若手アーティストの街角:Rayana Jay – “Sunkissed”

それは昨年のことであった。最近お気に入りの若手アーティスト,Nonameという女性ラッパー/シンガーのデビューアルバム『Telefone』を視聴者が好きな金額を出し合って購入できるサイト=bandcampで購入しようとしていた時であった。もちろん『Telefone』は購入した。そのあと,もっと黒人女性のヴォーカルが聴きたかったので,引き続きbandcampでいろいろとさぐってみた。

するといいのを見つけてしまった。Rayana Jayという新人歌手である。R&Bでもない,ジャズでもない。でも声はまさに私が求めていたものであった。Apple Musicで無料で聴ける時代に,お金を出して買って聴きたくなる声であった。

それから彼女のアルバム『Sorry About Last Night』と『Morning After』を何度聴いたことか。

彼女の声は色っぽくて,ちょっぴりエロいけれど,ぜんぜん下品じゃない。ジャズでもないけれど,ジャジーに聞こえる。メロディーは洗練されている。でも上品すぎない。だって,歌詞に「nigga」とか言ってるんだし。でもやっぱり,ぜんぜん下品に聞こえない。黒人女性が「nigga」という時,なぜかエロく聞こえる。呼びかけの「nigga」じゃなくて,文法的にちゃんとしたセンテンスの中に含む「nigga」である。
たとえば・・・

You are my Rhythm and Blues, the one who invented the cool
The one’s who dented the rules
And showed the world what my niggas could do, ay!
– Rayana Jay “Sunkissed”

私にとって,あなたの存在は“リズム&ブルース”/元祖クールな連中
ルールなんてぶち破ってくれる
世界中に見せつけてやりな,黒人野郎たちが秘めてるスゴイところを,エィ!
– Rayana Jayのシングル曲「Sunkissed」より

黒人女性が同胞の男たちを「niggas」と呼ぶとき,その根底には「共通理解/暗黙の了解」が流れている。「わたしはあなたのことをniggaと呼ぶけど,わかってるわよね」ということである。

また,歌詞中の「dent」の使い方がドキドキする。普通「rules」に付ける動詞は「break」である。それなのに,先の「invented」と韻を踏ませるために過去形の「broke」ではなく「dented」を使っているのだけれども,「niggas」という言葉を使っているような若者の女が「dented」なんていう,よく考え出された知的な語彙を使っているところが,もうたまらなくエロく感じてしまう。

さて,彼女の素顔をこの映像で見てみてほしい。まだ23歳。

そして,先ほど取り上げた歌詞が含まれている楽曲「Sunkissed」をライヴで歌っているRayana Jayは以下のとおりである。

ときにRayana Jayの読み方は「レイアナ・ジェイ」である。まだ彼女の情報は現時点(2018年11月28日時点)では英語版ウィキペディアにも載っていないし,日本盤のCDも出ていないので,彼女の名前の公式な日本語表記はどこにも無いが,読み方は「レイアナ・ジェイ」でございます。(ウィキペディアにも載っていない頃からRayana Jayの音楽をどっぷり聴いているんだけれど,これから近い将来にはRayanaもウィキペディアに掲載されるようになって,そのうちメジャーデビューを果たしたりするんだと思う。もちろんメジャーデビューして,もっともっと金儲けしてもらいたいのだけれど,そうなると,なんか遠くへいってしまったように感じたりするのだろうか。アーティストっていうのは,そんなものよね。なんちゃって。)

Rayanaの生まれはカリフォルニア州リッチモンド市。10歳の頃に教会のクワイヤーで歌い始めて,2012年の夏に初めてプロの歌手として働き始める。出だしはまったく稼げないので,アルバイトと兼業していた。Rayanaとツイッター上で何度かメッセージを交わしたことがあるが,今年になってアルバイトを辞めるだけのお金が稼げるようになり,今年2018年の夏に晴れてニューヨークへ引っ越し,シンガーソングライターとして全面的に働けるようになったという。

これからの活躍に期待大です。

最後に彼女の言葉で締めくくります。

“My friend once said that the church is like the hood Juilliard…like everything starts here.”
(あたしの友達がかつて言ってた。地元の教会って,ゲットーのジュリアード大学みたいなもんよ,ってね。何もかもそこから始まったわ。)

(文責:Jun Nishihara)