第21位:歌モノ・リリカル,どちらも揃ったミックステープ『No Ceilings 3』をリリースしたリル・ウェイン (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

本年2020年の初頭1月にリル・ウェインがリリースした公式アルバム『Funeral』を聴いた時,リリカルな時代のウィージー(Weezy)が戻ってきた,と思ったのは私だけでは無いでしょう。

その勢いを落とさずほぼ1年間その勢いを保ち続けたリル・ウェインは,2020年11月に『No Ceilings 3』をリリース。このミックステープには『A Side』と『B Side』があり,後者は12月18日にリリース。

これは一応ミックステープという体裁を取っておりますが,クオリティはアルバムそのもの。datpiff.com等でダウンロード可能です。リリースから1ヶ月経た現在,既にダウンロード回数は300万回を超えております。再生回数ではなくダウンロード回数で300万回超えというのはなかなか調子が良いです。

アメリカのヒップホップ界(特にミックステープを聴く連中の間)では,リル・ウェインに対するリスペクトは堅いことが見て取れます。

リル・ウェインは楽曲『BB King Freestyle』でこうスピットします。

Everyone got they glass out, let’s drink to Weezy
Every nigga that stare me down just came to see me
Choppin’ up a lil’ cash cow, that’s steak I’m eatin’
Check deposits, high-risers with extra closets
The sex platonic, I talk intelligent, text Ebonics
The electronic guitars whinin’, that’s just Nirvana
Tommy gun on the counter, I call it Mr. Thomas
That’ll keep niggas honest
I’m dozin’ off in the driver seat ’cause the seat give massages

(対訳)
おまえらグラスを挙げな,ウィージーに乾杯
今まで俺のこと軽蔑してたヤツらにこの前会った
ヤツら「金のなる牛」を探してた,その目の前でステーキ食ってやった
預金額チェックしな,クローゼットだらけの高層マンションビル
セックスはプラトニック,トークはインテリ,SNSは黒人話法(エボニックス)
泣きのエレキ・ギター,バックで流れる,それニルヴァーナの曲
カウンターにトミーガン,「トーマスさん」俺が名付け親
正直に吐かせてやるよ
運転手席でうたた寝,マッサージ機能付きのシートだぜ
(楽曲「BB King Freestyle」より)

上記リリックを見ても分かるとおり,リル・ウェイン節連発。これを音源で聴けば,それがさらに感じられます。まぁ,聴いてみてください。

次に,ドレイクの「Laugh Now, Cry Later」をフリップした(捩った)リル・ウェインの「Something Different」を掲載しておきます。(これもミックステープ『No Ceilings 3』より。)

リリック“scroll down”の箇所で,ちょうど(↓)を出すという,こういう細かなネタをぶっ込んでくるのもウェインらしいですね。

(文責及び対訳:Jun Nishihara)

第22位:黒人女性シンガーの“comeback story”:2020年R&B界へ復帰したJazmine Sullivan (2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

今年SNS等で“New Jazmine”(復活したジャスミン)という愛称で2020年,R&B界に復帰したJazmine Sullivan(ジャスミン・サリヴァン)は,2020年8月27日「Lost One」という新曲を発表しました。ジャスミンがデビューしたての頃(かれこれもう12年ほど前)からファンであった私としては,彼女の歌声を聴くと当時を思い出すようで懐かしいです。2015年にアルバム『Reality Show』をリリースしてから,人の曲にフィーチャリングされてはいたものの,もう5年以上もhiatus(活動休止)しておりましたが,今年〜来年(2021年)にかけてアルバム制作に取り掛かっており,そのアルバムはまもなく日の目を見ることができるかもしれない,ということで,とても楽しみですね。

2020年にリリースした「Lost One」と「Pick Up Your Feelings」を掲載いたします。

いわゆる「業界」という世界に不器用でい続けてくれたお蔭で,彼女に共感を持ち続けるファンは世界中に沢山いることをジャスミン自身に知っていてほしいです。

Jazmine Sullivan – “Lost One”

Jazmine Sullivan – “Pick Up Your Feelings”

下記は2019年の「Issa Rae Presents」のエピソードで開催されたジャスミンのステージです。アルバム『Reality Show』から「Let It Burn」を歌ってくれました。

