第2位:久しぶりに本場NYのHIP-HOPを聴かせてくれた“The LOX vs. Dipset”のVerzuz対決(2021年最高のHIP-HOPモーメントBEST 10)

2021年最高のHIP-HOPモーメントとして,BEST10を第10位からカウントダウンして参りましたが,いよいよ第2位の発表となりました。

2021年最高のHIP-HOPモーメントはマチガイ無く,“The LOX vs. DipSet”のVerzuz対決でした。

いずれも甲乙をつけ難い対決なのですが,NYラップを好むあなた(かどうかは私は知りませんが)NYラップを好きな人であれば,The LOX(=Jadakiss, Styles P, Sheek Louch)もDipset(=Cam’ron, Juelz Santana, Jim Jones, Freekey Zekey)もいずれも聴き込んだことでしょう。

その2つのグループ対決なのですから,おもしろくならないわけがない。

その対決の模様は以下に掲載いたしますが,まずは,full setlistを以下のとおり記載します。

The Diplomats, “I’m Ready”
The LOX, “F-ck You”
The Diplomats, “Crunk Muzik”
N.O.R.E. feat. The LOX, “Banned From TV”
Cam’ron feat. Lil Wayne, “Suck It Or Not”
DMX feat. The LOX, “N-ggaz Done Started Something”
Juelz Santana feat. Cam’ron, “Dipset (Santana’s Town)”
Sheek Louch feat. Jadakiss, J-Hood, & Styles P, “Mighty D-Block (2 Guns Up)”
Cam’ron, “Get Em Girls”
Cam’ron feat. Daz Dillinger, “Live My Life”
Jadakiss, “Who Shot Ya (Freestyle)”
Cam’ron, “357”
Cam’ron feat. Memphis Bleek & Beanie Sigel, “The ROC”
JAY-Z feat. The LOX, Beanie Sigel, & Sauce Money, “Reservoir Dogs”
Jadakiss, “Blood Pressure”
Ma$e feat. The LOX, Black Rob, & DMX, “24 Hours to Live”
Jim Jones, “G’s Up”
Jim Jones, “Harlem”
Jim Jones, “Byrd Gang Money”
Purple City, “Purple City Byrd Gang”
The LOX, “Chest 2 Chest”
The Diplomats, “Bout It Bout It… Pt. 3”
The LOX, “Dope Money”
Cam’ron feat. JAY-Z & Juelz Santana, “Welcome to New York City”
Akon feat. Styles P, “Locked Up (Remix)”
Jim Jones feat. Cam’ron, Bezel, & The Game, “Certified Gangstas”
Jim Jones, “We Fly High”
Diddy feat. The LOX, “It’s All About the Benjamins”
The Diplomats, “Dipset Anthem”
The LOX, “Wild Out”
Cam’ron, “Killa Cam”
Sheek Louch, “Kiss Your Ass Goodbye (Remix)”
The Diplomats, “Salute”
Jim Jones feat. Juelz Santana & Waka Flocka Flame, “848”
Styles P, “Felony N-ggaz”
Cam’ron feat. Juelz Santana, “Oh Boy”
Cam’ron feat. Freeky Zekey, Toya, & Juelz Santana, “Hey Ma”
Ruff Ryders feat. The LOX, “Ryde or Die”
Mariah Carey feat. The LOX & Ma$e, “Honey (Bad Boy Remix)”
Jennifer Lopez feat. The LOX, “Jenny From the Block (Remix)”
Sheek Louch, “Good Love”
Jadakiss, “Knock Yourself Out”
Jim Jones, “Summer Wit’ Mami”
Styles P, “Good Times”
The Diplomats, “S.A.N.T.A.N.A.”
Juelz Santana feat. Cam’ron, “Murda Murda”
Jadakiss, “All For the Love”
DJ Clue feat. Styles P, Jadakiss, Eve, DMX, & Drag-On, “Ruff Ryders Anthem (Remix)”
DMX feat. Sheek Louch, “Get At Me Dog”
The Notorious B.I.G. feat. The LOX, “Last Day”
Cam’ron feat. Kanye West & Syleena Johnson, “Down & Out”
The LOX feat DMX & Lil’ Kim, “Money, Power, Respect”
Jadakiss, “By Your Side”
N.O.R.E. feat. Styles P, “Come Thru”
Jadakiss, “Put Ya Hands Up”
DMX feat. The LOX & JAY-Z, “Blackout”
Jadakiss feat. Styles P, “We Gonna Make It”
The Diplomats, “I Really Mean It”

