第7位「カニエ・ウェストの“Lift Yourself”という意味の無い歌詞(擬音)を発するだけの壮大なる楽曲」(今年2018年に出た最も偉大なるヒップホップ曲ランキング)

意味の無い歌詞に,声(音声)だけを発して1曲にしてしまうという全くイカレた偉業を成し遂げたのは,今年イチ物議を醸し出したヒップホップ・プロデューサーならぬラッパー,カニエ・ウェストです。

現在12月,いまだにドレイクとのビーフがやまず,トランプ支持についてペチャクチャ喋っているこの人ですが,ひとまず,第7位はめでたく「Lift Yourself」です。

さて,本題ですが,この無意味な歌詞のこの曲のどこが一体「壮大」なのか,ということですが,皆さまは音楽史に残る偉人,ジェイムス・ブラウンの「The Payback」という名曲をご存知でしょうか。

ジェイムス・ブラウンの『The Payback』(1973年リリース)は彼がリリースしたアルバムの中でも最も優れた作品と呼ばれております。

そのアルバムから45年後の時を経て,ジェイムス・ブラウンの「The Payback」で歌われる(動物のように発せられる)擬音語に満ちた「意味の無い」歌詞がカニエ・ウェストの音楽によってよみがえさせられた,といったら,それは壮大なことでしょう。

ここでファンクの帝王ことJB=ジェイムス・ブラウン(James Brown)の「The Payback」とカニエ・ウェスト(Kanye West)の「Lift Yourself」の類似性を確認しておきましょう。

Abo, jabba, jabba, abo
Ha, ha, abo, ha, ha
Jabba, ba, ha, jabbam ba, ha
Jabba, ba, ba, ba, ha, do
Do, do, do, do, do, do
Yo, go, go, go, go, go
Mi, bak, ya see you are
Ba, da, de, de, da
Ba, da, de, da
Ba, da, da, ba, da, da
Da, da, da, da
Da, da, da, da

アボ ジャバ ジャバ アボ
ハッ ハッ アボ ハッ ハッ
ジャバ バ ハッ ジャバム バ ハッ
ジャバ バ バ バ ハッ ドゥ
ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ
ヨゥ ゴー ゴー ゴー ゴー ゴー
もどってきたぜ そや ほらそこや
バ ダ ディー ディー ダ
バ ダ ディー ダ
バ ダ ダ バ ダ ダ
ダ ダ ダ ダ
ダ ダ ダ ダ
(ジェイムス・ブラウン「The Payback」より)

Poopy-di scoop
Scoop-diddy-whoop
Whoop-di-scoop-di-poop
Poop-di-scoopty
Scoopty-whoop
Whoopity-scoop, whoop-poop
Poop-diddy, whoop-scoop
Poop, poop
Scoop-diddy-whoop
Whoop-diddy-scoop
Whoop-diddy-scoop, poop

プーピディスクープ
スクープディディウープ
ウープディスクープディプープ
プープディスクープティ
スクープティウープ
ウープティスクープ,ウーププープ
プープディディ,ウープスクープ
プープ,プープ
スクープディディウープ
ウープディディスクープ
ウープディディスクープ,プープ
(カニエ・ウェスト「Lift Yourself」より)

そしてきわめつけは・・・

Here, here, here, here
Yeah, yeah, yeah, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, here
Here, here, here, here, huh
Here, here, here, here, here
Here, here, here, agh, whoa

ほら ほら ほら ほら
イヤー イヤー イヤー ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
ほら ほら ほら ほら ほら
(ジェイムス・ブラウン「The Payback」より)

この「Here, here, here, here / Yeah, yeah, yeah, here」のくだりを実際の音声を聴いてみると分かると思いますが,まるでケモノが吼えているかのような声のようにも聞こえます。危険ですね。これはジェイムス・ブラウンであるからこそ通用しますが,もしこれを無名のアーティストがやって売り出せば猥褻行為で逮捕ものです。

そしてまさにその危険で猥褻さがカニエ・ウェストの「Lift Yourself」にも匂います。どちらも人間を「動物」としてとらえ,その「汚さ」やら「穢れ」やら「卑猥さ」やらをむき出しにして曝け出している音楽であるといえます。

もう一つこの曲が壮大であるという所以は,「意味」に悩んでいる人々(弱者)へ向けた応援歌ならぬアンチテーゼであるからです。あらゆるものには「意味がなければいけない」という固定観念をぶち破り,それに悩んでいる人々を根っこから「解放」してくれる爽快な曲であるからです。意味がなくてもラップはできる,意味がなくても生きる“意味”はある,ということを教えてくれる,人生そのものについて心の底から「解放」してくれる素晴らしい曲であるからです。こんな曲はヒップホップ界でいままで誰も作ったことが無いでしょう。カニエ・ウェストが「天才」と呼ばれる意味が垣間見れたことでしょう。

本日はクリスマスイブ(Xmas Eve)です。この「Lift Yourself」をかけて,意味なんかに囚われることなく,「意味」という固定観念などはぶっ飛ばして,文字どおり,自分自身をアゲて(liftして)みてください。

今日もRapHabitに来てくれて,ありがとうございました。
これほど弱者にパワーをくれる音楽を作るカニエというアーティストは,常に我々をサプライズしてくれる,天晴れなアーティストです。

(文責:Jun Nishihara)