下記は10年程前にジャスミンがナマで歌った「In Love With Another Man」の映像です。懐かしいですね。

続きまして,ジャスミンのファンとしてはハズせない「Holding You Down (Goin’ In Circles)」のMVです。これが2010年にリリースされた時,もちろん私はリアルタイムで観ていましたけれど,この80年代(エイティーズ)のファッションスタイルを映し出した雰囲気にはテンション上がりました。

タイムライン2:42のブレイクダウンも格別です。ジャスミンのカッコ良さと魅力が溢れています。

(文責:Jun Nishihara)

第23位:サウス出身の新人ワル女ラッパー=Mulatto(ムラート)(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

2020年にラップ界のメインストリームにその名をとどろかせた女子ラッパーの一人としてMulatto(ムラート)を第23位に取り上げたい。

彼女(本名:アリッサ・ミッシェル・スティーヴンズ)は米国北東エリア(五大湖エリア)のオハイオ州コロンバス市生まれ。しかし2歳の頃,南部ジョージア州に両親に連れられ移り住み,黒人の父親と白人の母親を持つにもかかわらず,アリッサ自身,皮膚の色が無色であったことから学校でイジメに遭っていたことが理由で,自分のことをその時からムラート(Mulatto)と呼ぶことにし,当初はMiss Mulattoという名でラップを始めた。

ちなみにMulattoというのは,黒人と白人の混血を指す言葉であり,奴隷制度時代には,黒人の血が一滴でも入っていればcolored(有色人種)として扱われ,差別の対象となった。有名人の間ではオバマ大統領もMulattoとして知られる。

その彼女(ムラート)が有名になるキッカケとなったMVを下記に掲載する。

Mulatto feat. Saweetie & Trina – “Bitch From Da Souf”

(文責:Jun Nishihara)

第28位:A Boogie wit da Hoodieのアルバム『Artist 2.0』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30

2020年の第28位は,全米ビルボードで第2位を獲得し,1年以内に50万枚以上を既に売り上げているというヒット・アルバム『Artist 2.0』です。アルバムジャケがなかなか記憶に残る,ヒップホップではめずらしい,ファンタジー掛かった演出ですね。

もはやこのアルバムジャケを見るだけでは果たしてヒップホップのアルバムなのか,イギリスのファンタジー映画クエスト・オブ・キング的な映画のプロモなのか,分からないという風に,アルバムジャケからして,これまでのHIP-HOPではめずらしく,興味深い作品に仕上がっています。

たとえば収録楽曲には「Cinderella Story(シンデレラ・ストーリー)」なんていう曲もあります。

調子に乗って「Thug Love(サグ・ラヴ)」も掲載しておきます。

(文責:Jun Nishihara)

第29位:Lil Uzi Vertのアルバム『Eternal Atake』(2020年Hip-Hop名曲名場面ベスト30)

第29位はリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)のアルバム『Eternal Atake』です。

収録楽曲「P2」を聴いていただくと感じていただけると思いますが,これはもうまさに現代の世代を象徴しているエモ・ラップ(emo rap)もしくはエモ・トラップ(emo trap)というジャンルの先頭に立ち,新世代の若者達をリードしていく存在であるべく邁進しているラッパーであることが伺えます。リル・ウージー・ヴァートは見かけによらず,けっこう頑張り屋なのです。

今年はフューチャー(Future)とのコラボレーション・アルバム(シングル曲でなくてアルバム!)『Pluto x Baby Pluto』もリリースしました。

同年に現代のニュー・ラップ世代に重要な意味を持つアルバムを2枚もリリースする,というのが彼の勤勉さを表しております。

『Eternal Atake』から収録楽曲「Lo Mein」をどうぞ。

(文責:Jun Nishihara)

Hip-Hopの一つの回帰場所:2002年リリースの楽曲。

シカゴ出身のカニエ・ウェストによるプロダクション,ブルックリン出身のJAY-Zによるリード,フィラデルフィア出身のビーニー・シーゲルによるフィーチャリング,そして場所は深南部(Deep South)に飛んで,ヒューストン出身のスカーフェイス。ヒップホップ史なかなか多種性(diversity)に富んだラップ曲。こんな素晴らしい曲が2002年にリリースされていた,ことを憶えておいてほしいです。

電話の保留音(以下)が当時のNYイチカッケーラップになるとは誰も思っていなかった。

ベートーヴェン「エリーゼのために」をフリップしたNASの「I Can」である。

Mos Defの「Brown Sugar」。2002年が蘇ってきますか?