このタイトルの並びを見るだけでも「なんとも贅沢な」と思われてしまうかもしれませんが,これが実際,あったのです。

その一部始終はこちらです。
NYラップが好きなあなたや私にとって,この動画は2022年を1年間生き続けるための生きる糧となります。

The LOXが登場する冒頭でDMXの犬の呻き声を響かせたのは,少しじーんときました。

(文責:Jun Nishihara)

第4位:2021年,あの世にいっちまったDMXへ捧げる俺からの個人的な哀悼。

個人的に高校生の頃初めて聴いて度肝を抜かれたDMXというラッパーがいました。初めて聴いたアルバムは『…And Then There Was X』でした。まず囁き声で「Ruff Rydersss」と聞こえ始め,その後,本物の猛犬が鳴いているのか,DMXの鳴き声なのか判別し難いほど,あらゆる犬の鳴き声が聞こえてくるという冒頭で開始するアルバムです。そして,吃(ども)り声のお経がはじまったのかと思わせるようなDMXのラップ及びフロー。こんなアルバムは聴いたことがないと,当時Limp Bizkitにのめり込んでいた私は思ったわけです。その頃から,地元の高校の近くにあったTower Recordsに通っては,お金があんまり無かったので,CDの視聴コーナーでDMXとジェイ・Zがどちらが強いか(当時,私はどっちが“強いか
”という打撃力でラッパーたちを比較していました)と聴き分けながら,遊んでいました。その頃から,ラップを「聴き分ける」というスキルを身につけたんだと思います。当時から英語は得意・好きでしたから,英語のラップもなんとなく解りました。当時はインターネットなんて無い時代でしたから,リリックは歌詞カード(をWAYというレンタル屋さんで借りては家に唯一あったFAX機で大量にコピーして,歌い込んで覚え込んでいました)が頼りでした。

ラッパーを打撃力で聴き分けるというのは,当時,DEF JAMレコーズの日本支部が独自に出していたラップ・カード(当時は1998年頃ですよ!)で「HPとMP(これは攻撃力と魔力に分けたドラクエの影響ですね)」に分けて,パワーを表示していたものに起因します。それに影響を受けて,いろんなラッパーを私なりに「HPとMP」に分けて聴いていた,というわけです。

ですから,DMX愛が始まったのは,かれこれ,もう23年前のことです。

その後,私はオハイオ州の高校に高校4年生(いわゆるアメリカでいうsenior class)として留学し,白人のクラスメートの家に行って,DMXやジェイ・Zやスヌープ・ドッグの音楽を聴いたのです。別のクラスメートに,ベトナム系のアメリカ人がいて(親はベトナムからの移民で,そのクラスメートはアメリカ生まれアメリカ育ちのベトナム人ですね),そいつの部屋にはシャワーもあり(自分の部屋にシャワーがあるアメリカ人の高校生の家にあこがれた!),ベッドルームにはロッカフェラ(Roc-a-fella)レコーズのロゴやアーティストのポスターだらけだったことに感動し,その瞬間私はDMXは負けた,これからはジェイ・Zの時代だ,と悟ったのです。

その時から,攻撃力(HP)だけではダメだ,魔力(MP)が必要だ,と思うようになったのです。攻撃力だけでは確実にDMXが優っていましたが,それ以上に,ジェイ・Zには魔力がありました。マジック・パワー(MP)ですね。ジェイ・Zの攻撃力以外のパワー(ヒップホップ界への影響力だとか,フローのかっこよさだとか,金儲けの巧さだとか,そういった魔力的なもの)がすげぇ,と素直に思ったのです。

そういう高校時代を過ごしたものですから,Ruff RydersやRoc-a-fellaまわりを中心にして,私のヒップホップ愛は増幅していったのでした。

そんな私も,オトナになり,仕事を始めるようになってからも,DMXはストレス発散をしてくれる音楽として,当時ほどでもないにせよ,時々聴いていました。正直なこというと,ジェイ・Zばかり聴くようになり,大学を卒業した後,まだMySpaceやミクシーが流行っていた頃(ブログという言葉が生まれた初期の頃=2005年頃ですね),ジェイ・Z愛についてはその時代に語り尽くしましたが,それくらいジェイ・Zに傾倒していたのでした。

