出ました。カニエがexecutive produceしたキング・コムズのニューアルバム『NEVER STOP』。(アルバム『NEVER STOP』全曲2分解説)

ここ2週間ほど、世の中から最も嫌われることとなったHip-Hop/R&BアーティストであるDiddy(ディディ)とR. Kelly(R.ケリー)の特集をした。未だにこの2人については世間から批判の目を浴びせられ、彼らを擁護する者たちも批判の対象となり得る。

しかし、である。Hip-Hopというものそのものの存在意義は、1973年に誕生した時から、「世間に反抗して」育まれてきたものであるといえる。つまりいつの時代もHip-Hopは少数派の音楽/文化であり、大多数の人たちの賛同を得られることなく、メインストリームには(その存在性質からして)なりえなかった音楽/文化であった。

ということはつまり、DiddyもR. Kellyも至極Hip-Hopの人生を歩んでいるといえる。そしてこの週末(2025年6月27日(金)米国東部時間真夜中0時)ついにカニエ・ウェスト(Kanye West)改めイェ(イェイ(Ye))がDiddyの息子であるKing Combs(キング・コムズ)とコラボレートし、ニューアルバムをリリースした。その名は『Never Stop』。クレジットにはExecutive produced by Yeの名が。これまでDiddyこそが他のアーティストのアルバムをExecutive produceする立場であり、これまでも数えきれないほどのHip-Hipアルバムに(Executive produced by Sean Combs)というクレジットが表記されてきたのに、ついに、ここにSean Combs (=Diddy) ではなく、カニエの名前が入ることになるとは。

コロナ後、ニューヨークの街はこんな画で溢れ返った。外を歩けば2、3ブロック毎に必ず1軒くらいは、このような状況になっている建物やビルが見られた。

Diddy(ディディ)が創設したBad Boy Records(バッド・ボーイ・レコーズ)という名だたるHip-Hopアーティストを輩出してきた(ビギーもそう!)Hip-Hop史上最も重要なレーベルの一つ、それがいま、こういう状況になっている。まずはアルバムジャケからして90年代のHip-Hopを聴いて育った我々としては蒼然とする画である。これをジャケにしたカニエとDiddyの息子であるKing Combsの静かな憤りが聞こえてくる気がする。

2分で読めるブログにする。1曲ずつ、解説していく。(長く書くともう誰も読んでくれない時代になったので。)

まずタイトルは『NEVER STOP』。DiddyがBad Boy Records創設してきた時から言ってきた合言葉/フレーズである「As we proceed… to give you what you need」の前半部分「As we proceed…(前へ進め)」というフレーズの哲学とも一致するタイトルである。

【収録楽曲】

  1. Lonely Roads
  2. KIM
  3. People Like Me
  4. Diddy Free
  5. Repeat Me
  6. The List
  7. Souls Outro

【各楽曲解説(かけ足で)】

1.Lonely Roads

まずビートはDiddyにリスペクトを捧げたものであるとしか思えない。Bad Boy Recordsの昔っからのビートそのものである。後半、Diddyのかすれた声が聞こえる。おそらく刑務所内で録音したものか。カニエ(Ye)の娘さんであるノース・ウェスト(North West)も軽めのラップをしている。

2.KIM

このKimって誰の事だと思う?Diddyの亡くなった奥さん、キム・ポーター(Kim Porter)のこと。つまり、King Combs(キング・コムズ)のお母さん。冒頭、キング・コムズが歌う。「I love you, Mama. Things aint been the same without you Mama」(ママがいなくなってから、何もかも変わってしまったよ。愛してるよ、ママ。)

もう一つ、カニエも自身の母親を亡くした。アルバム『Graduation』をリリースしてからのこと。その後、Hip-Hopの概念を覆した非常に重要なアルバムである『808s & Heartbreak』をリリースした。キング・コムズの思いは、そのままカニエ(Ye)の思いを乗せているといえる。

もう一つ、ノース・ウェスト(North West)にとっては、母親であるキム・カーダシアン(Kim Kardashian)が父親のカニエと離婚したことの思いも反映しているといえる。

