2021年のHIP-HOPに非常に重要な意味を持つアルバム『Khaled Khaled』がリリースされた。

DJ Khaled(DJキャレド)が通算12枚目となるアルバム『Khaled Khaled』をリリースした。表紙はこんな感じ。

このアルバムタイトルである「キャレド・キャレド」というのは,DJ Khaledがまだ無名であった時代(正確に言えばメジャーデビューはせず,マイアミエリアでしか名を馳せていなかった時代)の芸名であった。DJ Khaledはデビューして今年で15年。早いもんだぜ。2006年にリリースされたDJ Khaledのデビューアルバム『Listennn… the Album』が今もまだ「新たな世代のラップ」のように聞こえてならない。あれから15年たった今も,DJ Khaledは「新たな世代」を「ベテランの大御所ラッパー」とともに引き合わせる「接着剤」「橋渡し」「触媒」の役割として,絶妙なポジションにいるDJ兼プロデューサーの役を引き受けている。そしてそれに成功している。

DJ Khaledがムスリムの儀式である「ナマーズ(祈り)」を捧げている際に,末っ子のアラム君が祈るパパを指さして微笑んでいるのが素晴らしく,これはなかなか良いものを表紙にしましたね。

まずはこの曲を送ります。収録楽曲1曲目,「THANKFUL(感謝)」です。

(文責:Jun Nishihara)

ブラック・ロブの「ウォゥ!」なゲットー・ラップ。

今からおおよそ11年前,2000年2月15日に「Whoa!(ウォゥ!)」というゴテゴテのゲットー系ヒップホップ曲がリリースされた当時,この曲を耳にして,内側の五臓六腑を抉り出し,暴動にでも飛び出したくなるような相当キケンな匂いがする曲のように感じたのを憶えている。

この曲「Whoa!」はパフ・ダディ(改めP. Diddy改めDiddy)が指揮を執るバッド・ボーイ・レコーズ(Bad Boy Records)に所属するブラック・ロブ(Black Rob)の曲である。

これはいわゆる小ぎれいでナーディなヒップホップを生み出したカニエ・ウェストが登場する「カニエ以前」の時代のヒップホップである。まさに,汚らしく美しい“庶民の”ゲットー・ラップを反映し,しかもそこへパフ・ダディ節を根底に流したゴテゴテのヒップホップ曲であった。

当時,ゲットー出身の連中はこの曲に共鳴し,ストリートに於いて爆音で流した。

イルなもん見たらその時は叫べ「ウォゥ!」。アップタウンのイケイケ女見たとき叫んだぜ「ウォゥ!」。ダイヤとパールでまとった女「ウォゥ!」。腕にかざしたアイス(=ジュエリー)見ろよ「ウォゥ!」。カネは問題じゃねぇ,いくらでも積んだるぜ「ウォゥ!」。おまえらの動きにかけたるぜ急ブレーキ「ウォゥ!」。俺ら野郎たちはドウ(金)儲けて,ドロー(ハッパ)焚いて,ニトロ飛ばして,フロウかまして,かっこよくキメてヨゥ,ウォゥ!っていう内容の曲です。

そのブラック・ロブ(Black Rob)が先日,2021年4月17日にこの世を去りました。その前々週4月9日に伝説の男DMXが亡くなったばかりでした。二人であの世でヒップホップ曲を爆音で響かせ,同郷NY出身のビギーらとともに暴れてるに相違ないでしょう。

その「ウォゥ!」を以下に掲載しておきます。本物のヒップホップっちゅうもんはこういうもんだったというのを未来の世代の野郎どもへ,時々,思い出すようにしてくれや。

(文責:Jun Nishihara)

第9位:2020年米XXL誌フレッシュマン・サイファー(ラップ・フリースタイル)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

毎年恒例の米Hip-Hop雑誌“XXL”が開催する「Freshman Cypher」(1年生のサイファーフリースタイル)ショーが2020年も行われました。

2020年はコロナ禍ということもあり,三密を避けるため,距離を保つという観点から,3回に分けて,行われました。

まずは,この4名です。

NLEチョッパー(NLE Choppa)
ロッド・ウェイヴ(Rod Wave)
チカ(CHIKA)
リル・Tジェイ(Lil TJay)

続きまして,この4名です。

ムラート(Mulatto)
24kゴールデン(24kGoldn)
ファイヴィオ・フォーリン(Fivio Foreign)
キャルボーイ(Calboy)

最後にこの4名です。

ジャック・ハーロウ(Jack Harlow)
リル・キード(Lil Keed)
ポロ・G(Polo G)

