ヒップホップ歌詞引用解説:“サウスのおもてなし” by Ludacrisの場合

2000年10月17日にリリースされた名作『Back for the First Time』は,アメリカ南部のジョージア州アトランタ出身=リュダクリス(Ludacris)のセカンド・アルバムです。

リュダクリスといえば,巨大なアフロにコミカルな表情して,南部(サウス)訛りの英語でラップする,当時の若者に大人気を博したラッパーです。

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2000年代初期に,ゆっくりと「サウスのラップ」が若者の認知を集めてきました。当時,ニューヨークのラップは「カタすぎる」「マジメすぎる」「リリカルすぎる」っていうんで,リリック(歌詞)よりも,リズムや音,ビートに乗せた「ノリのいい」ラップをより重要視する「サウスのラップ」が若者のあいだで人気となりました。全米ハイスクールの白人までが,黒人のマネして,ラップするのが流行ったのは,こういう「ノリのいい」ラップがきっかけとなりました。「ニューヨークや東海岸のラップは古い。そんなのはオトナが聴くようなラップで,若者が聴くラップはサウスだ」と,小生が通ったアメリカのハイスクールのクラスメートは言っていました。こうして,サウスの時代が到来しました。ヒップホップがサウスに傾き始めたのが,2000年代初期でした。

その「サウス時代」のまさに先駆け(先頭)をいっていたのが,リュダクリスです。「サウスのラップ」がメインストリームとなることに当時最も貢献していたのがリュダクリスです。リュダクリスがきっかけで,サウスのラップが若者に認知され,人気となり,ついにメインストリームとなるに至りました。リュダクリスのおかげで,こうしてゆっくりとサウスのラップがグツグツと沸き出はじめていた頃,2002年後半にサウスのラッパーT.I.が出てきました。2002年にT.I.を知る者はまだ南部にいる黒人/若者だけで,ニューヨークやL.A.等の東西ヒップホップを聴いている人間は,ほぼ,まだT.I.を認知していませんでした。

同時にリル・ウェイン(Lil Wayne)というラッパーが当時,南部から出てきました。しかし,まだ白人はリル・ウェインを上手く理解できていなかったようです。白人に理解できなければ,まだ,メインストリームにはなり得なかった時代です。その点,リュダクリスのラップはわかりやすく,おもしろく,ギャグ豊富,下ネタ豊富,ノリがいい,ということで,白人にもウケが良かったのです。

ということで,白人のあいだでも「ノリのいいサウスのラップ」を馴染みなものにさせたのが,リュダクリスということでした。南部特有の訛りでラップするアーティストたちは,自分たちのことを「こぎたない南部ラッパー(dirty south rappers)」と,愛情を込めて呼んでいました。リュダクリスももちろんその1人でした。

そのリュダクリスのアルバム『Back for the First Time』から,ファレル・ウィリアムス率いるプロダクション軍団=The Neptunesプロデュースの2002年作品「Southern Hospitality(サウスのおもてなし)」の歌詞を引用します。

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Dirty South mind blowing Dirty South bread
Catfish fried up, Dirty South fed
Sleep in a cot’-picking Dirty South bed
Dirty South gurrls give me Dirty South head
Hand-me-down flip-flops, hand-me-down socks
Hand-me-down drug dealers hand me down rocks
Hand me down a 50-pack Swisher Sweets box
And goodfella rich niggas hand me down stocks
Mouth full of platinum, mouth full of gold
40-Glock cal’ keep your mouth on hold
Lie through your teeth, you could find your mouth cold
And rip out your tongue cause of what your mouth told
Sweat for the lemonade, sweat for the tea
Sweat from the hot sauce, sweat from the D
And you can sweat from a burn in the 3rd degree
And if you sweat in your sleep, then you sweat from me

きったねえサウスで,エゲつない額のギャラ,ゲットして
ナマズのフライ料理,一丁アガり! おまえの口も,きたねえサウス慣れ
綿摘み,奴隷のサウスで,泥だらけのベッドに横たわり
サウスの田舎オンナが,ヤらしいフェラ,してくれる
おさがりのサンダル,おさがりのソックス
おさがりの麻薬取引,おさがりのコカイン
50本入りのシガーボックス,こっちへ寄こせ
リッチな連中,グッドフェラ・マフィア,おさがりの株儲け
歯ぐきにプラチナ,詰め物ゴールド
40口径のグロック銃で,おまえの口,ぽっかりあいて
嘘ばっか言ってっと,おまえの口,凍らせちゃう
嘘ばっか言ってっと,おまえのベロ,引き抜いちゃう
汗掻いたあとのレモネード,汗掻いたあとのアイスティー
汗だく,激辛ソース,汗だく,俺のアソコ
拷問ヤケドで冷や汗かいて
汗だくの夜,俺と,ひとばんじゅー
(訳:Jun Nishihara)

まさに南部(サウス)を上手くレペゼンしてくれている歌詞です。南部ゆかりの産物が,ぞくぞく出てきます。以下のとおりです。

◎「ナマズのフライ料理」は,南部ニューオーリンズで名物の料理です。「ナマズ専門店」もいくつかあります。「ニューオーリンズのナマズ料理店トップ5」は,以下で紹介されていますので,興味のある方はどうぞ。https://www.nola.com/dining/index.ssf/2017/04/top_5_fried_catfish_makers_in.html

◎「綿摘み」は,差別用語です。奴隷制度の時代,南部農園で奴隷は綿を摘まされていました。差別用語ですが,リュダクリスはここでおおっぴろげにラップして,それを笑い話にしています。

◎「歯ぐきにプラチナ」,これはラッパーが口の中に入れるグリルです。ダイヤモンドや金メッキのグリルをハメて,口を横に広げて,見せびらかし(show off)します。もともとはサウスで広がり,いまは古今東西関係なく,好きなラッパーは自分の口にグリルをハメます。(「南部ラップ学」の参考に,リル・フリップをググってみてください。)

◎「汗だく,激辛ソース」,これは黒人ソウルフードの大切な薬味です。既出のナマズ料理もソウルフードですが,激辛ソース(hot sauce)を料理にかけるのがソウルフードのミソのひとつです。

このようにサウスに関係する用語をふんだんに取り入れたラップを披露してくれるのがリュダクリスです。YouTube等で,同曲のミュージックビデオをご覧になられると感じると思いますが,ニューヨークのラップとは違って,ビートに乗せてラップをするスタイルは,南部特有です。その南部ラップを全米に広めるキッカケを作った大切なラッパーとして,リュダクリスを覚えておいてください。

当時リュダクリスを聴いていた若者たちは,いまは立派なオトナになり,マジメに仕事して働いています。同曲が流行ったのはもう18年前の話ですが,いまだにリュダクリスのラップは健全ですし,いま聴いても全く古さを感じさせないこの曲「Southern Hospitality」は名曲でございます。

(文責:Jun Nishihara)