オトナになってから,16年経った今,時代もだいぶ変わり,CDはもはや買わない時代となった今,ストリーミング・サービス等で,月額を支払って音楽を聴くような時代になり(サブスクなんていう言葉が当たり前に使われるようになった時代になり),DMXを今,ジェイ・ZのTIDALで聴いている(どっちが勝った?やっぱり魔力の勝ちか?)という人生を送っているのです。

そんな私の人生と重なるようにいたDMXがですよ,あの世にいっちまったんです,2021年。そりゃあ,家を飛び出したくなります。でも哀しいかな,私もオトナになってしまったのかな。スピーカーをbluetoothで繋いで,DMXの曲を爆音で流したくらいです。今この瞬間はNYにいますが,DMXの故郷であるヨンカーズ(Yonkers)に行くこともなく,なんて醒めた人間になったんだ私は,と思いましたよ。

あの時代に骨の髄まで感じていたDMX愛はどこにいっちまったんだ?!と。

いま,TIDALでDMXを爆音で流しながら,これを書いています。

ついついなつかしくなっちまって,DMXについて書いてしまいました。

それが,こちらこちらこちらです。

DMXよ,あんたが俺の心の奥底に残してくれた遺産は,最近は表現することがなかったけどよ,心の奥底にそのまんまあったことは確かだ。1998年以来,23年間,消えることなく。23年間消えなかったから,このまんまおそらくずっと消えることはないだろうな。新しいラッパーが生まれてきても,ケンドリック・ラマーや21 Savageなんていうラップがそこそこ上手いヤツらが出てきても,DMX,おまえは俺の心の奥底に生きたままだ。昔も今も。

(文責:Jun Nishihara)

DMXがカニエ・ウェスト率いるSunday Serviceに登場してくれた映像。

2019年4月に開催されたコーチェラ(Coachella)のカニエ・ウェスト率いるSunday Serviceに,DMXが来てくれました。

二木崇先生がライナーノーツに書いていたとおり,DMXの生の声ほど俺らを熱くしてくれるものはない,というのは,当時それを読んだ時,物凄く共感したのを思い出します。

こちらにもDMXは来てくれました。

ありがとう,DMX!

(文責:Jun Nishihara)

DMXの追悼式及び告別式

4月24日(土),ブルックリンのBarclays CenterでDMXの追悼式(memorial service)が近親者のみで行われました。

翌日25日(日),ブルックリンの教会で告別式(funeral service)がこれも近親者のみで行われました。

24日の追悼式では,カニエ・ウェストのSunday Service Choirも聖歌をDMXに捧げ,最後にRuff Ryders及びThe Lox仲間たちがDMXへ別れの言葉を捧げました。

Eve,Drag-On,Jadakiss,Styles P,そしてスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)が順番に追悼の言葉を捧げるのですが,個人的にDrag-Onの言葉が一番心に沁みました。掠れた声で,「コイツがいなけりゃ,今の俺はなかった。ブロンクスのドブで俺みたいな野郎を見っけてくれた。」と言います。作られた文章ではない,Drag-Onの生の声で,本心から湧き上がった言葉というのが聞いていて感じ取れます。

Sunday Service Choir です。

Nasも追悼の言葉を捧げます。

DMXの娘もフリースタイルを捧げます。

最後にカニエ・ウェスト率いるSunday Service Choirの「How Excellence」です。

そして翌日の告別式の一部を以下に掲載いたしますが,これはDMXの元妻(Tashera Simmons)がDMXとの11年間の結婚生活と,それ以上のDMXと歩んだ人生を語ります。これで1冊の本ができるくらい。結婚する前,そして結婚した後もTasheraはDMXと歩みました。

Tasheraがいなければ,DMXは無かったな,というのを直感的に思いました。Tasheraが話すように,彼女とDMXは子供の頃に出会い,39年間,共に過ごしました。離婚後も含め。話を聞いていて,DMXの分身のような存在だな,と分かります。そして最後に,DMXの現・フィアンセにバトンを渡します。そして一言「I love you.」とフィアンセに伝えます。

