第65回グラミー賞2023年を振り返って。Hip-Hop生誕50周年記念tributeと、「GOD DID」のライヴパフォーマンス。

ありがたいことにNYに住んでいることから、リアルタイムにグラミー賞を(今年はCBSで)観ることができたのですが、奇しくも2023年はHip-Hop生誕50周年記念の年であるということで、グラミー賞授賞式中にHip-Hop50周年を称えるパフォーマンスが約12分間行われました。新旧のHip-Hopアーティストが1つのステージに集まって、50年前の古いHip-Hop曲から、去年出た新しい曲まで、じかにアーティストがパフォーマンスを披露したという豪華な映像を観ることができました。

そのなかでLL Cool Jが「multi-generational」という言葉を使っていましたが、かつてはHip-Hopは若者だけが聴く音楽だ、と言われていたのが、今やどの世代でも聴くようになった。1973年にHip-Hopが生まれた当時、20代とか30代だった世代は、いまはもう70歳とか80歳のおじいちゃん、おばあちゃんになっている。その世代がHip-Hopの先駆けであり、同時にまさに現代の20代や30代も同じ音楽を聴いているという珍しい現象が起きている。それが現代のHip-Hopであるということを、彼ら/彼女らのパフォーマンスを観て思ったことでした。

そのHip-Hop生誕50周年記念を称える映像がこちらです。

そしてお待たせしました。
もうこのサイトで幾度となく取り上げている楽曲「GOD DID」。DJ Khaledを中心に、Rick Ross, Lil Wayne, John Legend, Fridayy、そしてJAY-Z、というメンツで今年のグラミー賞授賞式のトリを飾りました。

JAY-Zの4分間ぶっ続けのラップ。4分間というと、結構長いですよ。4分間のスピーチを一語一句覚えてreciteするのは、非常に難しい。にもかかわらず、4分間ぶっ続けのラップをジェイ・Zはこのパフォーマンスで見せてくれました。

最後にジェイ・Zが叫ぶ「Khaled, take us home!」ここが気に入りました(笑)。

(文責:Jun Nishihara took y’all home!)

2月5日(日)はグラミー賞です!

2023年2月5日(日)はグラミー賞が開催されます。今年のグラミー賞はカリフォルニア州ロサンゼルスのCrypto.comアリーナから生中継。米国ではCBSネットワークにて放映されます。2023年はHip-Hop生誕50周年記念の年ということであり、今般のグラミー賞においてもそのHip-Hopの功績が称えられる機会が設けられるということです。

注目のパフォーマーは、我らがDJ Khaled、Rick Ross、Lil Wayne、そしてJAY-Z。楽曲は「GOD DID」です。

2023年グラミー賞開催まで、あと1日です。

(文責:Jun Nishihara)

グラミー賞HIP-HOP関連部門総ナメ=DJキャレドのアルバム『GOD DID』

今年2022年,DJキャレド(DJ Khaled)のアルバム『GOD DID』及び収録楽曲が来年2月に開催されるグラミー賞HIP-HOP部門において,5部門でノミネートされることに決まりました。

【2023年2月開催グラミー賞ノミネート部門:DJ Khaledアルバム『GOD DID』】

  1. Song of the Year(ソング・オヴ・ザ・イヤー)
  2. Best Rap Song(ベスト・ラップ・ソング)
  3. Best Rap Performance(ベスト・ラップ・パフォーマンス)
  4. Best Rap Album(ベスト・ラップ・アルバム)
  5. Best Melodic Rap Performance(ベスト・メロディック・ラップ・パフォーマンス)

なお,DJキャレド自身は上記の他にも,メアリー・J・ブライジが今年リリースしたアルバム『Good Morning Gorgeous』制作に関わったことにより,同アルバム(『Good Morning Gorgeous』)が Best Album of the Year にノミネートされることで,合計6部門のノミネートとなりました。

そのグラミー賞にノミネートされたアルバムのタイトルトラックである「God Did」を掲載しておきます。

DJ Khaled feat. Rick Ross, Lil Wayne, JAY-Z, John Legend & Fridayy(共演者多!!DJ Khaledらしい!) – “God Did”

(文責:Jun Nishihara)