この曲はこの3名の思いを複雑に(というかストレートに)のっけた楽曲であるといえる。

3.People Like Me

個人的にこの曲がいちばん好きである。唯一、アルバム中カニエがラップするトラックである。

冒頭の「You need people like me…so you can point you middle finger and say there go the BAD BOOOOYYYY」これはHip-Hopでよく引用される映画『Scarface(スカーフェイス)』からのスカーフェイスの言葉ですね。「おまえらには俺みたいな人間が必要なんだろ。そうやって指差して、俺をワル者に仕立てあげたいんだろ。」これをもじって「おまえらには俺みたいな人間が必要なんだろ。そうやって中指立てて、ワル者に仕立てあげたいんだろ、Bad Boooyyyをな!」

4.Diddy Free

「フランク・オーシャン構文」と、私が勝手に名付けている英文構造があります。それがこの曲のリリックに出てくる「What’s a good kid to a bad boy」(よい子はバッド・ボーイにはかなわない)という部分です。なぜ、フランク・オーシャン構文と呼ぶかというと、2011年にリリースされたHip-Hop史上最も重要なアルバムであるJAY-Zとカニエが作り上げた『Watch The Throne』(ウォッチ・ザ・スローン)の冒頭の曲で、Frank Ocean(フランク・オーシャン)がこう歌うからです。

What’s a mob to a king / what’s a king to a God / what’s a God to a Non-Believer who don’t believe in anything – Jay-Z & Kanye West feat. Frank Ocean “No Church In The Wild”

輩(やから)はキングにかなわない。キングは神(ゴッド)にかなわない。しかし、その神でも、信じるものがいない野生の無神論者には到底かなわない。

これは同アルバムの冒頭の曲「No Church In The Wild」(野生の地に教会は無い)からR&B歌手であるFrank Ocean(フランク・オーシャン)の余りにも有名なリリックです。このリリックはもはや今や格言化しているため、フランク・オーシャンのこの歌詞の英文構造を私が勝手に「フランク・オーシャン構文」と名付けたのです。

当曲「Diddy Free」に戻ります。「Diddyを解放せよなら「Free Diddy」」ですが、それを逆にして「Diddy Free」にすると、Diddyはすでに解放された(freeである)ことを形容しているフレーズになります。ここら辺も、ただ単にこのアルバムはDiddyを解放することを擁護しているものではないというカニエの意図が窺えます。

5.Repeat Me

エモーショナルなメロディーで始まる曲ですね。前半の1曲目~4曲目まではカニエ(Ye)色が色濃かったですが、ここからはキング・コムズの若さとエロさが出ます。この曲を聴いて、King CombsとIce Spice(アイス・スパイス)に恋愛関係があったのかどうかググってしまったんですが(笑)、あまりにもIce Spiceのラップに似ていたので、二人には恋愛感情があったのかどうか、調べてしまった(笑)。そういう曲です。(どういう曲やねん)

6.The List

このリストってなんのリストかというと、いわんやThot-listのことですね。Thotって「That Hoe Over There(あっちのビッチ)」の頭文字(イニシャル)であすが、要するに「ヤリマン」ということです。そういった女の子たちについて歌っている曲です。

6.Souls Outro

最後の曲です。キング・コムズが言います。「F*** around and lose yourself chasing these hoes.(女を追いかけてばっかいたら、自分を見失うぞ)」と警告してくれている曲です。Diddyの裁判の内容と照らし合わせても、現実味を浴びていて、ゾッとするラインですね。それが「Souls(複数の魂)」つまり、これまで刑務所に入ってきた複数の人間たちの思いを総称して、それをOutro(エンディング)にしている曲です。

駆け足で解説しましたが、7曲にあらゆる感情がギュッと色濃く凝縮された稀有なアルバムになっています。このアルバムが「世の中から嫌われるアルバムになればなるほど」カニエやキング・コムズの思惑(おもわく)通りとなる。世間から嫌われるアルバムになることで存在意義を発するアルバムとなる。嫌われて「勝ち」であり、万が一好かれたとしても(いや、どう考えても世間から好かれるアルバムにはならないと思うが、万が一好かれたとしても)負けではない、つまり「負けがない」アルバムであると言える。しかしながら、カニエが目指したのはもう少し先にある。それが「マイノリティ(minority=少数派)への回帰」である。これについては2分では語れないのでまた今度書くことにする。

左から、カニエ・ウェスト(Ye)、ノース・ウェスト(North West)、キング・コムズ(King Combs)。

毎週月曜日と木曜日に更新していますが、今週木曜日はお休みです。

(文責:Jun Nishihara)