続いては,ブルックリンからマンハッタンダウンタウンの映像を細切れに集めたコラージュをミュージックビデオに昇華させたタリブ・クウェリの名曲「Get By」。“get by”とは「ありあわせのものでなんとかやっていく」という意味で,ゼータクなんてできねぇよ的なサヴァイヴァル・ミュージック。「just to get by」ってタリブがリピートしますよね?それ「なんとかやっていくだけで」っていう意味です。

そして,密かにHip-Hop史上原点回帰の楽曲「What We Do」。一つには,ワルやらなきゃ生きてけねえ時代を映し出した音楽。まさに「正しさ」とは逆のことをやって生きていた2002年。他方で,ハスリングという,ヒップホップ界で当時流行った金儲けのやり方も表現している。2002年という時代が俺らの心の中で永遠にすたれることのないように,この曲にそれらを閉じ込めてくれた,偉大なる曲。この曲を聴けば,2002年当時の精神(ワルやってた,その代わり勢いはめちゃめちゃあった生き様)に即,戻してくれる。

雰囲気は一変して,パーリーピーポー感のある映像を一つ。これも2002年。なつかしいですね。

次はブロンクスから。Fat Joe(ファット・ジョー)の登場。これも2002年。かなりなつかしいですね。

Fat Joeと同じく同郷ブロンクス出身のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)がLL Cool Jとコラボレーションした曲。これも2002年リリース。流行りましたねえ。

ヒップホップ・ダンスに生涯を捧げているミッシー・エリオット(Missy Elliott)の「Gossip Folks」。これも2002年リリース。

続いて同じくミッシーから。「Work It」。これは当時,50セントのREMIXバージョンも世に出ました。

50セントといえば,当時ガチ流行った「In Da Club」以外に,なかなか素晴らしい曲を出しています。その一つが「21 Questions」。これは「In Da Club」の裏で流れていた曲。2002年を思い出しますね。

続きまして,ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)プロダクションのSnoop Dogg「Beautiful」。これも2002年リリース。当時私もNYに住んでいましたが,Hot97のヒップホップラジオで流れまくり。ハヤりました。ファレルは年取らないですね。いまも同じルックス。

まだまだ行けそうですが,今日はここら辺で。これくらい2002年リリース楽曲の数々を聴くと,いつでも即原点回帰が可能となります。人生に迷った時には,原点回帰することが重要。上記を聴いて,回帰してください。

最後に,2002年リリースのアルバム『The Blueprint 2: The Gift & The Curse』に収録された「All Around The World」の素人ドラムバージョンをお届けして終わりにします。

今日も当サイトにお越しいただき,ありがとうございます。過去のページも見ていってください。

(キュレーティング:Jun Nishihara)

JAY ELECTRONICAのアルバム『A Written Testimony』楽曲④「The Neverending Story」(独断偏見ライナーノーツ)

https___images.genius.com_7d262b149cd49d9e7bb5f34c27ade902.1000x1000x1

タイトルは「The Neverending Story」(終わりのない物語)です。

ヴァース1のジェイ・エレクトロニカ(Jay Electronica)の歌詞にこういうラインが出てきます。

What a time we livin’ in, just like the scripture says
Earthquakes, fires, and plagues, the resurrection of the dead

なんて時代に我らは生きているんだ,経典に書いていたとおりだ
地震,火事,そして疫病の繰り返し,死者がよみがえった

つまり,こういった出来事が繰り返される合間に,我らは生きている,ということをこの歌詞では言っているわけですが,現在の新型コロナウイルス(COVID-19)にしても同様です。

ジェイ・エレクの歌詞には,対比(comparison)が多く起用されています。

You could catch me bummy as fuck or decked out in designer
On I-10 West to the desert, on a Diavel like a recliner
Listen to everything from a lecture
From the honorable minister Louis Farrakhan
To Serge Gainsbourg or Madonna or a podcast on piranhas