第7位:今となってはHip-Hop及びR&Bアーティスト対決の鉄板の「場」となった“Verzuz Battle” (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年3月24日,新型コロナウイルス感染拡大により発動されたパンデミックの最中に誕生した,米Hip-Hop及びR&B界に新しい「場」(=遊び場,広場,空き地,ラウンジ,セッション,空間,瞬間,時間)を提供してくれることとなった“Verzuz Battle”。

ここでは,ヒップホップアーティストに限らずR&Bアーティストまでもが,1対1の対決を繰り広げます。

もともとは2017年に大御所プロデューサーであるティンバランド(Timbaland)とスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)がプロデューサー対決をしたことがその事の発端となります。

実はこのプロデューサー対決というのは,それよりも前に,Swizz BeatzがJust Blazeを相手に対決したHot97 LIVEが大元のきっかけとなります。

それは私も生で観ておりましたが,非常に面白い対決で,どんどん出てくる出てくる,ヒット曲の数々が。SwizzとJust Blazeがどれだけヒット曲を飛ばしてきたか,というのが,一目瞭然で分かります。

そして,そういった対決の「場」を定期的に提供してくれるスポンサーとして,Apple TVが手を挙げてくれました。そしてその「場」の名前が“Verzuz TV”となりました。

2020年3月に番組がスタートしてから,これまで23組が対決してきました。そしてこの23組が対決していく中で,音楽だけでなく,音楽以外の面でも,本当にいろいろなドラマが繰り広げられてきました。相手は時間に几帳面な日本人ではなく「なんでもアリなことがまかり通る」アメリカ人です。そしてその「ドラマ」がまたエンタメ・ニュースになり報道されて,それがまたこの番組に想定外の「面白味」を加えていくこととなり,視聴者はどんどん増えていく。そして,それに加えて,まさに,時代の申し子とでもいわんばかりに,アメリカ中,コロナ禍で自宅隔離が人々が多い中,ヴァーチャルで配信するのにもってこいの提供方法とでもいえる形にぴったり嵌まった。まさにこのコロナ禍に適応「できた」非常にタイミングが良い「場の提供方法」だったのです。それが“Verzuz Battle”の特徴(特長)でした。

先般,Rick Ross vs. 2 Chainzは当ページで紹介したところですが,以下に数組を掲載しておきます。

Erykah Badu vs. Jill Scott (2020年5月9日開催)

Alicia Keys vs. John Legend (2020年6月19日開催)

Snoop Dogg vs. DMX (2020年7月22日開催)

Fabolous vs. Jadakiss (2020年7月30日開催)

↑このファボラスとジェイダキスの対決は,ちゃんと最後まで観て,どれだけのヒップホップ・クラシックスを彼らが作ってきたかを勉強すべし!対決中盤から,最重要レコードが出てきます。あと,ちょっと余談ですが,ファボラスの「Niceeeeeee」のキャッチフレーズ,覚えてますか?その「おおもと」となった曲も出てきます。しかしそれは2010年の頃のこと。まだコイツらにとっちゃまだまだ「最近」のハナシ。ほんとうは,さらにもっともっとさかのぼります。パフ・ダディ(Puff Daddy aka P.Diddy aka Diddy)が1997年にBad Boy Recordsから出した「It’s All About the Benjamins」という曲(これこそヒップホップ・クラシックス!)をジェイダキスがタイムライン(@1:02:00)でやります。あと,まぁ,2003年に出したファボラスfeat.アシャンティの「Into You」。あと,ビギー(The Notorious B.I.G.)の曲をやるのは,もう卑怯(これ出したら負けないワケがない!)なのですが,ジェイダキスは「Victory」を出そうとします(タイムライン(@45:09))。あと,タイムライン@49:50で2パックのサンプリングを回しフリースタイルやるファボラスを聴くと「フロー」に関してはファボラスの右に出るものはそうそういない,と感じます。この独特の「フロー」はファボラスにしかできないものです。

Brandy vs. Monica (2020年8月31日開催)

Jeezy vs. Gucci Mane (2020年11月19日開催)

Ashanti vs. Keyshia Cole (2021年1月21日開催)

(キュレーティング&文責:Jun Nishihara)

第6位:ニプシー・ハッスルが生前,DJ Khaled達とともに収録したシングル曲「Higher」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

Lauren-London-Nipsey-Hussle-T.I.P.