2020年のフレッシュマンも充実しております。
毎年安定して,このように若手ラッパーがメインストリームに登場してきているわけですが,米Hip-Hop界は拡充していく傾向にあり,これからもたのしみです。

2020年も若手女子ラッパー(XXL FreshmanではMulattoとCHIKA)は強敵です。CHIKAに至っては,ここのサイファー(フリースタイル)では,まったく力まず,さらっと他の3人をやっつけてますね。ペットの犬であるヴィジョンを片腕で抱きながら,余裕でフリースタイルをカマシます。もっと強烈なフローをやってくれるだろうと期待していたのですが,良い意味で裏切ってくれました。メロディにさらっと乗っかって,チルな感じでフローを生み出す。どれだけCHIKAはversatile(多才)なのかが見てとれます。

(文責:Jun Nishihara)

第13位:道に迷った時に聴くべきNasのアルバム『King’s Disease』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

Nasの音楽は,道に迷った時に聴くべき原点である。
2020年8月にリリースされたアルバム『King’s Disease』は,新しくも旧い原点を示してくれている。

Nasはわれわれに,「あんたらが道に迷った時に聴ける音楽として,こんだけありますよ。こん中から,いまのあんたの境涯・苦境に合う曲を数曲セレクトして,それを聴けばいい。」という選択肢を大風呂敷を広げて,提供してくれている。

まさに,名曲の宝庫をわれわれの目の前に広げてくれていて,そこから今の自分に合った曲を選べばいいという,なんという贅沢。こんなことが出来るのは,Nasが1994年にデビューしてから,26年間という(もはや歴史上人物にさえもなりうるような)年月をかけてリリースしてきた数々の名曲があるからこそである。

そして2020年8月にリリースされた『King’s Disease』は,そのコレクションにまたもや選択肢を増やしてくれる(さらに目移りさせられてしまう要因となる)ディスクなのである。

そしてNasのカッコ良さについては,こちらのページを読んでいただければと思う。

2020年の第13位は文句無しのNasである。

そして,1月22日(金)に以下のミュージックビデオをリリースした。「27 Summers」とはその名のとおり「夏を27回経てきた」ということ,つまり,27年間,現役でやってきたということ(夏を制するとはその年のヒットを飛ばすということ)。

このビデオ,勢いだけは誰にも負けないDJ Khaledを迎えて,その勢いとは真逆に位置する安定感の塊のようなNasと組んで.ある意味,壮大なる楽曲である。

(文責:Jun Nishihara)

第17位:ジャンルを超越したマック・ミラーの遺作アルバム『Circles』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

マック・ミラー(Mac Miller)が亡くなる直前までレコーディングに取り掛かっていたという最後の遺作アルバムが2020年1月にリリースされました。アルバム『Circles』です。これは生前2018年にリリースされた『Swimming』とあわせて三部作(trilogy)の一枚として制作されました。三作目は叶わなかったですが,アルバム『Swimming』と『Circles』の二作(ふた咲く)をあわせて「Swimming in Circles(円状を泳ぐ)」というコンセプトが思索されていたようです。

『Circles』に似たコンセプトのアルバムには,ヒップホップ史上最も偉大なるヒップホッププロデューサーと云われているジェイ・ディラ(J Dilla)の『Donuts』というアルバムがあります。これもまたJ Dillaが亡くなる3日前にリリースされたアルバム(2006年2月6日)です。

“Circles”や“Donuts”のように,ぐるぐると回り続ける,永遠に終わることのない“トリップ”を表現するものには,The Notorious B.I.G.の“Life After Death”(死後の生き様)というのもひとつ,別の観点から永遠を象徴するものでしょう。上記3名はもうこの世にはいませんが,偉大なるアルバムをとおして「永遠」の音楽を我々に贈り届けてくれた,といえるでしょう。

もうひとつ,マック・ミラーの遺作アルバム『Circles』で特筆すべきことは,収録されている楽曲のジャンルの幅が非常に広いということです。“ジャンルレス”,つまり,特定のジャンルに縛られることなく音楽を作り上げることに成功した偉大なるアルバムとも呼べます。

(文責:Jun Nishihara)

第18位:バスタ・ライムスの新盤ニューアルバム『Extinction Level Event 2: The Wrath of God』の破壊力について (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年に出たHIP-HOP名曲名場面の第18位を飾るのはバスタ・ライムス(Busta Rhymes)の新盤ニューアルバム『Extinction Level Event 2: The Wrath of God』です。このアルバムが誇る破壊力についてはこちらに掲載いたしましたのでご参照ください。