このTasheraの話は,どんな本よりも,どんなドキュメンタリーよりも,DMX,否,Earl Simmonsが「DMXでない時間」の彼について,最もうまく語っている永久保存版であると私は言いたいです。彼女の29分間の話を聞いて,私は個人的にDMXを高校生の頃から20年間大聴いてきましたが,それ以上にこの29分間で,その20年間を超えるほど,DMXのことが身近に感じられたように思いました。

(文責:Jun Nishihara)

DMXよ,ありがとう(その2)。

DMXへの追悼を続けます。

まずは,2001年8月に亡くなった仲間,Aaliyahへ追悼を捧げるDMXです。

Aaliyah – “Miss You”

DMX – “What These Bitches Want”

次の映像は1999年のWoodstockライヴでの映像です。DMXの「Stop Being Greedy」です。

そうかと思えば,下記のようにメロディアスな曲もリリースしておりました。DMXの「How’s It Goin’ Down」です。

(DMXを聴いて大きくなったJun Nishihara)

DMXよ,ありがとう。

私の人生の黄金時代を共に過ごしてくれたラッパーだった。こちらは勝手に親近感を感じていたし,あんたの声が聞こえると,身体が熱くなった。そして俺も吠えた。ラップを聴いて,ハードコアラップの叫びの部分を聴いているように感じたのは,DMXが初めてだった。そしてDMX以降,こんなに跳び上がるほどの爆発力を持ったラッパーには,出会うことはなかった。サビに入るまでの,導入部分で,「くるよ,くるよ,くるよ」と心の中で待ち伏せしながら,サビに入った瞬間に跳び上がる,そういうことができたのは,今も昔も,DMXだけだった。

ラッパーっていうのは割りと醒(さ)めている部分があるんだけれど,DMXはそうではなく,DMXはいつもアツかった。曲が鳴り出すと,腹の底からどんどん湧き上がってくる「熱」のようなものを感じ始め,サビの部分でそれが絶頂に達してJUMPするという快感をくれたラッパーだった。

そしてそれを私はだいぶ初期の頃に経験(体験)することができて,幸せだった。DMXと同じジェネレーション(世代)に生きることができてこそのご褒美だった。

DMXよ,ありがとう。

DMX – “What’s My Name”

こっちはそのライヴ版です。こんなアツいヤツいるか?

次は,DMXの「Where The Hood At?」,音量最大限までアゲて,爆音で鳴らしてください。近所に迷惑をかけることが重要。実際,本日のニューヨーク・ヨンカーズでは,街中でDMXが爆音で流れているという報告があります。曲の後半では「Kato」と書いて,「加藤」ではなく「ケイトー」に捧げた曲が流れます。

DMX feat. Dyme – “Good Girls, Bad Guys”

(DMXを聴いて大きくなったJun Nishihara)

第3位:米BETテレビ局で放送された番組『ラフ・ライダーズ・クロニクル』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

これは2020年7月頃から米国ブラック・エンターテインメント・TV(BET)で放送された番組です。公式HPについてはこちらからどうぞ。

これは当時(90年代〜2000年代前半にかけて),米国イチのHIP-HOPストリートレーベルであったラフ・ライダーズ(Ruff Ryders)に関する歴史(chronicles)を紐解いた番組です。

同時期にジェイ・Z(JAY-Z)はデイム・ダッシュ(Dame Dash)やカリーム・ビッグズ・バーク(Kareem “Biggs” Burk)と組んでロッカフェラ・レコーズ(Roc-A-Fella Records)を立ち上げていた頃で,西側では既にスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)やドクター・ドレー(Dr. Dre)らがデス・ロウ・レコーズ(Death Row Records)で活躍していた頃でした。

つまり,これらのレーベルは「ヒップホップの黄金期」と呼ばれる時代を生きたヒップホップ・アーティストたちの「居場所」を作ってくれたレーベルだったのです。その中でも「極めてストリート」と呼ばれたラフ・ライダーズ(Ruff Ryders)についてその初期の頃,つまり黎明期(創立される少し前)からさかのぼって,その歴史を紐解いております。

Ruff Rydersの歴史を紐解くことにより,ヒップホップの歴史そのもののかなりダークで“なつかしい”部分がうまい具合にえぐり出されています。

もちろんインターネット・ラッパーなんて皆無の時代です。
最近は若手ラッパーが登場しては,いつの間にかどこかへ消えていく「インスタント・ラーメン」のような消費のされ方をしている時代ですが(ネットさえ使えれば,誰にでもチャンスは回ってくるという良い面と,消費のされ方があまりにも儚すぎるという悲しい面の両方を合わせ持ちますね)とは,一味違った「濃さ」(当時はそんなのを“ゴテゴテのヒップホップ”と呼んでいたりしました)を味わうことができる番組です。