2019年の春,4月〜5月にかけて1ヶ月以上,西海岸を中心に,ニプシーへの追悼は続きました。それだけ現代のヒップホップに多大なる影響を及ぼしたアーティストとして,西海岸のみならず,アメリカ中,いや,世界中のヒップホップファンたちが,ブルーもレッドも関係なく,ブラッヅもクリップスも関係なく,哀悼をニプシーに捧げました。

それに呼応するかのように,ニプシー本人が最後に遺したレコーディング,そしてミュージックビデオとして,DJ Khaled feat. Nipsey Hussle & John Legend – “Higher”が,ニプシーが亡くなった1ヶ月半あとの2019年5月17日にリリースされました。

ヒップホップ史にのこる重要人物として,ニプシー・ハッスルの功績は受け継がれます。The MARATHON continues.

DJ Khaled feat. Nipsey Hussle & John Legend – “Higher”

(文責:Jun Nishihara)

DJキャレド,新曲「Higher」を故ニプシー・ハッスルを迎えてミュージックビデオと同時リリース。

ニプシー・ハッスルが亡くなる数日前に撮影されたミュージック・ビデオ「Higher」は,DJキャレドのニューアルバム『Father of Asahd』に収録されております。

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(写真はDJキャレドが溺愛する息子=アサド(Asahd)です。)

5月15日(水),自身のインスタグラムでDJキャレドは,新曲「Higher」の全収益を故ニプシー・ハッスルの遺族へ寄付することを発表いたしました。

ニプシー・ハッスルには二人の子供がいました。イマーニちゃんとクロス君です。この曲「Higher」で,ニプシー・ハッスルはこうラップしております。

Los Angeles love kinda of like Hussle and Boog
Emani turned ten, Kross turned two

ロサンゼルスへの愛,ハッスルとブーグのよう
イマーニは10歳になり,クロスは2歳になったばかり

註釈:
ブーグとは,ニプシーのフィアンセ=ローレン・ロンドンのこと。

ニプシーは亡くなる直前にこうして家族の名前を自身のラップに含めた,というのは,なんというか,不思議なものです。よくやるギャングの闘争のこととか,コカインを売りさばいてどれだけ稼いだとか,そういうことをラップするのではなく,死ぬ前に収録した曲に,こんな素晴らしいリリック(歌詞)を書くのは,彼がどれだけ家族思いだったかというのを象徴しているようです。

ニプシーは曲の冒頭でこうラップしています。

My granny 88, she had my uncle and then
A miscarriage back-to-back every year for like ten
Pregnant with my moms, doctor told her it was slim
Was bed rode for nine months, but gave birth in the end
Pops turned 60, he proud what we done
In one generation, he came from Africa young
He said he met my moms at the Century Club

バアちゃんは88歳,俺の叔父を最初に産んで,その後・・・
流産を繰り返した,毎年,それを10年間
そしてついに子を身ごもって,ドクターの検診で,栄養失調と言われた
9ヶ月ベッドで寝たっきり,でもついに産んでくれた,俺のかあちゃんを
オヤジは今60際,俺らがやってきたことを誇りに思ってくれている
世代をしょって,アフリカから若くして,移民としてこの国に行き着いた
オヤジは言う,「センチュリー・クラブって飯屋で,おまえのかあちゃんと出逢った」と

ニプシーのおばあさんは流産を11回繰り返した後に,ようやくニプシーの母親を身ごもったようです。ニプシーはインタヴューでこう語っておりました。「もしあの時,流産を繰り返していたバアちゃんが妊娠することを諦めていたら,じぶんはここに生まれていなかった」と。

曲中のサビでジョン・レジェンド(John Legend)がピアノを弾きながら,「We keep goin’ higher… higher…」と歌う時,ニプシーの魂が大空に高く,舞い上がっていくように感じられます。

ヴァース1は家族への想い,ヴァース2は生まれ育ったL.A.のストリートについてラップするニプシー。こうして見ると,この曲はニプシーの生き様をぎゅっと凝縮したような内容になっております。

【ご参考】
ニプシー・ハッスル(本名:アーミアス・アスゲドム(Ermias Asghedom))については以下もご参照願います。

☆第8位「本物のヒップホップファンであるのなら,ニプシー・ハッスルのアルバム『Victory Lap』を通しで聴くべし」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

☆追悼:ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)

☆スヌープ・ドッグからの追悼の言葉(ニプシー・ハッスルへ)

☆ジェイZの“B-Sides”ライヴ・コンサート(その②:ニプシー・ハッスルへの追悼フリースタイル対訳)

(文責及び対訳:Jun Nishihara)