(今でも)R&Bの王様:R. Kelly特集

メジャーデビューをした1993年、R. Kelly(R.ケリー)はR&Bの歴史上最高のR&Bアルバムと呼ばれた『12 Play』をリリースして、華々しいR&Bアーティスト人生を送ったのだが、その名声高き人生の特に後半は様々な訴訟と投獄を繰り返すこととなる。90年代そして2000年代初期の頃はあれだけ全米TV番組や音楽業界などからどれだけ素晴らしい歌声を持ったR&Bアーティストであるかと揶揄されていたにもかかわらず、訴訟や裁判の判決などが関わってきた頃から、業界始め一般市民はR. Kellyに冷たい視線を浴びせるようになった。

見てくれ、この世の中の手のひら返し。

今般のDiddy(パフ・ダディ AKA ディディ)の訴訟にしても、ユダヤ人に対する差別的発言をした頃のYe(カニエ・ウェスト改めイェイ)に対しても、ちょっとでも間違いを犯すと、それまで彼らの熱烈なファンだと自称していた人たちもすぐさま彼らに冷たい視線を浴びせる。そして彼らの音楽から遠ざかる。

世の中ってそんなもんですよね。「うまくいっている時は好かれる。間違いを犯したらすぐ嫌われる」まさにこれがHip-Hopメンタリティの真逆に位置する精神ですよね。

Hip-Hopの根底に流れる精神として「世の中への反発心」というものがあります。心構えのモンダイです。世の中へのことばにならない怒りと憤りを、ラップのビートに載せてリリック(ラップの言葉)を発するHip-Hopの遊びです。「遊び」と言いましたがそのHip-Hopの遊びをけっしてあなどるなかれ。「あそび」は時に真剣な金儲けにつながりますから。

脱線しました。世界イチHip-Hopを「あそんで」いるYe(カニエ・ウェスト)とR&Bの王様であるR. Kellyがコラボレートして作った「世の中への反発曲」があります。曲名はまさしく「To The World(世界へ)」です。これは様々な訴訟の嵐に揉まれている最中であり誰も音楽の才能として相手にしなくなったR. Kellyを呼んでカニエがプロデュースした曲です。この危険な時代のR. Kellyをコラボレートの相手にしたのはカニエだけ。それができるのはカニエしかいない。まぁ、カニエもそのクチですからね。世の中から当時もっとも嫌われていた2人で作り上げたこの曲はHip-Hopの最高の名曲であると言わずしてなんと呼ぶ?

そして後半歌う女性はTeyana Taylor(ティアナ・テイラー)です。ティアナもね、ワルなんですよね(笑)。この2人を手なずけられる唯一の女性R&Bアーティストであると。その曲がこれです。

Kanye West, R. Kelly & Teyana Taylor – “To The World”

R. Kellyについてマスメディアが書く腐った情報を読むよりも、上記の曲を1回聴いてみ。昔、R. Kellyのファンだと自称しながら、いまは全くR. Kellyの音楽を聴かなくなったヤツに訊きたい。訴訟とかマスメディアの情報があんたに一切遮断されていたら、R. Kellyの音楽をまだ聴いていたと思うか。心の底でどう思っているのか、それともR. Kellyの音楽はもう長年、遠ざかりすぎて、もはやどうも思わなくなったのか。訊きたい。

(文責:Jun Nishihara)

ついにカニエ(Ye)の『DONDA 2』ストリーミングに登場!(これまではStem Playerのみ)

カニエ・ウェスト(Ye)が2022年にリリースした『DONDA 2』アルバムを聴くためだけに、小生は200ドルを支払って購入したStem Playerでしたが、3年後のいま現在、ようやくストリーミングで再リリース!(つまりStem Playerを持ち運ばなくてもスマホで聴ける!これは革命的!(笑))しかも、カニエらしく、楽曲のプロダクションがそれぞれ更新(パワーアップ)されている。カニエにとって音楽は止まったアート(芸術)ではなく、生きているなま物(ナマモノ)であるという思想を持っている。いや、マジ、カニエって芸術家(思想家)なんです。誰もそれ言わないですが。

ですので、カニエは2022年にリリースした音楽を2025年に再リリースする時に、当時と全く同じ音楽をリリースするという頭(考え)では到底無いんです。

更新された(更新ってアプリか!と思うほど、アルバムを”更新する”ラッパーって今までいなかったでしょ)箇所は以下のとおりです。

まず2025年4月29日にストリーミングサイトでリリースされた際に、4曲の新曲が加わりました。楽曲「Mr. Miyagi」と「530 (a shorter version)」と「Burn Everything」と「Maintenance」です。