ハナシの始まりは,今でこそアリシア・キーズ歌姫と結婚したことで有名になったスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)ですが,当時はずっと裏方の人間だったこのスウィズ・ビーツという男の伯父と伯母の話からスタートします。

伯父は,ワー・ディーン(Waah Dean)とディー・ディーン(Dee Dean),そして伯母はシヴォン・ディーン(Chivon Dean)です。この3人がラフ・ライダーズの黎明期のキーを握る人物。たま〜に,スウィズがTVに登場する際に,その側に一緒に映っていたりします。あの物静かそうなキャラです。

それから,ラフ・ライダーズ・レーベルのファースト・レディーであるイヴ(EVE)は今でこそ米・女優としてあらゆる映画やドラマで活躍中ですが,大元は,ここラフ・ライダーズ出身の女子ラッパーでした。つまり,ニッキー・ミナージュやカーディ・Bの大ダイダイ先輩なのですよ。

それからブロンクスをぶいぶい言わせたザ・ロックス(The LOX)を知っていますか?ヤツらも登場します。

ここで1曲,聴いてみましょう。「Ruff Ryders Anthem」その名のとおり「アンセム」です。

Ruff Rydersの代名詞とも言われるこの曲は,私が2002年NYのスタテン・アイランド(Staten Island)にいたころ,道端で黒人の若者らが(iPhoneの無い時代),通り過ぎるクルマでガンガン鳴り響くこの曲のビートに合わせて,大声でラップしてたのを覚えています。それから18年,19年経ちましたが(信じられん!),いまだにこの曲ほどのヒップホップ・クラシックと呼べる曲は最近生まれたのかどうか不明。

ビートとともにくりかえし繰り出す「What!」は獰猛犬が吠えているように聞こえます。「STOP!」とくれば「DROP!」と返す。その後は「SHUT EM DOWN, OPEN UP SHOP!」。

それから,こちらもどうぞ。2000年4月にリリースされたアルバム『Ryde Or Die Vol.II』より楽曲「Ryde Or Die Boyz」です。

スタイルズ・P(もラフ・ライダーズ出身)が大好きなそこのあなた,次の2曲,こちらもどうぞ。懐メロです。

1. Styles P – “Good Times (I Get High)”
2. Styles P – “Holiday”

東海岸,なかでもNYのゴテゴテのヒップホップが大好きだった連中にとっちゃたまらん曲の数々を,Ruff Rydersは生み出してくれました。その感謝とともに第3位という称号をお送りします。

(文責:Jun Nishihara)

第7位:今となってはHip-Hop及びR&Bアーティスト対決の鉄板の「場」となった“Verzuz Battle” (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年3月24日,新型コロナウイルス感染拡大により発動されたパンデミックの最中に誕生した,米Hip-Hop及びR&B界に新しい「場」(=遊び場,広場,空き地,ラウンジ,セッション,空間,瞬間,時間)を提供してくれることとなった“Verzuz Battle”。

ここでは,ヒップホップアーティストに限らずR&Bアーティストまでもが,1対1の対決を繰り広げます。

もともとは2017年に大御所プロデューサーであるティンバランド(Timbaland)とスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)がプロデューサー対決をしたことがその事の発端となります。

実はこのプロデューサー対決というのは,それよりも前に,Swizz BeatzがJust Blazeを相手に対決したHot97 LIVEが大元のきっかけとなります。

それは私も生で観ておりましたが,非常に面白い対決で,どんどん出てくる出てくる,ヒット曲の数々が。SwizzとJust Blazeがどれだけヒット曲を飛ばしてきたか,というのが,一目瞭然で分かります。

そして,そういった対決の「場」を定期的に提供してくれるスポンサーとして,Apple TVが手を挙げてくれました。そしてその「場」の名前が“Verzuz TV”となりました。