ホームレスのような「なり」する時もあれば,デザイナーブランドの洋服に身をまとう時もある
10号線(南部を串刺しに通過する州間高速道路)に乗って,西の砂漠まで走ることもあれば
 ドゥカティ・ディアベルのバイクに乗って,背をもたれかけ,突っ走ることもある
黒人イスラム指導者であるルイス・ファラカーンの講話を聴くこともあれば
セルジュ・ゲンスブールの語りや,マドンナから,ピラニアに関するポッドキャストまで
なんだって俺は聴くんだぜ

この曲で特筆すべきことは,The Alchemist(ザ・アルケミスト)がプロデューサーとして関わっていることです。The Alchemistといえば,以下に挙げられないくらいのヒップホップ・アーティストと関わり,数多くの名曲を制作してきました。

・Fat Joe率いるTerror Squadの数々のアルバム
・クイーンズ区出身のMobb Deepのアルバム
・Royce Da 5’9のアルバム
・Tony Touchのアルバム
・2001年,Big Punの死後にリリースされたアルバム
・ジェイダキス
・ゴーストフェイス・キラー
・スタイルズ・P
・NAS
・リンキン・パーク
・50セント
・サイゴン
・State Property(!)
・パプース
・ネリー
・エミネム
・ファボラス
・Westside Gunn(!)
・キャムロン
・・・などなどなど。リストはまさに,Neverending(尽きません)。

こういったヒップホップの裏側で活躍している大物人物たちに楽曲を提供してきた歴史があるThe Alchemistのビートに,この度,表(オモテ)の人間であるジェイZ(JAY-Z)が乗った,というのは,とても興味深いことであり,どういう作品ができあがったのか,この機会をとらえて,ぜひ聴いてみてください。

ちなみに,アルケミストがプロデュースしたこの曲にもサンプリング・ネタがあります。アルゼンチン生まれのシンガー・ソングライターであるリト・ネビア(Litto Nebbia)の「La Caida」という1976年にリリースされた曲です。

(対訳及び文責:Jun Nishihara)

第18位:アメリカ中を巻き込んだエロい歌詞とバリバリのリア充ぶり=シティ・ガールズのシングル曲「Act Up」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

昨年2018年に大ブレイクしたガールズ・ラップユニット=CITY GIRLS(シティ・ガールズ)。去年の社会現象ともなったドレイクの「KiKi! Do you love ME?!」の曲=「In My Feelings」がキッカケとなりシティ・ガールズは大ブレイクしました。同郷のトリーナ(Trina)の愛弟子(まなでし),シティ・ガールズがまさにトリーナの影響を直に受けて育った女子MCたちです。

そして今年も彼女らのシングル曲「Act Up」で,アメリカ中を巻き込み,お尻フリフリ,態度デカデカ,テンションバリバリの女子たちとゲイ業界の男たちを踊らせました。村上春樹も唸るほどのダンス,ダンス,ダンス。

そしてなんといってもハヤりの「Periodt!」(と,最後にtが付く)のフレーズを生み出した張本人たち,Periodt! まぁ,日本語では「丸(マル)」ですけどね。(丸!)

昨年はカーディBとの「Twerk」,おまけにアルバム『Girl Code』をリリースし,今年も売れまくって,現在ノリノリのシティ・ガールズ。

アルバム『Girl Code』から,楽曲「Clout Chasing」を掲載しておきます。

以下はシティ・ガールズ「Act Up」です。

(文責:Jun Nishihara)

第19位:ウェッサイはオークランド出身の現在ノリノリの若手女子MC=Kamaiyahの新曲「Still I Am」(2019年Hip-Hop名曲名場面ベスト50)

スローでメロウなラップをカマすカマイヤ(Kamaiyah)は1992年生まれ。ギャングスタの血を引き継ぎ,ラップスタイルは西海岸出身の雰囲気がドクドク血のように流れるBay Area臭いアーティストです。Bay Area… more specifically, Oak Town A.K.A. Oakland出身です。

2019年の第19位は若手女子MCの彼女=カマイヤ(Kamaiyah)に贈ります。

Kamaiyah – “Still I Am”

Kamiayah feat. Quavo & Tyga – “Windows”

MERRY CHRISTMAS!!!!!

