元ネタの曲を知る⑥:ファット・ジョー⇆ニュー・エディション

ヒップホップの黄金時代を表象している楽曲をもうひとつ紹介して宜しいでしょうか。

これは2002年11月12日に発売された(当時はCDオンリーで!MP3もApple MusicもSpotifyもiTunesも無い時代。ナップスターはあった!)ファット・ジョーのアルバム『Loyalty』へ収録の「All I Need(邦題:俺の全て)」という曲です。

これはファット・ジョーのレーベルであったTerror Squad仲間である,アーマゲドンというラッパーとトニー・サンシャインというR&B歌手をフィーチャリングした楽曲です。

「他に何もいらねえ。君と一緒に過ごせるなら。他の女には目もくれねえ。君が俺の全てだから」という,一言でまとめれば,こういう内容の曲です。

そこにヒップホップ史に残る最も大事なラッパーであるファット・ジョー(Fat Joe)がヴァースをスピットしている,というものです。

To all the ladies out there if you love your man
You need to hold your man embrace your man
And just grab his hand repeat after me
I promise to stay true and give you all of me
Whether he’s locked down or on the grind
Or whether is out of work or at work on time
You need to trust that man and respect that man
And you get what you feel you deserve from that man, and

世界中の女たちへ捧げるこの曲,君が自分のオトコを愛しているのなら
そのオトコを抱いてやれ,抱擁してやってくれ
カレシの手を握って,俺の後についてこう言ってやってくれ
「ずっとあなたに一途でいる,あなたに全てを尽くす
あなたがムショに入っても,裏の仕事やってても
職を追われても,マジメに働いていたとしても」
そいつを信じて,そいつをリスペクトしてやってくれ
そうすれば,ヤツもきっと,君に全てを尽くしてくれるから
(訳:Jun Nishihara)

この曲のMV(ミュージックビデオ)は以下のとおりです。

Fat Joe feat. Armageddon & Tony Sunshine – “All I Need”

そしてこの曲にサンプリングとして起用されているのは,ニュー・エディション(New Edition)の「Can You Stand The Rain」という名曲です。

New Edition – “Can You Stand The Rain”

どうでしょう,現代ヒップホップは古典R&Bにモロ影響を受けていることが分かるでしょう。

(文責:Jun Nishihara)

ヒップホップ歌詞引用解説:2ライヴ・クルー「Me So Horny」の場合。

ヒップホップの風物詩といえば,「お尻」と「女性」ですね。とくに「お尻」をフリフリする「女性」が出ているミュージックビデオが新旧問わず,どこでも流れています。「お尻」と「女性」を前面に出しているミュージックビデオを思いつくかぎり以下10個挙げてみます。

1.ネリー      「Tip Drill」
2.リュダクリス   「Pussy Poppin’」
3.レイ・シュリマー 「Shake It fast」
4.ヤングM.A    「Petty Wap」
5.トリーナ     「Damn」
6.フレンチ・モンタナ「Pop That」
7.イギー・アゼリア 「Kream」
8.タイガ      「Taste」
9.イン・ヤン・ツインズ「Salt Shaker」
10.69ボーイズ  「Tootsee Roll」

さて,今回紹介しますのは,1989年にリリースされた2ライヴ・クルーの名盤『As Nasty As They Wanna Be』アルバムからシングル曲としてカットされた「Me So Horny」という曲です。当時このアルバムは卑猥すぎる,歌詞は過激すぎる,ということで,2ライヴ・クルーの出身地=フロリダ州の州政府が「わいせつ罪」で訴え,逮捕しました。裁判は1990年に行われ,2年後の1992年に上級審が下級審の判決を却下し,リリースから3年の時を経て,無事,2ライヴ・クルーの名は晴れて,アルバムは市場に出回ることになりました。このアルバムは音楽の歴史で,史上初「わいせつ罪」をふっかけられたアルバムとして,名を残す大切なアルバムです。