2020年3月に番組がスタートしてから,これまで23組が対決してきました。そしてこの23組が対決していく中で,音楽だけでなく,音楽以外の面でも,本当にいろいろなドラマが繰り広げられてきました。相手は時間に几帳面な日本人ではなく「なんでもアリなことがまかり通る」アメリカ人です。そしてその「ドラマ」がまたエンタメ・ニュースになり報道されて,それがまたこの番組に想定外の「面白味」を加えていくこととなり,視聴者はどんどん増えていく。そして,それに加えて,まさに,時代の申し子とでもいわんばかりに,アメリカ中,コロナ禍で自宅隔離が人々が多い中,ヴァーチャルで配信するのにもってこいの提供方法とでもいえる形にぴったり嵌まった。まさにこのコロナ禍に適応「できた」非常にタイミングが良い「場の提供方法」だったのです。それが“Verzuz Battle”の特徴(特長)でした。

先般,Rick Ross vs. 2 Chainzは当ページで紹介したところですが,以下に数組を掲載しておきます。

Erykah Badu vs. Jill Scott (2020年5月9日開催)

Alicia Keys vs. John Legend (2020年6月19日開催)

Snoop Dogg vs. DMX (2020年7月22日開催)

Fabolous vs. Jadakiss (2020年7月30日開催)

↑このファボラスとジェイダキスの対決は,ちゃんと最後まで観て,どれだけのヒップホップ・クラシックスを彼らが作ってきたかを勉強すべし!対決中盤から,最重要レコードが出てきます。あと,ちょっと余談ですが,ファボラスの「Niceeeeeee」のキャッチフレーズ,覚えてますか?その「おおもと」となった曲も出てきます。しかしそれは2010年の頃のこと。まだコイツらにとっちゃまだまだ「最近」のハナシ。ほんとうは,さらにもっともっとさかのぼります。パフ・ダディ(Puff Daddy aka P.Diddy aka Diddy)が1997年にBad Boy Recordsから出した「It’s All About the Benjamins」という曲(これこそヒップホップ・クラシックス!)をジェイダキスがタイムライン(@1:02:00)でやります。あと,まぁ,2003年に出したファボラスfeat.アシャンティの「Into You」。あと,ビギー(The Notorious B.I.G.)の曲をやるのは,もう卑怯(これ出したら負けないワケがない!)なのですが,ジェイダキスは「Victory」を出そうとします(タイムライン(@45:09))。あと,タイムライン@49:50で2パックのサンプリングを回しフリースタイルやるファボラスを聴くと「フロー」に関してはファボラスの右に出るものはそうそういない,と感じます。この独特の「フロー」はファボラスにしかできないものです。

Brandy vs. Monica (2020年8月31日開催)

Jeezy vs. Gucci Mane (2020年11月19日開催)

Ashanti vs. Keyshia Cole (2021年1月21日開催)

(キュレーティング&文責:Jun Nishihara)

変わらないスタイルを貫くThe LOXに,旧友DMXを迎える。

2020年7月及び8月の期間に,米BET(ブラック・エンターテインメントTV)で特集された伝説の吠える男=DMXを迎えて,ラフ・ライダーズ(Ruff Ryders)レーベルを支えてきたThe LOX(=Jadakiss + Styles P + Sheek Louch)が2020年8月にアルバム『Living Off Xperience』をリリースした。同時期に収録楽曲「Bout Shit」のミュージックビデオもリリースした。

以下MVをご覧になるとお分かりになるとおり,The LOXのラップスタイルもファッションスタイルも,90年代から全く変わっていない。全く変わらず20年以上,そこそこ現役でやってきたっつうのは,奇跡と言える。非常に息が長いMC連中であると言える。

ほな,その,「Bout Shit」という曲を,マジにならず軽く聴いてみてください。

The LOX feat. DMX – “Bout Shit”

上記の「Bout Shit」は冒頭で説明したとおり,2020年8月リリースの楽曲ですが,以下に同グループ=The LOXが1998年1月にリリースしたシングル曲「Money, Power, Respect」を掲載しておきます。ビデオの画質は違えど,1998年にLOX連中がやってたスタイルと変わっていないことが分かるでしょう。

ちなみに・・・最近はコロナ禍ですので,クラブには行けないですが,いまだにNYCのクラブでこの曲鳴れば,あっという間に皆一体になれるっつうthrowback(ナツメロ)の曲があるので,それも乗っけときます。

クラブの底が抜けるほど,爆音でこの曲鳴らして,若かりし2000年代前半の頃のように,バカ暴れしたいっすね。

(キュレーティング:Jun Nishihara)