(文責:Jun Nishihara)

久しぶりに今週のカニエ・ウェスト“Sunday Service”模様をお届けします。おまけにカニエ論を。

カニエ・ウェストが10月25日(私の誕生日)に名作『Jesus Is King』をリリースしてから,しばらく“Sunday Service”の模様をアップしておりませんでした。以下のとおり,今年に入ってから,今年初旬から毎週日曜日にはぶっ続けで,休むことなくカニエ・ウェストはソウルフルなジャムセッション=“Sunday Service”を開催してきました。こんなことはラッパー,否,ヒップホップアーティストでは(ここでは何回も書いてきましたが)前代未聞なのであります。

これまでの“Sunday Service”の模様は,ここら辺(↓)でご覧ください。

カニエ・ウェストの“Sunday Service”まとめ(10月6日&10月12日開催分)

カニエ・ウェスト“Sunday Service”を金曜日に開催 (9月27日分) & アルバム『Jesus Is King』のリスニングパーティー

カニエ・ウェストの“Sunday Service” (前回,前々回,前々々回・・・からのつづき)

そして本日,先週末12月8日(日)に実施されたばかりの“Sunday Service”をお届けいたします。
(於:フロリダ州のVOUS Church)

そしてもうひとつ,11月10日(日)にヒューストン市の刑務所に於いて,囚人相手に開催した“Sunday Service”も以下のとおり掲載しておきます。

今年の冒頭でこのサイトで,カニエ・ウェストの与えるエナジーで2019年を一気に乗り越える,と書きましたが,そのエナジーはやむことなく,ここまで火はともされ続けてきました。もう12月も半分を超えたばかりですが,カニエ・ウェストのエナジーは,ほぼ1年経ったいまも,消える気配がしません・・・と,そんなことを今こうして書いておりますが,思い返せば2003年にカニエ・ウェストのmixtapeをニューヨーク市かクリーブランド市がどちらか忘れましたが買った時にも,同じようなエナジーを感じたことは確かです。2003年のあの頃から現在2019年の終盤を迎えようとしている今も,まだまだ健在です。

ニューヨークの大学に通っていた際,クラスメートが当時,「50セントはもう終わりね,ラッパーってのはだいたい10年が寿命よ」と言い放ちましたが,カニエ・ウェストは10年どころか,プロデューサー時代にジェイZにビートを提供していた時代から考えると20年経た今も,まさにこんな新しいことをやっているっていうのは,イカレているというか,まさにこれを人は「天才的」と呼んでいるのでしょうが,カニエ・ウェストほど「天才」という言葉が似合わないアーティストはいないでしょう。カニエは天才ではなく,芸術家なのです。

何が芸術家なのか,というと,それを象徴しているのは,カニエが2004年にデビューシングルを出したとき,当時,それまでのヒップホップのサグやゲットーやハスラーのイメージの「逆」からスタートした。それはカニエの意図的なものなのであったか否かは別として,それまでのヒップホップのイメージに逆らうように,対抗していった。みずから師(=big brother)と仰ぐジェイZの「真逆」を行った。

そこに彼の「芸術」は端を発するのではないかとずっとモヤモヤと感じてきたのですが,誰かがカニエは天才などということをどこかで書いていたので,それは違うだろう〜と違和感を感じ,初めて文字にしたまでなのです。カニエ論なんていうことばがあるのならば,そこを地点にスタートするのもおもしろいかもしれない,というひとつのアイデアです。

ひとまずは,ここで終わりにしますが,カニエのことを天才だと思ったことは,20年以上カニエの音楽を聴いてきて,感じたことはなかった。(Jay-Z feat. Scarface & Beanie Sigel “This Can’t Be Life”はジェイZの『The Dynasty』アルバムに収録。カニエ・ウェストがプロデュース。リリースは1999年。)ひとまずはそれをクリアーにしておきたいです。

カニエ論は,気が向いた時に,ひょっこりと,また続けます。

(文責:Jun Nishihara)