第31位:現代ヒップホップの教科書=Rapsodyアルバム『Eve』リリース (今年出たHip-Hop名曲名場面ベスト50)

このアルバム,ラプソディ(Rapsody)という女子MCのアルバムです。アルバム名は『Eve(イヴ)』。

収録楽曲1「Nina」より,ヴァースの冒頭1行を紹介します。

Emit light, rap, or Emmett Till
(ラップをして光を放つか,それとも,エメット・ティルのように殺されるか)

アルバムの冒頭から,もうこの強烈な1行です。

彼女(ラプソディ)にとって,死ぬことを避けるためには,ラップするしかない,と。生きることの根元にラップを見出すという強烈さに,我々ラップファンは心を奪われます。アルバムの一番始めの歌詞の1行にこの衝撃のヴァースをもってきたということ自体からして,「このアルバムは心して聞かなきゃいけねえな」と思わせてくれます。

ちなみにエメット・ティル(Emmett Till)というのは,黒人の歴史を学んだことがある人なら,もう知らない人はいないでしょう。ヒップホップをよく聴く人であれば,名前だけでも耳にしたことはあるでしょう。黒人歴史にとってとても重要な人物です。黒人がどれほど残虐な時代を経てきたかの象徴となる人物,エメット・ティルの歴史については,検索してみてください。

以下は,収録楽曲2「Cleo」より。

White men run this, they don’t want this kind of passion (Talk)
A black woman story, they don’t want this kind of rapping (Talk)
They love a fantasy, they love the gun bang action (Talk)
What good is a black women to them? (Yeah)
Raped us in slavery, they raping us again (Yes)
Only put us on TV if our titties jiggling (Uh)

この業界を牛耳っているのは白人,私たちのような情熱は,いらないって(で)
黒人女性の物語,そんなラップは聞きたくないって(それで)
ファンタジーが欲しいんだって,拳銃ぶっ放ってアクション満載のが欲しいんだって(で)
連中(経営陣幹部の白人連中)にとっちゃ,黒人女性になんの意味があるだって?(で)
奴隷時代に私たちをレイプして,ほら,今もこうしてレイプされている(そう)
乳を出して揺らしてる女しか,TVに出そうとしないヤツら(Uh)

このアルバム『Eve』は引き続き全曲をとおして聴くべしアルバムです。

ラプソディのフリースタイルも掲載しておきます。

How y’all gon boo Drake?
Knowing y’all wouldn’t have a boo without Drake

ドレイクをそんなにブーイングしなくていいじゃない
そもそもドレイクの曲のお陰で,あんたらにカノジョができたんでしょ
(ラプソディ,Funk Flex Freestyleより)

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

第34位:Nick Grantのシングル曲「Pink Starburst」(今年出たHip-Hop名曲名場面ベスト50)

2019年に出た曲なのに,どうしてここまで2003年を思い出してしまうのだろう。
Nick Grant(ニック・グラント)のフローといい,ラップといい,メロディといい,ビートといい,この「Pink Starburst」なる楽曲は,ノスタルジアを想起させる曲であり,同時に,ヒップホップが今後進むべき道を示してくれているような,道しるべとなる曲であるといえるだろう。

それがこれ,Nick Grant – “Pink Starburst”をお聴きあれ。

冒頭で,「2019年に出た曲なのに,どうしてここまで2003年を思い出すのだろうか」と書いた。それは以下の曲が理由なのだ。そう,2003年にロカフェラ・レコーズ・ファミリーから不屈のMCことFreeway(フリーウェイ)がリリースしたデビューアルバム『Philadelphia Freeway』からセカンドシングル「Alright」に起用されているサンプリングと同じものを使っているからなのだ!

2003年にこのアルバムが出てからというもの,NYの地下鉄を乗っている間も,メトロバスを乗っている間も,どこへ行くにも,このアルバムを持って出かけた。当時はiPodすらもまだ無い時代。もちろんPanasonicのCD PlayerにCDを入れて聴いていた時代ですよ。

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それにしても,Freewayのキレッキレッのラップはいつ聴いても健全!クリアなライムに,単語をハッキリと言い切るラップの仕方は,どこかNick Grantにさえも似ている気がする。否,逆か。Nick GrantのキレのいいラップがFreewayのラップに似ている,というべきか。

Nick Grantよ,あんたのおかげで,ポータブルCDプレイヤーを持ち歩いていつでも耳にはヒップホップ音楽が流れていた時代を思い出させてくれた。ありがとうな。

(文責:Jun Nishihara)