次に、2025年5月1日に2曲の新曲が加わりました。楽曲「Suzy」と「Jesse」です。

それから、楽曲順序の入れ替えと名前の変更です。「Louie Bag」を複数形にして「Louie Bags」に変更、逆に元々複数形にしていた「City of Gods」を単数形の「City of God」に変更。

それから、昔っからそうでしたが、カニエは音楽家(ミュージシャン)としてあらゆるビートメイカーマシンを用いて「音楽と遊ぶ(純粋に子どもが遊ぶように)」ということをやってきましたが(この映像見たら、カニエが遊んでることがわかるでしょう)、今回もカニエらしく、AIヴォーカル機能を使い、楽曲「Louie Bags」と「Happy」にAIヴォーカルのヴァースを加えました。(後々、AIが作る音楽はクソだ、ってカニエは言ってますが、それは「事後的に」カニエが言っているだけで、AIで「遊んでいる」瞬間のカニエは真剣な子どもの遊びなんですよね。全てはその「瞬間」にあるんですよね、カニエの場合。しかし「瞬間」に停止しているわけではなく、カニエにとって音楽は「停止した芸術」ではなく「生きているナマモノ」であることは前述したとおりです。)

いや、NYにいる時の当サイトのブログが全て、消えてしまったんです。小生もともとパキスタンのカラチに住んでいた時代に当サイトを立ち上げたのですが(2018年6月)、NYに引っ越した2020年から2024年まで書いたブログが消えてしまった。理由はいつか話しますが、取り敢えずその4年間の記事(投稿)が消えてしまったので、しょうがないのですが、何を言いたかったかと言うと、当時発表された「City of Gods(まだ複数形の時代)」についても勿論、当サイトで記事を書きましたが、それをハイパーリンクで書けないのが歯がゆい、ということです(笑)。

兎にも角にも、当時の「City of Gods」から「City of God」へのタイトル変更、楽曲「Get Lost」の再制作にマイク・ディーン(Mike Dean)が加わることにより、よりクリアな編曲に仕上がっているなど、「更新され続ける」アルバムであることは間違いない。3年前を振り返ってみると「なんでカニエはStem Playerでニューアルバムをリリースするの!もう誰も聴かなくなるよ!」なんていう世の中の批判だらけだったのが、そんなメインストリームの意見なんてここへ来て、どうでもよくなるほど、他のラッパーがやっていない「一度発表したアルバムを更新し続ける唯一のアーティスト」という「他にはできないこと」をやる(これからこういうアーティストは出てくるのかもしれないですが、その走りがカニエであることは間違いない)というポジショニングを確立できたのは、もともとStem Playerでしかリリースしなかったお蔭であるともいえる。そしてここへ来て、ストリーミングでリリースするという機縁を得て、その機会に「更新する」という縁に恵まれたカニエは強運であったといえるのではないでしょうか。カニエ(Ye)って世の中から叩かれまくりの運の悪い人生を送っていますが、その運が悪いように「外から見える」人生って、それがこの40数年間の彼の「個性」を作り続けてきた。「世の中から嫌われる」ことで彼はそれを糧に生きてきた。そしてそれが彼の強運さを養成し続けた、という逆説。

人間、いちばん偉いやつは何かということです。いろいろありますけれども、やっぱり運の強いやつが一番偉いと思うんです。(笑)頭がよくて、体格もよくて、社交もうまくて、金は持っている。大変具合いいな、そんならこの人にうちの娘を嫁さんにやろうか、ということで、やったところが、あくる年ころっと死んでしもうた。(笑)さっぱりわやですわ。そうしてみると、人間というものは運の強いやつがいちばん偉い。これはおもしろいことですよ。皆さんにこれを知ってもらいたい。

 松下幸之助『松下幸之助発言集ベストセレクション - 第八巻:強運なくして成功なし』より

(文責&キュレーター:Jun Nishihara)

カニエ・ウェストのビート・プロダクション・クレジット楽曲(その②)

前回のお約束どおり,1曲目はあの人,キーシャ・コール(Keyshia Cole)の登場です。この曲でキーシャは公式デビューを果たし,日本のブラック・ミュージック好きの女子にも人気を博し始めるようになります。

