィーリングを収斂させている。

第3のサンプリングネタ:Hardriveの「Deep Inside」
1993年にリリースされたテクノ系の楽曲。「Deep, deep inside」というフレーズをスローダウンさせ,サンプリングしている。

第4のサンプリングネタ:Barbara Tuckerの「I Get Lifted」
ブルックリン出身の黒人ハウス・ソウルシンガーであるバーバラ・タッカーの曲。1994年発表。この「I Get Lifted」は全米ホット・ダンスクラブ・チャート第1位を記録。翌年同じくバーバラ・タッカーの「Stay Together」は同チャート第1位を獲得。まさにハウスミュージック界で大活躍していた時代の曲。考えてみれば,「Fade」のMVで踊るティアナ・テイラーは現在まだ28歳であるが,カニエを介してここまでディープな曲と触れ合っているという事実に,今後のアーティストとしての将来性を感じる。

(文責:Jun Nishihara)

元ネタの曲を知る⑥:ファット・ジョー⇆ニュー・エディション

ヒップホップの黄金時代を表象している楽曲をもうひとつ紹介して宜しいでしょうか。

これは2002年11月12日に発売された(当時はCDオンリーで!MP3もApple MusicもSpotifyもiTunesも無い時代。ナップスターはあった!)ファット・ジョーのアルバム『Loyalty』へ収録の「All I Need(邦題:俺の全て)」という曲です。

これはファット・ジョーのレーベルであったTerror Squad仲間である,アーマゲドンというラッパーとトニー・サンシャインというR&B歌手をフィーチャリングした楽曲です。

「他に何もいらねえ。君と一緒に過ごせるなら。他の女には目もくれねえ。君が俺の全てだから」という,一言でまとめれば,こういう内容の曲です。

そこにヒップホップ史に残る最も大事なラッパーであるファット・ジョー(Fat Joe)がヴァースをスピットしている,というものです。

To all the ladies out there if you love your man
You need to hold your man embrace your man
And just grab his hand repeat after me
I promise to stay true and give you all of me
Whether he’s locked down or on the grind
Or whether is out of work or at work on time
You need to trust that man and respect that man
And you get what you feel you deserve from that man, and

世界中の女たちへ捧げるこの曲,君が自分のオトコを愛しているのなら
そのオトコを抱いてやれ,抱擁してやってくれ
カレシの手を握って,俺の後についてこう言ってやってくれ
「ずっとあなたに一途でいる,あなたに全てを尽くす
あなたがムショに入っても,裏の仕事やってても
職を追われても,マジメに働いていたとしても」
そいつを信じて,そいつをリスペクトしてやってくれ
そうすれば,ヤツもきっと,君に全てを尽くしてくれるから
(訳:Jun Nishihara)

この曲のMV(ミュージックビデオ)は以下のとおりです。

Fat Joe feat. Armageddon & Tony Sunshine – “All I Need”

そしてこの曲にサンプリングとして起用されているのは,ニュー・エディション(New Edition)の「Can You Stand The Rain」という名曲です。

New Edition – “Can You Stand The Rain”

どうでしょう,現代ヒップホップは古典R&Bにモロ影響を受けていることが分かるでしょう。

(文責:Jun Nishihara)