第21位:歌モノ・リリカル,どちらも揃ったミックステープ『No Ceilings 3』をリリースしたリル・ウェイン (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

本年2020年の初頭1月にリル・ウェインがリリースした公式アルバム『Funeral』を聴いた時,リリカルな時代のウィージー(Weezy)が戻ってきた,と思ったのは私だけでは無いでしょう。

その勢いを落とさずほぼ1年間その勢いを保ち続けたリル・ウェインは,2020年11月に『No Ceilings 3』をリリース。このミックステープには『A Side』と『B Side』があり,後者は12月18日にリリース。

これは一応ミックステープという体裁を取っておりますが,クオリティはアルバムそのもの。datpiff.com等でダウンロード可能です。リリースから1ヶ月経た現在,既にダウンロード回数は300万回を超えております。再生回数ではなくダウンロード回数で300万回超えというのはなかなか調子が良いです。

アメリカのヒップホップ界(特にミックステープを聴く連中の間)では,リル・ウェインに対するリスペクトは堅いことが見て取れます。

リル・ウェインは楽曲『BB King Freestyle』でこうスピットします。

Everyone got they glass out, let’s drink to Weezy
Every nigga that stare me down just came to see me
Choppin’ up a lil’ cash cow, that’s steak I’m eatin’
Check deposits, high-risers with extra closets
The sex platonic, I talk intelligent, text Ebonics
The electronic guitars whinin’, that’s just Nirvana
Tommy gun on the counter, I call it Mr. Thomas
That’ll keep niggas honest
I’m dozin’ off in the driver seat ’cause the seat give massages

(対訳)
おまえらグラスを挙げな,ウィージーに乾杯
今まで俺のこと軽蔑してたヤツらにこの前会った
ヤツら「金のなる牛」を探してた,その目の前でステーキ食ってやった
預金額チェックしな,クローゼットだらけの高層マンションビル
セックスはプラトニック,トークはインテリ,SNSは黒人話法(エボニックス)
泣きのエレキ・ギター,バックで流れる,それニルヴァーナの曲
カウンターにトミーガン,「トーマスさん」俺が名付け親
正直に吐かせてやるよ
運転手席でうたた寝,マッサージ機能付きのシートだぜ
(楽曲「BB King Freestyle」より)

上記リリックを見ても分かるとおり,リル・ウェイン節連発。これを音源で聴けば,それがさらに感じられます。まぁ,聴いてみてください。

次に,ドレイクの「Laugh Now, Cry Later」をフリップした(捩った)リル・ウェインの「Something Different」を掲載しておきます。(これもミックステープ『No Ceilings 3』より。)

リリック“scroll down”の箇所で,ちょうど(↓)を出すという,こういう細かなネタをぶっ込んでくるのもウェインらしいですね。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

第22位:黒人女性シンガーの“comeback story”:2020年R&B界へ復帰したJazmine Sullivan (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

今年SNS等で“New Jazmine”(復活したジャスミン)という愛称で2020年,R&B界に復帰したJazmine Sullivan(ジャスミン・サリヴァン)は,2020年8月27日「Lost One」という新曲を発表しました。ジャスミンがデビューしたての頃(かれこれもう12年ほど前)からファンであった私としては,彼女の歌声を聴くと当時を思い出すようで懐かしいです。2015年にアルバム『Reality Show』をリリースしてから,人の曲にフィーチャリングされてはいたものの,もう5年以上もhiatus(活動休止)しておりましたが,今年〜来年(2021年)にかけてアルバム制作に取り掛かっており,そのアルバムはまもなく日の目を見ることができるかもしれない,ということで,とても楽しみですね。

2020年にリリースした「Lost One」と「Pick Up Your Feelings」を掲載いたします。

いわゆる「業界」という世界に不器用でい続けてくれたお蔭で,彼女に共感を持ち続けるファンは世界中に沢山いることをジャスミン自身に知っていてほしいです。

Jazmine Sullivan – “Lost One”

Jazmine Sullivan – “Pick Up Your Feelings”

下記は2019年の「Issa Rae Presents」のエピソードで開催されたジャスミンのステージです。アルバム『Reality Show』から「Let It Burn」を歌ってくれました。

下記は10年程前にジャスミンがナマで歌った「In Love With Another Man」の映像です。懐かしいですね。

続きまして,ジャスミンのファンとしてはハズせない「Holding You Down (Goin’ In Circles)」のMVです。これが2010年にリリースされた時,もちろん私はリアルタイムで観ていましたけれど,この80年代(エイティーズ)のファッションスタイルを映し出した雰囲気にはテンション上がりました。