この頃に,いよいよ「カニエの音」というものが確立し出します。2005年リリースの楽曲ですが,カニエの初期の頃の「音」を総まとめにしたようなビート,ソウルネタも含まれ,後のカニエの音を代表することとなるローランド社の808ビートマシンのベース音も聞こえます。

2曲目は,キーシャ・コールとも仲良しであった,当時刑務所に囚われの身であったシャイン(Shyne)(当時,こいつの声に関しては,ビギー・スモールズの生まれ変われの化身とも呼ばれた)の登場です。

聴いてもらえれば解りますが,シャインのこの曲はドラムマシンのハイハットをふんだんに使用しております。カニエ・ウェストがハイハットをここまでヘヴィに使用するのは当時のティンバランド(Timbaland)の影響をかなり受けていたことが解ります。実際,2007年にシングル曲「Stronger」をリリースした頃,カニエはあるインタヴューでティンバランドを一人の師と呼んでいます。

3曲目は,チャイニーズ・ラッパーとして2000年,Friday Freestyle on BETで黒人ラッパーを次から次へと負かしていったジン(Jin)の登場です。

4曲目は,3曲目のJin – “I Got A Love”の冒頭ビートの始まり方にそっくりな曲です。嵐の舌を持つラッパー=トゥイスタ(Twista)はカニエと同じ同郷シカゴ出身。“Overnight Celebrity”です。

5曲目は,カニエ・ウェストにしか作れない!という楽曲を紹介して本日終わりにします。スラム・ヴィレッジ(Slum Village)の「Selfish」です。ここら辺で,ソウルネタはソウルネタで同じにしても,ジャスト・ブレイズがソウルネタを回す音とはやっぱり違うなぁというのが解ってきます。ジャスト・ブレイズにしか出せない「ジャスト・ブレイズの味」というのがもちろんあって,そして当曲は「カニエの味」そのものが出ている。これ,もう16年前,2004年です。

(文責&キュレーション:Jun Nishihara)

カニエ・ウェストのビート・プロダクション・クレジット楽曲(その①)

カニエ・ウェストが90年代後期から2000年代前半にかけて,カニエが自身以外のアーティストに提供したビート・プロダクションとして,以下の楽曲を紹介いたします。

前回,ソウル・ネタ回しにおいてはカニエと双璧を成すジャスト・ブレイズ(JUST BLAZE)のプロダクション曲をご紹介いたしました。

本日はジャスト・ブレイズに一聴そっくりなビートのようにも聞こえるカニエ・ウェストのビート5曲を以下のとおり掲載いたします。

まずは,アリシア・キーズ(Alicia Keys)の2003年リリース,キャリア2枚目のアルバム『The Diary of Alicia Keys』よりシングル曲「You Don’t Know My Name」です。

いやぁ,なつかしい!!この頃,カニエ・ウェストはジェイZに認められて当時のロッカフェラ・レコーズ(Roc-a-fella Records)に入団して間も無い頃でした。カニエ・ウェストの名前が当時はまだ「ビート・プロデューサー」としてのみですが,少しずつ徐々に,メインストリームに受け入れられ始めていた頃です。以下ミュージックビデオに出演するモス・デフ(Mos Def)名前改めヤシン・ベイ(Yasiin Bey)は勿論カニエの盟友です。

2曲目は,少し時空を遡って,ジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)の1998年リリースアルバム『Life in 1472』より楽曲「Turn It Out」です。

3曲目は西アジアの雰囲気さえも彷彿とさせるビートネタ起用。モス・デフやコモンたちと同じくカニエの盟友=タリブ・クウェリ(Talib Kweli)の名曲「Get By」です。ちなみに西アジアというのはアフガニスタンからエジプトまで,中東を含めたアラブ諸国エリアを指します。

4曲目はハーレム・ワールド(Harlem World)というハーレム出身のラッパーで組まれたラップグループ(メンバーはMa$eやルーン等)が1998年にリリースした『The Movement』より,楽曲「100 Shiety’s」です。ディープな曲でしょう?知ってました,こんな曲が存在していたこと。

5曲目から,だんだんとカニエ“らしく”なっていきます。これはモニカ(Monica)の2003年の楽曲「Knock Knock」です。ミッシー・エリオットをfeat.し,当時R&B界の土壌に脈々と流れていた2000年代前半メロディを代表するかのようなビートです。

