黒人英語・考察①:“dope”の意味と用法そしてその濫用について

英語の語彙である”dope”の通常の意味については,以下のとおりです。

1.informal : an illicit drug (such as heroin or cocaine) used for its intoxicating or euphoric effects; especially MARIJUANA
2.informal : information especially from a reliable source
-Merriam-Webster

違法ドラッグであるヘロインやコカイン,はたまた,信頼度が高い情報源から得たネタ,とあります。しかし黒人英語として使用される場合,白人=標準に苛まされてきた歴史を持つ黒人たちは,あらゆる語彙の「通常の語義をflip it and use it(くつがえして用いる)」ことをしてきました。それは大多数の白人もしくはメインストリームへの反発でもありました。

現在,ヒップホップやラップ,R&Bといった黒人の歴史から生まれてきた音楽を聴くようになった白人の若者も含めて,「通常の語義ではない」”dope”という語彙が使用されるようになってきました。

違法ドラッグであるヘロインやコカインの「快感」という語義にフォーカスを当て,それをflip it(くつがえして),最高とかナイス,クール,イかす,といった意味で使われるようになってきました。

ここで用法をいくつか取り上げてみます。

Yeah, yeah, I’m so cold like, yeah (yeah)
I’m so dope like, yeah (woo)
We gon’ blow like, yeah (straight up, uh)
そうさ,そうさ,俺は超クールで,イヤー(イヤー)
マジでイカシてる,イヤー(ウー)
ぶっ飛んでくぜ,イヤー(まっすぐな,アッ)
(Childish Gambino – “This Is America”より)

There goes Rabbit, he choked, he’s so mad but he won’t
Give up that easy, no, he won’t have it, he knows
His whole back’s to these ropes, it don’t matter, he’s dope
He knows that but he’s broke, he’s so stagnant, he knows
When he goes back to this mobile home, that’s when it’s
Back to the lab again yo, this whole rhapsody
ラビットの出番だ,言葉に詰まり,キレてる,それでもヤツは
簡単には引き下がらねえ,そんなことじゃクタばらねえ,ヤツは分かってる
もう後には引けないと,すべてを賭けて,ヤツは最高の野郎
自分でも分かってる,だが一文無し,淀んだ人生,そして気づいてる
トレーラーの家に戻れば最後,そんな人生もうゴメン
だからブースに戻って,ラップをカマシてやんのさ
(Eminem – “Lose Yourself”より)

Flippin’ up my skirt and I be whippin’ all that work
Takin’ trips with all them ki’s, car keys got B’s
Stingin’ with the Queen Bey and we be whippin’ all of that D
Cause we dope girls we flawless, we the poster girls for all this
We run around with them ballers, only real niggas in my call list
I’m the big kahuna, go let them whores know
Just on this song alone, bitch is on her fourth flow
スカートまくって,オシリを突き上げて金儲けてる
キロ(コカ)を車に載せて長旅,カギには「B」の文字
クイーン・ビーのビヨンセとタッグ組んで,男たちをメロメロにさせる
アタシたちはイカシた女,欠点ゼロ,世界中の女性のモデルとして
いっちょまえの男たちとデートして,電話帳にはリアルな野郎の番号しか入ってない
女王のアタシについてきな,アバズレ女どもに見せてやれ
曲まだ終わってないのに,すでに4ヴァース決めてやった
(Nicki Minaj feat. Beyonce – “Feeling Myself”)

このように”dope”を形容詞として使用することで,いろいろなものにくっ付けて使うことができます。

Ahhh, that was a dope lunch! We should go there again!
「あぁ,最高のランチだった!またあのお店行こうね!」

The LINE message that you’ve just sent him… it was pretty dope.
「あなたがさっき彼に送ったライン・・・なかなかステキだったわ」

We da dope boyz forreal. Nobody can top us.
「俺らマジ最高。誰にも負けやしねえ」

しかしながら,こういう一時的に流行した語は,廃(すた)れるのも早いものです。今では”dope”というスラングが多くの一般人に使われるようになり,果ては白人にも使われるようになりました。そうなると,もうその語義は廃れの方向へとまっしぐら。もともと,白人=標準から外れるために,語義(意味)をくつがえして用いた黒人英語であったため,それが幅広く白人に使われるようになると,イメージは白々しい(pretentious)なものになってしまいます。

現在(2018年11月時点),”dope”にはかつてあった「カッコいい,イかす」というイメージとは逆に,「まだその言葉使ってるの?」といったようなダサいイメージが付き始めています。

それを物語っているのが,先日,ホワイトハウスに招かれたカニエ・ウェストとトランプ大統領の対話です。

One of the things we gotta set is Ford to have the highest design, the dopest cars, the most amazing — I don’t really say dope. I don’t say negative words and try to flip them. We just say positive, lovely, divine, universal words. So the fly-est, freshest, most amazing car.
1つ言っておきたいのは,フォード社に最高のデザインで,イカシてる車を作ってもらうこと。いや,俺は”dope”なんて言葉は使いたくない。ネガティヴな語を使って,その意味をflip it(くつがえしたり)するなんてことはしたくない。ポジティヴで愛おしてくて,万国共通の言葉を用いて伝えたい。世界一ぶっ飛んでいて,何よりも斬新な,最高に素晴らしい車を作ってもらいたい。
(引用元:カニエ・ウェスト(ホワイトハウスでのトランプ大統領との対話より))

カニエのこの”fly”という語の見事な使い方に拍手を送ります。ここでは形容詞として使われています。さらっと”fly”を形容詞として使っていること,また,もはや時代は”dope”ではないこと,それが象徴となる対話でした。それ以外はカニエのいつもどおりの情熱こもる話しっぷりでした。

(文責:Jun Nishihara)