タイムライン2:42のブレイクダウンも格別です。ジャスミンのカッコ良さと魅力が溢れています。

(文責:Jun Nishihara)

第23位:サウス出身の新人ワル女ラッパー=Mulatto(ムラート)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年にラップ界のメインストリームにその名をとどろかせた女子ラッパーの一人としてMulatto(ムラート)を第23位に取り上げたい。

彼女(本名:アリッサ・ミッシェル・スティーヴンズ)は米国北東エリア(五大湖エリア)のオハイオ州コロンバス市生まれ。しかし2歳の頃,南部ジョージア州に両親に連れられ移り住み,黒人の父親と白人の母親を持つにもかかわらず,アリッサ自身,皮膚の色が無色であったことから学校でイジメに遭っていたことが理由で,自分のことをその時からムラート(Mulatto)と呼ぶことにし,当初はMiss Mulattoという名でラップを始めた。

ちなみにMulattoというのは,黒人と白人の混血を指す言葉であり,奴隷制度時代には,黒人の血が一滴でも入っていればcolored(有色人種)として扱われ,差別の対象となった。有名人の間ではオバマ大統領もMulattoとして知られる。

その彼女(ムラート)が有名になるキッカケとなったMVを下記に掲載する。

Mulatto feat. Saweetie & Trina – “Bitch From Da Souf”

(文責:Jun Nishihara)

第24位:2020年大活躍若手ラッパー5名大放出。ロディー・リッチ,リル・ベイビー,リル・ダーク,NLE・チョッパー,そしてYoungBoy Never Broke Again。(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年大活躍した若手ラッパー5名につき,それぞれ2曲ずつ以下に紹介するとともに,彼らを本年の第24位といたします。全員2020年にアルバムをリリースしました。(ロディー・リッチについてはアルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』をリリースしたのは2019年12月でしたが,実際全米第1位を獲得したのは今年2020年で,且つ,ラップ・アーティストとして爆発的に売れたのも今年2020年でしたので,今年にランクインすることになりました。)

① ロディー・リッチ(Roddy Ricch)
② リル・ベイビー(Lil Baby)
③ リル・ダーク(Lil Durk)
④ NLE・チョッパー(NLE Choppa)
⑤ ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲン(長!)(YoungBoy Never Broke Again)

昨年2019年に取り上げた大注目若手アーティストには,ダベイビーや大坂なおみの彼氏=YBNコーデーやMegan Thee Stallion(昨年第1位を獲得!)については,以下サイトをご参照願います。

2019年の第11位:イマドキラッパー最前線!若者黒人の間で今年超ハヤったDaBaby,おまけに今覚えておくべき4人のラッパー!(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

2019年の第1位:2019年の夏を制し,遂に1年まるごとヒップホップ界を盛り上げてくれた大・大・大ブレイクアーティスト登場!Megan Thee Stallion! (2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

さて,本年2020年の若手アーティスト5名を以下に掲載いたします。

① ロディー・リッチ(Roddy Ricch)

Roddy Ricch -「High Fashion」

Roddy Ricch -「Trap Symphony with Live Orchestra on audiomack」(ライヴ映像)

② リル・ベイビー(Lil Baby)

Lil Baby -「We Paid」
(この曲にfeat.されている42 Duggという奇妙なラップ節を聴くと,Lil Babyのイマドキのラップでさえ「まとも」に聞こえてくるから不思議。)

Lil Baby -「The Bigger Picture」

③ リル・ダーク(Lil Durk)

リル・ダークに関しては,2020年クリスマス・イヴの12月24日にニューアルバム『The Voice』をリリースしました。

アルバムリリースと同時に12月24日にリル・ダークの公式YouTubeページに掲載された新曲「Still Trappin feat. King Von」は,同日(そしてクリスマスの12月25日)も引き続きYouTube上「#1 ON TRENDING(トレンディング第一位」を記録しております。

下記アルバムジャケにLil Durkと一緒に写っているのは今年11月に亡くなったキング・ヴォン(King Von)です。

Lil Durk -「Stay Down feat. 6lack & Young Thug」

Lil Durk -「3 Headed Goat feat. Lil Baby & Polo G」

④ NLE・チョッパー(NLE Choppa)

NLE Choppa -「Bryson」

NLE Choppa -「Shotta Flow」

⑤ ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲン(YoungBoy Never Broke Again)

YoungBoy Never Broke Again -「All In」

YoungBoy Never Broke Again -「Callin feat. Snoop Dogg」

(文責:Jun Nishihara)