次回は,引き続き「その②」を紹介いたしますが,1曲目には,あの人が出てきます。日本の女子ブラック・ミュージック・リスナーにも当時人気を博していたキーシャ・コール(Keyshia Cole)のデビュー曲から始めます。

(文責及びキュレーション:Jun Nishihara)

JAY ELECTRONICAのアルバム『A Written Testimony』楽曲⑧「Fruits Of The Spirit」からジャスト・ブレイズまで。

この曲を再生(play)すると,まずビートに反応します。2000年代初期の頃にすでにラップをヘヴィに聴いてきたヒップホップ・ヘッズ(Hip-Hop Heads)にとっては,感慨深いものがあるでしょう。なんといったって,ジャスト・ブレイズ(Just Blaze)のビートをサンプリングしているのですからね。

聴き比べて見てください。まずは,ジェイ・エレクトロニカの当曲「Fruits Of The Spirit」です。

そして,このビートの元ネタとなったビート・プロデューサーの鬼才=Just Blaze先生のビートを聴いてみぃ。

ここまでソウルフルなビートネタ使いをできるのは,ジャスト・ブレイズ先生以外にいる?!?・・・あ,カニエがいたな。しかしながら,ジャスト・ブレイズ(「ジャス・ブレェェェィィィィィィィイズ!」)とカニエ・ウェストのネタづかいは,ちと違うんですねえ。

そっくりなんですけどね。

でも違うんですね。

例えばですよ,ジャスト・ブレイズ(Just Blaze)先生のビート・プロデュースの曲として,これを聴いてみて下さい。

The Diplomats – “I Really Mean It”(ビート・プロデューサーは produced by ジャスト・ブレイズ)

続きまして,こちらもジャスト・ブレイズ作。

Memphis Bleek – “Intro (U Know Bleek)”(produced by ジャスト・ブレイズ)

だんだん,感じてきました?ソウルネタも入れているのに,ドラムビートがぶっ飛んでます。

JAY-Z – “PSA (Public Service Announcement)”(produced by ジャスト・ブレイズ)

続けましょう。
次の曲は,メンフィス・ブリークのセカンド・アルバムから。

Memphis Bleek – 曲名が“Just Blaze, Bleek & Free”と3名の名前を並べた曲名。シック!(produced by ジャスト・ブレイズ)

続きまして。
ジャスト・ブレイズの弟子,と言っても,ビートメイカーの弟子ではなく,ラッパーとしての弟子。サイゴン(Saigon),覚えてます? 2011年に遅咲きでデビューして,アルバム『The Greatest Story Never Told』をリリースしたアイツ。レペゼンはニューヨーク市はブルックリン。少なくとも,ビートはキレッキレ!

Saigon – “The Greatest Story Never Told”(produced by ジャスト・ブレイズ)

それから,こういう曲もありました。
アッシャー(Usher)の名曲「Throwback」のビートを制作したのもジャスト・ブレイズ。

ヴォーカル無しで,ビートのみで聴いてみましょう。

最後に,XVっていうラッパー知ってますか?カンザス州出身のラッパーです。カンザス州と言えば『オズの魔法使い』の舞台となった場所で有名ですが,あんな田舎からラッパーが出てくるのか?と言わんばかりにあなた,今,思っていますよね?(笑)出てきたんです。

そのXVが自分の生まれ故郷であるカンザス州ウィチタ(Wichita)にオマージュを捧げた曲として,同名のタイトルで曲を作りました。ビートはもちろん,ジャスト・ブレイズ。

XV – “Wichita”(produced by ジャスト・ブレイズ)

このクラシック・ソウルミュージックをネタに回し,ヒップホップ曲に仕上げるというワザは,ジャスト・ブレイズの特権と言ってもいいほど,この人,廻しまくってます。まず,ジャスト・ブレイズがいて,その後にカニエ・ウェストがそのワザで名を馳せ始めてきました。

上記「ウィチタ」の曲は,ジャスト・ブレイズの典型的なソウル・ネタ回しだと思います。やっぱりカニエとは違いますよね。これはカニエではない,ジャスト・ブレイズだ,っていうのが分かる。

すいません,最後とか言っといて,もう1曲いいですか?ジャスト・ブレイズ制作のビート。

ドレイク(Drake)のセカンド・アルバムから。この曲,Drake – “Lord Knows”(produced by ジャスト・ブレイズ)です。

本日は,ジャスト・ブレイズ(Just Blaze)制作の楽曲を聴きまくりましたので,次回はカニエ・ウェスト(Kanye West)が他のアーティストに提供した楽曲を幾つか聴いてみましょう。