ジャケ写真は以下のとおりです。

MI0004358506

これは卑猥すぎるということで,「お尻」を隠したアルバムジャケも出回りました。
まさに「クリーン版」ということですが,それがこのジャケです。

As-Clean-As-They-Wanna-BenÇóCleannÇó-2-Live-Crew

「お尻」はうまく隠れていますが,余計に想像力が掻き立てられますね。

さて,この伝説のアルバムからシングルカットされた「Me So Horny」から,このヴァースを取り上げます。

Sitting at home with my dick on hard
So I got the black book for a freak to call
Picked up the telephone, then dialed the 7 digits
Said, “Yo, this Marquis, baby! Are you down with it?”
I arrived at her house, knocked on the door
Not having no idea of what the night had in store
I’m like a dog in heat, a freak without warning
I have an appetite for sex, cause me so horny

おうちでまったり,アソコは勃起
電話帳とってきて,エッチな女に電話した
受話器をあげて,カノジョの番号,ダイアルした
「もしもし,オレだオレ,マーキスだ,ベイビー,今夜エエか?」
カノジョの家着いて,玄関ノックした
期待はふくらみ,気分はウキウキ
まるで発情した狂犬,イカれた変態野郎
性欲止まんない,気分はムラムラ,たまんない
(訳:Jun Nishihara)

さて,マジメな話に戻しますと,2ライヴ・クルーはその後も名曲をずらずらと残しています。YouTubeやウィキペディアで検索してみると面白いかもしれません。

彼らがデビューしたのは1984年,「The Revelation」という曲をファーストシングルとしてリリースしました。創始メンバーの中には,世界で初めてのアジア系ラッパーと言われているフレッシュ・キッド・アイスもいました。残念ながら彼は昨年2017年7月に人間界を去りましたが,彼の遺した偉大なる遺産(レガシー)は後のマイアミ出身のラッパー達=Trick Daddy, DJ Khaled達に受け継がれていくこととなりました。

それを最もうまく表現しているのが,フロリダ出身で女性ラッパーのトリーナです。トリーナ自身もミュージックビデオでお尻をフリフリしておりますが,彼女こそが2ライヴ・クルーに認められたSlip-N-Slideレーベルの初女性アーティストです。Trina feat. Trick Daddy – “Pull Over”を検索してみてください。

話は少し逸れますが,女性ラッパーというと最近,特に増えてきました。そういう数多の女性ラッパーがいる中で,唯一昔っっっからヒップホップシーンを席巻し続け,いまだに現役というラッパーは,リル・キムではなく,トリーナですね。しかしながら,リル・キムがヒップホップの世界に与えた影響は計り知れないものですが,トリーナの「静か」な安定感については,そうそう右に出るものはいないと思います。

ニッキー・ミナージュ以降にデビューした女性ラッパーは除外して,それ以前にいた,リル・キム,ミッシー・エリオット,ローリン・ヒル,フォクシー・ブラウン,クイーン・ラティーファ,MCライト,イーヴ,レミー・マー,ダ・ブラット・・・といる中で,唯一今もアルバムやミックステープを出し続けているのはトリーナくらいだと思います。ウィキペディア情報では,トリーナは2010年以降はアルバムをリリースしていないことになっておりますが,2011年に『Diamonds Are Forever』,2012年に『Back 2 Business』,2014年に『Incredible』,2015年に『Trina EP』,2016年に『Dynasty 6』というEPを含むミックステープをリリースしています。そして今年2018年にはアルバム『The One』をリリースする予定です。

フロリダ州マイアミつながりで,2ライヴ・クルーからトリーナの話へと移行しましたが,「お尻」と「女性」というヒップホップ風物詩は,30年前の1988年でも,現代のミュージックビデオでも健在です。

こうして「今」のヒップホップに多大なる影響を与え続けているラッパー達=2ライヴ・クルーを是非,覚えておいてください,そしてご自身でもいろいろなところで探してみてください。LPレコード店等に行くと,掘り出し物のLP盤が見つかったりします。

(文責:Jun Nishihara)