(文責&キュレーション:Jun Nishihara)

カニエ・ウェスト feat. トラヴィス・スコットの新曲「Wash Us In The Blood」リリース。

遂にリリースされました。カニエ・ウェストfeat.トラヴィス・スコットの新曲「Wash Us In The Blood」。タイムライン00:40で,お尻をフリフリ振りまくるtwerkerを左の画面に見せながら「これが神の国だ」とモロ真正面に「God’s Country」という文字を提示するというのはカニエ・ウェストらしい映像であります。

もうこれからはクリスチャン・ミュージックしかやらない!と宣言したカニエ・ウェストでしたが,ここまでも非クリスチャンである(クリスチャンを否定している)神をテーマにした楽曲っていうのは,非クリスチャンを真正面から経験してきたカニエであるからこその芸術,クリエイティビティであると言えます。

黒人女子のtwerkerを見せながらこれが神の国だ!っていう矛盾の思想が1つ,そしてもう1つは現政権でも何でもいいですが,あらゆるシステムへの憤りをドライブ(駆り立てる)するかのような激しいビート,この2つは頻繁にカニエの芸術に登場します。

Kanye West feat. Travis Scott – “Wash Us In The Blood”

(文責:Jun Nishihara)

全曲対訳:カニエ・ウェスト率いるSunday Service Choirのアルバム『Jesus Is Born』

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カニエ・ウェスト(Kanye West)率いるサンデー・サービス聖歌隊(Sunday Service Choir)のアルバム『Jesus Is Born』:全曲対訳

楽曲①「Count Your Blessings」

楽曲②「Excellent」

楽曲③「Revelations 19:1」

楽曲④「Rain」

楽曲⑤「Balm In Gilead」

楽曲⑥「Father Stretch」

楽曲⑦「Follow Me – Faith」

楽曲⑧「Ultralight Beam」

楽曲⑨「Lift Up Your Voices」

楽曲⑩「More Than Anything」

楽曲11「Weak」

楽曲12「That’s How The Good Lord Works」

楽曲13「Sunshine」

楽曲14「Back to Life」

楽曲15「Souls Anchored」

楽曲16「Sweet Grace」

楽曲17「Paradise」

楽曲18「Satan, We’re Gonna Tear Your Kingdom Down」

楽曲19「Total Praise」

(対訳:Jun Nishihara)

カニエ・ウェスト率いる,自己隔離中の『Sunday Service Choir 』模様

カニエ・ウェスト率いる,自己隔離中の『Sunday Service Choir』模様は,こちらです。
楽曲名は「Revelation 19:1」(アルバム『Jesus Is Born』より)です。

以下も同じくカニエ・ウェストとともに働く聖歌隊(Sunday Service Choir)の皆さんです。
楽曲名は「Satan, We’re Gonna Tear Your Kingdom Down」(アルバム同上『Jesus Is Bornより)です。

ちなみに,以下は「おうちバージョンのカニエ」です。

以下は,カニエの妻であるキム・カーダシアン(Kim Kardashian)がカリフォルニア州の皆さんに「STAY HOME」の重要性についてメッセージを伝えている動画です。この動画は,カリフォルニア州知事=ギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)が #StayHome のPSA(お手本)としても流しました。「Stay home and save lives.(おうちにいて,命を守りましょう。)」

(キュレーション:Jun Nishihara)

Cam’ronのアルバム『Purple Haze』を知っているか?

今般の新型コロナウイルスの影響で,アメリカ人も隔離の生活(quarantine life)を送っているわけですけれど,家でこもっている全米の人たちにとって,あらゆる「おうち娯楽(At-Home Entertainment)」が届けられています。

まずは全米音楽ストリーミングサイトであるTIDALでは,「At Home with TIDAL」という題名で,これまでのTIDALインタヴューをまとめて放映しています。

そこでニューヨーク市はイースト・ハーレム出身のベテランラッパー=キャムロン(Cam’ron)のインタヴューが流れていました。

キャムロンについては以前このサイトでも少しだけ取り上げました。

キャムロンがこれまでリリースしてきた公式ソロ・アルバムは7枚。以下のとおりです。

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『Confessions of Fire』

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『S.D.E.』

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『Come Home with Me』

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『Purple Haze』

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『Killa Season』

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『Crime Pays』

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『Purple Haze 2』

この中でキャムロンはじぶんが一番気に入っているアルバムとして,TIDALインタヴュー中で,話します。それが『Purple Haze』であると。

アルバム『Purple Haze』については,知っている人も,リリース当時から何回も聴いてきた人も,この機会にもう一度,聴き直すべき名作です。

収録楽曲は以下のとおりです。

1. “Intro”
2. “More Gangsta Music” (featuring Juelz Santana)
3. “Get Down”
4. “Welcome to Purple Haze” (skit)
5. “Killa Cam”
6. “Leave Me Alone, Pt. 2”
7. “Down and Out” (featuring Kanye West and Syleena Johnson)
8. “Harlem Streets”
9. “Rude Boy” (skit)
10. “Girls” (featuring Mona Lisa)
11. “I’m a Chicken Head” (skit)
12. “Soap Opera”
13. “O.T.” (skit)
14. “Bubble Music”
15. “More Reasons” (featuring Jaheim)
16. “The Block” (skit)
17. “The Dope Man” (featuring Jim Jones)
18. “Family Ties” (featuring Nicole Wray)
19. “Adrenaline” (featuring Twista and Psycho Drama)
20. “Hey Lady” (featuring Freekey Zekey)
21. “Shake” (featuring J.R. Writer)
22. “Get ‘Em Girls”
23. “Dip-Set Forever”
24. “Take ‘Em to Church” (featuring Juelz Santana and Un Kasa)

第一印象は,収録楽曲が多いこと。その理由はなんといっても「スキット」の多さです。

まぁインタヴューの中でも笑い話として語られますが,当時のヒップホップ・アルバムはそれはまぁスキットが多かった。スキットを挟むことによって,ゲットーの暮らしっていうものを再現していた。黒人(とくに若者黒人)が実際に話している英語の使い方等を所々に散りばめて,黒人生活の「リアルさ」を再現していた。とくにキャムロンはそれを「ユーモア」を込めた会話を含め,収録していた。2002年〜2009年頃までにリリースされたヒップホップアルバムはとてもスキット(skits)が多かった。なつかしい。

さて,当時からすでにカニエ・ウェスト(Kanye West)は売れっ子のプロデューサーとして働いていたわけですけれど,キャムロンの当該アルバムには当時,DipSet常連のザ・ヒートメイカーズ(The Heatmakerz:例えば2曲目)と並んで,登場しておりました。カニエ・ウェストが上記収録楽曲中でプロデューサーとして関わったのは2曲。収録楽曲7.の「Down and Out」と楽曲23.の「Dip-Set Forever」です。

当時キャムロン自身,ソウルフルなサンプリングを好んでいましたので,カニエ・ウェストのソウルフルなサンプリング・ネタ使いと相性が合ったのでしょう。聴いているこちらも,とても心地よいです。

23曲も聴くのは大変ですので,つまみ食いするとするならば,次の曲を聴くべきでしょう。キャムロンとその周辺(DipSet野郎たち)のこのぶっ飛んだ音楽に打ちのめされてみてください。

【聴くべき曲目リスト】
7. Down and Out(カニエのソウル・ネタに乗っけた,キャムロンの遅めのラップに注目!)
8. Harlem Streets
10. Girls(マドンナのガールズ・ネタ使い!当時,シングル・ヒットした曲。)
21. Shake(テンポ,ビート,リズム,どれを取ってもクラブ用。ハーレム・シェイクを別の次元にもっていった,当時にしては,ぶっ飛んでいた曲。)
23. Dip-Set Forever

とくに23曲目の「Dip-Set Forever」はソウル・サンプリングを極端に回しているので,もう涙ものです。こんなことをやる人は,最近もういないですよ。こんな一歩まちがえるとシロウトが作ったビートに聞こえてしまいそうなネタ回しを,ここまで大袈裟に,真正面から,愚直にできるのは,もうカニエしかいない。そのカニエの「まわし」についてこれるキャムロンのラップは極上です。

ちなみに,最後になりましたが,この『Purple Haze』は小生自身,初めて対訳をさせてもらったアルバムでもあります。ユニバーサル・ミュージックの皆様,ありがとうございました。この感謝,Dip-Set THANKS Forever。

(文責:Jun Nishihara)